二周目 玖
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最初に見つけられたのは伊之助だった。
大量に転がる気色悪い鬼の肉片が布団になり、大した怪我もなく済んだようだ。打撲痕が目立つくらいか。
これ、本物の肉じゃなくって鬼の肉でよかったよね。鬼が死ねば徐々に消えるし、今消えなくたって太陽が出れば浄化するものね。
……臭さに鼻もつままなくて済む。
申し訳なく思いながらも伊之助に救助活動を任せて移動すると、途中に私と繋がっていた人達が蹲っていた。
こちらも他の乗客同様、ひどい怪我は負っていないようで安心する。
「朝緋さん、だったかな。これを……」
必要になるかもと申し訳程度の包帯を渡すと、私が渡しておいた藤の匂いのお守りを返された。
名前を知っているのは、夢の中で散々杏寿郎さんが呼んでいたのを聞いていたのかもしれない。
もしや杏寿郎さんとのアレやソレを覗いてました?すごくすごーく気になるけれど、恥ずかしくて聞けない。
「この藤の香りのおかげで、鬼が襲ってくることはなかったよ。ありがとう。
鬼が寄ってこないのなら、君にも必要なんだろう?持っていってくれ」
ああ、『前』もこうしてお礼を言われたっけ。あの時は返されなかったそれだが、今回大人しく受け取る。
でもなんで私に必要だと思ったんだろう。稀血のこと教えたっけ??夢の中でそんなシーンあったかな。
隠を待つよう言い車体の向こう側に回ると、そこには倒れる炭治郎に呼吸の指導をしている杏寿郎さんがいた。
「集中!」と炭治郎の額に指をつけている。
あー、額に指当てて集中させるあの方法、私もよく指導されたっけ。
意識をそこに持って行くことで、感覚が研ぎ澄まされるのよね。怪我をしている箇所を探すのにも、五感を高めるにもいい。
額に限らず、いろんなところに指ツンツンしてそこに集中させることができる。
最近された場所なんかだと……いや、これはやめておこう。
ここには感情を匂いで察知してしまう未成年がいる。
呼吸さえ極めれば、いろんなことができる。
もちろん、何でもというわけじゃないけど、それでも鬼殺隊においての強さの要のひとつ。それが呼吸だ。
歯を食いしばり唸る炭治郎が、やっとお腹の出血を止めたようだ。
杏寿郎さんにゆっくり休むよう、労られている。
でも私は炭治郎が二つの呼吸を使ってるところを見てしまったからわかる。
療養も治療も必要な怪我なのは確かだけれど、彼がいま動けなくなっているのは、お腹の傷だけが理由ではない。
呼吸を二つ使った反動だ。
反動か……でも、呼吸のようにそれすら極めれば二つの呼吸が使えるってことなのね。ふむ……。
私には水の呼吸も合うかも、なんて言っていた槇寿朗さんの言葉が今になって蘇ってきた。
まあいいや。今はそのように余計なことを考えている場合ではないのだ。
これからやって来るであろう災厄に備えたい。
「師範」
「朝緋か。状況報告を」
「はい。怪我人多数、ですが命に別状あるような重症者はいません。列車の鬼の気配は消えました。直に鬼の肉塊も消えます」
とりあえず列車の鬼の気配『は』ね。
杏寿郎さんの元で片膝立ちになり、報告をあげた。
はああ〜下から見上げる杏寿郎さんも凛々しくて素敵だ。炭治郎や私がぼろぼろの埃まみれで薄汚れているのに対し、杏寿郎さんはほとんど汚れていない。怪我もない。
私の杏寿郎さん、すごくない?さすが柱。
「夜が明けたら隠がきますので、今は救助活動を伊之助にお願いし、私はこちらに……師範の元に用事がありますから参じた次第です」
「うむ、ご苦労……用事?俺に?」
貴方を守り切るなんて烏滸がましいので、口にすることはおろか、思うことすら憚られる。
でも、こんな私でも貴方の剣となり盾となることはできるのだ。
本人に理由を言えやしないけれど、私は不思議そうな顔をする杏寿郎さんの目をまっすぐ見つめた。
その直後だった。
ドン!!!!
大きな地響きと共に、一人の武人……いや、ヒトに対するような呼び方をする価値もない一『匹』の鬼が降り立った。
舞う土煙が落ち着いた先にいたのは、罪人の証をその体に彫り込んだ、上弦の参。
……猗窩座。
やはりか!やはり来たか、私の因縁がッ!!
警戒して刀に手をやる杏寿郎さんよりも早く、誰よりも早く、私は刀身を抜いた。
確かこの鬼は、来て早々に炭治郎を狙った。
弱者と小馬鹿にし、この場で動けない状態の炭治郎を始末しようと、拳を振るってきたはずだ。
そんな事は絶対にさせない!
視線で鬼の動きを判断した私は、同じく鬼の考えをいち早く察知した杏寿郎さんと共に、それを防いだ。
杏寿郎さんの放つ炎の呼吸、弐ノ型昇り炎天。それに続くように私の繰り出す参ノ型気炎万象。
昇り炎天で縦に割れた鬼の腕を、私は上から斬り落とすことに成功した。
やった!杏寿郎さんが斬り込みを入れたおかげか、鬼の腕が吹っ飛んだ!!
ただ、これが無意味で不要な後方支援なのはわかっていた。
相手は上弦。腕なんてすぐに生えるからだ。
けれど、私はもうずっとずっと、『あの時』から怒っていた。手が出るのを止められなかった。
『前』の杏寿郎さんがこの鬼によって命を散らす前。鬼が杏寿郎さんに攻撃を喰らわせる前。
炭治郎を傷つけようとした時から。杏寿郎さんに向かって鬼になれと、持ちかけてきたその瞬間から!!
柱である人間に、まさかの言葉。許しがたかった。
鬼が憎い。
ギリギリギリ……噛み締めた歯が軋む。でも噛み締めて耐えていないと、怒りで我を忘れそうだった。
そしてやはり、鬼の腕は一瞬で生えた。それがまたひどく腹立たしかった。
奴が放つ凄まじい鬼気すら、私の怒りの前では霞んでいた。
大量に転がる気色悪い鬼の肉片が布団になり、大した怪我もなく済んだようだ。打撲痕が目立つくらいか。
これ、本物の肉じゃなくって鬼の肉でよかったよね。鬼が死ねば徐々に消えるし、今消えなくたって太陽が出れば浄化するものね。
……臭さに鼻もつままなくて済む。
申し訳なく思いながらも伊之助に救助活動を任せて移動すると、途中に私と繋がっていた人達が蹲っていた。
こちらも他の乗客同様、ひどい怪我は負っていないようで安心する。
「朝緋さん、だったかな。これを……」
必要になるかもと申し訳程度の包帯を渡すと、私が渡しておいた藤の匂いのお守りを返された。
名前を知っているのは、夢の中で散々杏寿郎さんが呼んでいたのを聞いていたのかもしれない。
もしや杏寿郎さんとのアレやソレを覗いてました?すごくすごーく気になるけれど、恥ずかしくて聞けない。
「この藤の香りのおかげで、鬼が襲ってくることはなかったよ。ありがとう。
鬼が寄ってこないのなら、君にも必要なんだろう?持っていってくれ」
ああ、『前』もこうしてお礼を言われたっけ。あの時は返されなかったそれだが、今回大人しく受け取る。
でもなんで私に必要だと思ったんだろう。稀血のこと教えたっけ??夢の中でそんなシーンあったかな。
隠を待つよう言い車体の向こう側に回ると、そこには倒れる炭治郎に呼吸の指導をしている杏寿郎さんがいた。
「集中!」と炭治郎の額に指をつけている。
あー、額に指当てて集中させるあの方法、私もよく指導されたっけ。
意識をそこに持って行くことで、感覚が研ぎ澄まされるのよね。怪我をしている箇所を探すのにも、五感を高めるにもいい。
額に限らず、いろんなところに指ツンツンしてそこに集中させることができる。
最近された場所なんかだと……いや、これはやめておこう。
ここには感情を匂いで察知してしまう未成年がいる。
呼吸さえ極めれば、いろんなことができる。
もちろん、何でもというわけじゃないけど、それでも鬼殺隊においての強さの要のひとつ。それが呼吸だ。
歯を食いしばり唸る炭治郎が、やっとお腹の出血を止めたようだ。
杏寿郎さんにゆっくり休むよう、労られている。
でも私は炭治郎が二つの呼吸を使ってるところを見てしまったからわかる。
療養も治療も必要な怪我なのは確かだけれど、彼がいま動けなくなっているのは、お腹の傷だけが理由ではない。
呼吸を二つ使った反動だ。
反動か……でも、呼吸のようにそれすら極めれば二つの呼吸が使えるってことなのね。ふむ……。
私には水の呼吸も合うかも、なんて言っていた槇寿朗さんの言葉が今になって蘇ってきた。
まあいいや。今はそのように余計なことを考えている場合ではないのだ。
これからやって来るであろう災厄に備えたい。
「師範」
「朝緋か。状況報告を」
「はい。怪我人多数、ですが命に別状あるような重症者はいません。列車の鬼の気配は消えました。直に鬼の肉塊も消えます」
とりあえず列車の鬼の気配『は』ね。
杏寿郎さんの元で片膝立ちになり、報告をあげた。
はああ〜下から見上げる杏寿郎さんも凛々しくて素敵だ。炭治郎や私がぼろぼろの埃まみれで薄汚れているのに対し、杏寿郎さんはほとんど汚れていない。怪我もない。
私の杏寿郎さん、すごくない?さすが柱。
「夜が明けたら隠がきますので、今は救助活動を伊之助にお願いし、私はこちらに……師範の元に用事がありますから参じた次第です」
「うむ、ご苦労……用事?俺に?」
貴方を守り切るなんて烏滸がましいので、口にすることはおろか、思うことすら憚られる。
でも、こんな私でも貴方の剣となり盾となることはできるのだ。
本人に理由を言えやしないけれど、私は不思議そうな顔をする杏寿郎さんの目をまっすぐ見つめた。
その直後だった。
ドン!!!!
大きな地響きと共に、一人の武人……いや、ヒトに対するような呼び方をする価値もない一『匹』の鬼が降り立った。
舞う土煙が落ち着いた先にいたのは、罪人の証をその体に彫り込んだ、上弦の参。
……猗窩座。
やはりか!やはり来たか、私の因縁がッ!!
警戒して刀に手をやる杏寿郎さんよりも早く、誰よりも早く、私は刀身を抜いた。
確かこの鬼は、来て早々に炭治郎を狙った。
弱者と小馬鹿にし、この場で動けない状態の炭治郎を始末しようと、拳を振るってきたはずだ。
そんな事は絶対にさせない!
視線で鬼の動きを判断した私は、同じく鬼の考えをいち早く察知した杏寿郎さんと共に、それを防いだ。
杏寿郎さんの放つ炎の呼吸、弐ノ型昇り炎天。それに続くように私の繰り出す参ノ型気炎万象。
昇り炎天で縦に割れた鬼の腕を、私は上から斬り落とすことに成功した。
やった!杏寿郎さんが斬り込みを入れたおかげか、鬼の腕が吹っ飛んだ!!
ただ、これが無意味で不要な後方支援なのはわかっていた。
相手は上弦。腕なんてすぐに生えるからだ。
けれど、私はもうずっとずっと、『あの時』から怒っていた。手が出るのを止められなかった。
『前』の杏寿郎さんがこの鬼によって命を散らす前。鬼が杏寿郎さんに攻撃を喰らわせる前。
炭治郎を傷つけようとした時から。杏寿郎さんに向かって鬼になれと、持ちかけてきたその瞬間から!!
柱である人間に、まさかの言葉。許しがたかった。
鬼が憎い。
ギリギリギリ……噛み締めた歯が軋む。でも噛み締めて耐えていないと、怒りで我を忘れそうだった。
そしてやはり、鬼の腕は一瞬で生えた。それがまたひどく腹立たしかった。
奴が放つ凄まじい鬼気すら、私の怒りの前では霞んでいた。