二周目 漆
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線路上。杏寿郎さんがふくと呼ばれていた少女を鬼から助けていた。
息を切らし駆け寄ると、鬼に相対する時の柱の表情が私をみて少しだけ和らいだ。
「む。やはり朝緋は足が速いな。もう追いつくとは」
「これでも炎柱随一の継子なんで」
驚いている少女が思い出したように、祖母の心配をしている。まだ中に……!?
急いで駅の中へ回ると、やはりそこに鬼とお祖母さんはいた。
襲いかけているその背後へ回ると、自分に追いつく者がいるとは思わなかったらしく、鬼は私達の登場に驚愕している。
どうやって追いついたかって?そんなの走ってきたに決まってるでしょうに。
杏寿郎さんの後ろ、私が呆れていると、杏寿郎さんが鬼を滅する動作に入る。
炎の羽織の左側をばさりと肩にかけ、刀を振り抜きやすくするためのいつもの準備動作だ。
はわ〜〜〜かっこいい〜〜!
私はこの仕草がとても好きである。
お祖母さんを手にかけるのが先か、鬼の頸を斬るのが先か。賭けようなどと言っている。
だけど鬼の動きも思考もすべてが遅いし、鬼殺隊がそんな賭けに乗るわけなかった。
「試すには及ばない。お前はーー」
刀を抜く動きすら見えなかったろう。
「遅いッ!!」
瞬間、鬼の頸は宙を舞っていた。
「炎の呼吸、壱ノ型・不知火」
赤く美しい刃が翻り、熱くそして強い光を放つ炎が舞い散る。
んんんんんん!!いよーーーっ!かっこいいです最高です大好きです杏寿郎さんっ!
今日もかっこいい、どんな時もかっこいい!
私の頭の中では、杏寿郎さんを讃える為の盛大なエレクトリカルパレードが開催されていた。表情こそ微動だにしてないけど。
舞う炎を振り切り、鞘を少しだけ浮かせる。刀を納めていく一連の所作の何と美しい事か。
柄の部分から柄頭までをするぅりと撫でていく動き。それはまるで、愛しい者の肢体を撫でるが如く優しくて……。
ごほん。
杏寿郎さんはかつて、槇寿朗さんが見せてくれた動きをそのままなぞってみせた。……綺麗だ。
そんな杏寿郎さんの動きを見て、お祖母さんがぼろぼろと泣いていた。
救ってくれた、二度も……と。
「二度……?」
二十年前に貴方に助けてもらった。顔も羽織も同じだと。
だが二十年前は杏寿郎さんは生まれているかいないかだ。ならばその言葉の意味するところは……。
思い至ってハッとした。
考えもしないところで、まだ落ちぶれてもいない槇寿朗さんの鬼殺の軌跡を見られるとは。家族として何と嬉しい事か。
そしてもう終わったのだと、やっと安心できるのだと少女はお祖母さんの隣、脱力した。鬼は存在するのだと自身が襲われてやっと信じたらしいが、鬼なんて知らないで済めばそれが一番。でも、会ってしまった。
遭遇した者は死する者も多い中、助けられてよかった。しかも三世に渡り二度も。
私もほっとして、つい杏寿郎さんの手を握ってしまった。握り返された手はとても熱く、思いの強さで燃えていた。
「炎柱、朝緋さん!御二方とも大丈夫ですか!」
その時、あの隊士が駅に到着した。その後に隠の皆さんも連れ立っている。
「何、今片付いたところだ」
うんうん、今宵の杏寿郎さんもとってもかっこよかったのよ。と目の前の隊士に自慢したいくらいの活躍。恥ずかしいから言わない。
ねぎらいの言葉をもらい、のち、無限列車の話になった。
そういえば、そちらがメインの任務だったわ。行きたくない病がぶり返しそう。
杏寿郎さんより整備を整え明日から運行再開だという話を聞き、まだ何も知らない隊士は嬉しそうだが……。
万事解決とは程遠い。これからが本番。
「四十人以上を食った鬼がこの程度のわけがない」
その言葉に同意する。四十以上食べて少し速い程度とは、弱すぎる。普通ならもっと恐ろしい血鬼術を使う。
それに無限列車の鬼は数字をもらいし下弦の壱。ジャイアントワーム列車鬼。
「では明日、無限列車に?」
「無論、乗り込む!もう、今日だがな!」
夜が明けた。
鬼を斬っている内に、空が白んでいたようだ。差し込む太陽眩しく、あたたかい。
そうだ。
もう、今日に。『運命』の日になっていた。
その後仮眠を取った私たちは、夕暮れ時に再び駅に立っていた。夜間列車である無限列車へと乗り込む予定で。
そこにはあのお弁当屋さんもいた。
気がついた彼女達が、鬼退治の礼にとあのお弁当を渡そうとしてくれている。何と嬉しい!
杏寿郎さんもだが、あれ私も今回食べられてなかったんだよねぇ。
それどころか踏み潰されたし……食べられなかったのは絶対あの鬼のせいだ。地獄でよーく反省するがいい!……そう思ってしまうほど食べ物の恨みは恐ろしい。
けれど鬼殺は私と杏寿郎さんにとって任務というより使命であり、ただでもらうのは忍びなく。代金を払うというと気持ちだけでと言われ、ならば!と。
杏寿郎さんはそこにあったお弁当を太っ腹にも全部買った。全部だ。
柱の給金が際限なしで、炎柱邸の生活費も黒字だからいいけど、ちょっと食べ過ぎの買い過ぎでは……?
少女が叫ぶ気持ち、わかるわぁ。
念のため彼女達に私が持つ藤の匂い袋をお渡しした。まだ手持ちに余裕もあるしね。
そしてお気をつけてとの言葉に快く返事をする。
「あなた方の事は父に必ず伝えます。喜ぶ事でしょう」
とそう、最後に返して。
きっと。きっと伝えます。私ではなく他の誰かでもない。この人自身の口から。
夕闇の中を走り抜ける無限列車。お弁当を手に取りわくわくの杏寿郎さんに声をかける。
「……ねえ杏寿郎さん。あのお弁当屋さん、絶対また寄りましょうね」
「ん?ああ、また寄ろう!!
さて、ではありがたくいただくとしようか」
「ええ。これ美味しいですからね」
「うむ?……うむ!」
一口もぐもぐと深く味わい、杏寿郎さんは目を見開いた。
「うまい!!!!」
その声は空にも届く勢いで車内に響き渡った。
息を切らし駆け寄ると、鬼に相対する時の柱の表情が私をみて少しだけ和らいだ。
「む。やはり朝緋は足が速いな。もう追いつくとは」
「これでも炎柱随一の継子なんで」
驚いている少女が思い出したように、祖母の心配をしている。まだ中に……!?
急いで駅の中へ回ると、やはりそこに鬼とお祖母さんはいた。
襲いかけているその背後へ回ると、自分に追いつく者がいるとは思わなかったらしく、鬼は私達の登場に驚愕している。
どうやって追いついたかって?そんなの走ってきたに決まってるでしょうに。
杏寿郎さんの後ろ、私が呆れていると、杏寿郎さんが鬼を滅する動作に入る。
炎の羽織の左側をばさりと肩にかけ、刀を振り抜きやすくするためのいつもの準備動作だ。
はわ〜〜〜かっこいい〜〜!
私はこの仕草がとても好きである。
お祖母さんを手にかけるのが先か、鬼の頸を斬るのが先か。賭けようなどと言っている。
だけど鬼の動きも思考もすべてが遅いし、鬼殺隊がそんな賭けに乗るわけなかった。
「試すには及ばない。お前はーー」
刀を抜く動きすら見えなかったろう。
「遅いッ!!」
瞬間、鬼の頸は宙を舞っていた。
「炎の呼吸、壱ノ型・不知火」
赤く美しい刃が翻り、熱くそして強い光を放つ炎が舞い散る。
んんんんんん!!いよーーーっ!かっこいいです最高です大好きです杏寿郎さんっ!
今日もかっこいい、どんな時もかっこいい!
私の頭の中では、杏寿郎さんを讃える為の盛大なエレクトリカルパレードが開催されていた。表情こそ微動だにしてないけど。
舞う炎を振り切り、鞘を少しだけ浮かせる。刀を納めていく一連の所作の何と美しい事か。
柄の部分から柄頭までをするぅりと撫でていく動き。それはまるで、愛しい者の肢体を撫でるが如く優しくて……。
ごほん。
杏寿郎さんはかつて、槇寿朗さんが見せてくれた動きをそのままなぞってみせた。……綺麗だ。
そんな杏寿郎さんの動きを見て、お祖母さんがぼろぼろと泣いていた。
救ってくれた、二度も……と。
「二度……?」
二十年前に貴方に助けてもらった。顔も羽織も同じだと。
だが二十年前は杏寿郎さんは生まれているかいないかだ。ならばその言葉の意味するところは……。
思い至ってハッとした。
考えもしないところで、まだ落ちぶれてもいない槇寿朗さんの鬼殺の軌跡を見られるとは。家族として何と嬉しい事か。
そしてもう終わったのだと、やっと安心できるのだと少女はお祖母さんの隣、脱力した。鬼は存在するのだと自身が襲われてやっと信じたらしいが、鬼なんて知らないで済めばそれが一番。でも、会ってしまった。
遭遇した者は死する者も多い中、助けられてよかった。しかも三世に渡り二度も。
私もほっとして、つい杏寿郎さんの手を握ってしまった。握り返された手はとても熱く、思いの強さで燃えていた。
「炎柱、朝緋さん!御二方とも大丈夫ですか!」
その時、あの隊士が駅に到着した。その後に隠の皆さんも連れ立っている。
「何、今片付いたところだ」
うんうん、今宵の杏寿郎さんもとってもかっこよかったのよ。と目の前の隊士に自慢したいくらいの活躍。恥ずかしいから言わない。
ねぎらいの言葉をもらい、のち、無限列車の話になった。
そういえば、そちらがメインの任務だったわ。行きたくない病がぶり返しそう。
杏寿郎さんより整備を整え明日から運行再開だという話を聞き、まだ何も知らない隊士は嬉しそうだが……。
万事解決とは程遠い。これからが本番。
「四十人以上を食った鬼がこの程度のわけがない」
その言葉に同意する。四十以上食べて少し速い程度とは、弱すぎる。普通ならもっと恐ろしい血鬼術を使う。
それに無限列車の鬼は数字をもらいし下弦の壱。ジャイアントワーム列車鬼。
「では明日、無限列車に?」
「無論、乗り込む!もう、今日だがな!」
夜が明けた。
鬼を斬っている内に、空が白んでいたようだ。差し込む太陽眩しく、あたたかい。
そうだ。
もう、今日に。『運命』の日になっていた。
その後仮眠を取った私たちは、夕暮れ時に再び駅に立っていた。夜間列車である無限列車へと乗り込む予定で。
そこにはあのお弁当屋さんもいた。
気がついた彼女達が、鬼退治の礼にとあのお弁当を渡そうとしてくれている。何と嬉しい!
杏寿郎さんもだが、あれ私も今回食べられてなかったんだよねぇ。
それどころか踏み潰されたし……食べられなかったのは絶対あの鬼のせいだ。地獄でよーく反省するがいい!……そう思ってしまうほど食べ物の恨みは恐ろしい。
けれど鬼殺は私と杏寿郎さんにとって任務というより使命であり、ただでもらうのは忍びなく。代金を払うというと気持ちだけでと言われ、ならば!と。
杏寿郎さんはそこにあったお弁当を太っ腹にも全部買った。全部だ。
柱の給金が際限なしで、炎柱邸の生活費も黒字だからいいけど、ちょっと食べ過ぎの買い過ぎでは……?
少女が叫ぶ気持ち、わかるわぁ。
念のため彼女達に私が持つ藤の匂い袋をお渡しした。まだ手持ちに余裕もあるしね。
そしてお気をつけてとの言葉に快く返事をする。
「あなた方の事は父に必ず伝えます。喜ぶ事でしょう」
とそう、最後に返して。
きっと。きっと伝えます。私ではなく他の誰かでもない。この人自身の口から。
夕闇の中を走り抜ける無限列車。お弁当を手に取りわくわくの杏寿郎さんに声をかける。
「……ねえ杏寿郎さん。あのお弁当屋さん、絶対また寄りましょうね」
「ん?ああ、また寄ろう!!
さて、ではありがたくいただくとしようか」
「ええ。これ美味しいですからね」
「うむ?……うむ!」
一口もぐもぐと深く味わい、杏寿郎さんは目を見開いた。
「うまい!!!!」
その声は空にも届く勢いで車内に響き渡った。