二周目 漆
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
初めから無限列車の元へ向かうと思われた任務だったが、私達は向かった先で肩透かしを喰らってしまった。
周辺に無限列車とは別の鬼の情報がちらほらと点在していたのである。
切り裂き魔などと呼ばれているそれは、『前回』には聞き覚えなかった鬼のこと。まさか、ほぼ同じ地域でのことだったとは思いもしなかった。
これでまた、異なる未来に不安を覚えた。いや、考え方によっては光明が差したとも言えよう。
それにしても当の鬼がなかなか尻尾を出さない。大抵の場合、調査していればすぐに鬼にたどり着く。鬼の主食は人間であり夜にしか現れないのだから、それは当然のこと。
腹が減ればふらふらと出てくる。
だが今回の鬼は、『逃げ足が早い』。その一言に限る。
そうして迎えた夜。
「きゃああああっ!」
鬼の気配を感じて見回りをしている時のことだった。ここから一里ほどだろう、少しだけ離れた場所から女性の叫び声が聞こえた。
報告を受けるのに落ち合う予定だった隠とともに駆けつけた現場には、血塗れで倒れる女性がいた。
「!!」
場の警戒を強め駆け寄る。
微かだけど、小さく呼吸が聞こえる。胸も上下している。
……ああ、よかった!まだ生きている!この人生きてる!!
切り傷だらけだが、見た目ほどさほど傷も深くない。
医療の心得のある隠の隊士に任せて診せれば、痕も残らないだろうとの言葉をもらえた。顔も傷付けられているし、痕が残らないなら何よりだわ。
隠達が担架で彼女を運ぶ姿を見送り、刀に手を添えたままあたりを探っている杏寿郎さんへと報告する。
「師範、女性は無事です。医療班に任せました」
「そうか、それならば良かった。……残念なことに鬼はもういないようだがな」
鬼の気配は今も色濃い。だが、もうすでにこの場を去った後のようだった。
今宵はもう出てこないだろうな、とは杏寿郎さんの判断だ。柱が言うのだから確かだろう。
「鬼は私達に気がついて逃げたんでしょうか?」
「どうだろうな。それにしては逃走が早すぎる気がしてならない」
跳躍し、通りの先まで鬼の逃走ルートなどを探してみる。見事に何もないなぁ。現場以外には血の一滴すら残っていない。
「鬼はどこに……っ!は、柱!?」
おや、誰か来たようだ。
鬼を追っていた隊士かしら。杏寿郎さんが見知らぬ隊士と話をしている。
場に残った鬼の痕跡を探しながら、私はゆるりと杏寿郎さんの方へ戻り始めた。
「君は……合同任務の隊士か?」
「到着が遅れて申し訳ありません!他の任務に出ていました!遅れた責は何か自分に課せられるのでしょうか?」
見ればびくびくしながら頭を下げている。
あー、これが風柱の不死川さんとかなら、ちびりそうになるほど怖いもんね。柱怖いを一般隊士に植え付けたのってあの辺が筆頭だと思うもの。え?単体の杏寿郎さんも怖い?そんなまさかー。
「うむ!他の任務ならば致し方無し!正直に言った君に責はないな!」
「良かったぁ……ありがとうございます。
それにしてもまさか合同任務に柱の方がいるとは……」
「ここは俺の管轄区域だからな。柱である俺が出てくることもある」
もしここが炎柱の管轄区域でなかったら。風柱や蛇柱の管轄なら……本当に恐ろしかったね。
「数名の隊士がやられたとの話は聞いているはずだ。君はそれの調査任務だろう?俺達はそれの討伐が任務だからな、一般隊士が敵わなかった相手なら柱が出てくるのは当然だ」
「切り裂き魔……たくさんの人間を食った鬼が相手と聞き、身が引き締まる思いです。ん?……俺達?」
その時になって私は暗がりからガス灯の下へ出た。
ぺこりと小さく頭を下げて見上げた先。顔立ちの可愛らしい、けれど隊士らしく凛々しい男性隊士がこちらを見ていた。
「あ、えっと貴女はもしかして炎柱継子の?」
「煉獄朝緋です。今回、炎柱である師範とともに任務に当たっています」
私を見てわずかに顔を赤くしてるのは、やっぱりこのスカートから出てる足が理由だろうなあ。
スカート短いよねぇ。動きやすいからいいけど。
やー、それにしても同じ区域担当の隊士にこんなかわいい感じの男の子がいるとは。いや、私と同じ歳か上かくらいの歳かな。男の子じゃないわ。男性だわ。
というか任務内容は少々違うみたいだけど、名目上は合同任務なのね。知らなかった。
あずまに聞いたら「任務内容ノ文ヲ最後マデ読マナカッタノハ朝緋チャンヨ!」と言われてしまった。
あの時はそういう状態じゃなかったのよ……うん……申し訳ない……。
しかし切り裂き魔の鬼とは。ここは十九世紀イギリスじゃないんだけどなぁ。
日本だから切り裂きジャックというか、赤マントかな?ん?あれ都市伝説だっけ?
「うーむ。列車本体の方も気になるな。どうなっていただろうか」
「んー。新聞でも大きく取り上げられているようですし、廃車では?」
廃車では、というか廃車でいいと思ってる。どこに巣食ってるか分からないから、太陽の下で列車を木っ端微塵に爆破させて壊そうよしそうしよう。そうと決まれば宇髄さんに火薬やら爆発物をもらってこよう。
はい無限列車編ッ完ッ!!……駄目?
「市井の人々に引き続き隊士もが行方不明になってますし、確実に強い鬼の本拠地の可能性があります。列車本体の調査は急ぎがんばります!」
「ああ、任せた!」
下弦の壱の力が本当に強いのかそうでないのかは終ぞ知ることはなかったけど、隊士の数も含めると、すでに五十近くの人間を食っている計算になる。
あのウネウネ蚯蚓の下弦の壱……今でも思い出すだけで鳥肌が立つッ!
「む、どうした朝緋。寒そうだ!生足が出てるから冷えるのではないか?」
「師範それセクハラ」
「セク……?なんだかわからんが体は大事にしろよ!」
するりと足を撫でようとしてきた杏寿郎さんの手を、セクハラ滅ぶべしの呼吸壱ノ型で叩き落とす。
……叩かれたのになんで嬉しそうなんだろう。
私に向けたにこにこ笑顔から一変、隊士に真剣な顔を向ける杏寿郎さん。
「では君!列車についての下調べは任せたぞ。俺達はこの周辺で引き続き、鬼の痕跡を調べる。詳細は鎹烏にて追って知らせよう!」
「わかりました。ではそのように」
そう言い合ったあと、隊士は走り去っていった。下弦の壱は今夜出てこないとは思ってるけど、今は鬼の時間……夜半すぎだからね。調査とはいえ気をつけてほしいものだ。
「朝緋、切り裂き魔の鬼……討つぞ」
「ええ」
私と杏寿郎さんに向かって一陣の風が吹いた。
「ところで急く腹 というのはなんだ?
下腹部が疼いて急いているということか?俺は君を見ているとそうなることが多いがな」
「そういう話がセクハラなんですよ!!」
もう一度私のセクハラ滅ぶべしの呼吸が火を吹いた。
周辺に無限列車とは別の鬼の情報がちらほらと点在していたのである。
切り裂き魔などと呼ばれているそれは、『前回』には聞き覚えなかった鬼のこと。まさか、ほぼ同じ地域でのことだったとは思いもしなかった。
これでまた、異なる未来に不安を覚えた。いや、考え方によっては光明が差したとも言えよう。
それにしても当の鬼がなかなか尻尾を出さない。大抵の場合、調査していればすぐに鬼にたどり着く。鬼の主食は人間であり夜にしか現れないのだから、それは当然のこと。
腹が減ればふらふらと出てくる。
だが今回の鬼は、『逃げ足が早い』。その一言に限る。
そうして迎えた夜。
「きゃああああっ!」
鬼の気配を感じて見回りをしている時のことだった。ここから一里ほどだろう、少しだけ離れた場所から女性の叫び声が聞こえた。
報告を受けるのに落ち合う予定だった隠とともに駆けつけた現場には、血塗れで倒れる女性がいた。
「!!」
場の警戒を強め駆け寄る。
微かだけど、小さく呼吸が聞こえる。胸も上下している。
……ああ、よかった!まだ生きている!この人生きてる!!
切り傷だらけだが、見た目ほどさほど傷も深くない。
医療の心得のある隠の隊士に任せて診せれば、痕も残らないだろうとの言葉をもらえた。顔も傷付けられているし、痕が残らないなら何よりだわ。
隠達が担架で彼女を運ぶ姿を見送り、刀に手を添えたままあたりを探っている杏寿郎さんへと報告する。
「師範、女性は無事です。医療班に任せました」
「そうか、それならば良かった。……残念なことに鬼はもういないようだがな」
鬼の気配は今も色濃い。だが、もうすでにこの場を去った後のようだった。
今宵はもう出てこないだろうな、とは杏寿郎さんの判断だ。柱が言うのだから確かだろう。
「鬼は私達に気がついて逃げたんでしょうか?」
「どうだろうな。それにしては逃走が早すぎる気がしてならない」
跳躍し、通りの先まで鬼の逃走ルートなどを探してみる。見事に何もないなぁ。現場以外には血の一滴すら残っていない。
「鬼はどこに……っ!は、柱!?」
おや、誰か来たようだ。
鬼を追っていた隊士かしら。杏寿郎さんが見知らぬ隊士と話をしている。
場に残った鬼の痕跡を探しながら、私はゆるりと杏寿郎さんの方へ戻り始めた。
「君は……合同任務の隊士か?」
「到着が遅れて申し訳ありません!他の任務に出ていました!遅れた責は何か自分に課せられるのでしょうか?」
見ればびくびくしながら頭を下げている。
あー、これが風柱の不死川さんとかなら、ちびりそうになるほど怖いもんね。柱怖いを一般隊士に植え付けたのってあの辺が筆頭だと思うもの。え?単体の杏寿郎さんも怖い?そんなまさかー。
「うむ!他の任務ならば致し方無し!正直に言った君に責はないな!」
「良かったぁ……ありがとうございます。
それにしてもまさか合同任務に柱の方がいるとは……」
「ここは俺の管轄区域だからな。柱である俺が出てくることもある」
もしここが炎柱の管轄区域でなかったら。風柱や蛇柱の管轄なら……本当に恐ろしかったね。
「数名の隊士がやられたとの話は聞いているはずだ。君はそれの調査任務だろう?俺達はそれの討伐が任務だからな、一般隊士が敵わなかった相手なら柱が出てくるのは当然だ」
「切り裂き魔……たくさんの人間を食った鬼が相手と聞き、身が引き締まる思いです。ん?……俺達?」
その時になって私は暗がりからガス灯の下へ出た。
ぺこりと小さく頭を下げて見上げた先。顔立ちの可愛らしい、けれど隊士らしく凛々しい男性隊士がこちらを見ていた。
「あ、えっと貴女はもしかして炎柱継子の?」
「煉獄朝緋です。今回、炎柱である師範とともに任務に当たっています」
私を見てわずかに顔を赤くしてるのは、やっぱりこのスカートから出てる足が理由だろうなあ。
スカート短いよねぇ。動きやすいからいいけど。
やー、それにしても同じ区域担当の隊士にこんなかわいい感じの男の子がいるとは。いや、私と同じ歳か上かくらいの歳かな。男の子じゃないわ。男性だわ。
というか任務内容は少々違うみたいだけど、名目上は合同任務なのね。知らなかった。
あずまに聞いたら「任務内容ノ文ヲ最後マデ読マナカッタノハ朝緋チャンヨ!」と言われてしまった。
あの時はそういう状態じゃなかったのよ……うん……申し訳ない……。
しかし切り裂き魔の鬼とは。ここは十九世紀イギリスじゃないんだけどなぁ。
日本だから切り裂きジャックというか、赤マントかな?ん?あれ都市伝説だっけ?
「うーむ。列車本体の方も気になるな。どうなっていただろうか」
「んー。新聞でも大きく取り上げられているようですし、廃車では?」
廃車では、というか廃車でいいと思ってる。どこに巣食ってるか分からないから、太陽の下で列車を木っ端微塵に爆破させて壊そうよしそうしよう。そうと決まれば宇髄さんに火薬やら爆発物をもらってこよう。
はい無限列車編ッ完ッ!!……駄目?
「市井の人々に引き続き隊士もが行方不明になってますし、確実に強い鬼の本拠地の可能性があります。列車本体の調査は急ぎがんばります!」
「ああ、任せた!」
下弦の壱の力が本当に強いのかそうでないのかは終ぞ知ることはなかったけど、隊士の数も含めると、すでに五十近くの人間を食っている計算になる。
あのウネウネ蚯蚓の下弦の壱……今でも思い出すだけで鳥肌が立つッ!
「む、どうした朝緋。寒そうだ!生足が出てるから冷えるのではないか?」
「師範それセクハラ」
「セク……?なんだかわからんが体は大事にしろよ!」
するりと足を撫でようとしてきた杏寿郎さんの手を、セクハラ滅ぶべしの呼吸壱ノ型で叩き落とす。
……叩かれたのになんで嬉しそうなんだろう。
私に向けたにこにこ笑顔から一変、隊士に真剣な顔を向ける杏寿郎さん。
「では君!列車についての下調べは任せたぞ。俺達はこの周辺で引き続き、鬼の痕跡を調べる。詳細は鎹烏にて追って知らせよう!」
「わかりました。ではそのように」
そう言い合ったあと、隊士は走り去っていった。下弦の壱は今夜出てこないとは思ってるけど、今は鬼の時間……夜半すぎだからね。調査とはいえ気をつけてほしいものだ。
「朝緋、切り裂き魔の鬼……討つぞ」
「ええ」
私と杏寿郎さんに向かって一陣の風が吹いた。
「ところで
下腹部が疼いて急いているということか?俺は君を見ているとそうなることが多いがな」
「そういう話がセクハラなんですよ!!」
もう一度私のセクハラ滅ぶべしの呼吸が火を吹いた。