一周目 弐
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怪我人の救助をしていると、足を怪我したらしい一団が蹲っていた。
見覚えがあると思ったら私と繋がっていた人だ。周りには鬼に協力していた人たちも固まっている。
「しっかりしてください。立てますか?」
「君は……。無事だったんだな。
藤の花の匂い袋は役に立ったよ。おかげで鬼の肉が寄ってこなかった。ありがとう」
「役立ったならよかったです。
もうすぐきちんとした手当が受けられるはずですから、安全な場所で休んでいてくださ、ーーッ!?」
その時だった。
なんだこの、大気がビリビリと震えるほどの恐ろしい気配は!
すごい速さで近づいてくる……!?
「どうかしたのかい?」
「すみません、あとはお任せしても!?」
「あ、ああ、もちろんだとも」
「ありがとう!!」
今度は一体何がーー?
急ぎ杏寿郎さんと炭治郎がいる場所へ合流した瞬間だった。
何かが、ドォン!と目の前へとものすごい勢いで着地した。
激しい揺れ。のち、煙が晴れていく。
そこにいたのは全身に刺青をほどこした、桃色の髪の一人の武人。
いや、ーー鬼だ。
「上弦の……参?
どうして、今ここに…………」
その瞳に刻まれた数字は参。
下弦でもなく、上弦。それも陸でもなく伍でもなく、上から三番目に強い、参。
上弦の鬼には柱が束になっても勝てない。そんな話を聞いたことがある。
この機に上弦だなんて、なんとついていない。
杏寿郎さんもピリピリと気を張り詰め、警戒している。すぐさま戦闘に入れるよう、刀に手をかけて構えている。
私もまた、彼と同じく刀に手を置きながらも、ここにいる唯一の負傷者……倒れている炭治郎を庇うようにして立ち塞がった。
鬼は杏寿郎さんを一瞥してから、私と炭治郎を見て目を細めーーそして跳んだ。
一瞬のことだった。
「な、……炭治郎っ!」
杏寿郎さんでもなく私でもなく、鬼が炭治郎目掛けて拳を振り抜いた。
ただの拳なのに風圧を感じる。これは、当たったらただ殴られたものとは違う。殴られた箇所は確実に抉れ、穴の開く攻撃だ。
炭治郎を狙った攻撃を前に、杏寿郎さんが放った弐ノ型・昇り炎天がなかったら、今頃炭治郎は……。
私が抜いた刀では間に合わなかったろう。速さが売りだと思っていたが、私個人の腕の動きはまだまだ杏寿郎さんの足元にも及ばない。鍛錬あるのみだ。
「いい刀だ」
杏寿郎さんの咄嗟の斬撃は強く、鬼の腕が拳から縦に大きく深く抉るように割れたが、当の鬼は一つも動じていなかった。
痛みすら感じていない、そういうかの如く。
それどころか、剣技の腕前を前に嬉しそうだった。
瞬く間に腕が元通りにくっつき、何事もなかったかのように振る舞っている。
これが上弦の回復速度……。
放つ空気の重さといい、その圧迫感は半端なものではない。膝が震えそうになる。
鬼気に飲まれそう……いやこれは武者震いよ。そう思わないと立ってなんていられなかった。
杏寿郎さんでさえ、その再生の速さを見てすぐ手を出さず状況を確認している。
下手に動けば危険だ。
「なぜ手負いの者から狙うのか理解できない」
「話の邪魔になるかと思った。俺とお前の」
あっ意外と論理的な感じがする。
たまに人間の言葉が全く通じない鬼もいるからね。
でも話は通じても、会話は通じないみたい。
そんな悪い鬼は、鬼舞辻無惨の情報をおいておとなしく頸を斬らせてくれればいいのに。なんて現実逃避してみる。
起きあがろうとする炭治郎に手を貸し、支えて出来るだけ後退する。
そこにいるのは柱と上弦。少しでも後ろに下がっておかないと一介の隊士には危険だ。それはたかだか階級甲の私も同じか。
「俺と君がなんの話をする?」
初対面の鬼なのに、既に嫌いと杏寿郎さんから告げられていた。
相手は鬼だから嫌われて当然だけども、杏寿郎さんに嫌われるってそうないからね!
私ならそんなこと言われた瞬間に、絶望死してしまう。
だから鬼が少しでも落ち込むといい。
でも、上弦の鬼は嫌いと言われようが気にも留めず無視し、そのまま話を続けた。
歓談すら碌にできないのかこの鬼め。
「そうか。
俺も弱い人間が大嫌いだ。弱者を見ると虫唾が走る」
ちらりと鬼の目がこちらを向いた。
弱い、と言われているのがわかる。弱い者とは話すらしたくないというのか。腹立たしく思うが、弱いのは本当のことでもある。
弱っている者から襲おうとした鬼を嫌うのと、弱い者が嫌いだから先に襲う。
同じ弱いという言葉を使うにも、ここまで意味が違う。
物事の価値基準が違うと言った、杏寿郎さんのいう通りだ。
「では素晴らしい提案をしよう。
お前も鬼にならないか?」
会話が噛み合わないまま、鬼がとんでもない提案をしてきた。
は?この鬼何を言っているの?素晴らしい提案?違う、愚案だ。
杏寿郎さんが鬼になるわけないじゃない。
「ならない」
案の定、杏寿郎さんはまっすぐ相手の目を見てはっきり言った。
諦める気はないのか、話を無視して続ける鬼。
杏寿郎さんの身を纏う、気のようなものーー闘気と呼んでいるようだーーを視認して、彼が柱であると見抜いた。
練り上げられた闘気……きっと杏寿郎さんなら、炎の揺らぎが見えるのだろう。想像に難くない。
至高の領域に近いと発して嬉々とする鬼を遮り、杏寿郎さんが名乗りを上げた。
「俺は炎柱、煉獄杏寿郎だ」
「俺は猗窩座」
猗窩座。それが上弦の鬼の名。
杏寿郎さんのことを至高の領域に近いとは言っていたが、そこに行くまでには一歩足りないと猗窩座は言う。
人間だから、老いるから、死ぬから。人間である以上、老いるし死ぬ。
それがない鬼は鍛錬し続ければいずれ至高の領域に突入できると、そういうことらしい。
見覚えがあると思ったら私と繋がっていた人だ。周りには鬼に協力していた人たちも固まっている。
「しっかりしてください。立てますか?」
「君は……。無事だったんだな。
藤の花の匂い袋は役に立ったよ。おかげで鬼の肉が寄ってこなかった。ありがとう」
「役立ったならよかったです。
もうすぐきちんとした手当が受けられるはずですから、安全な場所で休んでいてくださ、ーーッ!?」
その時だった。
なんだこの、大気がビリビリと震えるほどの恐ろしい気配は!
すごい速さで近づいてくる……!?
「どうかしたのかい?」
「すみません、あとはお任せしても!?」
「あ、ああ、もちろんだとも」
「ありがとう!!」
今度は一体何がーー?
急ぎ杏寿郎さんと炭治郎がいる場所へ合流した瞬間だった。
何かが、ドォン!と目の前へとものすごい勢いで着地した。
激しい揺れ。のち、煙が晴れていく。
そこにいたのは全身に刺青をほどこした、桃色の髪の一人の武人。
いや、ーー鬼だ。
「上弦の……参?
どうして、今ここに…………」
その瞳に刻まれた数字は参。
下弦でもなく、上弦。それも陸でもなく伍でもなく、上から三番目に強い、参。
上弦の鬼には柱が束になっても勝てない。そんな話を聞いたことがある。
この機に上弦だなんて、なんとついていない。
杏寿郎さんもピリピリと気を張り詰め、警戒している。すぐさま戦闘に入れるよう、刀に手をかけて構えている。
私もまた、彼と同じく刀に手を置きながらも、ここにいる唯一の負傷者……倒れている炭治郎を庇うようにして立ち塞がった。
鬼は杏寿郎さんを一瞥してから、私と炭治郎を見て目を細めーーそして跳んだ。
一瞬のことだった。
「な、……炭治郎っ!」
杏寿郎さんでもなく私でもなく、鬼が炭治郎目掛けて拳を振り抜いた。
ただの拳なのに風圧を感じる。これは、当たったらただ殴られたものとは違う。殴られた箇所は確実に抉れ、穴の開く攻撃だ。
炭治郎を狙った攻撃を前に、杏寿郎さんが放った弐ノ型・昇り炎天がなかったら、今頃炭治郎は……。
私が抜いた刀では間に合わなかったろう。速さが売りだと思っていたが、私個人の腕の動きはまだまだ杏寿郎さんの足元にも及ばない。鍛錬あるのみだ。
「いい刀だ」
杏寿郎さんの咄嗟の斬撃は強く、鬼の腕が拳から縦に大きく深く抉るように割れたが、当の鬼は一つも動じていなかった。
痛みすら感じていない、そういうかの如く。
それどころか、剣技の腕前を前に嬉しそうだった。
瞬く間に腕が元通りにくっつき、何事もなかったかのように振る舞っている。
これが上弦の回復速度……。
放つ空気の重さといい、その圧迫感は半端なものではない。膝が震えそうになる。
鬼気に飲まれそう……いやこれは武者震いよ。そう思わないと立ってなんていられなかった。
杏寿郎さんでさえ、その再生の速さを見てすぐ手を出さず状況を確認している。
下手に動けば危険だ。
「なぜ手負いの者から狙うのか理解できない」
「話の邪魔になるかと思った。俺とお前の」
あっ意外と論理的な感じがする。
たまに人間の言葉が全く通じない鬼もいるからね。
でも話は通じても、会話は通じないみたい。
そんな悪い鬼は、鬼舞辻無惨の情報をおいておとなしく頸を斬らせてくれればいいのに。なんて現実逃避してみる。
起きあがろうとする炭治郎に手を貸し、支えて出来るだけ後退する。
そこにいるのは柱と上弦。少しでも後ろに下がっておかないと一介の隊士には危険だ。それはたかだか階級甲の私も同じか。
「俺と君がなんの話をする?」
初対面の鬼なのに、既に嫌いと杏寿郎さんから告げられていた。
相手は鬼だから嫌われて当然だけども、杏寿郎さんに嫌われるってそうないからね!
私ならそんなこと言われた瞬間に、絶望死してしまう。
だから鬼が少しでも落ち込むといい。
でも、上弦の鬼は嫌いと言われようが気にも留めず無視し、そのまま話を続けた。
歓談すら碌にできないのかこの鬼め。
「そうか。
俺も弱い人間が大嫌いだ。弱者を見ると虫唾が走る」
ちらりと鬼の目がこちらを向いた。
弱い、と言われているのがわかる。弱い者とは話すらしたくないというのか。腹立たしく思うが、弱いのは本当のことでもある。
弱っている者から襲おうとした鬼を嫌うのと、弱い者が嫌いだから先に襲う。
同じ弱いという言葉を使うにも、ここまで意味が違う。
物事の価値基準が違うと言った、杏寿郎さんのいう通りだ。
「では素晴らしい提案をしよう。
お前も鬼にならないか?」
会話が噛み合わないまま、鬼がとんでもない提案をしてきた。
は?この鬼何を言っているの?素晴らしい提案?違う、愚案だ。
杏寿郎さんが鬼になるわけないじゃない。
「ならない」
案の定、杏寿郎さんはまっすぐ相手の目を見てはっきり言った。
諦める気はないのか、話を無視して続ける鬼。
杏寿郎さんの身を纏う、気のようなものーー闘気と呼んでいるようだーーを視認して、彼が柱であると見抜いた。
練り上げられた闘気……きっと杏寿郎さんなら、炎の揺らぎが見えるのだろう。想像に難くない。
至高の領域に近いと発して嬉々とする鬼を遮り、杏寿郎さんが名乗りを上げた。
「俺は炎柱、煉獄杏寿郎だ」
「俺は猗窩座」
猗窩座。それが上弦の鬼の名。
杏寿郎さんのことを至高の領域に近いとは言っていたが、そこに行くまでには一歩足りないと猗窩座は言う。
人間だから、老いるから、死ぬから。人間である以上、老いるし死ぬ。
それがない鬼は鍛錬し続ければいずれ至高の領域に突入できると、そういうことらしい。