二周目 漆
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「本題ですがその無限列車、所在が判りました」
機関庫にひっそりこっそりと、人目につかないように搬入されたようだった。
そりゃ神隠ししてくるお化け列車なんて言われちゃ、人目につかないようにくらいするか。あ、お化けとは言われてないけど私からしたら鬼とお化けは紙一重、ほぼ一緒なんで。
……幽霊は触れないし斬れないので別ね。
杏寿郎さんは一言返事をしてから、目の前のかき揚げを口に運んだ。
揚げたてほやほやなそれはものすごく良い音が響き、衣を周りに飛ばすほどのサクサク加減だった。
「うむ、うまい!!」
ほんとーに美味しそう!次食べることがあったら天麩羅蕎麦にしようと決めた。
その後も杏寿郎さんはしばらくおかわりをし続け、隊士は唖然。さすがの店主も苦笑していた。
私は慣れているので、我関せずお茶を啜っていた。
そうして陽がとっぷりと暮れてから、三人で腹ごなしも兼ねて連れ立って歩く。
「無限列車に向かいますか?」
隊士のその言葉にびくりと体が反応する。体の奥底ではまだ、無限列車への決心がついていなかったようだ。自分の腕を抓り、無理矢理落ち着かせた。
「うむ。だがその前に、車掌の遺体が発見された駅を検分してみよう」
遺体が発見、つまり丸ごと鬼に食べられずに残っているということは昨晩の件の切り裂き魔による犯行。
特に切り裂き魔はこの沿線上にばかり出没しているし、犯人というものは現場に戻るという。ならば駅を調査すれば何かわかるかもしれない。
駅の中は煌々とした明かりがついており、お弁当屋さんもまだ開いているようだ。……駅弁かあ。『あの時』以来だなあ。
「異常ナシ!」「ナーシ!」
駅内を確認した要が隊士の肩に止まる。一緒に回ったらしいあずまも飛んできた。
でもあずまは何故私の頭に止まるかなぁ……。頭頂部に結んであるポニーテールが揺れるから止まりづらいと思う。長いから戦闘時なんか鞭のようにしなるくらいだ。
「見て回りましたが変わったところはありませんね」
「私も外側から駅周りを見てきました。こちらも異常なかったです」
その時、お弁当屋さんの方から大きな声が聞こえた。
鬼なんかいない、と。
鬼の情報を探している時に、市井の人からのその言葉が飛び込んでくるとは思いもせなんだ。
大声だとはいえ普通なら流してしまうような内容も、鬼を退治するのが生業の鬼殺隊では大事な情報源だ。
あ、杏寿郎さん聞きに行く気だわ。
「やあこんばんは!気持ちの良い月夜ですね!!」
帽子におさげの少女に、少女のお祖母さんかな?二人揃って丸い眼鏡をかけている。可愛い。
そんな子に声をかけた杏寿郎さんは、とてもビビられていた。
自分を見下ろす男にいきなりこの言葉。こわいよね。
極め付けには。
「俺は鬼を探す者!鬼を見ていませんか!!」
これである。性格的にせっかちだから仕方ないとはいえ……はぁ〜〜〜。
「ええっいきなりー!?」
「キョージュローサマ!単刀直入ガ過ギマス!!」
「直球過ギルヨ」
隊士も鎹烏もあまりの展開に驚いている。
「師範、その聞き方は駄目でしょ。その子、鬼の存在めっちゃ否定してたじゃん……」
「むむっ!そうだった!!」
どれだけ情報に気を取られていたんだか……。
私達がこうしてやり取りする前では、杏寿郎さんの顔を見てハッとしているお祖母さんが目に入った。それは不審な物に向ける物とは違う。
けどなんでだろう?……あ!杏寿郎さんかっこいいから見てるんだね!うんうん、見惚れちゃう気持ちはよーくわかりますよ。
黄金色と赤で燃えるような美しい髪。凛々しい眉。金環が煌めく大きな瞳。顔立ち目鼻立ちのはっきりした美丈夫。
はぁーー。今日も杏寿郎さんはかっこいい。
私が頭の中に惚気ワールドを作っていると、お祖母さんの視線に杏寿郎さんも気がついたようだった。
「ん?ご婦人!何かご存知か!!」
ご存知っていうか、杏寿郎さんをご存知っぽいけどね。
身を乗り出して詳しく聞こうとする杏寿郎さんから、少女が手を広げて庇った。
片手にはあんぱんを持ったまま。
近づかないでと鋭い声を上げたのは、杏寿郎さんを不審人物と見做しての行動のようだった。
だよねぇ。私は好きな相手だし惚れてる贔屓目もあるけど、普通の人からそれも小さな子からしてみれば、かっこよかろうといきなり鬼だの何だの言われて目の前に立たれたら不審に思うよね。大事な家族が絡まれでもしたら……私がこの子ならすでに足をかけて転ばしてから縄で縛ってるもの。
鬼殺隊では肉体言語を使うことが多い。
「危ない!そんなにブルブルしていたら大切なあんぱんを落としてしまうぞ!」
その様子を目にした炎柱の言葉がこちらです。どこかずれている。
「危ないってそっち!?」
心配すべきはそこじゃないと思う。やれやれ、どこまで食い意地が……ううん、やめとこう。あんぱんは大事だよね。国民的ヒーローの顔でもあるし。
「こないでー!!」
杏寿郎さんの大声がさらに怖かったらしい。少女が叫びながらあんぱんをフルスイーーーングッ!ベチン!!
……いい音したね。
「ブフッ」
他の全員が固まる中、私一人が吹き出してしまった。あとで怖い。
だって、まさかの杏寿郎さんの顔面に思い切りぶつかって張り付いてるんだもの。
あんぱん、お前なかなかに強いやつね……!
吸い込まれるように叩きつけられたそれは、剥がれ落ちもせず潰れもせず、まるまる一呼吸分、杏寿郎さんの顔を覆って動かなかった。
その後全員がしばし無言で固唾を飲む。のち、杏寿郎さん本人もそのあんぱんを無言で手に取り……。
「はぐっ」
「って、食うんかいっ」
杏寿郎さんの中では、あんぱんは少女から貰ったものとして受理されたようだった。
「うまいっ!!」
またも声が響き渡る。
そうだね、それ多分木村屋のあんぱんだものね。新時代までずっとずっと変わらぬ味で美味しいからね!
その場の空気を元に戻すように、少女が吼えて鬼の存在を否定する。
だがご家族であるお祖母さんにたしなめられ、一転。少女は私達に謝罪した。切り裂き魔のせいで客足も途絶え、ピリピリしていたようだ。
わかる。物騒なのも怖いけど、人の出が少なくなるとお弁当屋さんなんておまんま食い上げだものね。なのに杏寿郎さんたらあんぱんまでもらっちゃってまぁ……。
その後、切り裂き魔は片付けると高らかに宣言し、私達は立ち去ることにした。これ以上ここにいても鬼の情報は見つからない、検分はお終いだ。
「おやつのあんぱん貰っちゃってごめんね」
「いえ……。…………あ、あのっ!」
あんぱんについて謝罪すれば最後に、今夜余ってしまったお弁当を買って欲しいとの話をされた。商魂たくましいね!?
相手は優しくって人の良い杏寿郎さんだよ?もちろん快く買った。……全部。
「全部買ってこれどうするんです?」
「それはなぁ……風呂敷を貸してくれ。……こうする!!」
ふふふ、と含み笑いをこぼした杏寿郎さんに訝しげになりながら風呂敷を貸すと、お弁当をすべて包んでしまった!隊士にその半分以上を持たせ、立たせている。
まるでお弁当に着られている人のよう、いやこの立ち方どこかで見たことある。あ、廊下に立ってろってバケツ持たされた人!
このお弁当、隊への土産物にしてもらう予定らしいけど……。
「困った顔してるじゃん!隊にはこんなに人いないよね!ねっ!?」
「あー……隊士の数より多いですね……」
「だよね!?私だってこんなに持たされても困るよ!」
「はっはっはっ!隊士はみな育ち盛りだ。たくさん食べなさい!!」
「それ横に育つだけじゃん……?」
「ならば鍛錬して消費するといい!」
杏寿郎さんのその言葉に、隊士と私は苦笑し合うことしかできなかった。
「……さて、ここから先は俺は朝緋とともに行く事になっている。君、ご苦労だったな!では!」
そこで私達は隊士と別れた。
機関庫にひっそりこっそりと、人目につかないように搬入されたようだった。
そりゃ神隠ししてくるお化け列車なんて言われちゃ、人目につかないようにくらいするか。あ、お化けとは言われてないけど私からしたら鬼とお化けは紙一重、ほぼ一緒なんで。
……幽霊は触れないし斬れないので別ね。
杏寿郎さんは一言返事をしてから、目の前のかき揚げを口に運んだ。
揚げたてほやほやなそれはものすごく良い音が響き、衣を周りに飛ばすほどのサクサク加減だった。
「うむ、うまい!!」
ほんとーに美味しそう!次食べることがあったら天麩羅蕎麦にしようと決めた。
その後も杏寿郎さんはしばらくおかわりをし続け、隊士は唖然。さすがの店主も苦笑していた。
私は慣れているので、我関せずお茶を啜っていた。
そうして陽がとっぷりと暮れてから、三人で腹ごなしも兼ねて連れ立って歩く。
「無限列車に向かいますか?」
隊士のその言葉にびくりと体が反応する。体の奥底ではまだ、無限列車への決心がついていなかったようだ。自分の腕を抓り、無理矢理落ち着かせた。
「うむ。だがその前に、車掌の遺体が発見された駅を検分してみよう」
遺体が発見、つまり丸ごと鬼に食べられずに残っているということは昨晩の件の切り裂き魔による犯行。
特に切り裂き魔はこの沿線上にばかり出没しているし、犯人というものは現場に戻るという。ならば駅を調査すれば何かわかるかもしれない。
駅の中は煌々とした明かりがついており、お弁当屋さんもまだ開いているようだ。……駅弁かあ。『あの時』以来だなあ。
「異常ナシ!」「ナーシ!」
駅内を確認した要が隊士の肩に止まる。一緒に回ったらしいあずまも飛んできた。
でもあずまは何故私の頭に止まるかなぁ……。頭頂部に結んであるポニーテールが揺れるから止まりづらいと思う。長いから戦闘時なんか鞭のようにしなるくらいだ。
「見て回りましたが変わったところはありませんね」
「私も外側から駅周りを見てきました。こちらも異常なかったです」
その時、お弁当屋さんの方から大きな声が聞こえた。
鬼なんかいない、と。
鬼の情報を探している時に、市井の人からのその言葉が飛び込んでくるとは思いもせなんだ。
大声だとはいえ普通なら流してしまうような内容も、鬼を退治するのが生業の鬼殺隊では大事な情報源だ。
あ、杏寿郎さん聞きに行く気だわ。
「やあこんばんは!気持ちの良い月夜ですね!!」
帽子におさげの少女に、少女のお祖母さんかな?二人揃って丸い眼鏡をかけている。可愛い。
そんな子に声をかけた杏寿郎さんは、とてもビビられていた。
自分を見下ろす男にいきなりこの言葉。こわいよね。
極め付けには。
「俺は鬼を探す者!鬼を見ていませんか!!」
これである。性格的にせっかちだから仕方ないとはいえ……はぁ〜〜〜。
「ええっいきなりー!?」
「キョージュローサマ!単刀直入ガ過ギマス!!」
「直球過ギルヨ」
隊士も鎹烏もあまりの展開に驚いている。
「師範、その聞き方は駄目でしょ。その子、鬼の存在めっちゃ否定してたじゃん……」
「むむっ!そうだった!!」
どれだけ情報に気を取られていたんだか……。
私達がこうしてやり取りする前では、杏寿郎さんの顔を見てハッとしているお祖母さんが目に入った。それは不審な物に向ける物とは違う。
けどなんでだろう?……あ!杏寿郎さんかっこいいから見てるんだね!うんうん、見惚れちゃう気持ちはよーくわかりますよ。
黄金色と赤で燃えるような美しい髪。凛々しい眉。金環が煌めく大きな瞳。顔立ち目鼻立ちのはっきりした美丈夫。
はぁーー。今日も杏寿郎さんはかっこいい。
私が頭の中に惚気ワールドを作っていると、お祖母さんの視線に杏寿郎さんも気がついたようだった。
「ん?ご婦人!何かご存知か!!」
ご存知っていうか、杏寿郎さんをご存知っぽいけどね。
身を乗り出して詳しく聞こうとする杏寿郎さんから、少女が手を広げて庇った。
片手にはあんぱんを持ったまま。
近づかないでと鋭い声を上げたのは、杏寿郎さんを不審人物と見做しての行動のようだった。
だよねぇ。私は好きな相手だし惚れてる贔屓目もあるけど、普通の人からそれも小さな子からしてみれば、かっこよかろうといきなり鬼だの何だの言われて目の前に立たれたら不審に思うよね。大事な家族が絡まれでもしたら……私がこの子ならすでに足をかけて転ばしてから縄で縛ってるもの。
鬼殺隊では肉体言語を使うことが多い。
「危ない!そんなにブルブルしていたら大切なあんぱんを落としてしまうぞ!」
その様子を目にした炎柱の言葉がこちらです。どこかずれている。
「危ないってそっち!?」
心配すべきはそこじゃないと思う。やれやれ、どこまで食い意地が……ううん、やめとこう。あんぱんは大事だよね。国民的ヒーローの顔でもあるし。
「こないでー!!」
杏寿郎さんの大声がさらに怖かったらしい。少女が叫びながらあんぱんをフルスイーーーングッ!ベチン!!
……いい音したね。
「ブフッ」
他の全員が固まる中、私一人が吹き出してしまった。あとで怖い。
だって、まさかの杏寿郎さんの顔面に思い切りぶつかって張り付いてるんだもの。
あんぱん、お前なかなかに強いやつね……!
吸い込まれるように叩きつけられたそれは、剥がれ落ちもせず潰れもせず、まるまる一呼吸分、杏寿郎さんの顔を覆って動かなかった。
その後全員がしばし無言で固唾を飲む。のち、杏寿郎さん本人もそのあんぱんを無言で手に取り……。
「はぐっ」
「って、食うんかいっ」
杏寿郎さんの中では、あんぱんは少女から貰ったものとして受理されたようだった。
「うまいっ!!」
またも声が響き渡る。
そうだね、それ多分木村屋のあんぱんだものね。新時代までずっとずっと変わらぬ味で美味しいからね!
その場の空気を元に戻すように、少女が吼えて鬼の存在を否定する。
だがご家族であるお祖母さんにたしなめられ、一転。少女は私達に謝罪した。切り裂き魔のせいで客足も途絶え、ピリピリしていたようだ。
わかる。物騒なのも怖いけど、人の出が少なくなるとお弁当屋さんなんておまんま食い上げだものね。なのに杏寿郎さんたらあんぱんまでもらっちゃってまぁ……。
その後、切り裂き魔は片付けると高らかに宣言し、私達は立ち去ることにした。これ以上ここにいても鬼の情報は見つからない、検分はお終いだ。
「おやつのあんぱん貰っちゃってごめんね」
「いえ……。…………あ、あのっ!」
あんぱんについて謝罪すれば最後に、今夜余ってしまったお弁当を買って欲しいとの話をされた。商魂たくましいね!?
相手は優しくって人の良い杏寿郎さんだよ?もちろん快く買った。……全部。
「全部買ってこれどうするんです?」
「それはなぁ……風呂敷を貸してくれ。……こうする!!」
ふふふ、と含み笑いをこぼした杏寿郎さんに訝しげになりながら風呂敷を貸すと、お弁当をすべて包んでしまった!隊士にその半分以上を持たせ、立たせている。
まるでお弁当に着られている人のよう、いやこの立ち方どこかで見たことある。あ、廊下に立ってろってバケツ持たされた人!
このお弁当、隊への土産物にしてもらう予定らしいけど……。
「困った顔してるじゃん!隊にはこんなに人いないよね!ねっ!?」
「あー……隊士の数より多いですね……」
「だよね!?私だってこんなに持たされても困るよ!」
「はっはっはっ!隊士はみな育ち盛りだ。たくさん食べなさい!!」
「それ横に育つだけじゃん……?」
「ならば鍛錬して消費するといい!」
杏寿郎さんのその言葉に、隊士と私は苦笑し合うことしかできなかった。
「……さて、ここから先は俺は朝緋とともに行く事になっている。君、ご苦労だったな!では!」
そこで私達は隊士と別れた。