二周目 捌
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
一閃される白い錐が視界の端に見えた。
「なんだっ!?」
「わー」
そういえば確か、『前』も襲ってきたっけ。
女の子が鬼気迫る様相で、錐を振り抜いてきたのだ。
ただ、相手はやはり一般人。かなり遅かったから簡単に避けられた。でも止まって見える、とまでは言わない。
よくよく見たら杏寿郎さんと繋がっていた子か。
羨ましい。杏寿郎さんの夢の中に入り込めたんでしょ?彼はどんな夢を見ていたんだろう。めちゃくちゃ気になるけど、興奮してるしこの子から聞けないよね。
「邪魔しないでよ!!」
この子は、この子達は、夢を見せてもらいたいがために鬼に協力していた。相変わらずの理由だけれど、そこまで幸せな夢を求める、か。
人を傷つけてまで得る幸せな夢に、大した価値はないのに。
他の人も目が覚めていたのか、錐を手にこちらを睨みつけている。その目、三対。
「ねえ知ってる?鬼と協力したところで最後には食べられて終わりなんだよ。
大体いい夢を見たあとは?起きた時が余計つらい。私なら耐えられないなあ」
「うるさいっ!」
咄嗟に頭の中に浮かんだことから、平成令和で生きていた時にテレビでよく目にしたのかもしれない。冒頭からウザいことで有名な緑の豆を模した犬のようなキャラクターのように言ってみたら、キレられた。顔怖い。
炭治郎と繋がっていた、結核を患っているという書生風の子や、私と繋がっていた男性にも加勢しろと声をかけていた。
だが男性はもう協力しないそうだ。結核の子もだ。
それを聞いてまたもやキレていた。
「すっごい形相だね君達。鬼みたいだよ」
ううん。自ら協力しているくらいだから、心はすでに鬼と同じか。人は簡単に鬼になれる。
ちょっぴり私が煽れば、激昂して錐を振り上げて攻撃してきた。
ほーんと、顔だけは鬼と変わらぬ必死さ。ただしやはり殺気がなまっちろい。
「ごめん、俺は戦いに行かなきゃならないから」
そう言って二人を眠らせる炭治郎。
私もまた、向かってきた女の子の意識を刈り取った。
「はいおやすみ。枕の下に見たい夢の絵でも挟んで寝るといいよ?」
「何ですかそれ。朝緋さん、適当すぎます」
「えー、ほんとのことなのにぃ」
「でも、幸せな夢の中にいたい。その気持ちは痛いほどよくわかるよ。俺も夢の中にいたかった。
これが夢だったらよかったのに」
誰に言うでもなく呟く炭治郎に、私は何も言えなかった。炭治郎にとってこれというのは、きっと今現在……現実のことだろう。この世界は夢に逃げたくなるくらい無情で残酷だから。
炭治郎はどんな夢を見たんだろう?聞いてみたかったというのに、その顔を見るととてもじゃないけれど聞けなかった。
幸せで、でも終わりはとても残酷な夢。
自分で夢に終止符を打つのは、死ぬほどつらかったもの。
「すまなかったね」
ふと、声をかけられた。私と繋がっていた男性だ。確か、許嫁を亡くして鬼に協力したと言っていたような。
でもあれ?改心……してる?そういえば『前』と違って夢の中でこの人に会わないで終わったけれど、どうやって改心したんだろう?
いきなりの謝罪に困惑する。
「もっと早く起こせればよかった。君が夢の中で最後に辛い思いをする前に」
「えっ」
この人、私が死ぬところをどこからか見ていたというのか。つまりえっと、その前に杏寿郎さんと……あれも見ていた、とかじゃないよね?
やだもう、顔から火が出ちゃう。
「僕らが対象者を起こしたい、起きたいと強く願えばかなり起きやすくなるものだったんだ。そうしていれば夢の中であんな真似をせずとも、外からの些細な刺激で起きられたのに……」
「そう、なんだ……」
それは知らなかった。鬼の協力者が改心していれば、そんなに簡単に起きられるものだったのか。炭治郎も驚いている。
ただ、杏寿郎さん達と繋がっていた子らにそんな気はなかっただろうから、その方法は使えないね。
「それと。君の心は熱く燃えているんだね。どうか君の熱い心がこれ以上傷つきませんように……。応援してるよ」
「え?…………ありがとう」
どうしてこの人が私の心の中なんて知っているのだろう。わからないなりに嬉しかった。
「ごほごほ」
「大丈夫ですか?」
「……大丈夫です、ごほっ」
隣では炭治郎が咳き込む結核の子の背を撫でている。
そのありがとうには、いろんな意味が込められていそうな気がする。
それにしたって結核かあ。長年日本を苦しめ続けた病気だったっけ。先の未来では良い治療法、良い薬があるものの、この時代にはそのどちらもない。
何もできないけれど、私は咳き込み続くその子に喉に効く飴を握らせた。
その時、瑠火さんの咳の感じとよく似ている事に気がついた。空咳ではない、肺にゴロゴロとしたものが残るような違和感の残る苦しい咳だ。
瑠火さんからはついぞ病名を教えてもらえなかったが、よーーーく似ている。
「ねえ君、結核についてほんの少しでいいから教えてくれない?」
気になった私は結核の症状や行っている治療方法などを彼から聞いた。
体が弱いというのに、寒かろうとなんだろうと瑠火さんの部屋は換気のためいつも開け放たれていた。
胸の苦しみ、その他の臓器の苦しみ。痛み。治療に使ったもの。
その全てに類似点は多かった。
瑠火さんは結核を患っていたのだろうか。
もっと早く知っていれば何かできたかもしれないのに。
私の中にある、来たる未来の知識で、少しでも楽な状態になれたかもしれないのに。
助けられたかも。
それどころか、病気にならなくて済んだ。
今も元気に生きていてくれたかもしれないのに。
そうすれば、槇寿朗さんだって……。
そこまで考えてやめた。全てたらればだ。
終わってしまったことをいまさら悔いても何も変わらない。
立ち止まることを決して良しとしない杏寿郎さんに叱られてしまう。
熱いものが目に込み上げたが、丹田に力を入れてぐっと堪えた。
「そう……ありがとう。どうかお大事にね」
「……はい」
ついでに藤の香りも渡しておいた。
これから鬼の襲来があるかもしれない。鬼が嫌う藤の匂いを持っておいて。
と、そう、使い方の説明をして。
「なんだっ!?」
「わー」
そういえば確か、『前』も襲ってきたっけ。
女の子が鬼気迫る様相で、錐を振り抜いてきたのだ。
ただ、相手はやはり一般人。かなり遅かったから簡単に避けられた。でも止まって見える、とまでは言わない。
よくよく見たら杏寿郎さんと繋がっていた子か。
羨ましい。杏寿郎さんの夢の中に入り込めたんでしょ?彼はどんな夢を見ていたんだろう。めちゃくちゃ気になるけど、興奮してるしこの子から聞けないよね。
「邪魔しないでよ!!」
この子は、この子達は、夢を見せてもらいたいがために鬼に協力していた。相変わらずの理由だけれど、そこまで幸せな夢を求める、か。
人を傷つけてまで得る幸せな夢に、大した価値はないのに。
他の人も目が覚めていたのか、錐を手にこちらを睨みつけている。その目、三対。
「ねえ知ってる?鬼と協力したところで最後には食べられて終わりなんだよ。
大体いい夢を見たあとは?起きた時が余計つらい。私なら耐えられないなあ」
「うるさいっ!」
咄嗟に頭の中に浮かんだことから、平成令和で生きていた時にテレビでよく目にしたのかもしれない。冒頭からウザいことで有名な緑の豆を模した犬のようなキャラクターのように言ってみたら、キレられた。顔怖い。
炭治郎と繋がっていた、結核を患っているという書生風の子や、私と繋がっていた男性にも加勢しろと声をかけていた。
だが男性はもう協力しないそうだ。結核の子もだ。
それを聞いてまたもやキレていた。
「すっごい形相だね君達。鬼みたいだよ」
ううん。自ら協力しているくらいだから、心はすでに鬼と同じか。人は簡単に鬼になれる。
ちょっぴり私が煽れば、激昂して錐を振り上げて攻撃してきた。
ほーんと、顔だけは鬼と変わらぬ必死さ。ただしやはり殺気がなまっちろい。
「ごめん、俺は戦いに行かなきゃならないから」
そう言って二人を眠らせる炭治郎。
私もまた、向かってきた女の子の意識を刈り取った。
「はいおやすみ。枕の下に見たい夢の絵でも挟んで寝るといいよ?」
「何ですかそれ。朝緋さん、適当すぎます」
「えー、ほんとのことなのにぃ」
「でも、幸せな夢の中にいたい。その気持ちは痛いほどよくわかるよ。俺も夢の中にいたかった。
これが夢だったらよかったのに」
誰に言うでもなく呟く炭治郎に、私は何も言えなかった。炭治郎にとってこれというのは、きっと今現在……現実のことだろう。この世界は夢に逃げたくなるくらい無情で残酷だから。
炭治郎はどんな夢を見たんだろう?聞いてみたかったというのに、その顔を見るととてもじゃないけれど聞けなかった。
幸せで、でも終わりはとても残酷な夢。
自分で夢に終止符を打つのは、死ぬほどつらかったもの。
「すまなかったね」
ふと、声をかけられた。私と繋がっていた男性だ。確か、許嫁を亡くして鬼に協力したと言っていたような。
でもあれ?改心……してる?そういえば『前』と違って夢の中でこの人に会わないで終わったけれど、どうやって改心したんだろう?
いきなりの謝罪に困惑する。
「もっと早く起こせればよかった。君が夢の中で最後に辛い思いをする前に」
「えっ」
この人、私が死ぬところをどこからか見ていたというのか。つまりえっと、その前に杏寿郎さんと……あれも見ていた、とかじゃないよね?
やだもう、顔から火が出ちゃう。
「僕らが対象者を起こしたい、起きたいと強く願えばかなり起きやすくなるものだったんだ。そうしていれば夢の中であんな真似をせずとも、外からの些細な刺激で起きられたのに……」
「そう、なんだ……」
それは知らなかった。鬼の協力者が改心していれば、そんなに簡単に起きられるものだったのか。炭治郎も驚いている。
ただ、杏寿郎さん達と繋がっていた子らにそんな気はなかっただろうから、その方法は使えないね。
「それと。君の心は熱く燃えているんだね。どうか君の熱い心がこれ以上傷つきませんように……。応援してるよ」
「え?…………ありがとう」
どうしてこの人が私の心の中なんて知っているのだろう。わからないなりに嬉しかった。
「ごほごほ」
「大丈夫ですか?」
「……大丈夫です、ごほっ」
隣では炭治郎が咳き込む結核の子の背を撫でている。
そのありがとうには、いろんな意味が込められていそうな気がする。
それにしたって結核かあ。長年日本を苦しめ続けた病気だったっけ。先の未来では良い治療法、良い薬があるものの、この時代にはそのどちらもない。
何もできないけれど、私は咳き込み続くその子に喉に効く飴を握らせた。
その時、瑠火さんの咳の感じとよく似ている事に気がついた。空咳ではない、肺にゴロゴロとしたものが残るような違和感の残る苦しい咳だ。
瑠火さんからはついぞ病名を教えてもらえなかったが、よーーーく似ている。
「ねえ君、結核についてほんの少しでいいから教えてくれない?」
気になった私は結核の症状や行っている治療方法などを彼から聞いた。
体が弱いというのに、寒かろうとなんだろうと瑠火さんの部屋は換気のためいつも開け放たれていた。
胸の苦しみ、その他の臓器の苦しみ。痛み。治療に使ったもの。
その全てに類似点は多かった。
瑠火さんは結核を患っていたのだろうか。
もっと早く知っていれば何かできたかもしれないのに。
私の中にある、来たる未来の知識で、少しでも楽な状態になれたかもしれないのに。
助けられたかも。
それどころか、病気にならなくて済んだ。
今も元気に生きていてくれたかもしれないのに。
そうすれば、槇寿朗さんだって……。
そこまで考えてやめた。全てたらればだ。
終わってしまったことをいまさら悔いても何も変わらない。
立ち止まることを決して良しとしない杏寿郎さんに叱られてしまう。
熱いものが目に込み上げたが、丹田に力を入れてぐっと堪えた。
「そう……ありがとう。どうかお大事にね」
「……はい」
ついでに藤の香りも渡しておいた。
これから鬼の襲来があるかもしれない。鬼が嫌う藤の匂いを持っておいて。
と、そう、使い方の説明をして。