幕間 ノ 参
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「しまった。滋養のつく卵を使うのを忘れた」
杏寿郎さんがそう呟いたなんてこと、私も千寿郎も知らない。
嬉しそうに運んでくれた千寿郎には悪いが、私は死地に向かう兵士のような気分でそれを迎えた。
土鍋の蓋を取って中を覗く。
「「うわぁ」」
そっと閉じた。
すぐにもう一回開け直したけれど。
「僕が付いていながら、申し訳ありません……」
「ううんいいの。千寿郎はよくやってくれたよ。火を見ててくれた」
「ありがとうございます。
でも、本当…………兄上らしい豪快な料理、ですね」
「千寿郎、これ料理なのかな」
サッと目を逸らされた。
代わりに、匙と器が寄越された。食えと?
ごくり、意を決して匙を入れてみる。
ジャリッ。
え、ジャリ?
半沸えの生米状態なのに汁が蒸発しきり、ガチガチに固まってしまっている。高火力で短時間煮た結果だ。玖ノ型かな?
切らずそのままぶちこまれていた具材もほぼ生のまま。
私の健康を願ってのことなのはわかるのだが、葱、さつまいもと削る前の鰹節、それに丸鶏がそのままどーん!……破壊力抜群の見た目だ。
確かに男の料理は豪快だと聞くけれど……。
「や、無理でしょ」
「ですね。僕がもうちょっとこう、いい感じに火を通してきます」
「うん。火さえ通れば、葱も芋も鰹節も……鶏も口にできるものね」
鰹節はどうだか知らないけど。あのタイプの鰹節って煮たくらいで柔らかくなるかな?
蓋をし直して、土鍋を千寿郎に渡す。
その瞬間、スパァン!と勢いよく襖が開いた。
「朝緋!千寿郎!玉子焼きができたぞ!
俺の力作だ!!」
「「エッ」」
皿を手にした杏寿郎さんが、頬を高揚させて飛び込んできた。
「俺は君の玉子焼きで育った!千寿郎もだ!甘い玉子焼き、しょっぱい玉子焼き、様々な具材の入った玉子焼き……今まで色々な味があったがどれも美味しく、そして力のつく物だった。なので、俺も玉子焼きを追加で作ってみたのだがどうだろうか!?
鍋は後にしてとりあえず冷めぬうちに食べてほしいッ!」
その勢いに圧倒されたが、先に我に帰ったのは千寿郎だった。
「あ、兄上はあれから火を使ったんですか!?」
「そうだとも!」
よく見ると杏寿郎さんの髪の毛、ほんの一房だけどチリチリになってる。それの意味するところは。
ドカーン!やら、ボンッ!という爆発音こそ聞こえてこなかったが、嫌な予感しかしない。
「ちょ、厨を見てきます!!」
あわてて千寿郎は部屋を飛び出していった。
……約束通り土鍋は持って。
「はっはっは!千寿郎は慌ただしいな!」
豪快に笑って千寿郎を見送ってから、杏寿郎さんは私の隣に腰を下ろす。
「大丈夫か朝緋。具合はどうだ」
「悪くないです」
即答すれば、じっと見つめてくる金環の瞳。
「だが先程は顔があんなにも青く、まるで幽鬼のようだったぞ」
「いやあのそれは……」
貴方の料理の様子に驚いたからです。
続きを決して口にしない私の手は、杏寿郎さんに取られ、やがて愛おしげにするすると撫でられる。
くすぐったいと同時、体がひどく落ち着かない気分にさせられた。
「いつもの朝緋の体温とは違い、いささか体が冷えている。
……こうしたら温かくなるといいのだが」
杏寿郎さんの頬にぴとり、私の手がくっつけられた。ほんわりじんわり温かい頬だ。杏寿郎さんの温かな心そのもので、安心する。
けれど同時にとても恥ずかしい。
「た、多少は温かい、です……」
「多少か。なら触れ合ってしまったほうが早い」
「ひぇっ」
体ごと近づく杏寿郎さん。気がつくとぎゅうぎゅうに抱きしめられていた。
「どうだ?温まるだろうか。
小さい時はよくこうしていたな!こうして近くで眠って、暖を取りあった!
俺の体温が君に少しでも移ると嬉しい!」
これはやり過ぎだ。
杏寿郎さんの子供体温の中に混じる、かすかな男の人の匂い、鍛えてついたがっちりした筋肉。そして私と杏寿郎さんのとで、重なる鼓動の音。
こんなことして平気だったのは、もっと小さい時だったからで。一番最近でも平気だったのは杏寿郎さんが鬼殺隊に入ってしまわれる前で。それだって、川の字の真ん中が千寿郎だったくらいだ。
違う暖の過剰摂取を前に、今度は熱が上がりそうだ!風邪じゃないけど!
「だだだ大丈夫ですそれより玉子焼きがぁーーっ!」
「そうだった!冷めるっ!
多少焦がしてしまったが、食べてくれ!」
ガバリと勢いよく体を離され、少し寂しくもある。
が、私には新たなる試練が待ち受けていた。
杏寿郎さんがそう呟いたなんてこと、私も千寿郎も知らない。
嬉しそうに運んでくれた千寿郎には悪いが、私は死地に向かう兵士のような気分でそれを迎えた。
土鍋の蓋を取って中を覗く。
「「うわぁ」」
そっと閉じた。
すぐにもう一回開け直したけれど。
「僕が付いていながら、申し訳ありません……」
「ううんいいの。千寿郎はよくやってくれたよ。火を見ててくれた」
「ありがとうございます。
でも、本当…………兄上らしい豪快な料理、ですね」
「千寿郎、これ料理なのかな」
サッと目を逸らされた。
代わりに、匙と器が寄越された。食えと?
ごくり、意を決して匙を入れてみる。
ジャリッ。
え、ジャリ?
半沸えの生米状態なのに汁が蒸発しきり、ガチガチに固まってしまっている。高火力で短時間煮た結果だ。玖ノ型かな?
切らずそのままぶちこまれていた具材もほぼ生のまま。
私の健康を願ってのことなのはわかるのだが、葱、さつまいもと削る前の鰹節、それに丸鶏がそのままどーん!……破壊力抜群の見た目だ。
確かに男の料理は豪快だと聞くけれど……。
「や、無理でしょ」
「ですね。僕がもうちょっとこう、いい感じに火を通してきます」
「うん。火さえ通れば、葱も芋も鰹節も……鶏も口にできるものね」
鰹節はどうだか知らないけど。あのタイプの鰹節って煮たくらいで柔らかくなるかな?
蓋をし直して、土鍋を千寿郎に渡す。
その瞬間、スパァン!と勢いよく襖が開いた。
「朝緋!千寿郎!玉子焼きができたぞ!
俺の力作だ!!」
「「エッ」」
皿を手にした杏寿郎さんが、頬を高揚させて飛び込んできた。
「俺は君の玉子焼きで育った!千寿郎もだ!甘い玉子焼き、しょっぱい玉子焼き、様々な具材の入った玉子焼き……今まで色々な味があったがどれも美味しく、そして力のつく物だった。なので、俺も玉子焼きを追加で作ってみたのだがどうだろうか!?
鍋は後にしてとりあえず冷めぬうちに食べてほしいッ!」
その勢いに圧倒されたが、先に我に帰ったのは千寿郎だった。
「あ、兄上はあれから火を使ったんですか!?」
「そうだとも!」
よく見ると杏寿郎さんの髪の毛、ほんの一房だけどチリチリになってる。それの意味するところは。
ドカーン!やら、ボンッ!という爆発音こそ聞こえてこなかったが、嫌な予感しかしない。
「ちょ、厨を見てきます!!」
あわてて千寿郎は部屋を飛び出していった。
……約束通り土鍋は持って。
「はっはっは!千寿郎は慌ただしいな!」
豪快に笑って千寿郎を見送ってから、杏寿郎さんは私の隣に腰を下ろす。
「大丈夫か朝緋。具合はどうだ」
「悪くないです」
即答すれば、じっと見つめてくる金環の瞳。
「だが先程は顔があんなにも青く、まるで幽鬼のようだったぞ」
「いやあのそれは……」
貴方の料理の様子に驚いたからです。
続きを決して口にしない私の手は、杏寿郎さんに取られ、やがて愛おしげにするすると撫でられる。
くすぐったいと同時、体がひどく落ち着かない気分にさせられた。
「いつもの朝緋の体温とは違い、いささか体が冷えている。
……こうしたら温かくなるといいのだが」
杏寿郎さんの頬にぴとり、私の手がくっつけられた。ほんわりじんわり温かい頬だ。杏寿郎さんの温かな心そのもので、安心する。
けれど同時にとても恥ずかしい。
「た、多少は温かい、です……」
「多少か。なら触れ合ってしまったほうが早い」
「ひぇっ」
体ごと近づく杏寿郎さん。気がつくとぎゅうぎゅうに抱きしめられていた。
「どうだ?温まるだろうか。
小さい時はよくこうしていたな!こうして近くで眠って、暖を取りあった!
俺の体温が君に少しでも移ると嬉しい!」
これはやり過ぎだ。
杏寿郎さんの子供体温の中に混じる、かすかな男の人の匂い、鍛えてついたがっちりした筋肉。そして私と杏寿郎さんのとで、重なる鼓動の音。
こんなことして平気だったのは、もっと小さい時だったからで。一番最近でも平気だったのは杏寿郎さんが鬼殺隊に入ってしまわれる前で。それだって、川の字の真ん中が千寿郎だったくらいだ。
違う暖の過剰摂取を前に、今度は熱が上がりそうだ!風邪じゃないけど!
「だだだ大丈夫ですそれより玉子焼きがぁーーっ!」
「そうだった!冷めるっ!
多少焦がしてしまったが、食べてくれ!」
ガバリと勢いよく体を離され、少し寂しくもある。
が、私には新たなる試練が待ち受けていた。