幕間 ノ 参
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むかーしむかし、……というほど大昔なわけじゃないけれど、杏寿郎さんも私もお互い幼少の頃だ。
採れたての我が家のさつまいもを焼き芋にしたいと杏寿郎さんが言ってきたことがあった。
私は焼き芋の焼き方も詳しく知っていたし、焚き火くらいは家族で囲んだこともあって火加減の調整くらいなら私も、杏寿郎さんですらやり方くらいは知っていた。
掃き掃除で集めた落ち葉に燐寸で火をつけ、ぱちぱち爆ぜる炎を共に満足げに見つめる。
色鮮やかな落ち葉が次々燃えて消える姿は少しだけもったいないなと思ったし、赤く橙に燃える炎はとても綺麗だったし、何重にも紙を巻かれた芋の匂いが少しずつしてくる様子は子供心を高鳴らせたっけ。
あらかた燃え終えてから、灰の中に突っ込んだ芋。これが熱でじっくり火を通され、ほくほくの焼き芋になるのを想像すると……!
杏寿郎さんじゃないけど、わっしょい!と叫びたくなるよね。
今でもあれは大切な思い出だ。
だが、危惧したのはもちろんここまでの話のことじゃない。
幼い子供が火を扱うのもこの時代なら、大した問題じゃなかった。
ごうごう。めらめら。
ぶすぶすぶす……。
ちょっと目を離し戻ってみたら、炎が火事と見紛うほど大きくなっていた。
天高く燃え上がる火柱。ついでにうちにいるのは炎柱……って冗談言ってる場合じゃない。
「エッなにこれどういうこと」
「どうだ朝緋!父上の剣技の型のようにすばらしい炎だ!!」
その炎をバックに、誇らしげに笑う杏寿郎さんは、熱さも気にせずもっさりどっさり落ち葉を炎に投げ込んでいる。
ワックワクウキウキしてる様子でわかる。
馬に人参、杏寿郎さんに芋。目の前にぶら下がった好物を前に、大事なことが見えていない!
海老天のしっぽのような結んだ髪もちょっと焦げてるよ。
ううん、髪は先だけだからまだなんとかなる。
問題は火の近くに生えていた木だ。
そこまで近くにというわけじゃなかったのに、炎が大きすぎて火が届いていた。
もうこれ欅の木じゃないじゃん!炎の木じゃん!!葉っぱが炎ってなんだファンタジーの世界かっ!!
この木に移った火はさすがにもう消せないね!?燃え尽きるまでそのままだわ!!
うわああああついでに後ろの塀も若干焦げてるうう!!
「あばばばばば……火!火を大きくし過ぎです!!ねえこれ以上落ち葉足さないで!?」
「よもや!?」
「早く消すから水汲んでーーーっ」
「それでは芋が焼けなくなるっ!」
「きょぉぉじゅろぉぉ兄ぃぃぃさん!火事になったら芋どころじゃないからねっ!?」
「よもや!?」
よもやよもやと繰り返す場合じゃない。
この瞬間に風でも吹いたら、江戸の大火事もびっくりな大惨事!うちだけじゃなくって、ここら一帯の家屋に延焼する!!
ああああどうしよう鬼退治どころじゃなくなるうううう!!
早く消さなければ!消さなければ……!!
大人二人に見つからないうちにさっさと火だけでも消さなければ!!
証拠隠滅する気満々!
陽光を前にしたにっくき上弦の参、猗窩座のごとく、表情をガッタガタに震わせながら、私は杏寿郎さんと共に水を汲みに走る。
「あらまぁ」
その背に瑠火さんの凜とした、それでいて場にそぐわずのんびり間延びした声がかけられた。
隣では槇寿朗さんが、あんぐり口を開けて腰を抜かしていた。
おーい現炎柱どした。瑠火さんの方が全く動揺してないってってどういうことだ。
母はやはり強い。
そのあとは、父、兄、私で火を消した。火事にならなかったけれど、木は燃え終わって形ある灰に。塀は黒い煤だらけで交換。
もちろん、芋はすべて消し炭になっていた……。
ん?怒られなかったのかって?
二人仲良くこっぴどく叱られたよ。槇寿朗さんと瑠火さん両名から、ね。
杏寿郎さんめ、恨むぞ……。
芋もそうだけど、杏寿郎さんは炎を前にすると気分が高揚するようで。
さすが炎の呼吸を体現する心も体も熱い男。むしろ貴方が炎の化身か。
そういうわけで杏寿郎さんに火の扱いを任せるのは今でもちょっぴり怖い。
「まあでも大丈夫か。今回は庭じゃなくって厨で料理するんだものね。
家の中なら火をそこまで大きくしたりできないでしょ。それに今はいい大人だし」
幼少期の杏寿郎さんの武勇伝、いや、黒歴史を千寿郎に語って聞かせたところ、顔を真っ青にさせて震え出した。
「兄上に厨は任せたくありません!家が焼かれてしまう!!」
「や、そこまで心配しなくても……」
「それ以来兄上が火を扱ったことは?焚き火をしたことは?」
鬼と対峙した時のような真剣な表情の千寿郎。いや君、鬼殺隊士じゃないよね。
「んー。少なくとも杏寿郎さんが火をつけたことは全くないねぇ。
そもそもこの家で厨を利用するのって、ここ数年は私と通いの奉公さんだけだよ」
「アアアアアアア!怖いーーー!兄上火の取り扱い注意ーー!!!!」
あまりの事に何だか私も不安になってきたわ。
そのため、体が冷えぬよう褞袍を着込んで二人が調理する厨を覗くことにした。
厨に行くまでも、千寿郎は至極不安そうだったなあ。
採れたての我が家のさつまいもを焼き芋にしたいと杏寿郎さんが言ってきたことがあった。
私は焼き芋の焼き方も詳しく知っていたし、焚き火くらいは家族で囲んだこともあって火加減の調整くらいなら私も、杏寿郎さんですらやり方くらいは知っていた。
掃き掃除で集めた落ち葉に燐寸で火をつけ、ぱちぱち爆ぜる炎を共に満足げに見つめる。
色鮮やかな落ち葉が次々燃えて消える姿は少しだけもったいないなと思ったし、赤く橙に燃える炎はとても綺麗だったし、何重にも紙を巻かれた芋の匂いが少しずつしてくる様子は子供心を高鳴らせたっけ。
あらかた燃え終えてから、灰の中に突っ込んだ芋。これが熱でじっくり火を通され、ほくほくの焼き芋になるのを想像すると……!
杏寿郎さんじゃないけど、わっしょい!と叫びたくなるよね。
今でもあれは大切な思い出だ。
だが、危惧したのはもちろんここまでの話のことじゃない。
幼い子供が火を扱うのもこの時代なら、大した問題じゃなかった。
ごうごう。めらめら。
ぶすぶすぶす……。
ちょっと目を離し戻ってみたら、炎が火事と見紛うほど大きくなっていた。
天高く燃え上がる火柱。ついでにうちにいるのは炎柱……って冗談言ってる場合じゃない。
「エッなにこれどういうこと」
「どうだ朝緋!父上の剣技の型のようにすばらしい炎だ!!」
その炎をバックに、誇らしげに笑う杏寿郎さんは、熱さも気にせずもっさりどっさり落ち葉を炎に投げ込んでいる。
ワックワクウキウキしてる様子でわかる。
馬に人参、杏寿郎さんに芋。目の前にぶら下がった好物を前に、大事なことが見えていない!
海老天のしっぽのような結んだ髪もちょっと焦げてるよ。
ううん、髪は先だけだからまだなんとかなる。
問題は火の近くに生えていた木だ。
そこまで近くにというわけじゃなかったのに、炎が大きすぎて火が届いていた。
もうこれ欅の木じゃないじゃん!炎の木じゃん!!葉っぱが炎ってなんだファンタジーの世界かっ!!
この木に移った火はさすがにもう消せないね!?燃え尽きるまでそのままだわ!!
うわああああついでに後ろの塀も若干焦げてるうう!!
「あばばばばば……火!火を大きくし過ぎです!!ねえこれ以上落ち葉足さないで!?」
「よもや!?」
「早く消すから水汲んでーーーっ」
「それでは芋が焼けなくなるっ!」
「きょぉぉじゅろぉぉ兄ぃぃぃさん!火事になったら芋どころじゃないからねっ!?」
「よもや!?」
よもやよもやと繰り返す場合じゃない。
この瞬間に風でも吹いたら、江戸の大火事もびっくりな大惨事!うちだけじゃなくって、ここら一帯の家屋に延焼する!!
ああああどうしよう鬼退治どころじゃなくなるうううう!!
早く消さなければ!消さなければ……!!
大人二人に見つからないうちにさっさと火だけでも消さなければ!!
証拠隠滅する気満々!
陽光を前にしたにっくき上弦の参、猗窩座のごとく、表情をガッタガタに震わせながら、私は杏寿郎さんと共に水を汲みに走る。
「あらまぁ」
その背に瑠火さんの凜とした、それでいて場にそぐわずのんびり間延びした声がかけられた。
隣では槇寿朗さんが、あんぐり口を開けて腰を抜かしていた。
おーい現炎柱どした。瑠火さんの方が全く動揺してないってってどういうことだ。
母はやはり強い。
そのあとは、父、兄、私で火を消した。火事にならなかったけれど、木は燃え終わって形ある灰に。塀は黒い煤だらけで交換。
もちろん、芋はすべて消し炭になっていた……。
ん?怒られなかったのかって?
二人仲良くこっぴどく叱られたよ。槇寿朗さんと瑠火さん両名から、ね。
杏寿郎さんめ、恨むぞ……。
芋もそうだけど、杏寿郎さんは炎を前にすると気分が高揚するようで。
さすが炎の呼吸を体現する心も体も熱い男。むしろ貴方が炎の化身か。
そういうわけで杏寿郎さんに火の扱いを任せるのは今でもちょっぴり怖い。
「まあでも大丈夫か。今回は庭じゃなくって厨で料理するんだものね。
家の中なら火をそこまで大きくしたりできないでしょ。それに今はいい大人だし」
幼少期の杏寿郎さんの武勇伝、いや、黒歴史を千寿郎に語って聞かせたところ、顔を真っ青にさせて震え出した。
「兄上に厨は任せたくありません!家が焼かれてしまう!!」
「や、そこまで心配しなくても……」
「それ以来兄上が火を扱ったことは?焚き火をしたことは?」
鬼と対峙した時のような真剣な表情の千寿郎。いや君、鬼殺隊士じゃないよね。
「んー。少なくとも杏寿郎さんが火をつけたことは全くないねぇ。
そもそもこの家で厨を利用するのって、ここ数年は私と通いの奉公さんだけだよ」
「アアアアアアア!怖いーーー!兄上火の取り扱い注意ーー!!!!」
あまりの事に何だか私も不安になってきたわ。
そのため、体が冷えぬよう褞袍を着込んで二人が調理する厨を覗くことにした。
厨に行くまでも、千寿郎は至極不安そうだったなあ。