二周目 陸
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炎柱邸にはすぐに到着した。
全集中の呼吸を使い、柱の全力を持ってすれば、山一つ谷一つなど大した距離でもない。
今回の鬼殺は合同任務が主だったもので、予定していた内容さえ終われば強くもない鬼の頸をぽとりと落とすのみ。問題のある隊士もなく、比較的早くに終わった。
あー、問題といえば朝緋に懸想した隊士がいたということか。だがもう解決した!満足満足。
しかしやはり夜は冷える。
俺が火を扱うのは禁止なので朝緋に火を起こしてもらい、火鉢に炭をくべる。
なかなか温まらない室内で、ぴったりとくっついたまま爆ぜる炭の赤を見つめる。
「ううむ、なかなか温まらんな!」
「そりゃ火鉢だけじゃ寒いでしょうね。湯を沸かすので湯浴みされますか?」
「いや!いい!!」
「そ」
距離なき空間で触れ合うと例えそれが露出した腕の端だろうとも、鋼の精神で鍛えた心が乱されそうでたまらない。ましてや湯浴みの話だと?不埒な想像させるのはやめてくれ!
呼吸だけは乱さぬよう、俺は柱だという暗示で耐え抜く。
ふと、朝緋が炎柱邸に初めて来た時のことを思い出した。
今とどこか似た状況だが、その場所が違う。ついでに部屋の中に要とあずまがいることも違うか。
たしかあの時は厨で二人きり。身を寄せ合って白湯を傾けたな……懐かしい。
そこまで昔というわけでもないのに、遠い昔のことのように感じる。
だが朝緋も俺も、この一年ほどで確実に大人になった。
朝緋の背は……あまり伸びていなさそうだが、剣術や呼吸以外にも成長したところもあるようだ。どこがとは言わんが。
「話がある」
「そういえば、そう言ってましたよね」
あふ、と欠伸を噛み殺しながら朝緋が間延びした声を出す。
話の内容ゆえ途中でのらりくらりかわされ逃げられぬよう、出入りの襖付近側に座り直し静かに問う。もちろん、朝緋のぴったり真横につくのは忘れない。
「好きな相手がいるのは本当なのだろうか」
「……、…………いますよ」
動揺で一瞬呼吸と脈が乱れたな。眠気も吹き飛んだようで、目がぱちりと開いた。
「今一度聞く。あの青年ではなかろうな?」
「……それは違います。
けど、あの隊士も言ってましたが、私の色恋如きをどうしてそこまで気にするの……?継子だから?」
「如きでもない。継子だからというのも関係ない」
どうしてだと?そんなもの俺の目を見たらわかるはずだ。朝緋へと向けた劣情孕むこの目を。
だが、朝緋は赤く色づく火鉢の炭から目を離さなかった。見るのが怖いのか、こちらを見てくれない。
その唇奪ってこちらに視線を向かせてやろうか?
「君ならばもっと上手く断れたはずだ。なのにどうして、相手に期待を持たせるようなことをした」
「そんなつもりはありません。
ただ……あの隊士は、私を認めてくれたから。ちょっと絆されたというか。友人にならなれるかと思って」
甘い!甘いな。その考えではそうやって油断したところを、蕎麦屋の二階にでも連れて行かれてぺろりと食べられてしまう!
鬼に食われるのと同じように!!
「いくら鬼殺隊という場所が一般の男女のそれと違うとはいえ、一度……いや、二度までも君に交際を求めてきた男だぞ。友人?そんなことありえない……っ!
なんだ認めたとは!!そんなもの、俺とて朝緋を認めているだろう!?」
肩を掴み揺さぶる。修行と同じくらい手荒なそれにも臆することなくついてくる朝緋が顔をあげた。ああ、やっと目があった。
「師範が認めてくれているのはわかっています。
違うんです。コツコツやってきたことを、他の人が見ていてくれたということがとても嬉しかったんです。
人には多かれ少なかれ承認欲求というものがあります。誰かに褒められたら嬉しい。尊敬の念や称賛の言葉が送られたら嬉しい。それは至極当然の事。彼はそれを私に与えてくれた」
胸の前に手を組んで、心温かくしている。君の心に残った彼がずるい。羨ましい。……妬ましい。
「ま、……たしかにしつこいのはあまり褒められたものではありませんでしたが」
へらりと笑う朝緋。その笑顔の一端も、彼が引き出したものだと思うと少し憎らしく見えてくる。
こんなに愛しいのに、同時に憎い。
「もういい。さっきの隊士のことは二度と話すな。忘れてくれ」
そんな奴の記憶が一片でも残っているのが許せない。その場所は俺の存在で塗り替えたい。
「え、知り合った人のこと簡単に忘れられるわけ……」
「忘れろ」
強く言い放ち立ち上がる。
いきなり立った俺にびくりと震えて見上げてくる朝緋は、眼下に見下ろすとやけに小さく見えた。
「要、あずま。席を外してくれ」
室内で暖をとっていた鎹烏。
寒くて申し訳ないが外へと追いやれば、彼らは文句ひとつ言わず未だ遠い夜明けの空の中飛んでいった。
一瞬開いてわずかに冷えた室内で、朝緋が震えるのは俺のせいか温度のせいか。……いや、俺のせいだったようだ。
逃げようかと、足がわずかに動いたのを俺は逃さなかった。
全集中の呼吸を使い、柱の全力を持ってすれば、山一つ谷一つなど大した距離でもない。
今回の鬼殺は合同任務が主だったもので、予定していた内容さえ終われば強くもない鬼の頸をぽとりと落とすのみ。問題のある隊士もなく、比較的早くに終わった。
あー、問題といえば朝緋に懸想した隊士がいたということか。だがもう解決した!満足満足。
しかしやはり夜は冷える。
俺が火を扱うのは禁止なので朝緋に火を起こしてもらい、火鉢に炭をくべる。
なかなか温まらない室内で、ぴったりとくっついたまま爆ぜる炭の赤を見つめる。
「ううむ、なかなか温まらんな!」
「そりゃ火鉢だけじゃ寒いでしょうね。湯を沸かすので湯浴みされますか?」
「いや!いい!!」
「そ」
距離なき空間で触れ合うと例えそれが露出した腕の端だろうとも、鋼の精神で鍛えた心が乱されそうでたまらない。ましてや湯浴みの話だと?不埒な想像させるのはやめてくれ!
呼吸だけは乱さぬよう、俺は柱だという暗示で耐え抜く。
ふと、朝緋が炎柱邸に初めて来た時のことを思い出した。
今とどこか似た状況だが、その場所が違う。ついでに部屋の中に要とあずまがいることも違うか。
たしかあの時は厨で二人きり。身を寄せ合って白湯を傾けたな……懐かしい。
そこまで昔というわけでもないのに、遠い昔のことのように感じる。
だが朝緋も俺も、この一年ほどで確実に大人になった。
朝緋の背は……あまり伸びていなさそうだが、剣術や呼吸以外にも成長したところもあるようだ。どこがとは言わんが。
「話がある」
「そういえば、そう言ってましたよね」
あふ、と欠伸を噛み殺しながら朝緋が間延びした声を出す。
話の内容ゆえ途中でのらりくらりかわされ逃げられぬよう、出入りの襖付近側に座り直し静かに問う。もちろん、朝緋のぴったり真横につくのは忘れない。
「好きな相手がいるのは本当なのだろうか」
「……、…………いますよ」
動揺で一瞬呼吸と脈が乱れたな。眠気も吹き飛んだようで、目がぱちりと開いた。
「今一度聞く。あの青年ではなかろうな?」
「……それは違います。
けど、あの隊士も言ってましたが、私の色恋如きをどうしてそこまで気にするの……?継子だから?」
「如きでもない。継子だからというのも関係ない」
どうしてだと?そんなもの俺の目を見たらわかるはずだ。朝緋へと向けた劣情孕むこの目を。
だが、朝緋は赤く色づく火鉢の炭から目を離さなかった。見るのが怖いのか、こちらを見てくれない。
その唇奪ってこちらに視線を向かせてやろうか?
「君ならばもっと上手く断れたはずだ。なのにどうして、相手に期待を持たせるようなことをした」
「そんなつもりはありません。
ただ……あの隊士は、私を認めてくれたから。ちょっと絆されたというか。友人にならなれるかと思って」
甘い!甘いな。その考えではそうやって油断したところを、蕎麦屋の二階にでも連れて行かれてぺろりと食べられてしまう!
鬼に食われるのと同じように!!
「いくら鬼殺隊という場所が一般の男女のそれと違うとはいえ、一度……いや、二度までも君に交際を求めてきた男だぞ。友人?そんなことありえない……っ!
なんだ認めたとは!!そんなもの、俺とて朝緋を認めているだろう!?」
肩を掴み揺さぶる。修行と同じくらい手荒なそれにも臆することなくついてくる朝緋が顔をあげた。ああ、やっと目があった。
「師範が認めてくれているのはわかっています。
違うんです。コツコツやってきたことを、他の人が見ていてくれたということがとても嬉しかったんです。
人には多かれ少なかれ承認欲求というものがあります。誰かに褒められたら嬉しい。尊敬の念や称賛の言葉が送られたら嬉しい。それは至極当然の事。彼はそれを私に与えてくれた」
胸の前に手を組んで、心温かくしている。君の心に残った彼がずるい。羨ましい。……妬ましい。
「ま、……たしかにしつこいのはあまり褒められたものではありませんでしたが」
へらりと笑う朝緋。その笑顔の一端も、彼が引き出したものだと思うと少し憎らしく見えてくる。
こんなに愛しいのに、同時に憎い。
「もういい。さっきの隊士のことは二度と話すな。忘れてくれ」
そんな奴の記憶が一片でも残っているのが許せない。その場所は俺の存在で塗り替えたい。
「え、知り合った人のこと簡単に忘れられるわけ……」
「忘れろ」
強く言い放ち立ち上がる。
いきなり立った俺にびくりと震えて見上げてくる朝緋は、眼下に見下ろすとやけに小さく見えた。
「要、あずま。席を外してくれ」
室内で暖をとっていた鎹烏。
寒くて申し訳ないが外へと追いやれば、彼らは文句ひとつ言わず未だ遠い夜明けの空の中飛んでいった。
一瞬開いてわずかに冷えた室内で、朝緋が震えるのは俺のせいか温度のせいか。……いや、俺のせいだったようだ。
逃げようかと、足がわずかに動いたのを俺は逃さなかった。