二周目 捌
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今度は大正の世のようだ。
時刻は夜半すぎ。幼い男児と女児が眠っていた。女児こそが彼女だった。……あの子たちの家か?
先程の未来らしき場所と、この場所。一体なんの関係があるのだろう。
不思議に思いながら様子を見ていると、またも叫び声。彼女を取り巻く世界は物騒だ。
そこからは地獄絵図だった。
現れた一人の男。その男は人の姿をしながらも、人外。俺が協力している存在と同じ鬼だった。
腕の一振りでその家の者を肉塊へと変え、家を、家財道具の全てを捻じ切り破壊した。
なん、だ……何が起きた。どこもかしこも血の色だ。
これが鬼。僕はなんてものに救いを求めてしまったのだろう。
稀血とはなんだ?彼女と男児が稀血?鬼が好む、血?
男は起きた男児にも危害を加え、そのまま立ち去った。男児が、女児である傍らの彼女へと何か言ったように見える。
言葉を聞き入れて外へと飛び出す彼女を、僕は追った。干渉出来なくとも、彼女にまで何かあったらと気が気じゃない。
どちらにせよこんな恐ろしい光景はいつまでも見られたものじゃない。
彼女は大きな藤の花の下、がたがたと震えて涙を流しながら再び眠りについた。
僕は一体何を見せられていたのだろう?
それは幸せな夢ではなく、現実であり悪夢のようで。
気がつくとまた、深層心理の奥底。無意識領域の中にいた。
「貴方、これを壊しに来たんでしょ」
後ろから声がする。
振り向いた先では狐の形をしていた炎が収束し、人の形を取った。本人だった。
手の中には核もある。
「うわっ!まさかの本体!!」
「やだなあ、そんな怯えなくてもいいじゃないですか。鬼じゃないんだからとって食ったりしないですよ。本体でもありません」
けらけら笑う本人は、血にも濡れず涙を流してもいない。ホッとした。
……ん?ホッとした?なんでだ。
「なあ……僕が見たのは本当に彼女の記憶なのか?悪夢ではなくて?」
「残念ながら現実に起きた事。本人は忘れてるけど。
『私』にはここから百年ほど先の未来を生きた過去がある。車に轢かれて死んで、再び生まれ落ちた世界が明治末期。一家全員鬼に襲われて私だけが逃げおおせた。それが、本人の今まで。いや〜過去が未来とか不思議だね〜」
「ああ。混乱して頭痛がするよ。それ以上に、怖すぎた。最後のは特に……」
聞いている今も混乱している。
「怖いし気持ち悪いよねー。
あれはこれまでの記憶を整理するために作られた実際起きた内容の再現だけど、思い出すのが嫌だからって本人が思い出してくれないんじゃあねぇ。保存の甲斐ないわー」
彼女の核に細かな傷が走る理由がわかった。
深層心理のその奥で、彼女の心は僕が壊すまでもなく深く傷ついているのだ。
僕なんか比べ物にならないくらい、つらい物を抱えていた。
「……なぜ、そんな大層な物を僕に見せたの。嫌がらせかい?」
彼女の心の傷はともかく、恐ろしい鬼の所業を見せてきたのなんて特に嫌がらせにしか思えなかった。目に焼き付いたぞあれ。
こっちの心にも傷がつきそうだ。
「これを壊したいっていうから本当に壊すかどうかを、今の記憶を見せて判断してもらおうと思ったんです。
『私』には果たすべき事があるから、可能なら説得しようと思って」
要は壊すのを止めたいということだろう。
それも、自分が助かりたいからではなく、成すべき何かのために。
「あ、見て見て。今からはここの『私』が死ぬところだよ。
さすがに少し前の光景は恥ずかしいしちょっぴり刺激が強いから、他人に見せられないけども!」
「はっ!?」
裂けた空間の向こう、好いた男と部屋にいたらしい彼女が首に刃を当てている。
それを見てものんびりしている。正気か!
「君!自分が死を選ぼうとしてるところだろう!?何を呑気に……!止めなくていいのか!!」
「止めない。
夢で死ねば現実へ戻る。だって、ずっといたいと思わせる幸せな夢でしょ?それを捨てるって自刃くらいしかなくない?究極の不幸じゃん。あのジャイアントワーム……ごほん。鬼が考えつきそうなこと。
あの『私』は現実に戻るよ。私に注意されたからかもしれないけれど、それでも『私』は前に進むって言ってる。だからこそ『煉獄朝緋』は死んで幸せな夢を殺すの。
貴方は?まだこれを壊して夢に浸りたい?」
「僕は……」
「あ、死ぬわ」
「エッ」
慌ててみれば、刃が引かれるところだった。
赤が飛び散り、彼女の体が倒れる。
躊躇しているところは見たが、潔いその姿は正に天晴れとしか言いようがなく。
僕は死する彼女の目に、覚悟の色を見た。
許嫁に会いたい気持ちは消えないけれど、さすがにもう傷つける気持ちはなかった。夢に浸る気もなかった。
「僕も前に進みたい」
「ならよかった。どっちにしてもこれでさよならですけどね」
へらりと笑っているその手には傷ついた核。
少しでもその傷が癒えればいいのにと思うけれど、なぜだかその傷は今後増えるような気がしてならなかった。
せめて僕は傷付かぬよう祈り、笑おう。
「それに、炎より生まれてきた化け物からそれを奪うのは簡単にはいかなさそうだ」
「ひどっ現実と違ってただのか弱い乙女なんですが!?」
煉獄朝緋は、こうしてみればどこにでもいる普通の女の子だった。
時刻は夜半すぎ。幼い男児と女児が眠っていた。女児こそが彼女だった。……あの子たちの家か?
先程の未来らしき場所と、この場所。一体なんの関係があるのだろう。
不思議に思いながら様子を見ていると、またも叫び声。彼女を取り巻く世界は物騒だ。
そこからは地獄絵図だった。
現れた一人の男。その男は人の姿をしながらも、人外。俺が協力している存在と同じ鬼だった。
腕の一振りでその家の者を肉塊へと変え、家を、家財道具の全てを捻じ切り破壊した。
なん、だ……何が起きた。どこもかしこも血の色だ。
これが鬼。僕はなんてものに救いを求めてしまったのだろう。
稀血とはなんだ?彼女と男児が稀血?鬼が好む、血?
男は起きた男児にも危害を加え、そのまま立ち去った。男児が、女児である傍らの彼女へと何か言ったように見える。
言葉を聞き入れて外へと飛び出す彼女を、僕は追った。干渉出来なくとも、彼女にまで何かあったらと気が気じゃない。
どちらにせよこんな恐ろしい光景はいつまでも見られたものじゃない。
彼女は大きな藤の花の下、がたがたと震えて涙を流しながら再び眠りについた。
僕は一体何を見せられていたのだろう?
それは幸せな夢ではなく、現実であり悪夢のようで。
気がつくとまた、深層心理の奥底。無意識領域の中にいた。
「貴方、これを壊しに来たんでしょ」
後ろから声がする。
振り向いた先では狐の形をしていた炎が収束し、人の形を取った。本人だった。
手の中には核もある。
「うわっ!まさかの本体!!」
「やだなあ、そんな怯えなくてもいいじゃないですか。鬼じゃないんだからとって食ったりしないですよ。本体でもありません」
けらけら笑う本人は、血にも濡れず涙を流してもいない。ホッとした。
……ん?ホッとした?なんでだ。
「なあ……僕が見たのは本当に彼女の記憶なのか?悪夢ではなくて?」
「残念ながら現実に起きた事。本人は忘れてるけど。
『私』にはここから百年ほど先の未来を生きた過去がある。車に轢かれて死んで、再び生まれ落ちた世界が明治末期。一家全員鬼に襲われて私だけが逃げおおせた。それが、本人の今まで。いや〜過去が未来とか不思議だね〜」
「ああ。混乱して頭痛がするよ。それ以上に、怖すぎた。最後のは特に……」
聞いている今も混乱している。
「怖いし気持ち悪いよねー。
あれはこれまでの記憶を整理するために作られた実際起きた内容の再現だけど、思い出すのが嫌だからって本人が思い出してくれないんじゃあねぇ。保存の甲斐ないわー」
彼女の核に細かな傷が走る理由がわかった。
深層心理のその奥で、彼女の心は僕が壊すまでもなく深く傷ついているのだ。
僕なんか比べ物にならないくらい、つらい物を抱えていた。
「……なぜ、そんな大層な物を僕に見せたの。嫌がらせかい?」
彼女の心の傷はともかく、恐ろしい鬼の所業を見せてきたのなんて特に嫌がらせにしか思えなかった。目に焼き付いたぞあれ。
こっちの心にも傷がつきそうだ。
「これを壊したいっていうから本当に壊すかどうかを、今の記憶を見せて判断してもらおうと思ったんです。
『私』には果たすべき事があるから、可能なら説得しようと思って」
要は壊すのを止めたいということだろう。
それも、自分が助かりたいからではなく、成すべき何かのために。
「あ、見て見て。今からはここの『私』が死ぬところだよ。
さすがに少し前の光景は恥ずかしいしちょっぴり刺激が強いから、他人に見せられないけども!」
「はっ!?」
裂けた空間の向こう、好いた男と部屋にいたらしい彼女が首に刃を当てている。
それを見てものんびりしている。正気か!
「君!自分が死を選ぼうとしてるところだろう!?何を呑気に……!止めなくていいのか!!」
「止めない。
夢で死ねば現実へ戻る。だって、ずっといたいと思わせる幸せな夢でしょ?それを捨てるって自刃くらいしかなくない?究極の不幸じゃん。あのジャイアントワーム……ごほん。鬼が考えつきそうなこと。
あの『私』は現実に戻るよ。私に注意されたからかもしれないけれど、それでも『私』は前に進むって言ってる。だからこそ『煉獄朝緋』は死んで幸せな夢を殺すの。
貴方は?まだこれを壊して夢に浸りたい?」
「僕は……」
「あ、死ぬわ」
「エッ」
慌ててみれば、刃が引かれるところだった。
赤が飛び散り、彼女の体が倒れる。
躊躇しているところは見たが、潔いその姿は正に天晴れとしか言いようがなく。
僕は死する彼女の目に、覚悟の色を見た。
許嫁に会いたい気持ちは消えないけれど、さすがにもう傷つける気持ちはなかった。夢に浸る気もなかった。
「僕も前に進みたい」
「ならよかった。どっちにしてもこれでさよならですけどね」
へらりと笑っているその手には傷ついた核。
少しでもその傷が癒えればいいのにと思うけれど、なぜだかその傷は今後増えるような気がしてならなかった。
せめて僕は傷付かぬよう祈り、笑おう。
「それに、炎より生まれてきた化け物からそれを奪うのは簡単にはいかなさそうだ」
「ひどっ現実と違ってただのか弱い乙女なんですが!?」
煉獄朝緋は、こうしてみればどこにでもいる普通の女の子だった。