二周目 漆
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「それにしても尋ね人に行方不明者……物騒な張り紙が多いですね」
鬼の痕跡を探して歩くこと一日。
この地域を中心に鬼の被害が拡大していることがわかった。
ほとんどが沿線上。ならば線路沿いに沿って探すのがいいかもしれない。
途中の掲示板には、どこを見てもこうして悲しくなるお知らせばかりの張り紙が貼っていることだし。同じ張り紙ならどこそこに新しいカフェーができたとか、そういうものの方が幸せな気持ちになるのに。
この張り紙を貼った人たちの気持ちを考えると、胸が締め付けられる。
中には齢十の頃の子供を探す親の紙もあり、涙だろう水分でくしゃくしゃになっているところもある。……涙を流しながら書いたのね。
見ているだけで、鼻につんとしたものが込み上げてきてホント堪らない。
「……ほとんどが無限列車の鬼ですかね」
「うむ、ほぼ鬼の仕業のものだろう。一部は切り裂き魔の鬼のものもあるようだがな」
血塗れで事切れていたという話や、体の一部が欠損している遺体についての情報がそれだろう。犯人を探しているとの張り紙も見てとれた。
逆に神隠しのようにすべて消えているのが、無限列車の鬼、と。
多分切り裂き魔と列車は別の鬼だと杏寿郎さんはすでに気がついていた。さすがは杏寿郎さん。合ってますよー。
それにしたってほんと物騒だなこの沿線。鬼が二匹とか、恐ろしすぎる。
平成や令和の頃のなんて、私が遭遇した電車に関わる事件は痴漢くらいだわ……。
ぐーーーー。
その時ものすごい音が響いた。
「え?」
出どころは杏寿郎さんのお腹。顔を見れば、あらあら。いつもの前をまっすぐ見据える顔のままなのに、色はほんのり赤い。
「すまない!腹が減った!!」
「ぷっ……あはは!緊張感がないですね!
でもお昼も食べず動いてましたし、そろそろお食事にしましょうか」
そう提案すれば目に見えて嬉しそうな顔。うーん、五百点満点の笑み!
それに実をいうと私もお腹がすいている。杏寿郎さんのお腹が鳴らなかったら、そのうち私のお腹が合唱してたはずなくらいで。
「よし、そこの蕎麦屋にしよう!残念なことにそこの蕎麦屋に上の階はなさそうだがな!!」
「上の……なんですって?まあいいやお腹すーいたー」
思考を蕎麦に移行していた私は、杏寿郎さんの言葉の意味をよく聞きもせず、店の扉を引いた。
蕎麦屋の中には空いた席が目立っていた。
そりゃあ、時間的に昼餉には遅く、夕餉には早い時間帯だけど、お客さんちょっと少なすぎないかな。
唯一いる客は、昼間からお酒を飲んでそのまま眠ってしまっている者のみのよう。机にお猪口が転がり、零れた酒が染みを作っている。
お酒かあ。酒に逃げてしまった槇寿朗さんを思い出してしまい、わずかに顔を顰めてしまった。お酒にはいい思い出がない。
とはいえこの店自体は良い店だとわかる。店主は気難しそうに見えて無口なだけだろうし、静かで落ち着いた空間。つい最近まで活気があったように見受けられる。
その時じっと私の方を見ていたらしい杏寿郎さんが。
「おろしそばを頼む!」
と声を発した。
なんで私の顔を見ながら……って、ああ私じゃなくて壁のお品書きを見ていただけか。
やだもう私ったら恥ずかしい。この人と所謂恋仲になってからこっち、なんというか自意識過剰気味になっている気がする。杏寿郎さんの顔がいつも私に向けられてるように思えてならない。
食事どころといえど今は任務中、桃色の考えしてないでしっかりしなくちゃ。
店主の顔も私を向いていたのに気がついた。あ、注文ね。
「私にも同じものをお願いします」
無言のまま頷き、店主は調理作業に入った。
私達も席に着こうと椅子を引く。私は杏寿郎さんの向かいではなく隣側に自然と腰掛けた。その際、中央にあったお箸入れをずらすのは忘れない。
「向かいじゃないのか?」
「ここならお蕎麦を作るところじっくり見られるので」
「君は食べるのも好きだが料理するのも好きだからな。
そして俺は君を床の間で料理するのが好……むぐっ」
「はいお茶でーーーす」
私と一緒にいる時限定だが、最近の炎柱さまさまは色柱になることが多すぎる。
けれどここは食事する場所であって、そういう話をする場所ではないのだ。私はほどよいタイミングで届けられたお茶を、その口に押しつけた。
おろしそばはとても美味しかった。添えられた蕎麦湯も美味しい。
杏寿郎さんもさっきからただひたすら「うまい!うまい!うまい!」と、うまいボイス製造機と化している。
その美味いボイス製造機、言い値で買おう。
器の中に残った蕎麦の汁に混ぜて飲めば、汁の鰹出汁と醤油の塩気がほどよい塩梅に変わり、蕎麦湯の熱さが加わっていくらでも飲めてしまいそう。
澱のように溜まった部分には掬いきれなかった葱とおろし大根も加わり、風味豊かでもう一杯食べたくなる美味しさ。
後で喉が乾くまでが流れなんだけどそれもまた醍醐味なのよねぇ。
ほんのちょっぴりだけやげん堀りの七色を加えて食べて飲めば、お腹の中からほこほこと温まる……。ぷはー。
美味しいからもう一杯食べようかな。そう思いながら、うまいうまい言っている杏寿郎さんを見やる。相変わらずいつ見てもいい食べっぷりだなぁ。
ちなみに杏寿郎さん、ただいまおろしそば三杯目。
「うまいっ!!」
おつゆまですっかり飲み干した杏寿郎さんが、頬を上気させて器を置く。徐々に満たされる胃袋に目がキラキラしていく。キラキラの目と、差し込んでくる夕陽の光が合わさってとても綺麗だった。
鬼の痕跡を探して歩くこと一日。
この地域を中心に鬼の被害が拡大していることがわかった。
ほとんどが沿線上。ならば線路沿いに沿って探すのがいいかもしれない。
途中の掲示板には、どこを見てもこうして悲しくなるお知らせばかりの張り紙が貼っていることだし。同じ張り紙ならどこそこに新しいカフェーができたとか、そういうものの方が幸せな気持ちになるのに。
この張り紙を貼った人たちの気持ちを考えると、胸が締め付けられる。
中には齢十の頃の子供を探す親の紙もあり、涙だろう水分でくしゃくしゃになっているところもある。……涙を流しながら書いたのね。
見ているだけで、鼻につんとしたものが込み上げてきてホント堪らない。
「……ほとんどが無限列車の鬼ですかね」
「うむ、ほぼ鬼の仕業のものだろう。一部は切り裂き魔の鬼のものもあるようだがな」
血塗れで事切れていたという話や、体の一部が欠損している遺体についての情報がそれだろう。犯人を探しているとの張り紙も見てとれた。
逆に神隠しのようにすべて消えているのが、無限列車の鬼、と。
多分切り裂き魔と列車は別の鬼だと杏寿郎さんはすでに気がついていた。さすがは杏寿郎さん。合ってますよー。
それにしたってほんと物騒だなこの沿線。鬼が二匹とか、恐ろしすぎる。
平成や令和の頃のなんて、私が遭遇した電車に関わる事件は痴漢くらいだわ……。
ぐーーーー。
その時ものすごい音が響いた。
「え?」
出どころは杏寿郎さんのお腹。顔を見れば、あらあら。いつもの前をまっすぐ見据える顔のままなのに、色はほんのり赤い。
「すまない!腹が減った!!」
「ぷっ……あはは!緊張感がないですね!
でもお昼も食べず動いてましたし、そろそろお食事にしましょうか」
そう提案すれば目に見えて嬉しそうな顔。うーん、五百点満点の笑み!
それに実をいうと私もお腹がすいている。杏寿郎さんのお腹が鳴らなかったら、そのうち私のお腹が合唱してたはずなくらいで。
「よし、そこの蕎麦屋にしよう!残念なことにそこの蕎麦屋に上の階はなさそうだがな!!」
「上の……なんですって?まあいいやお腹すーいたー」
思考を蕎麦に移行していた私は、杏寿郎さんの言葉の意味をよく聞きもせず、店の扉を引いた。
蕎麦屋の中には空いた席が目立っていた。
そりゃあ、時間的に昼餉には遅く、夕餉には早い時間帯だけど、お客さんちょっと少なすぎないかな。
唯一いる客は、昼間からお酒を飲んでそのまま眠ってしまっている者のみのよう。机にお猪口が転がり、零れた酒が染みを作っている。
お酒かあ。酒に逃げてしまった槇寿朗さんを思い出してしまい、わずかに顔を顰めてしまった。お酒にはいい思い出がない。
とはいえこの店自体は良い店だとわかる。店主は気難しそうに見えて無口なだけだろうし、静かで落ち着いた空間。つい最近まで活気があったように見受けられる。
その時じっと私の方を見ていたらしい杏寿郎さんが。
「おろしそばを頼む!」
と声を発した。
なんで私の顔を見ながら……って、ああ私じゃなくて壁のお品書きを見ていただけか。
やだもう私ったら恥ずかしい。この人と所謂恋仲になってからこっち、なんというか自意識過剰気味になっている気がする。杏寿郎さんの顔がいつも私に向けられてるように思えてならない。
食事どころといえど今は任務中、桃色の考えしてないでしっかりしなくちゃ。
店主の顔も私を向いていたのに気がついた。あ、注文ね。
「私にも同じものをお願いします」
無言のまま頷き、店主は調理作業に入った。
私達も席に着こうと椅子を引く。私は杏寿郎さんの向かいではなく隣側に自然と腰掛けた。その際、中央にあったお箸入れをずらすのは忘れない。
「向かいじゃないのか?」
「ここならお蕎麦を作るところじっくり見られるので」
「君は食べるのも好きだが料理するのも好きだからな。
そして俺は君を床の間で料理するのが好……むぐっ」
「はいお茶でーーーす」
私と一緒にいる時限定だが、最近の炎柱さまさまは色柱になることが多すぎる。
けれどここは食事する場所であって、そういう話をする場所ではないのだ。私はほどよいタイミングで届けられたお茶を、その口に押しつけた。
おろしそばはとても美味しかった。添えられた蕎麦湯も美味しい。
杏寿郎さんもさっきからただひたすら「うまい!うまい!うまい!」と、うまいボイス製造機と化している。
その美味いボイス製造機、言い値で買おう。
器の中に残った蕎麦の汁に混ぜて飲めば、汁の鰹出汁と醤油の塩気がほどよい塩梅に変わり、蕎麦湯の熱さが加わっていくらでも飲めてしまいそう。
澱のように溜まった部分には掬いきれなかった葱とおろし大根も加わり、風味豊かでもう一杯食べたくなる美味しさ。
後で喉が乾くまでが流れなんだけどそれもまた醍醐味なのよねぇ。
ほんのちょっぴりだけやげん堀りの七色を加えて食べて飲めば、お腹の中からほこほこと温まる……。ぷはー。
美味しいからもう一杯食べようかな。そう思いながら、うまいうまい言っている杏寿郎さんを見やる。相変わらずいつ見てもいい食べっぷりだなぁ。
ちなみに杏寿郎さん、ただいまおろしそば三杯目。
「うまいっ!!」
おつゆまですっかり飲み干した杏寿郎さんが、頬を上気させて器を置く。徐々に満たされる胃袋に目がキラキラしていく。キラキラの目と、差し込んでくる夕陽の光が合わさってとても綺麗だった。