二周目 陸
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俺はもう、我慢がならなかった。
少しの間朝緋と距離を置くことになってしまったのは、自分の采配の致すところだ。俺はそれを激しく後悔した。
ただ単に、考える時間が必要だったのだ。
今までは、考えても仕方のないことは考えるな。時間の無駄だ。そんな暇あったらすべき事を為せ、前へと進め。そう思ってきた。
だが朝緋のことを考える時間は、決して無駄な時間ではなかった。
鍛錬の間も、食事の時間も、鬼殺の時間も、果ては夢の中でまで、ここ最近の俺は朝緋のことばかりを考えていた。
もうすでに結論は出ていたのに。
月が綺麗ですね?それも愛の告白の常套句だな!気障な言葉を使いおってなんと腹に据えかねる男だ!!
今も好き?諦めが悪い!!
好きになる要素しかない?可憐でかわいい?当たり前だろう俺の朝緋だぞ!俺の!!
君が無理矢理押し付けた簪はなんだ?勝手に頭に挿そうとするとはなんて図々しい!俺ですらそんなものを贈ったことはないし勝手に挿したりはしない!!
水の呼吸で魚を追い込んで釣り上げる所存?
お前如きに釣り上げられてなるものか!!
それに朝緋。君もだ!なんなんだ!
そんな男となかよくして!!断るのならばもっとすっぱりと斬り捨てろ!!
鬼の頸をとる時のほうがよほど気持ちのいい斬りっぷりだぞ!?
そんな対応だから男の方も付け上がるのだ!!
君はもっと自分の魅力を自覚しろ!!
そうだ。悋気を覚えてのんびりしている暇などなかった。今もまた、激しく悋気を覚える光景が目の前に広がっている。
このままでは朝緋が、違う男に盗られてしまうかもしれない。朝緋の心が何処の馬の骨とも知れんやつに向いてしまうかも知れない。その可能性が少しでもあったらと、ひどく不安に駆られる。
……そんなの許しがたい!!
結論が出てるなら何をすればいいかわかっているだろう!らしくないぞ煉獄杏寿郎!!
そう、俺はもう、我慢がならなかったのだ。
家族であり、妹であり、継子であり。そしてたった一人の俺の大切な人。
笑った顔はかわいく、片方だけ深くなるえくぼが愛しい。怒った時の顔も、泣き顔も、鍛錬している時の真剣な眼差しも、寝起きで寝癖まみれのとぼけた顔も。その全てが愛しい。
朝緋にはずっとずっと俺の隣にいてほしい。他の人間の隣は歩いてほしくない。
これは恋というものだ。
自覚してはいたが、言葉にはしてこなかっただけで。
いや、恋というには激しすぎるな。すでに嫉妬の炎に焼かれてしまっていて、純粋で無垢な恋心とは似つかない。妄想の中で俺は何度も朝緋を穢した。汚い欲まみれの想い。
……朝緋にも、身悶えするほど熱く醜く燃え広がった俺の激情を、思いを骨の髄までわからせてやりたいとまで思ってしまっている。
盗られる前に行動するならば、早い方がいい。君に思いを伝えたい。ほら、思い立ったが吉日というではないか!
……だがその前に、鬼の時間が来てしまったようだ。
「皆、日輪刀を抜って構えておけ!鬼は待ってはくれんぞ!!」
陽が落ちた山から、獣に似た鬼の雄叫びが聞こえた。
怪我といっても皆軽症ばかりで、ほぼ無傷で鬼殺を終えた。
結局鬼の頸をとったのは俺だったが、階級の低い者にも刀を振るう機会は与えられ、隊士達の士気も自信も、そして経験値も格段に上がったことだろう。
山を降りようとすると、朝緋が再びあの青年隊士に呼び止められているのが目に入った。
気配を隠してその様子を探る。
朝緋は一瞬だけこちらの方をじっと探ってきたが、見つけられなかったようだ。視線を外して隊士に向き直った。
ふ……、隠れた俺を見つけられないようでは、朝緋もまだまだだな!あとで目隠しをして俺の攻撃を避ける訓練だ!!待て、目隠し……むむ、不埒な考えが浮かんでしまった。これは無しだな。
「では改めて、こちらを受け取ってください。つき返されても俺には捨てる以外どうしようもないので……」
「はぁ……しつこい男は嫌われるよ〜?」
「朝緋さんはそんな狭量な人じゃないでしょう」
「そう思ってくれてありがとう。気持ちは嬉しいよ。
んでも確かに綺麗な蜻蛉玉だよね」
はい返す。と、朝緋は今一度突き返しているも、青年は未だ諦めず。しつこい男は嫌われると言われたばかりなのに、お前は何をやっている!!
俺は動いた。
「一度でいいんです。これをつけて俺の隣を歩い「そこの君!!」え、炎柱様っ!?」
「あー、やっぱり師範いたんですね!見つけられなかったや」
「気配を消したくらいで見つけられないようではだめだな鍛錬が足りんぞッ!!」
「ひぇっ申し訳ありません……っ」
む。怖がらせてしまったようだ。朝緋に怒ったわけではないのだが、言葉がきつくなってしまったらしい。……顔も怖かろうな。自分でも額に青筋が立っているのがわかる。
「君、悪いが俺が先だ」
ぽんと青年隊士の肩を叩き、下がらせる。下がらせる?いや、掴んで後ろに押しのけたの方が正しかろう。
「……ああそれから。
うち の朝緋は、他の人間からの贈り物は受け取らない。君とも一緒になることも歩くこともない。こちらは持って帰ってくれ」
朝緋の手にあった簪を奪うと、それを壊す勢いで隊士の手のひらに握らせた。手のひらが痛い?鍛錬不足だな!
「ちょ、私が断ってるお話ですよ!?なにも師範まで一緒になって言わなくても……」
「朝緋は強く断りきれていない!!」
「……っ」
それきり朝緋は口を噤んだ。
「炎柱様。自分の継子だからって、色恋のことまで柱が制限していいわけがありません。隊士同士の恋愛は自由ですよね?」
「恋愛は自由だとも」
俺は静かに言葉を紡いだ。そして隊士の耳元へと近寄り。
「だが俺が継子だからという理由で朝緋の行動を制限しているとでも?そこに違う理由はないとでも?
柱は誰かに懸想しないとでも?
………………なあ君。もう朝緋には近寄らないでくれるよな?」
ぞっとするほど低く冷たい声で囁けば、隊士は目に見えて縮こまった。俺の腰の日輪刀が金属音を微かに奏で続けているのも聞こえたのだろう。青い顔で震え始める。
これで出てきた杭は打てたはずだ。
「さあお疲れ様!任務は終わったのだ、もう帰っていいぞ!!」
改めて、ぽむち!と肩を叩けば、弾かれたように隊士は去っていった。朝緋の顔など見ようともせず。
「俺達も帰ろう!!」
何が起こったのか、俺が何を言ったのか分からず目をぱちぱちする朝緋に声をかけ、膝裏に手を入れ抱き上げる。
「えっ師範、炎柱邸に帰られるんですか?暫くぶりに一緒にいられるんですね」
「ずっと一緒だ!今まですまなかったな!」
「ふふ、そっか……よかった。嬉しいです」
俺が好きなあの顔で微笑んでいるのが、見なくてもわかる。かと思えば。
「……というか恥ずかしいんでおろして下さいっ」
と、わたわたと俺の腕の中から逃れようと動く。だがそうはさせんぞ?
「いやだ!おろさない!」
「いやだ、とかじゃなくて!人に見られたくないんです〜!!」
「まだ夜中で真っ暗だから人には見られない!他の隊士は帰ったし今回は事後処理の隠も必要のない任務だった!よって俺以外誰も見ていない!黙って抱えられていてくれ!!瞬く間に帰ると約束しよう!!」
「瞬く間……柱の本気を体験させてくれるんですね?」
「ああ、最速の俺を見せてあげよう」
気を良くした俺は、鬼殺で使ってみせるどの速さよりも速く炎柱邸まで帰宅した。
少しの間朝緋と距離を置くことになってしまったのは、自分の采配の致すところだ。俺はそれを激しく後悔した。
ただ単に、考える時間が必要だったのだ。
今までは、考えても仕方のないことは考えるな。時間の無駄だ。そんな暇あったらすべき事を為せ、前へと進め。そう思ってきた。
だが朝緋のことを考える時間は、決して無駄な時間ではなかった。
鍛錬の間も、食事の時間も、鬼殺の時間も、果ては夢の中でまで、ここ最近の俺は朝緋のことばかりを考えていた。
もうすでに結論は出ていたのに。
月が綺麗ですね?それも愛の告白の常套句だな!気障な言葉を使いおってなんと腹に据えかねる男だ!!
今も好き?諦めが悪い!!
好きになる要素しかない?可憐でかわいい?当たり前だろう俺の朝緋だぞ!俺の!!
君が無理矢理押し付けた簪はなんだ?勝手に頭に挿そうとするとはなんて図々しい!俺ですらそんなものを贈ったことはないし勝手に挿したりはしない!!
水の呼吸で魚を追い込んで釣り上げる所存?
お前如きに釣り上げられてなるものか!!
それに朝緋。君もだ!なんなんだ!
そんな男となかよくして!!断るのならばもっとすっぱりと斬り捨てろ!!
鬼の頸をとる時のほうがよほど気持ちのいい斬りっぷりだぞ!?
そんな対応だから男の方も付け上がるのだ!!
君はもっと自分の魅力を自覚しろ!!
そうだ。悋気を覚えてのんびりしている暇などなかった。今もまた、激しく悋気を覚える光景が目の前に広がっている。
このままでは朝緋が、違う男に盗られてしまうかもしれない。朝緋の心が何処の馬の骨とも知れんやつに向いてしまうかも知れない。その可能性が少しでもあったらと、ひどく不安に駆られる。
……そんなの許しがたい!!
結論が出てるなら何をすればいいかわかっているだろう!らしくないぞ煉獄杏寿郎!!
そう、俺はもう、我慢がならなかったのだ。
家族であり、妹であり、継子であり。そしてたった一人の俺の大切な人。
笑った顔はかわいく、片方だけ深くなるえくぼが愛しい。怒った時の顔も、泣き顔も、鍛錬している時の真剣な眼差しも、寝起きで寝癖まみれのとぼけた顔も。その全てが愛しい。
朝緋にはずっとずっと俺の隣にいてほしい。他の人間の隣は歩いてほしくない。
これは恋というものだ。
自覚してはいたが、言葉にはしてこなかっただけで。
いや、恋というには激しすぎるな。すでに嫉妬の炎に焼かれてしまっていて、純粋で無垢な恋心とは似つかない。妄想の中で俺は何度も朝緋を穢した。汚い欲まみれの想い。
……朝緋にも、身悶えするほど熱く醜く燃え広がった俺の激情を、思いを骨の髄までわからせてやりたいとまで思ってしまっている。
盗られる前に行動するならば、早い方がいい。君に思いを伝えたい。ほら、思い立ったが吉日というではないか!
……だがその前に、鬼の時間が来てしまったようだ。
「皆、日輪刀を抜って構えておけ!鬼は待ってはくれんぞ!!」
陽が落ちた山から、獣に似た鬼の雄叫びが聞こえた。
怪我といっても皆軽症ばかりで、ほぼ無傷で鬼殺を終えた。
結局鬼の頸をとったのは俺だったが、階級の低い者にも刀を振るう機会は与えられ、隊士達の士気も自信も、そして経験値も格段に上がったことだろう。
山を降りようとすると、朝緋が再びあの青年隊士に呼び止められているのが目に入った。
気配を隠してその様子を探る。
朝緋は一瞬だけこちらの方をじっと探ってきたが、見つけられなかったようだ。視線を外して隊士に向き直った。
ふ……、隠れた俺を見つけられないようでは、朝緋もまだまだだな!あとで目隠しをして俺の攻撃を避ける訓練だ!!待て、目隠し……むむ、不埒な考えが浮かんでしまった。これは無しだな。
「では改めて、こちらを受け取ってください。つき返されても俺には捨てる以外どうしようもないので……」
「はぁ……しつこい男は嫌われるよ〜?」
「朝緋さんはそんな狭量な人じゃないでしょう」
「そう思ってくれてありがとう。気持ちは嬉しいよ。
んでも確かに綺麗な蜻蛉玉だよね」
はい返す。と、朝緋は今一度突き返しているも、青年は未だ諦めず。しつこい男は嫌われると言われたばかりなのに、お前は何をやっている!!
俺は動いた。
「一度でいいんです。これをつけて俺の隣を歩い「そこの君!!」え、炎柱様っ!?」
「あー、やっぱり師範いたんですね!見つけられなかったや」
「気配を消したくらいで見つけられないようではだめだな鍛錬が足りんぞッ!!」
「ひぇっ申し訳ありません……っ」
む。怖がらせてしまったようだ。朝緋に怒ったわけではないのだが、言葉がきつくなってしまったらしい。……顔も怖かろうな。自分でも額に青筋が立っているのがわかる。
「君、悪いが俺が先だ」
ぽんと青年隊士の肩を叩き、下がらせる。下がらせる?いや、掴んで後ろに押しのけたの方が正しかろう。
「……ああそれから。
朝緋の手にあった簪を奪うと、それを壊す勢いで隊士の手のひらに握らせた。手のひらが痛い?鍛錬不足だな!
「ちょ、私が断ってるお話ですよ!?なにも師範まで一緒になって言わなくても……」
「朝緋は強く断りきれていない!!」
「……っ」
それきり朝緋は口を噤んだ。
「炎柱様。自分の継子だからって、色恋のことまで柱が制限していいわけがありません。隊士同士の恋愛は自由ですよね?」
「恋愛は自由だとも」
俺は静かに言葉を紡いだ。そして隊士の耳元へと近寄り。
「だが俺が継子だからという理由で朝緋の行動を制限しているとでも?そこに違う理由はないとでも?
柱は誰かに懸想しないとでも?
………………なあ君。もう朝緋には近寄らないでくれるよな?」
ぞっとするほど低く冷たい声で囁けば、隊士は目に見えて縮こまった。俺の腰の日輪刀が金属音を微かに奏で続けているのも聞こえたのだろう。青い顔で震え始める。
これで出てきた杭は打てたはずだ。
「さあお疲れ様!任務は終わったのだ、もう帰っていいぞ!!」
改めて、ぽむち!と肩を叩けば、弾かれたように隊士は去っていった。朝緋の顔など見ようともせず。
「俺達も帰ろう!!」
何が起こったのか、俺が何を言ったのか分からず目をぱちぱちする朝緋に声をかけ、膝裏に手を入れ抱き上げる。
「えっ師範、炎柱邸に帰られるんですか?暫くぶりに一緒にいられるんですね」
「ずっと一緒だ!今まですまなかったな!」
「ふふ、そっか……よかった。嬉しいです」
俺が好きなあの顔で微笑んでいるのが、見なくてもわかる。かと思えば。
「……というか恥ずかしいんでおろして下さいっ」
と、わたわたと俺の腕の中から逃れようと動く。だがそうはさせんぞ?
「いやだ!おろさない!」
「いやだ、とかじゃなくて!人に見られたくないんです〜!!」
「まだ夜中で真っ暗だから人には見られない!他の隊士は帰ったし今回は事後処理の隠も必要のない任務だった!よって俺以外誰も見ていない!黙って抱えられていてくれ!!瞬く間に帰ると約束しよう!!」
「瞬く間……柱の本気を体験させてくれるんですね?」
「ああ、最速の俺を見せてあげよう」
気を良くした俺は、鬼殺で使ってみせるどの速さよりも速く炎柱邸まで帰宅した。