二周目 捌
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
扉を開けた途端炭治郎が呻いた。
鬼の重たくて酷い匂いが強いのだろうけど、一体鬼ってどんな匂いなんだろう。そんなに酷いのだろうか。くさやかな?
炭治郎ほど鼻が利くわけでもない自分には、全く想像できなかった。
禰󠄀豆子ちゃんは残って杏寿郎さん達を起こす係、私と炭治郎は上に上がって鬼を探し、頸を取る係として別れる。
その際、禰󠄀豆子ちゃんには遠慮しなくていいから消し炭になるほど燃やして起こしてあげて。とサムズアップでゴーサインを出しておいた。
むんむん!と同じように指を上げて了承した禰󠄀豆子ちゃんは可愛かった……。
あの子、鬼じゃなくて天使だと思う。
「そういえば禰󠄀豆子ちゃんが燃やしてるのって自分の血だっけ?」
「はい。燃える血の血鬼術なんです」
途中で足りなくなったりしないかな。かと言って私の血を飲ませて回復!ってわけにいかないだろうし。せっかく今まで人間の血肉を必死で我慢してきたのに、その意味がなくなってしまう。
それに鬼に血肉を与えたものとして私も謹慎処分じゃ済まないだろう。最悪、煉獄家の者共々切腹だ。
あ。禰󠄀豆子ちゃんにも私の血の特殊効果が少しくらい効くのかどうか、試すの忘れた!
今はどこで鬼が聞いてるかわからないし、また今度でいいか。
降り立つ車両は風がピューピュー。露出した生足にはいささかつらいものがあった。
あと私は杏寿郎さんや炭治郎のように草履ではない。カナヲちゃんと同じようにブーツである。ブーツは駄目だわ……ここ滑る。
揺れる車両の上を炭治郎と共に走り抜け、前方の車両へ向かうとそこには一人の男が立っていた。
洋物の外套をその身に纏う男の瞳にある数字は、下弦の壱。
思い出されるかつての恥辱。貞操の危機。
まあ今はもう操は大事な人に捧げちゃったので時効にしてあげよう。
でも走る列車の上でも体幹がぶれていないのも腹立つし、足を滑らせてぴかぴかの太陽の下で日光浴してて欲しい。
「あれぇ、起きたのー?おはよう。まだ…………」
下弦の壱が左手をひらひら、まるで友達に挨拶するように振る。
「寝ててよかったのに」
そのままこちらに向けた手の甲には、綺麗な歯の生えそろった大きな口が開いていた。
べろん。厚みのある舌が口から覗いている。薄い手の甲に対し、どこにしまわれていたのか不思議である。
正直言ってきもちわるい。
せっかく良い夢を見せてやったのになぜ?問いを投げかけてくる。
けど私は良い夢なんて見てな……いや、なかなかの夢は見られたんだった。
だけど『前』でのこいつの悪事、私は絶対に許さないぞ。
「出たなでっかい蚯蚓鬼ぃ」
「蚯蚓?俺のどこが蚯蚓なの?」
炭治郎さえも一瞬こっち見た。この鬼、今現在蚯蚓の要素ひとつもないもんね。
あの形に進化、ううん。退化でいいや。蚯蚓状態になる前に仕留めて仕舞えばこっちのものよ!
「鬼相手に答える義理はないよねー」
んべ。と舌を出せば、鬼の額にピキ、一本の小さな青筋が立った。あら、案外忍耐力少なめ。
奴は夢を操ることができるらしい。へー、報告書で名付けて提出するなら、夢鬼か。
幸せな夢ではなく、炭治郎や私の家族を全員惨殺する残酷極まりない夢を見せることもできたのだと、言い放ってきた。
そっちの方がよかった?いやだよね?つらいよね??
そう言ってドヤドヤしてきた。
やー、やたら煽るね。でも残念、私別にそういう煽りには引っかからないんで。
お前の性格の悪さが浮き彫りになるだけだ。
「じゃあ、君に」
くつくつと笑うと。
「父親が生き返った夢を見せてやろうか」
ターゲットを炭治郎に変えて、鬼が更に煽ってきた。
私と違い、炭治郎は煽りに弱かった。
家族を引き合いに出され、ビキビキと顔に青筋を浮かべて怒りを露わにしている。
一方その頃。
私の中では鬼が言った言葉が見当違いの方向に刺さり、考えの結果がさらに斜め上の方角へと辿り着いていた。
炭治郎の怒りに構う余裕はなかった。
え?もしかしなくても炭治郎が見た夢の内容知ってるの?この鬼の血鬼術だから?え、なに?鬼側からも見れるの?
つまりそれって、私と杏寿郎さんの……見 ら れ て た ってこと……?
「よもや……」
つい杏寿郎さんの口癖が口をついて出た。
「あ、そっちの彼女には、もっともっと良い夢見せてあげるよ?見たいでしょ?したいでしょ?大好きな人と気持ちのいい……ねェ?」
「…………ぱぅっ」
恥ずかし過ぎたか、思考がショートして変な声まで出た。
そのまさかだった。鬼も私の考えた先を理解していた。
ああああ穴があったら入りたい!私ブラジルまで届きそうなくらい深い穴掘って入るー!!
「ウワアアアア昇り炎天ッッッ!!」
「朝緋さん!?落ち着いてくださいっ!」
私の取り乱しように炭治郎は怒りすら一瞬吹き飛んだらしい。暴れる私を羽交い締めしようとしてきた。
しかし甲との力の差は歴然。私の全力の抵抗を前に、止めることはできなかった……。
「忘れろ忘れろ今すぐ忘れろ脳みそブチ撒けて今すぐ記憶から消せッ!!」
その魂の叫びを抜いた刃に込めて、下段から斬り込む。
羞恥心からブレた私の刀は鬼の頭頂部、髪の毛を河童のような状態に切っただけだった。んんっ?すぐに生えたけどこやつ今いつぞやの明槻みたいにハゲたぞ?
羞恥には羞恥。ハゲた姿で一瞬恥ずかしくなった鬼を見たからか、お陰様で自分の気持ちは落ち着いた。
「人がまだ話してるのになんて酷い子だろうね」
言いながら含み笑いする下弦の壱。
そのどこか思考の歪んでみえる笑みには、不快感しか湧かない。
しかし、舌なめずりでもするかのようにひとしきり私達を眺めていた目が変わる。
『自分の術が破られたのが信じられない』
そう言いたげに。
「すさまじいのになぁ」
そして唐突に紡がれた言葉。
「は?何の話!?」
「鬼狩り相手に答える義理はないよねぇ?」
「むむっ」
さっきの仕返しだな。大人げない……いや、鬼げない?
「人の心の中に土足で踏み入るな!」
「そ、そうだよ!せめて虎屋の夜の梅をお土産に玄関で靴揃えて脱いで見ていいかお伺い立ててから覗いてくれる!?」
炭治郎の怒り再び。
私はそれに倣うかのように、言いたいことを捲し立てた。
しかしお土産や靴を脱げばよいという問題ではない。お土産があってもお伺い立てられても絶対に許可はしない。だって鬼だもん。
私の頓珍漢な言葉にはだ〜れも突っ込みを入れないまま、話は進んだ。
ちなみに私は冗談でなく大真面目に言っている。夜の梅は令和の時代も美味しい。
「俺はお前を!許さない!」
とうとう炭治郎が刀を抜いて構えた。
鬼の重たくて酷い匂いが強いのだろうけど、一体鬼ってどんな匂いなんだろう。そんなに酷いのだろうか。くさやかな?
炭治郎ほど鼻が利くわけでもない自分には、全く想像できなかった。
禰󠄀豆子ちゃんは残って杏寿郎さん達を起こす係、私と炭治郎は上に上がって鬼を探し、頸を取る係として別れる。
その際、禰󠄀豆子ちゃんには遠慮しなくていいから消し炭になるほど燃やして起こしてあげて。とサムズアップでゴーサインを出しておいた。
むんむん!と同じように指を上げて了承した禰󠄀豆子ちゃんは可愛かった……。
あの子、鬼じゃなくて天使だと思う。
「そういえば禰󠄀豆子ちゃんが燃やしてるのって自分の血だっけ?」
「はい。燃える血の血鬼術なんです」
途中で足りなくなったりしないかな。かと言って私の血を飲ませて回復!ってわけにいかないだろうし。せっかく今まで人間の血肉を必死で我慢してきたのに、その意味がなくなってしまう。
それに鬼に血肉を与えたものとして私も謹慎処分じゃ済まないだろう。最悪、煉獄家の者共々切腹だ。
あ。禰󠄀豆子ちゃんにも私の血の特殊効果が少しくらい効くのかどうか、試すの忘れた!
今はどこで鬼が聞いてるかわからないし、また今度でいいか。
降り立つ車両は風がピューピュー。露出した生足にはいささかつらいものがあった。
あと私は杏寿郎さんや炭治郎のように草履ではない。カナヲちゃんと同じようにブーツである。ブーツは駄目だわ……ここ滑る。
揺れる車両の上を炭治郎と共に走り抜け、前方の車両へ向かうとそこには一人の男が立っていた。
洋物の外套をその身に纏う男の瞳にある数字は、下弦の壱。
思い出されるかつての恥辱。貞操の危機。
まあ今はもう操は大事な人に捧げちゃったので時効にしてあげよう。
でも走る列車の上でも体幹がぶれていないのも腹立つし、足を滑らせてぴかぴかの太陽の下で日光浴してて欲しい。
「あれぇ、起きたのー?おはよう。まだ…………」
下弦の壱が左手をひらひら、まるで友達に挨拶するように振る。
「寝ててよかったのに」
そのままこちらに向けた手の甲には、綺麗な歯の生えそろった大きな口が開いていた。
べろん。厚みのある舌が口から覗いている。薄い手の甲に対し、どこにしまわれていたのか不思議である。
正直言ってきもちわるい。
せっかく良い夢を見せてやったのになぜ?問いを投げかけてくる。
けど私は良い夢なんて見てな……いや、なかなかの夢は見られたんだった。
だけど『前』でのこいつの悪事、私は絶対に許さないぞ。
「出たなでっかい蚯蚓鬼ぃ」
「蚯蚓?俺のどこが蚯蚓なの?」
炭治郎さえも一瞬こっち見た。この鬼、今現在蚯蚓の要素ひとつもないもんね。
あの形に進化、ううん。退化でいいや。蚯蚓状態になる前に仕留めて仕舞えばこっちのものよ!
「鬼相手に答える義理はないよねー」
んべ。と舌を出せば、鬼の額にピキ、一本の小さな青筋が立った。あら、案外忍耐力少なめ。
奴は夢を操ることができるらしい。へー、報告書で名付けて提出するなら、夢鬼か。
幸せな夢ではなく、炭治郎や私の家族を全員惨殺する残酷極まりない夢を見せることもできたのだと、言い放ってきた。
そっちの方がよかった?いやだよね?つらいよね??
そう言ってドヤドヤしてきた。
やー、やたら煽るね。でも残念、私別にそういう煽りには引っかからないんで。
お前の性格の悪さが浮き彫りになるだけだ。
「じゃあ、君に」
くつくつと笑うと。
「父親が生き返った夢を見せてやろうか」
ターゲットを炭治郎に変えて、鬼が更に煽ってきた。
私と違い、炭治郎は煽りに弱かった。
家族を引き合いに出され、ビキビキと顔に青筋を浮かべて怒りを露わにしている。
一方その頃。
私の中では鬼が言った言葉が見当違いの方向に刺さり、考えの結果がさらに斜め上の方角へと辿り着いていた。
炭治郎の怒りに構う余裕はなかった。
え?もしかしなくても炭治郎が見た夢の内容知ってるの?この鬼の血鬼術だから?え、なに?鬼側からも見れるの?
つまりそれって、私と杏寿郎さんの……見 ら れ て た ってこと……?
「よもや……」
つい杏寿郎さんの口癖が口をついて出た。
「あ、そっちの彼女には、もっともっと良い夢見せてあげるよ?見たいでしょ?したいでしょ?大好きな人と気持ちのいい……ねェ?」
「…………ぱぅっ」
恥ずかし過ぎたか、思考がショートして変な声まで出た。
そのまさかだった。鬼も私の考えた先を理解していた。
ああああ穴があったら入りたい!私ブラジルまで届きそうなくらい深い穴掘って入るー!!
「ウワアアアア昇り炎天ッッッ!!」
「朝緋さん!?落ち着いてくださいっ!」
私の取り乱しように炭治郎は怒りすら一瞬吹き飛んだらしい。暴れる私を羽交い締めしようとしてきた。
しかし甲との力の差は歴然。私の全力の抵抗を前に、止めることはできなかった……。
「忘れろ忘れろ今すぐ忘れろ脳みそブチ撒けて今すぐ記憶から消せッ!!」
その魂の叫びを抜いた刃に込めて、下段から斬り込む。
羞恥心からブレた私の刀は鬼の頭頂部、髪の毛を河童のような状態に切っただけだった。んんっ?すぐに生えたけどこやつ今いつぞやの明槻みたいにハゲたぞ?
羞恥には羞恥。ハゲた姿で一瞬恥ずかしくなった鬼を見たからか、お陰様で自分の気持ちは落ち着いた。
「人がまだ話してるのになんて酷い子だろうね」
言いながら含み笑いする下弦の壱。
そのどこか思考の歪んでみえる笑みには、不快感しか湧かない。
しかし、舌なめずりでもするかのようにひとしきり私達を眺めていた目が変わる。
『自分の術が破られたのが信じられない』
そう言いたげに。
「すさまじいのになぁ」
そして唐突に紡がれた言葉。
「は?何の話!?」
「鬼狩り相手に答える義理はないよねぇ?」
「むむっ」
さっきの仕返しだな。大人げない……いや、鬼げない?
「人の心の中に土足で踏み入るな!」
「そ、そうだよ!せめて虎屋の夜の梅をお土産に玄関で靴揃えて脱いで見ていいかお伺い立ててから覗いてくれる!?」
炭治郎の怒り再び。
私はそれに倣うかのように、言いたいことを捲し立てた。
しかしお土産や靴を脱げばよいという問題ではない。お土産があってもお伺い立てられても絶対に許可はしない。だって鬼だもん。
私の頓珍漢な言葉にはだ〜れも突っ込みを入れないまま、話は進んだ。
ちなみに私は冗談でなく大真面目に言っている。夜の梅は令和の時代も美味しい。
「俺はお前を!許さない!」
とうとう炭治郎が刀を抜いて構えた。