一周目 壱
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おかげで、触腕についた小さな鉤爪のような物が、私の頬を薄く裂いたことも気がつかなかったほどだ。
傷から血が滲むのを感じた。不甲斐ない。
「痛っ」
『…………稀血?』
ーーまずい、私の血が稀血であると気付かれた!
鬼の声が聞こえた、どこだ。
車両内を見渡すとーー。
にゅっ。目の前の触腕からニタニタ笑みを浮かべる顔が出てきた。
「気持ち悪っ!」
全身に鳥肌が立った。
……って、こいつが、下弦の壱か!
目の中に下弦の壱の文字が刻まれている。
聞きたいんだけど目に文字って痛くないのかな?
『ふぅん、鬼狩りだから呼吸を使うだろうしその上稀血で女の子……栄養たぁっぷりありそうだね〜。
嬉しいな……俺は君を食べて、もっと強くなれるんだ……』
うっとり夢見心地、と言わんばかりの表情で舌舐めずり。
なのに首から下はウネウネと蠢く蚯蚓状態。
それだけでも勘弁して欲しいくらいなのに、他にもボコボコと湧いた触腕ともども、こっちに近づいてきた。
「うわっ、ちょっちょっ……!キモイ触腕が、顔が!私に集中して向かってくるーー!!
いやこれは逆に好都合だけど、でも!でも!気持ち悪いーーー!!
ほ、炎の呼吸参ノ型気炎万象ぉーー!」
近づいてきて欲しくなくて全力で参ノ型を放てば、すぽん!鬼の頸は軽やかに刎ねられ、飛んでいった。
「え」
拍子抜けだったが。
『ふふふ、斬っても無駄だよ?』
「はあ!?」
床に落ちた頸が言葉を発している。これは頸じゃない。触腕と同じで、ただの頸の形をした肉塊。
やはり本物の鬼の頸は、炭治郎達のいる前方にあるようだ。
ごぼり、斬った断面から、顔の代わりに生えてきたのは大きな口と鬼の牙。
口の周りを一周するようにびっしり生えそろったそれは、まるで八目鰻の顎。
それが蛇のように素早い動きで近づいてきた!
「ちっ。鬼の牙は本物のようね……あの口で食べようって事か。
ほんっと、忌々しい鬼め!」
スレスレでかわしてなんとかかわせたけれど隊服の一部が破けた。
そこらの鬼では傷一つつかない隊服ではあるが、強い鬼の攻撃は通ってしまう。
さすが下弦の壱を冠するだけはあるようだ。
『威勢がいいね。そんなに動き回っても疲れるだけなのにィ〜』
「悪いけど、アンタにあげる血は一滴もない!」
目の前の触腕を斬り落とそうと刀を思い切り振りかぶる。
触腕表面に『夢』と描かれた眼が現れた。
「なっ……!?」
『血鬼術、強制昏倒睡眠、ま……』
ズガァァァァン!!
その瞬間、列車が大きく揺れた!
「!?」
『チッ……このままじゃ頸が斬られてしまう……。
稀血ちゃん、あとでまた食べに来るからねェ〜?』
とぷん。転がっていた頸も牙と眼が出現した触腕も、床に染み込むように消える。
「きっも……」
今思い出しても鳥肌ものだ。なんて悍ましい。
警戒は怠らないようにするが、少しだけほっとして構えた刀の位置を下げる。
「血は舐められてもいないし垂れてない。かすり傷だから呼吸のおかげで治った……よかったぁ〜」
腕についたかすり傷は、血が滲んだ程度。呼吸の精度を高めたおかげで一瞬で止まった。
隊服も破けただけで、その下の皮膚には傷一つついていない。
……サラシを巻いたささやかな胸元が少し見えるが。
「まったく!変なところ切って!腹立つわねこの、ど助平鬼め!!」
げしげし!
禰󠄀豆子ちゃんほどの蹴りは繰り出せないが、それを参考にそのあたりで燻っている鬼の肉塊を足蹴にしながら胸元を直す。
少しはすっきりした。
なお朝緋は、饜夢が後一歩引くのが遅かったなら、眠らされた挙句骨も残さずに食べられていた事を知らない……。
ーーぐわんーー
「えっ!?」
車体が大きく傾いだとともに、前方から断末魔があがる。
この衝撃はーーー鬼の頸を刎ねた!!
だがそれは同時に、鬼と同化していた列車がどうなるのか、分からない状態でもあるということで。
最悪は、鬼の肉が崩れると共に、列車もが崩れて走行不可になる可能性もある。
よくて脱線ーー。
「わ、きゃ……!?」
鬼の最後の足掻きか、一瞬にして伸びてきた肉塊が、乗客の首を次々に掴む。
それを斬ろうと刀をを伸ばせば、他のものより多い肉の塊が、私の体を壁に打ち付け拘束した。
こいつだけでも、稀血のこいつだけでも……と。その考えが触腕を通してひしひしと伝わってくる。
鬼め。頸を切られてもなお抗うというのか!
うぐ、苦しい……私はもう、ここまでなのかも。
潰される…………!
ーードォン!!
その肉を丸ごとひっぺがすように、見慣れた炎が舞った。
「けほ、」
「喰われている場合ではないぞ朝緋!!技を出して衝撃を緩和しろ!周りの人間を守れ!!」
「……は、はい!」
強い瞳で凄まれ、反射的に返事が出た。
高火力の技を連発するなんて、久しぶりのことで。
何度か意識を失いそうになる。けれど私は立った。
少し離れた場所にみえた勢いよく燃える炎に励まされ、私は技を放ち続けた。
「脱線する!何かに掴まれ!」
「えっ、あっ……ぎゃふっーーーッ!!」
咄嗟にどこかを掴んだけれど、何に捕まっているのかわからない。上も下もわからない。あちこちにぶつかった衝撃が、体を襲う。
体が何度も回転して、視界がぐるりと回りーーー腰を強かに打った。
無音なのは一瞬のことで、埃と煙が落ち着いたのち、私はゆっくりと腰を上げた。
「アイタタタ……!
おおお、体は打ったけど、血が出てない!ほぼ無傷!!さすがは私」
「うむ!それでこそ俺の継子だ!!」
すぐ隣から声がしてギョッとした。
脱線前は少し離れていたはずなのに、なんでこんな近くにいるんだ。
上から下まで眺めれば、杏寿郎さんはほとんど無傷でピンピンしている。羽織もほとんど汚れてないってどういうことだろう。
体の出来が違うのかな?やっぱり柱ってすごいや。
「事後処理は隠に頼もう。君もある程度の救助が終わったら休め。俺は竈門少年達の安否を確認してくる」
「はい」
一瞬で消えた杏寿郎さんの指示に従い、私は倒れた列車や瓦礫のせいで怪我をした人々の救助に勤しんだ。
うん。怪我はしていても、乗客全員の命は失われていない。無事生きている。
守れて良かった……。
傷から血が滲むのを感じた。不甲斐ない。
「痛っ」
『…………稀血?』
ーーまずい、私の血が稀血であると気付かれた!
鬼の声が聞こえた、どこだ。
車両内を見渡すとーー。
にゅっ。目の前の触腕からニタニタ笑みを浮かべる顔が出てきた。
「気持ち悪っ!」
全身に鳥肌が立った。
……って、こいつが、下弦の壱か!
目の中に下弦の壱の文字が刻まれている。
聞きたいんだけど目に文字って痛くないのかな?
『ふぅん、鬼狩りだから呼吸を使うだろうしその上稀血で女の子……栄養たぁっぷりありそうだね〜。
嬉しいな……俺は君を食べて、もっと強くなれるんだ……』
うっとり夢見心地、と言わんばかりの表情で舌舐めずり。
なのに首から下はウネウネと蠢く蚯蚓状態。
それだけでも勘弁して欲しいくらいなのに、他にもボコボコと湧いた触腕ともども、こっちに近づいてきた。
「うわっ、ちょっちょっ……!キモイ触腕が、顔が!私に集中して向かってくるーー!!
いやこれは逆に好都合だけど、でも!でも!気持ち悪いーーー!!
ほ、炎の呼吸参ノ型気炎万象ぉーー!」
近づいてきて欲しくなくて全力で参ノ型を放てば、すぽん!鬼の頸は軽やかに刎ねられ、飛んでいった。
「え」
拍子抜けだったが。
『ふふふ、斬っても無駄だよ?』
「はあ!?」
床に落ちた頸が言葉を発している。これは頸じゃない。触腕と同じで、ただの頸の形をした肉塊。
やはり本物の鬼の頸は、炭治郎達のいる前方にあるようだ。
ごぼり、斬った断面から、顔の代わりに生えてきたのは大きな口と鬼の牙。
口の周りを一周するようにびっしり生えそろったそれは、まるで八目鰻の顎。
それが蛇のように素早い動きで近づいてきた!
「ちっ。鬼の牙は本物のようね……あの口で食べようって事か。
ほんっと、忌々しい鬼め!」
スレスレでかわしてなんとかかわせたけれど隊服の一部が破けた。
そこらの鬼では傷一つつかない隊服ではあるが、強い鬼の攻撃は通ってしまう。
さすが下弦の壱を冠するだけはあるようだ。
『威勢がいいね。そんなに動き回っても疲れるだけなのにィ〜』
「悪いけど、アンタにあげる血は一滴もない!」
目の前の触腕を斬り落とそうと刀を思い切り振りかぶる。
触腕表面に『夢』と描かれた眼が現れた。
「なっ……!?」
『血鬼術、強制昏倒睡眠、ま……』
ズガァァァァン!!
その瞬間、列車が大きく揺れた!
「!?」
『チッ……このままじゃ頸が斬られてしまう……。
稀血ちゃん、あとでまた食べに来るからねェ〜?』
とぷん。転がっていた頸も牙と眼が出現した触腕も、床に染み込むように消える。
「きっも……」
今思い出しても鳥肌ものだ。なんて悍ましい。
警戒は怠らないようにするが、少しだけほっとして構えた刀の位置を下げる。
「血は舐められてもいないし垂れてない。かすり傷だから呼吸のおかげで治った……よかったぁ〜」
腕についたかすり傷は、血が滲んだ程度。呼吸の精度を高めたおかげで一瞬で止まった。
隊服も破けただけで、その下の皮膚には傷一つついていない。
……サラシを巻いたささやかな胸元が少し見えるが。
「まったく!変なところ切って!腹立つわねこの、ど助平鬼め!!」
げしげし!
禰󠄀豆子ちゃんほどの蹴りは繰り出せないが、それを参考にそのあたりで燻っている鬼の肉塊を足蹴にしながら胸元を直す。
少しはすっきりした。
なお朝緋は、饜夢が後一歩引くのが遅かったなら、眠らされた挙句骨も残さずに食べられていた事を知らない……。
ーーぐわんーー
「えっ!?」
車体が大きく傾いだとともに、前方から断末魔があがる。
この衝撃はーーー鬼の頸を刎ねた!!
だがそれは同時に、鬼と同化していた列車がどうなるのか、分からない状態でもあるということで。
最悪は、鬼の肉が崩れると共に、列車もが崩れて走行不可になる可能性もある。
よくて脱線ーー。
「わ、きゃ……!?」
鬼の最後の足掻きか、一瞬にして伸びてきた肉塊が、乗客の首を次々に掴む。
それを斬ろうと刀をを伸ばせば、他のものより多い肉の塊が、私の体を壁に打ち付け拘束した。
こいつだけでも、稀血のこいつだけでも……と。その考えが触腕を通してひしひしと伝わってくる。
鬼め。頸を切られてもなお抗うというのか!
うぐ、苦しい……私はもう、ここまでなのかも。
潰される…………!
ーードォン!!
その肉を丸ごとひっぺがすように、見慣れた炎が舞った。
「けほ、」
「喰われている場合ではないぞ朝緋!!技を出して衝撃を緩和しろ!周りの人間を守れ!!」
「……は、はい!」
強い瞳で凄まれ、反射的に返事が出た。
高火力の技を連発するなんて、久しぶりのことで。
何度か意識を失いそうになる。けれど私は立った。
少し離れた場所にみえた勢いよく燃える炎に励まされ、私は技を放ち続けた。
「脱線する!何かに掴まれ!」
「えっ、あっ……ぎゃふっーーーッ!!」
咄嗟にどこかを掴んだけれど、何に捕まっているのかわからない。上も下もわからない。あちこちにぶつかった衝撃が、体を襲う。
体が何度も回転して、視界がぐるりと回りーーー腰を強かに打った。
無音なのは一瞬のことで、埃と煙が落ち着いたのち、私はゆっくりと腰を上げた。
「アイタタタ……!
おおお、体は打ったけど、血が出てない!ほぼ無傷!!さすがは私」
「うむ!それでこそ俺の継子だ!!」
すぐ隣から声がしてギョッとした。
脱線前は少し離れていたはずなのに、なんでこんな近くにいるんだ。
上から下まで眺めれば、杏寿郎さんはほとんど無傷でピンピンしている。羽織もほとんど汚れてないってどういうことだろう。
体の出来が違うのかな?やっぱり柱ってすごいや。
「事後処理は隠に頼もう。君もある程度の救助が終わったら休め。俺は竈門少年達の安否を確認してくる」
「はい」
一瞬で消えた杏寿郎さんの指示に従い、私は倒れた列車や瓦礫のせいで怪我をした人々の救助に勤しんだ。
うん。怪我はしていても、乗客全員の命は失われていない。無事生きている。
守れて良かった……。