二周目 漆
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どっどっどっ。
心臓が破けそうに早鐘を打つ。鼓動が脳にまで影響して頭痛までしてくる。
眠りながら涙が出ていたのだろう、頭の背にしていた枕はぺしょぺしょになっていた。
布団もかけて眠っていたはずなのに、体も芯まで冷えていた。全集中の呼吸は使えているのに、冷えるなんて……。
起き上がれば今もなお瞼の裏に残る光景。赤い色。貴方から流れた鉄錆と、戦場に舞う埃の匂いまでも鮮明な気がする。
沸き起こる鬼への憎しみ、そして深い深い悲しみも薄れやしない。
『前』はどうやってこの夢を乗り越えたんだっけ?
もう遠い昔のようででも、最近の出来事のようで。上手く思い出すことができない。
私の心は追い詰められていた。
でもこの世界には杏寿郎さんがいる。まだ生きてる。
今ならまだ止められる。止めたい。
いって欲しくない。
私は夢遊病患者のようにふわふわ揺れながら立ち上がり、ふらりと移動。隣の部屋への襖を開けた。
「む。朝緋か……。夜明けはまだ遠いぞ?」
その時の私は周りの事を考える余裕はなく、もちろん目の前の大好きな杏寿郎さんを確認する余裕すらなかった。
杏寿郎さんは私が襖に手をかけただけの少しの振動で即起きたようだ。さすがは鬼殺隊の柱である。
「杏寿郎さん。お願いだから、いかないで……」
部屋へと入り込み杏寿郎さんが眠っていた布団へとふらふら近づく。
まだちゃんとここにいる杏寿郎さん。彼を失いたくなくて、ここに繋ぎ止めたくて。いることを直接確認したくって。
この手を杏寿郎さんへゆっくりと伸ばす。
「……朝緋?様子がおかしいようだが、『いかないで』?
俺はどこにも行かない。ここにいるよ」
笑って答えてくれたけれど、今の私の体はどこまでも身勝手で心のまま動いてしまう。その身をするり、杏寿郎さんの布団へと潜り込ませてしまった。
「朝緋っ!?
……いや、体が冷たいな、こんなに冷えて。おや、涙も流したろう?変な夢でも見たのか?」
驚きつつも、杏寿郎さんは私を布団の中に受け入れようと隙間を開けてくれた。
私の冷えた足が御自身の足に触れたのだろう、突然の冷たさに身体がぴくりと反応している。
「ほら、もっと近くにおいで」
私を招き入れて腕の中にすっぽりと抱え込んでくれる、安心できる大きな身体。
ああ、指で杏寿郎さんの顔に触れて初めて、貴方の存在をこの世に確認できた。
ほっとした。冷えていた心臓にやっと血が通う気分だ。
「俺の顔が触りたかったなら、好きにするといい。だがどうしたんだ?」
ふにふに。私の手に頬をされるがまま好き勝手されて怒ることもせず止めもせず。
ただただ私を心配してくれる杏寿郎さん。
「私……弱くてごめんなさい。
私には力が足りない。どんなに頑張っても鬼に敵わなくて、弱くって……」
胸の内を吐露し、涙を溢しそうになった。済んでのところでその涙は引っ込めたが。
「??甲まで階級を上げておいて、弱いはないだろうに。
君は強い子だ。俺が鍛えたんだから君の強さはわかる。朝緋の強さは俺が保証する」
「でもまだ足りないんです。
もっともっと、もっと強くならなきゃ……」
「…………何かあったのか。よもや前の任務で、市井の人を救えなかった?」
全てを救えるわけじゃない。
人々の命はいつだって鬼に理不尽にも奪われる。この手のひらに掬い取って乗せてみても、まるで水のように指の間から流れ落ちていく。
それは柱でも一緒で。
杏寿郎さんも私も救えなかった命を前に、いつだって悔しい思いをしている。
けれど今私が身を案じているのは、貴方の事なの。
「朝緋。人の死に慣れろとは言わん。救えなかった命を忘れろとも言わん。
だが、君は救えなかった人以上に鬼から人を救っている。君がいなくては助からなかった命もある!
そのことをゆめゆめ忘れるな」
「違う、違うの……」
そうじゃない。私は貴方の死がこわい。
また貴方を失うかもしれない。私が強ければそんなことにはならないのに、私が弱いせいで貴方を助けられない。
そんな未来が来てしまったらどうしよう。
それを思うと、恐ろしくてたまらない。悔しくて苦しくて憎くて、そして悲しくてこの身が張り裂けそう。
「なーに、君はよくやっている。
俺がこうしてあたためてやる。そばにいるから眠りなさい。
隣に俺がいるんだぞ?嫌な夢なぞ見せないと誓おう!」
冷たい足に熱を移すよう、抱き込むように足が絡んできた。次いで背中を優しく叩かれる。
そこにいやらしさなど全くなく、まるで湯たんぽだ。幼い時によく杏寿郎さんとこうして眠っていたことを思い出す。
特に寒い日は添い寝してもらっていたっけ。杏寿郎さんは体温が高めだからあたたかい。
「ん、あたたかい……。
杏寿郎さん。私をずっと、貴方のおそばにおいてください」
「うん?当たり前だろう。今更嫌がっても離しはしない……」
互いの唇が重なった。
「ン……ぁ、はぁ……、」
「…………、んん、朝緋……、もっとしていいか……?君を食べたい」
「どうぞ、杏寿郎さんの思うままに召し上がってください…………」
これが初めてではないけれど、熱くて厚い杏寿郎さんの唇に覆われると私の中にも火が灯る。
燃えるように熱くて蕩けそうに気持ちよくて……。
全く、現金なものだ。
自身の力が足りないことにあんなに絶望していたのに、杏寿郎さんからのキス一つでこんなにも元気が出るだなんて。
そうだ。
自身が弱くて力が足りなければ何度でもこの刃を振り下ろして斬ればいい。今までだってそうしてきた。
鍛錬に鍛錬を重ね続けて、私は私の剣技を磨き続けてきたではないか。絶望しても幾度となく立ち上がってきたのが私。
そして夢は夢で、現実じゃない。始まってもいない任務のことをくよくよ悩んでいてもしょうがない。どんなことになろうと出る鬼は屠るまで。
それに、もしかしたら上弦の参なんて出現しないかもしれないよね?
と、そこまで考えて止めた。
……奴は来る。運命に導かれるが如く、確実にあの場所へ来ると何故だかそう思えた。
だけど、今度こそ悪い夢は見なかった。
心臓が破けそうに早鐘を打つ。鼓動が脳にまで影響して頭痛までしてくる。
眠りながら涙が出ていたのだろう、頭の背にしていた枕はぺしょぺしょになっていた。
布団もかけて眠っていたはずなのに、体も芯まで冷えていた。全集中の呼吸は使えているのに、冷えるなんて……。
起き上がれば今もなお瞼の裏に残る光景。赤い色。貴方から流れた鉄錆と、戦場に舞う埃の匂いまでも鮮明な気がする。
沸き起こる鬼への憎しみ、そして深い深い悲しみも薄れやしない。
『前』はどうやってこの夢を乗り越えたんだっけ?
もう遠い昔のようででも、最近の出来事のようで。上手く思い出すことができない。
私の心は追い詰められていた。
でもこの世界には杏寿郎さんがいる。まだ生きてる。
今ならまだ止められる。止めたい。
いって欲しくない。
私は夢遊病患者のようにふわふわ揺れながら立ち上がり、ふらりと移動。隣の部屋への襖を開けた。
「む。朝緋か……。夜明けはまだ遠いぞ?」
その時の私は周りの事を考える余裕はなく、もちろん目の前の大好きな杏寿郎さんを確認する余裕すらなかった。
杏寿郎さんは私が襖に手をかけただけの少しの振動で即起きたようだ。さすがは鬼殺隊の柱である。
「杏寿郎さん。お願いだから、いかないで……」
部屋へと入り込み杏寿郎さんが眠っていた布団へとふらふら近づく。
まだちゃんとここにいる杏寿郎さん。彼を失いたくなくて、ここに繋ぎ止めたくて。いることを直接確認したくって。
この手を杏寿郎さんへゆっくりと伸ばす。
「……朝緋?様子がおかしいようだが、『いかないで』?
俺はどこにも行かない。ここにいるよ」
笑って答えてくれたけれど、今の私の体はどこまでも身勝手で心のまま動いてしまう。その身をするり、杏寿郎さんの布団へと潜り込ませてしまった。
「朝緋っ!?
……いや、体が冷たいな、こんなに冷えて。おや、涙も流したろう?変な夢でも見たのか?」
驚きつつも、杏寿郎さんは私を布団の中に受け入れようと隙間を開けてくれた。
私の冷えた足が御自身の足に触れたのだろう、突然の冷たさに身体がぴくりと反応している。
「ほら、もっと近くにおいで」
私を招き入れて腕の中にすっぽりと抱え込んでくれる、安心できる大きな身体。
ああ、指で杏寿郎さんの顔に触れて初めて、貴方の存在をこの世に確認できた。
ほっとした。冷えていた心臓にやっと血が通う気分だ。
「俺の顔が触りたかったなら、好きにするといい。だがどうしたんだ?」
ふにふに。私の手に頬をされるがまま好き勝手されて怒ることもせず止めもせず。
ただただ私を心配してくれる杏寿郎さん。
「私……弱くてごめんなさい。
私には力が足りない。どんなに頑張っても鬼に敵わなくて、弱くって……」
胸の内を吐露し、涙を溢しそうになった。済んでのところでその涙は引っ込めたが。
「??甲まで階級を上げておいて、弱いはないだろうに。
君は強い子だ。俺が鍛えたんだから君の強さはわかる。朝緋の強さは俺が保証する」
「でもまだ足りないんです。
もっともっと、もっと強くならなきゃ……」
「…………何かあったのか。よもや前の任務で、市井の人を救えなかった?」
全てを救えるわけじゃない。
人々の命はいつだって鬼に理不尽にも奪われる。この手のひらに掬い取って乗せてみても、まるで水のように指の間から流れ落ちていく。
それは柱でも一緒で。
杏寿郎さんも私も救えなかった命を前に、いつだって悔しい思いをしている。
けれど今私が身を案じているのは、貴方の事なの。
「朝緋。人の死に慣れろとは言わん。救えなかった命を忘れろとも言わん。
だが、君は救えなかった人以上に鬼から人を救っている。君がいなくては助からなかった命もある!
そのことをゆめゆめ忘れるな」
「違う、違うの……」
そうじゃない。私は貴方の死がこわい。
また貴方を失うかもしれない。私が強ければそんなことにはならないのに、私が弱いせいで貴方を助けられない。
そんな未来が来てしまったらどうしよう。
それを思うと、恐ろしくてたまらない。悔しくて苦しくて憎くて、そして悲しくてこの身が張り裂けそう。
「なーに、君はよくやっている。
俺がこうしてあたためてやる。そばにいるから眠りなさい。
隣に俺がいるんだぞ?嫌な夢なぞ見せないと誓おう!」
冷たい足に熱を移すよう、抱き込むように足が絡んできた。次いで背中を優しく叩かれる。
そこにいやらしさなど全くなく、まるで湯たんぽだ。幼い時によく杏寿郎さんとこうして眠っていたことを思い出す。
特に寒い日は添い寝してもらっていたっけ。杏寿郎さんは体温が高めだからあたたかい。
「ん、あたたかい……。
杏寿郎さん。私をずっと、貴方のおそばにおいてください」
「うん?当たり前だろう。今更嫌がっても離しはしない……」
互いの唇が重なった。
「ン……ぁ、はぁ……、」
「…………、んん、朝緋……、もっとしていいか……?君を食べたい」
「どうぞ、杏寿郎さんの思うままに召し上がってください…………」
これが初めてではないけれど、熱くて厚い杏寿郎さんの唇に覆われると私の中にも火が灯る。
燃えるように熱くて蕩けそうに気持ちよくて……。
全く、現金なものだ。
自身の力が足りないことにあんなに絶望していたのに、杏寿郎さんからのキス一つでこんなにも元気が出るだなんて。
そうだ。
自身が弱くて力が足りなければ何度でもこの刃を振り下ろして斬ればいい。今までだってそうしてきた。
鍛錬に鍛錬を重ね続けて、私は私の剣技を磨き続けてきたではないか。絶望しても幾度となく立ち上がってきたのが私。
そして夢は夢で、現実じゃない。始まってもいない任務のことをくよくよ悩んでいてもしょうがない。どんなことになろうと出る鬼は屠るまで。
それに、もしかしたら上弦の参なんて出現しないかもしれないよね?
と、そこまで考えて止めた。
……奴は来る。運命に導かれるが如く、確実にあの場所へ来ると何故だかそう思えた。
だけど、今度こそ悪い夢は見なかった。