二周目 捌
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この列車のどこかには鬼が潜んでいる。
薄く細く己が肉を張り付け忍ばせ、誰にもわからぬようほの昏い場所へひっそりと。緩やかにどこまでも蔓延る病のように。
『前回』、前方車両に潜んでいたと炭治郎は話していたが、今はまだそこにいないようだ。巧妙に自分の体を隠し込んでいた。
人がたくさん乗り込んでいる列車をまるごと斬り崩すのは難しく、壊して走行不可にするわけにもいかない。
それこそ、第二の切り裂き魔になってしまう。新聞で取り沙汰されたほどの事件。まだ癒えぬ恐怖を上塗りするのはちょっとね。
さすがにお館様にも揉み消せないだろう。人の恐怖の記憶を消す力は鬼殺隊にない。
せめて『前回』の鬼の状況を炭治郎からよく報告受けていればなぁ〜〜〜。
そんな精神状態じゃなかったとはいえ、話も聞けぬとは。私鬼殺隊士失格ね。
ま、過ぎた事をいつまでもくよくよしてもしょうがない。気持ちを切り替えろ!
まずは腹ごしらえだ。
目の前の上等弁当。しばらくぶりなその味を、ゆっくりと味わって食す。
ん〜ま〜い〜!!
らららぎゅうなべ、らららぎゅうなべ、らららいつも変わらないあじ〜。
どこかで聴いた気がする曲が頭の中に一瞬流れた。続きが結構物騒だった気がするけどよくわからない。こういうものは、明槻が歌っていた曲に違いないね!
足をジタバタしたくなる美味さを噛み締めていると隣からの視線。
お茶が欲しいのかな?あ、まだ入ってる。
「朝緋はそれだけで足りるのか?」
それだけ。ああ、お弁当一つでってことか。
「いやいや、師範が食べ過ぎなんですって。それ全部食べる予定なんでしょう?ひぃふぅみぃ……十二、三?くらいあるわこれ」
「む!多かっただろうか!甘露寺ならもっと食べるぞ!?」
「蜜璃ちゃんと比べないでくれます?」
蜜璃は体の構造上仕方ないのだ。
けれど杏寿郎さんは……ただよく食べる人に近い。
一般隊士だって他の柱だって他よりは多めに食べる。あ、蛇柱である伊黒さんはほとんど食べないか。
よく動きよく鬼を狩る為だから仕方ないけど、それにしたって杏寿郎さんは食べる量が半端ない。エンゲル係数ならぬ、炎ゲル係数は高めだ。
「まあ、一個だとちょっと少なめかも……」
「なら遠慮せず二個目を食べるといい!」
ずい、と差し出されたのは新しいお弁当。
ではなくて、杏寿郎さんが今食べている分。それも、箸で摘んでいて所謂『あーん』という奴だ!
「どうした、食べないのか?ん?」
「食べられると思う!?」
ちょ、待って待って。他の人いる中でのそれは恥ずかしすぎる。貴方そういうことするタイプじゃないでしょうに!
大体さっきから「うまい」ボイス製造機になってて、ただでさえ注目されてるんだからぁ〜!!
「落としてしまう。早く食べてはくれないか?」
「……いただきます」
周りから「あらあら」なんて笑う声が聞こえる。正直言ってこの一口だけは味がわからなかった。
「美味いな?」
「オイシイデス……」
「味もわからないほど照れているのにか?」
「〜〜〜っ」
あっよく見たら私が顔を赤くしてるのを超絶楽しんでる時の顔!杏寿郎さんはそうやってすぐ揶揄うのよねっ!
そう、この人は好きな人に意地の悪い事をするような人だったのだ!
「あーもー、穴があったら入りたい」
「食事が済んだら俺も入りたいところだな!君という穴の「おっとー?それ以上はいけませんよぉ!」むぅ」
むぅ、じゃないっ!
空いた時間が出来るとまた助平な発言。全く、油断も隙もない柱だ!
頭から湯気が出そうな思いも現在進行形でしたが、無理矢理顔の赤みを元に戻して杏寿郎さんの言葉をスルーした。
「でも二個食べるのは多いんですよねー。あ、おむすび食べたい」
「君は握り飯が好きだからな!ふむ、ならば車内販売で追加しようか」
「あはは、そうですね」
食べたいのも本当だが、私はおむすびに用事がある。多めに買ったそれはこれから合流するであろう、彼らの分だ。
その後は『以前』と同じ展開が待っていた。
やってきたのは、炭治郎、善逸、伊之助。そして炭治郎の背中の箱に入っているであろう、妹の禰󠄀豆子ちゃんだ。
「あの、すみません……れ、煉獄さん……?」
「うまいッ!!!!」
めちゃくちゃいい笑顔〜!お弁当の美味さがすっごくよくわかるぅ〜!!
「あ、もうそれは、すごくよくわかりました……」
「ぶふふぅっ!」
炭治郎達がすごくひいてることに笑っちゃった。
いやしかし、杏寿郎さん達はこんなやりとりをしていたのね。『前』は杏寿郎さんと彼らの対面の場は見ていなかったが、今回ここに居合わせた事でその特異性を知れた。
うまいうまいと連呼する杏寿郎さんは、彼らの目にはさぞやただの食いしん坊な柱に映っていたことだろう。
杏寿郎さん、今度からはその「うまい!」はすこーし抑えたほうがいいかもよ?私は好きだけど。
揃ったまだ若い新人隊士達。私達は『あの時』と同じように、自己紹介をした。
彼らはまだ入隊したばかりで柱の事もよく知らない隊士達だ。私は記憶もあるし長らく鬼殺隊にいるからいいけれど、呼び名も何も知らずに背中を預けるのはあまり宜しくない。
「階級『甲』炎柱継子の、煉獄朝緋です。よろしくね?」
笑って挨拶してみれば、賑やかになったのは杏寿郎さんがかつて黄色い少年と呼んだ我妻善逸だ。
手紙で知ったけれど獪岳の弟弟子でもあるんだっけ。ただ、獪岳は認めていなかったな。
「可愛い女の子が話しかけてきたァーー!ここが天国かーーーっ!!」
ひゃーーー!!と叫びながらの顔芸も暫くぶり。
そういえば、やたらと女の子が好きって感じのする隊士だったね。『前』にハートマークつけて呼んで欲しい、なんて言っていたし。なんというか、惚れっぽいのかな?
確かあの時の杏寿郎さんは怒ったような顔していたっけ。今思えばあれは悋気……。善逸にひどく嫉妬していた顔だったのか。
私は掴まれそうだった手を後ろに逃すと、さっと一歩引いて対応した。今ここにいる杏寿郎さんに嫉妬されてはあとが怖い!
それにしても、この子達の顔ぶれを見るのも懐かしいなぁ。何年ぶりだっけ?年はそう離れていないはずなのに、親戚の叔母さんみたいな気分。
って、この懐かしいという感情も、炭治郎にはわかるんだっけ?善逸に至っては聴覚で、伊之助は感覚でわかるとか。
まずった。めちゃくちゃ慈しみの感情を向けていた気がする。
鼻が良いという炭治郎の顔をちらりと見やる。
あっばっちり目が合った!こういう時は見なかったふり作戦だ!
視線を逸らし外の月を見る。ワーキレイー。
彼ら。特に炭治郎は杏寿郎さんとも同じように柱合会議にて顔合わせは済んでいるようで、鬼である禰󠄀豆子ちゃんが箱に入っている事もこの場で話された。
「朝緋、なんとも思わないのか」
「何がですか?」
「この少年の妹は朝緋が憎む鬼だと言ったはずだが……。いや、お館様がお認めになっているとも今し方俺が言ったばかりだったな」
まずい。私って家族を鬼に殺されてるから鬼絶対殺すマンだった。
お館様が認めているからといって、はいそうですかと納得できないのが普通の鬼殺隊士じゃん。
でもなぁ、禰󠄀豆子ちゃんが危険な鬼じゃないってよーく知ってるし……。
「禰󠄀豆子ちゃんは危険な子じゃないんでしょ。ならいいと思いますけど」
「ふむ。……そうだな」
杏寿郎さんは私の鬼への態度の変化に、不思議そうにしながらもなんとか納得してくれたようだった。ならいいよね。ね?
でも、禰󠄀豆子ちゃんが危険じゃない鬼なのはわかってる。それを確信しきっている。信じている。そういう匂いを全身からさせてしまったようで。
絶対ばれてるな、これ。疑問視しているのが、びしびしと伝わってきた。ひぃ!炭治郎ったら、さっき以上に目をまん丸くして、こっち見てらっしゃる!!
その事に杏寿郎さんもめざとく気がついた。
「む!穴が開くほどうちの朝緋を見ているようだが、君は何か朝緋に用立てがあるのだろうか!!」
「いえ、話してすぐに信じてもらえると思わなかったので……」
「そういう事なら納得だ!だがあまり不躾に見るのはやめてくれ!彼女は繊細なんだ!」
私全然繊細じゃないよ。
薄く細く己が肉を張り付け忍ばせ、誰にもわからぬようほの昏い場所へひっそりと。緩やかにどこまでも蔓延る病のように。
『前回』、前方車両に潜んでいたと炭治郎は話していたが、今はまだそこにいないようだ。巧妙に自分の体を隠し込んでいた。
人がたくさん乗り込んでいる列車をまるごと斬り崩すのは難しく、壊して走行不可にするわけにもいかない。
それこそ、第二の切り裂き魔になってしまう。新聞で取り沙汰されたほどの事件。まだ癒えぬ恐怖を上塗りするのはちょっとね。
さすがにお館様にも揉み消せないだろう。人の恐怖の記憶を消す力は鬼殺隊にない。
せめて『前回』の鬼の状況を炭治郎からよく報告受けていればなぁ〜〜〜。
そんな精神状態じゃなかったとはいえ、話も聞けぬとは。私鬼殺隊士失格ね。
ま、過ぎた事をいつまでもくよくよしてもしょうがない。気持ちを切り替えろ!
まずは腹ごしらえだ。
目の前の上等弁当。しばらくぶりなその味を、ゆっくりと味わって食す。
ん〜ま〜い〜!!
らららぎゅうなべ、らららぎゅうなべ、らららいつも変わらないあじ〜。
どこかで聴いた気がする曲が頭の中に一瞬流れた。続きが結構物騒だった気がするけどよくわからない。こういうものは、明槻が歌っていた曲に違いないね!
足をジタバタしたくなる美味さを噛み締めていると隣からの視線。
お茶が欲しいのかな?あ、まだ入ってる。
「朝緋はそれだけで足りるのか?」
それだけ。ああ、お弁当一つでってことか。
「いやいや、師範が食べ過ぎなんですって。それ全部食べる予定なんでしょう?ひぃふぅみぃ……十二、三?くらいあるわこれ」
「む!多かっただろうか!甘露寺ならもっと食べるぞ!?」
「蜜璃ちゃんと比べないでくれます?」
蜜璃は体の構造上仕方ないのだ。
けれど杏寿郎さんは……ただよく食べる人に近い。
一般隊士だって他の柱だって他よりは多めに食べる。あ、蛇柱である伊黒さんはほとんど食べないか。
よく動きよく鬼を狩る為だから仕方ないけど、それにしたって杏寿郎さんは食べる量が半端ない。エンゲル係数ならぬ、炎ゲル係数は高めだ。
「まあ、一個だとちょっと少なめかも……」
「なら遠慮せず二個目を食べるといい!」
ずい、と差し出されたのは新しいお弁当。
ではなくて、杏寿郎さんが今食べている分。それも、箸で摘んでいて所謂『あーん』という奴だ!
「どうした、食べないのか?ん?」
「食べられると思う!?」
ちょ、待って待って。他の人いる中でのそれは恥ずかしすぎる。貴方そういうことするタイプじゃないでしょうに!
大体さっきから「うまい」ボイス製造機になってて、ただでさえ注目されてるんだからぁ〜!!
「落としてしまう。早く食べてはくれないか?」
「……いただきます」
周りから「あらあら」なんて笑う声が聞こえる。正直言ってこの一口だけは味がわからなかった。
「美味いな?」
「オイシイデス……」
「味もわからないほど照れているのにか?」
「〜〜〜っ」
あっよく見たら私が顔を赤くしてるのを超絶楽しんでる時の顔!杏寿郎さんはそうやってすぐ揶揄うのよねっ!
そう、この人は好きな人に意地の悪い事をするような人だったのだ!
「あーもー、穴があったら入りたい」
「食事が済んだら俺も入りたいところだな!君という穴の「おっとー?それ以上はいけませんよぉ!」むぅ」
むぅ、じゃないっ!
空いた時間が出来るとまた助平な発言。全く、油断も隙もない柱だ!
頭から湯気が出そうな思いも現在進行形でしたが、無理矢理顔の赤みを元に戻して杏寿郎さんの言葉をスルーした。
「でも二個食べるのは多いんですよねー。あ、おむすび食べたい」
「君は握り飯が好きだからな!ふむ、ならば車内販売で追加しようか」
「あはは、そうですね」
食べたいのも本当だが、私はおむすびに用事がある。多めに買ったそれはこれから合流するであろう、彼らの分だ。
その後は『以前』と同じ展開が待っていた。
やってきたのは、炭治郎、善逸、伊之助。そして炭治郎の背中の箱に入っているであろう、妹の禰󠄀豆子ちゃんだ。
「あの、すみません……れ、煉獄さん……?」
「うまいッ!!!!」
めちゃくちゃいい笑顔〜!お弁当の美味さがすっごくよくわかるぅ〜!!
「あ、もうそれは、すごくよくわかりました……」
「ぶふふぅっ!」
炭治郎達がすごくひいてることに笑っちゃった。
いやしかし、杏寿郎さん達はこんなやりとりをしていたのね。『前』は杏寿郎さんと彼らの対面の場は見ていなかったが、今回ここに居合わせた事でその特異性を知れた。
うまいうまいと連呼する杏寿郎さんは、彼らの目にはさぞやただの食いしん坊な柱に映っていたことだろう。
杏寿郎さん、今度からはその「うまい!」はすこーし抑えたほうがいいかもよ?私は好きだけど。
揃ったまだ若い新人隊士達。私達は『あの時』と同じように、自己紹介をした。
彼らはまだ入隊したばかりで柱の事もよく知らない隊士達だ。私は記憶もあるし長らく鬼殺隊にいるからいいけれど、呼び名も何も知らずに背中を預けるのはあまり宜しくない。
「階級『甲』炎柱継子の、煉獄朝緋です。よろしくね?」
笑って挨拶してみれば、賑やかになったのは杏寿郎さんがかつて黄色い少年と呼んだ我妻善逸だ。
手紙で知ったけれど獪岳の弟弟子でもあるんだっけ。ただ、獪岳は認めていなかったな。
「可愛い女の子が話しかけてきたァーー!ここが天国かーーーっ!!」
ひゃーーー!!と叫びながらの顔芸も暫くぶり。
そういえば、やたらと女の子が好きって感じのする隊士だったね。『前』にハートマークつけて呼んで欲しい、なんて言っていたし。なんというか、惚れっぽいのかな?
確かあの時の杏寿郎さんは怒ったような顔していたっけ。今思えばあれは悋気……。善逸にひどく嫉妬していた顔だったのか。
私は掴まれそうだった手を後ろに逃すと、さっと一歩引いて対応した。今ここにいる杏寿郎さんに嫉妬されてはあとが怖い!
それにしても、この子達の顔ぶれを見るのも懐かしいなぁ。何年ぶりだっけ?年はそう離れていないはずなのに、親戚の叔母さんみたいな気分。
って、この懐かしいという感情も、炭治郎にはわかるんだっけ?善逸に至っては聴覚で、伊之助は感覚でわかるとか。
まずった。めちゃくちゃ慈しみの感情を向けていた気がする。
鼻が良いという炭治郎の顔をちらりと見やる。
あっばっちり目が合った!こういう時は見なかったふり作戦だ!
視線を逸らし外の月を見る。ワーキレイー。
彼ら。特に炭治郎は杏寿郎さんとも同じように柱合会議にて顔合わせは済んでいるようで、鬼である禰󠄀豆子ちゃんが箱に入っている事もこの場で話された。
「朝緋、なんとも思わないのか」
「何がですか?」
「この少年の妹は朝緋が憎む鬼だと言ったはずだが……。いや、お館様がお認めになっているとも今し方俺が言ったばかりだったな」
まずい。私って家族を鬼に殺されてるから鬼絶対殺すマンだった。
お館様が認めているからといって、はいそうですかと納得できないのが普通の鬼殺隊士じゃん。
でもなぁ、禰󠄀豆子ちゃんが危険な鬼じゃないってよーく知ってるし……。
「禰󠄀豆子ちゃんは危険な子じゃないんでしょ。ならいいと思いますけど」
「ふむ。……そうだな」
杏寿郎さんは私の鬼への態度の変化に、不思議そうにしながらもなんとか納得してくれたようだった。ならいいよね。ね?
でも、禰󠄀豆子ちゃんが危険じゃない鬼なのはわかってる。それを確信しきっている。信じている。そういう匂いを全身からさせてしまったようで。
絶対ばれてるな、これ。疑問視しているのが、びしびしと伝わってきた。ひぃ!炭治郎ったら、さっき以上に目をまん丸くして、こっち見てらっしゃる!!
その事に杏寿郎さんもめざとく気がついた。
「む!穴が開くほどうちの朝緋を見ているようだが、君は何か朝緋に用立てがあるのだろうか!!」
「いえ、話してすぐに信じてもらえると思わなかったので……」
「そういう事なら納得だ!だがあまり不躾に見るのはやめてくれ!彼女は繊細なんだ!」
私全然繊細じゃないよ。