二周目 漆
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時同じくして客が入ってきた。
いや客じゃない。よく見れば昨日の、青い羽織を着たあの隊士であった。
そういえば、何かあったら鎹烏でやりとり……なんて話が出ていたっけ。
こちらは何もなかったけれど隊士の方では何か得たものがあったのかもしれない。
近くまで来たからとあずまに案内されてここに辿り着いたらしい。うん。要は目印がてらこの店の看板に止まってるからね。
「炎柱、朝緋さん。お食事中失礼します」
「ああ、ここに座るがいい」
「ええ。師範のお向かいにどうぞ」
杏寿郎さんと向かい合うように椅子に座った隊士。柱の前だからだろう、背筋を伸ばして眉毛をきりっとさせてはいるが……ちょっとお疲れ気味なのが机の下に遊ばせている足でわかる。ここから丸見えだよ?
「親父さん、この若者にも同じものを」
「よろしいのですか?」
「勿論だ」
隊士の疲労を杏寿郎さんもわかっているのか否か。おろしそばを隊士のために頼んでいた。
うんうん、疲れるほどに調査してたってことなら、食事摂ってない可能性が高いもんね。
「見たところ貴方もお食事はまだみたいだし遠慮せず食べてください。それに貴重な柱の奢りですよ〜」
「えっ」
言えば、目に見えてわたわたと慌てる隊士。心情的には柱の奢りなんて恐れ多い、かな?
相手が杏寿郎さんだから心配しなくて平気なのに。
「朝緋、君というやつはまた勝手に……まあ奢りなのだがな!
親父さん、俺ももう一杯もらおう!!」
これはおかわりを頼むいいタイミングだ。御相伴に預かろう。
「私もおかわりお願いしまーす」
御相伴などとまた勝手言ってるけど大丈夫。
基本的に二人で食べる時などの食費は炎柱邸で管理する生活費から出しているし、そのお金は食事以外で使うことも少ないからなかなか潤沢だ。
それでも癖で節約してしまうから溜まる一方で。家計簿がいつも黒字である。
「アンタ、気持ちのいい食いっぷりだな。待ってな」
注文が決まったところで、店主が空の器を片しながら嬉しそうに話す。昔気質というかなんというか、無愛想で無口にも見えた店主だが、口元が上がっていた。
まあ、嬉しいよね。笑顔にもなるよね。杏寿郎さん、好かれるに決まってるよねぇ……。
だって杏寿郎さんだもの。ものすごく美味しそうに食べるし量を頼んでも残すことなく綺麗に美味しく食べ切るし。料理人冥利に尽きるよね。
私もいつもそう。たくさん作った食事を本当に美味しそうに食べる姿に、毎回惚れ直す。
お箸で私をくるくると絡め取って、燃えるように熱い舌の上で蕩けるまで転がして。
どこもかしこも食べ尽くして欲しい……。なんて思ってしまう。
あらやだ、まだ夜じゃないのに私ったらまたはしたないこと考えちゃった。
ぽやぽや〜と桃色の考えと戦う私。
そんな私には気が付かず、杏寿郎さん達は昨晩の被害者について会話していた。
見事な働きの杏寿郎さんを褒める隊士。謙遜し女性のその後を心配する杏寿郎さん。
あのあと彼女は鬼殺隊が経営する鬼の被害者専門の療養施設に送られたらしい。あっ蝶屋敷の事じゃないからね?
そこにて呼んだ医師に診てもらったが、医師の見立てでも傷跡は残らないとのことだ。
そうか。この隊士がその後の経過をも見てきてくれたのか。列車の調査もあったろうに大変ありがたいことだ。
あの女性も無事で良かった良かった。
杏寿郎さんもその報告に嬉しそうな声を上げ、そして私を褒めた。
「そうか、処置が早くてよかった!朝緋、君の手柄でもあるぞ!!」
「はい、お二人のご活躍のおかげです」
「んぇ?私なんにもしてないよ?」
鬼の頸とってないし。
鬼殺隊たるもの、鬼の頸をとってこそ。
蕎麦が届いたので会話を中断し、食事に入る。
ご飯は一番美味しいタイミングで食べたいもんね。その機会を逃す時、私は超絶不機嫌になる。
「いただきます」
「いっただっきまーす!」
トン。
「……これは?」
蕎麦を口に運ぼうとすると、蕎麦の他に杏寿郎さんの前へと揚げたてほやほやのかき揚げが置かれた。
んー、匂いからして干した桜海老と牛蒡のかき揚げかな?
桜海老独特の甘く爽やかな磯の香り、牛蒡の力強くも香ばしい香りがここまで漂ってくる。揚げたてで美味しそう〜〜〜。
頼んだ覚えのないものだったため、不思議そうにかき揚げと店主とを見比べる杏寿郎さん。
食べないなら食べてしまいたい。
つゆに浸らせるのもいいけどお塩ちょんちょんサクッと、がいいなぁ。
「俺の奢りだよ」
「っありがたい!」
なんと、杏寿郎さんの気持ちの良い食べ方がいたく気に入ったらしい。
はーー!?杏寿郎さんだけ!?贔屓!
「ずるぅい〜!」
「はっはっはっ!朝緋、君も気持ちの良い食いっぷりになればいい!!」
「あはは、師範ほど気持ちいい食べっぷりになるとか、難しすぎますね〜?」
私達の会話を微笑ましげに見ながら、ずるるる。隊士は蕎麦を啜った。
「あっ。うまい!おやっさん、上野に店出したってやっていけるよこれ!」
それには激しく同意する。上野は今後蕎麦の名店と呼ばれるようになる店がたくさん立ち並ぶ激戦区だ。
何度か食べに行ったけれど、そこに引けを取らないほどここの蕎麦は美味い。この店の存在を嗅ぎ取った杏寿郎さんには感謝だ。
二杯目だからこそより深くその味が理解できる。生粉打ちで仕上げたこの蕎麦、令和の時代ではあまり見かけなくなった本来の意味での十割蕎麦のようで、熱湯の中を絶妙な時間だけ潜らせてからしっかりと冷水で締めており、シンプルながらにとても美味い。蕎麦の味が濃い〜。
蕎麦が潜ったあとの湯は少し水を飛ばして濃縮し、蕎麦湯にしてある。これもまた筒に入れて持ち運びたいほど美味いのだ。
だが、最上級にまとめられた褒め言葉を「大きなお世話」と店主は切り捨ててしまい、新聞を広げ始めてしまった。
そしてそれを見計らい、杏寿郎さんが店主にここ最近の話題を振ってみせた。
「親父さん、景気はどうかな?」
ここでも情報収集だ。杏寿郎さんは切り出し方が上手い。人の懐にスッと入っていって欲しい情報を抜き出してしまう。
たまに急かしすぎて失敗することもあるけどね。
「どう見えるね」
「悪いな!」
切り裂き魔出没のせいか人手は減り、雇っていた人に暇を出したとのことだ。
まあね。雇っていた人を切るくらいなら、上野に店を構えるどころじゃないよね。
鬼による恐怖や悲しみだけにとどまらず、人々の生活の仕方まで変えてしまう鬼。こんなところにまで影響を残していたとは、早く鬼を倒さないといけない。
汽車の車掌がやられたという話もそうだ。終点に到着した列車内に切り刻まれた遺体。血塗れの車内。そんなの怖くってこのままでは市井の人々が安心して列車に乗れないではないか。
そして極め付けは店主から語られる無限列車運行中止の話だ。
ここまで調べてきて知ってはいた事だが、物騒だなと杏寿郎さんはまるで初耳かのごとく言葉を返して終わった。
いや客じゃない。よく見れば昨日の、青い羽織を着たあの隊士であった。
そういえば、何かあったら鎹烏でやりとり……なんて話が出ていたっけ。
こちらは何もなかったけれど隊士の方では何か得たものがあったのかもしれない。
近くまで来たからとあずまに案内されてここに辿り着いたらしい。うん。要は目印がてらこの店の看板に止まってるからね。
「炎柱、朝緋さん。お食事中失礼します」
「ああ、ここに座るがいい」
「ええ。師範のお向かいにどうぞ」
杏寿郎さんと向かい合うように椅子に座った隊士。柱の前だからだろう、背筋を伸ばして眉毛をきりっとさせてはいるが……ちょっとお疲れ気味なのが机の下に遊ばせている足でわかる。ここから丸見えだよ?
「親父さん、この若者にも同じものを」
「よろしいのですか?」
「勿論だ」
隊士の疲労を杏寿郎さんもわかっているのか否か。おろしそばを隊士のために頼んでいた。
うんうん、疲れるほどに調査してたってことなら、食事摂ってない可能性が高いもんね。
「見たところ貴方もお食事はまだみたいだし遠慮せず食べてください。それに貴重な柱の奢りですよ〜」
「えっ」
言えば、目に見えてわたわたと慌てる隊士。心情的には柱の奢りなんて恐れ多い、かな?
相手が杏寿郎さんだから心配しなくて平気なのに。
「朝緋、君というやつはまた勝手に……まあ奢りなのだがな!
親父さん、俺ももう一杯もらおう!!」
これはおかわりを頼むいいタイミングだ。御相伴に預かろう。
「私もおかわりお願いしまーす」
御相伴などとまた勝手言ってるけど大丈夫。
基本的に二人で食べる時などの食費は炎柱邸で管理する生活費から出しているし、そのお金は食事以外で使うことも少ないからなかなか潤沢だ。
それでも癖で節約してしまうから溜まる一方で。家計簿がいつも黒字である。
「アンタ、気持ちのいい食いっぷりだな。待ってな」
注文が決まったところで、店主が空の器を片しながら嬉しそうに話す。昔気質というかなんというか、無愛想で無口にも見えた店主だが、口元が上がっていた。
まあ、嬉しいよね。笑顔にもなるよね。杏寿郎さん、好かれるに決まってるよねぇ……。
だって杏寿郎さんだもの。ものすごく美味しそうに食べるし量を頼んでも残すことなく綺麗に美味しく食べ切るし。料理人冥利に尽きるよね。
私もいつもそう。たくさん作った食事を本当に美味しそうに食べる姿に、毎回惚れ直す。
お箸で私をくるくると絡め取って、燃えるように熱い舌の上で蕩けるまで転がして。
どこもかしこも食べ尽くして欲しい……。なんて思ってしまう。
あらやだ、まだ夜じゃないのに私ったらまたはしたないこと考えちゃった。
ぽやぽや〜と桃色の考えと戦う私。
そんな私には気が付かず、杏寿郎さん達は昨晩の被害者について会話していた。
見事な働きの杏寿郎さんを褒める隊士。謙遜し女性のその後を心配する杏寿郎さん。
あのあと彼女は鬼殺隊が経営する鬼の被害者専門の療養施設に送られたらしい。あっ蝶屋敷の事じゃないからね?
そこにて呼んだ医師に診てもらったが、医師の見立てでも傷跡は残らないとのことだ。
そうか。この隊士がその後の経過をも見てきてくれたのか。列車の調査もあったろうに大変ありがたいことだ。
あの女性も無事で良かった良かった。
杏寿郎さんもその報告に嬉しそうな声を上げ、そして私を褒めた。
「そうか、処置が早くてよかった!朝緋、君の手柄でもあるぞ!!」
「はい、お二人のご活躍のおかげです」
「んぇ?私なんにもしてないよ?」
鬼の頸とってないし。
鬼殺隊たるもの、鬼の頸をとってこそ。
蕎麦が届いたので会話を中断し、食事に入る。
ご飯は一番美味しいタイミングで食べたいもんね。その機会を逃す時、私は超絶不機嫌になる。
「いただきます」
「いっただっきまーす!」
トン。
「……これは?」
蕎麦を口に運ぼうとすると、蕎麦の他に杏寿郎さんの前へと揚げたてほやほやのかき揚げが置かれた。
んー、匂いからして干した桜海老と牛蒡のかき揚げかな?
桜海老独特の甘く爽やかな磯の香り、牛蒡の力強くも香ばしい香りがここまで漂ってくる。揚げたてで美味しそう〜〜〜。
頼んだ覚えのないものだったため、不思議そうにかき揚げと店主とを見比べる杏寿郎さん。
食べないなら食べてしまいたい。
つゆに浸らせるのもいいけどお塩ちょんちょんサクッと、がいいなぁ。
「俺の奢りだよ」
「っありがたい!」
なんと、杏寿郎さんの気持ちの良い食べ方がいたく気に入ったらしい。
はーー!?杏寿郎さんだけ!?贔屓!
「ずるぅい〜!」
「はっはっはっ!朝緋、君も気持ちの良い食いっぷりになればいい!!」
「あはは、師範ほど気持ちいい食べっぷりになるとか、難しすぎますね〜?」
私達の会話を微笑ましげに見ながら、ずるるる。隊士は蕎麦を啜った。
「あっ。うまい!おやっさん、上野に店出したってやっていけるよこれ!」
それには激しく同意する。上野は今後蕎麦の名店と呼ばれるようになる店がたくさん立ち並ぶ激戦区だ。
何度か食べに行ったけれど、そこに引けを取らないほどここの蕎麦は美味い。この店の存在を嗅ぎ取った杏寿郎さんには感謝だ。
二杯目だからこそより深くその味が理解できる。生粉打ちで仕上げたこの蕎麦、令和の時代ではあまり見かけなくなった本来の意味での十割蕎麦のようで、熱湯の中を絶妙な時間だけ潜らせてからしっかりと冷水で締めており、シンプルながらにとても美味い。蕎麦の味が濃い〜。
蕎麦が潜ったあとの湯は少し水を飛ばして濃縮し、蕎麦湯にしてある。これもまた筒に入れて持ち運びたいほど美味いのだ。
だが、最上級にまとめられた褒め言葉を「大きなお世話」と店主は切り捨ててしまい、新聞を広げ始めてしまった。
そしてそれを見計らい、杏寿郎さんが店主にここ最近の話題を振ってみせた。
「親父さん、景気はどうかな?」
ここでも情報収集だ。杏寿郎さんは切り出し方が上手い。人の懐にスッと入っていって欲しい情報を抜き出してしまう。
たまに急かしすぎて失敗することもあるけどね。
「どう見えるね」
「悪いな!」
切り裂き魔出没のせいか人手は減り、雇っていた人に暇を出したとのことだ。
まあね。雇っていた人を切るくらいなら、上野に店を構えるどころじゃないよね。
鬼による恐怖や悲しみだけにとどまらず、人々の生活の仕方まで変えてしまう鬼。こんなところにまで影響を残していたとは、早く鬼を倒さないといけない。
汽車の車掌がやられたという話もそうだ。終点に到着した列車内に切り刻まれた遺体。血塗れの車内。そんなの怖くってこのままでは市井の人々が安心して列車に乗れないではないか。
そして極め付けは店主から語られる無限列車運行中止の話だ。
ここまで調べてきて知ってはいた事だが、物騒だなと杏寿郎さんはまるで初耳かのごとく言葉を返して終わった。