二周目 玖
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
でも今は駄目なんだってば。
頼むから終わって。炭治郎達も待ってるの。
杏寿郎さん、お願いだから私の中の情欲の炎を探さないで……!
時間にしてほんの数秒のことだけれど、すごく長く感じる。視界の中迫る鬼の触手でさえ、動きは緩慢な物に見えた。
『鬼』『乗客』『頸』『百秒』……そういった単語ばかりが頭に浮かび、杏寿郎さんの舌先から逃げようとする私も悪いのかもしれない。だからいつまでも杏寿郎さんが満足しない。
けどさ!周りに気がついて!鬼の触腕がすぐそこまで迫ってるの!!
しかし柱の力には敵わず。
ぐぢゅ、じゅる、ぬちり。
背筋に電流が走るような、甘く湿った音が耳に届いてたまらない。
貴方の匂い、体温、舌の感触、欲しがる目。そして色のついた音。
五感全てが杏寿郎さんに染まる。
「ん、はぁ……ァ、…………」
「ぷは、……ン、よしっ!!」
ぷつり。互いに艶やかな糸がつながり、そして名残惜しく切れる。
気が済んだ杏寿郎さんの舌が自身の唇へと戻っていく。
よし!じゃない!!
ツヤッツヤしたお顔で満足そうな顔しないで……!?
あの口吸いだけで、私は昇りつめそうだったのに。あと少しでいい気分になれたのに。
なのにお預けされて逆に疲れた。
いけない、なんてはしたない考え。今は任務中!このあとにボス戦おひとつ待っているんだから、気を引き締めないと。それが私の今の生きる目的でしょ。
「ほんっと起きるの遅いッ!」
疲労を、そしてムクムクと湧いて出る不埒な考えを吹き飛ばすように私は杏寿郎さんを叱り飛ばしながら、抜いた日輪刀を振るった。
「ああおはようっ!」
「おはようじゃないっ!
師範っ!柱である貴方が一番遅いお目覚めだなんて他の子に示しがつきません!いつもは寝起きいいでしょ何やってるんですかっ!」
杏寿郎さんにご自身の日輪刀を投げ渡し、鬼の肉塊を滅するよう促せば、一つ頷きつつ壱ノ型で斬り払った。
火の粉のような炎の揺めき美しい剣捌き!
列車内の鬼を退治した時と同じだ。かっこよすぎてつらい。
「俺も一人の人間だ。そういう事もあろうッ!あと口吸いがしたい気分だった!」
「そういう事もあろう、の発生場所に問題あるっての!したかったってのもわがままが過ぎますっ」
「すまない!!
たが俺は君に関わることすべて我慢できない!これからもわがままは言わせてもらう!!」
なんてこった。
煉獄家の嫡男として我慢強く、精神も体も強く育った杏寿郎さんだというのに、私の事では我慢もしない、わがままに振る舞うという。
ううん、素直になれる場所があるというのは素晴らしいことだし、それが私の元での態度ならこれ以上ない喜び。
口では咎めなきゃって思うのに、体も心も血が沸騰しそうなほどに嬉しいと叫んでいる。
「いやしかし、うたたねしてる間にこんな事態になっていようとはなぁ……。
よもやよもやだ」
杏寿郎さんが柱モードに入った。炎の呼吸をその身に激らせて、日輪刀を構える。
「柱として不甲斐なし。穴があったら……入りたいッ!!」
渦巻いた炎の駆け抜けること火球の如し。
広範囲、次の車両にいたるまでを正確に、そして細かく斬り刻んで肉を削ぎ落とす。
力技に近いそれに、列車が大きく跳ね飛んだ。
そしてそれを追尾し、残り滓を仕留める私。
うん、なんとか杏寿郎さんの速さについていけている。上々!
「本当ですよ!
なんの夢見てたんですか全く!」
「ん!父上へ炎柱になった報告をする夢を見ていた!!
その際、君に夫婦になってくれと求婚していたのだが、色良い返事が聞けたあたりが唯一我慢しないで済む最高な夢だったな!!」
「嬉しいッ!……ですけど、そういうのは夢でなく実際に言って欲しいですッ」
会話しながらも呼吸も型も止めない。次々に生えてくる触腕を掃いて捨てるかのように斬り落として回る。
でも『唯一』というのはなんだろう。そんな大層なこと言われたら、私が杏寿郎さんに良いお返事をするのは決まってるだろうし杏寿郎さんもそれを望むはず。
なら、我慢した事というのはもしかして炎柱になった報告……?
あれは良い夢を見せてくる血鬼術なはず。なのにまさか、杏寿郎さんの柱就任の報告の夢で槇寿朗さんはあの時のままの言葉を返してきたんじゃ……。
ああ、きっとそのまさかだ。
私については我慢しなくていいとわかっているから望むままの夢を見るだろうけれど、柱就任については自身の幸せよりも、責務を全うするがため、杏寿郎さんは自分をより鼓舞できる夢を望んだのだ。
それが幸せでなくとも良い。父からの酷い言葉でさえ、自らが望む姿になるための踏み台として。
杏寿郎さん、それは本当に貴方の望みなのだろうか。
柱を出し続けてきた煉獄家としての誇り。煉獄家の嫡男としての縛り。柱として頼りにされる重責。父からの罵声。幼かった私達妹弟を支える兄の役割。杏寿郎さんだって幼かったのに。甘えたい時ももっとあっただろうに。
貴方は我慢をしすぎて、感情を心の奥底に押し込んでしまっただけではないの?
「そうだな!朝緋!俺と結婚してくれ!!」
私の思いが沈み込むのを払拭するかのように、激しく剣技を繰り出しながら笑顔を向けて言ってきた。
杏寿郎さんの眩しい笑顔は元気になる……そしてその言葉はとても嬉しい。
けーれーどー。
「今!?ここで言うのやめてくれます!?
雰囲気ぶち壊しでしょっ」
肉色の景色とかムードもへったくれもない。
「気が急いていた!すまないなっ!
おっと余裕はないのだった行くぞッ!!」
「はい!この借りは働いて返してもらいますからねっ!」
「はっはっはっ!柱をこき使う気か!君は恐ろしい鬼嫁様になりそうだ、なっっ!!」
杏寿郎さんが笑いながら技を放って車両の扉を開けた。……足蹴で破壊して。
お行儀のいい杏寿郎さんらしからぬ行動だけど、そんなところもかっこいい。私って重症?
しかし鬼嫁とは失礼な。
「この任務が無事に終わったら改めて求婚させてくれ!」
このタイミングでのその言葉は縁起が悪い。
頼むから終わって。炭治郎達も待ってるの。
杏寿郎さん、お願いだから私の中の情欲の炎を探さないで……!
時間にしてほんの数秒のことだけれど、すごく長く感じる。視界の中迫る鬼の触手でさえ、動きは緩慢な物に見えた。
『鬼』『乗客』『頸』『百秒』……そういった単語ばかりが頭に浮かび、杏寿郎さんの舌先から逃げようとする私も悪いのかもしれない。だからいつまでも杏寿郎さんが満足しない。
けどさ!周りに気がついて!鬼の触腕がすぐそこまで迫ってるの!!
しかし柱の力には敵わず。
ぐぢゅ、じゅる、ぬちり。
背筋に電流が走るような、甘く湿った音が耳に届いてたまらない。
貴方の匂い、体温、舌の感触、欲しがる目。そして色のついた音。
五感全てが杏寿郎さんに染まる。
「ん、はぁ……ァ、…………」
「ぷは、……ン、よしっ!!」
ぷつり。互いに艶やかな糸がつながり、そして名残惜しく切れる。
気が済んだ杏寿郎さんの舌が自身の唇へと戻っていく。
よし!じゃない!!
ツヤッツヤしたお顔で満足そうな顔しないで……!?
あの口吸いだけで、私は昇りつめそうだったのに。あと少しでいい気分になれたのに。
なのにお預けされて逆に疲れた。
いけない、なんてはしたない考え。今は任務中!このあとにボス戦おひとつ待っているんだから、気を引き締めないと。それが私の今の生きる目的でしょ。
「ほんっと起きるの遅いッ!」
疲労を、そしてムクムクと湧いて出る不埒な考えを吹き飛ばすように私は杏寿郎さんを叱り飛ばしながら、抜いた日輪刀を振るった。
「ああおはようっ!」
「おはようじゃないっ!
師範っ!柱である貴方が一番遅いお目覚めだなんて他の子に示しがつきません!いつもは寝起きいいでしょ何やってるんですかっ!」
杏寿郎さんにご自身の日輪刀を投げ渡し、鬼の肉塊を滅するよう促せば、一つ頷きつつ壱ノ型で斬り払った。
火の粉のような炎の揺めき美しい剣捌き!
列車内の鬼を退治した時と同じだ。かっこよすぎてつらい。
「俺も一人の人間だ。そういう事もあろうッ!あと口吸いがしたい気分だった!」
「そういう事もあろう、の発生場所に問題あるっての!したかったってのもわがままが過ぎますっ」
「すまない!!
たが俺は君に関わることすべて我慢できない!これからもわがままは言わせてもらう!!」
なんてこった。
煉獄家の嫡男として我慢強く、精神も体も強く育った杏寿郎さんだというのに、私の事では我慢もしない、わがままに振る舞うという。
ううん、素直になれる場所があるというのは素晴らしいことだし、それが私の元での態度ならこれ以上ない喜び。
口では咎めなきゃって思うのに、体も心も血が沸騰しそうなほどに嬉しいと叫んでいる。
「いやしかし、うたたねしてる間にこんな事態になっていようとはなぁ……。
よもやよもやだ」
杏寿郎さんが柱モードに入った。炎の呼吸をその身に激らせて、日輪刀を構える。
「柱として不甲斐なし。穴があったら……入りたいッ!!」
渦巻いた炎の駆け抜けること火球の如し。
広範囲、次の車両にいたるまでを正確に、そして細かく斬り刻んで肉を削ぎ落とす。
力技に近いそれに、列車が大きく跳ね飛んだ。
そしてそれを追尾し、残り滓を仕留める私。
うん、なんとか杏寿郎さんの速さについていけている。上々!
「本当ですよ!
なんの夢見てたんですか全く!」
「ん!父上へ炎柱になった報告をする夢を見ていた!!
その際、君に夫婦になってくれと求婚していたのだが、色良い返事が聞けたあたりが唯一我慢しないで済む最高な夢だったな!!」
「嬉しいッ!……ですけど、そういうのは夢でなく実際に言って欲しいですッ」
会話しながらも呼吸も型も止めない。次々に生えてくる触腕を掃いて捨てるかのように斬り落として回る。
でも『唯一』というのはなんだろう。そんな大層なこと言われたら、私が杏寿郎さんに良いお返事をするのは決まってるだろうし杏寿郎さんもそれを望むはず。
なら、我慢した事というのはもしかして炎柱になった報告……?
あれは良い夢を見せてくる血鬼術なはず。なのにまさか、杏寿郎さんの柱就任の報告の夢で槇寿朗さんはあの時のままの言葉を返してきたんじゃ……。
ああ、きっとそのまさかだ。
私については我慢しなくていいとわかっているから望むままの夢を見るだろうけれど、柱就任については自身の幸せよりも、責務を全うするがため、杏寿郎さんは自分をより鼓舞できる夢を望んだのだ。
それが幸せでなくとも良い。父からの酷い言葉でさえ、自らが望む姿になるための踏み台として。
杏寿郎さん、それは本当に貴方の望みなのだろうか。
柱を出し続けてきた煉獄家としての誇り。煉獄家の嫡男としての縛り。柱として頼りにされる重責。父からの罵声。幼かった私達妹弟を支える兄の役割。杏寿郎さんだって幼かったのに。甘えたい時ももっとあっただろうに。
貴方は我慢をしすぎて、感情を心の奥底に押し込んでしまっただけではないの?
「そうだな!朝緋!俺と結婚してくれ!!」
私の思いが沈み込むのを払拭するかのように、激しく剣技を繰り出しながら笑顔を向けて言ってきた。
杏寿郎さんの眩しい笑顔は元気になる……そしてその言葉はとても嬉しい。
けーれーどー。
「今!?ここで言うのやめてくれます!?
雰囲気ぶち壊しでしょっ」
肉色の景色とかムードもへったくれもない。
「気が急いていた!すまないなっ!
おっと余裕はないのだった行くぞッ!!」
「はい!この借りは働いて返してもらいますからねっ!」
「はっはっはっ!柱をこき使う気か!君は恐ろしい鬼嫁様になりそうだ、なっっ!!」
杏寿郎さんが笑いながら技を放って車両の扉を開けた。……足蹴で破壊して。
お行儀のいい杏寿郎さんらしからぬ行動だけど、そんなところもかっこいい。私って重症?
しかし鬼嫁とは失礼な。
「この任務が無事に終わったら改めて求婚させてくれ!」
このタイミングでのその言葉は縁起が悪い。