二周目 陸
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今までの私の努力を他の人が見ていてくれた!
頑張りが認められたと感じた。とても、とても嬉しかった。
「ありがとう。……でも、本当にごめんなさい」
ただし、努力や頑張りが認められるより、明確な強さというもので表れてくれる方がより嬉しい。何より私には好きな人がいる。
「私なんかよりもっと、貴方にお似合いの素敵なお嬢さんがいると思います。私は貴方と一緒にいられません」
再び断ろうと今度こそ手を離すが、今度は体を引き寄せられ、抱きしめられた。
杏寿郎さんとは違う男性の香りに、申し訳ないけれど背筋に悪寒が走った。気分が悪かった。
私は杏寿郎さんの匂いじゃないと落ち着かない。
「ちょ、離してください……っ」
「お願いです!せめて、一夜だけでいい!情けを頂けないでしょうか!?」
情け……?情けって、よく時代物の書物に出てくる表現の?情交の際にいう言葉を?この人が私に??あれ?それって普通は女性が男性に言う場合のほうが多いような……ってそんなことできるわけない!
「明日は我が身です。鬼殺隊に所属している以上、いつ死ぬともわからぬ身。ならば、一度でいい。好いた相手と床を共にしたいと思うのはいけないことですか?
何もしません!ただ貴女の体温を感じて眠りにつきたいのです!!」
「無理です無理です!私には好いた相手がいるんですッッ!」
言ってることはよくわかるけど、一応私のこと好きって言ってるんだし据え膳でしょ?何もしないとか絶対にありえないよね!?
私でさえ、杏寿郎さんのお布団に入るとくすぐったりほっぺツンツンしたりぎゅーって抱きついたりしてたもの!!
きゃー!思い出したら恥ずかしくなった!!
……幼い頃の話だけどね!
カタン。
その時向こうから何か落ちる音がした。
ここは炎柱邸の近くとはいえ、一応往来だ。誰かがやって来たんだと思い、慌ててそちらに目を向けると。
「朝緋……、君には、誰か好きな相手がいるのか……?」
「し、師範……っ」
佇むは黄金色と朱の髪色、焔色の羽織。
凍りついた表情のその人が、私の目に映り込んだ。
抱きしめられている姿を見られた。
一番見られたくない人に。
好きな人がいる事を聞かれた。
張本人に。
私の表情も凍りついた。
「うちの継子に迫っている君は誰だ?」
「あ、炎柱様。俺は階級・壬の……」
「ああ、やはりいい。答えなくてもいい」
隊士からは見えなかったろうが、君のことなどすぐに忘れるからな、と杏寿郎さんの顔には書いてあるように見えた。
おずおずと隊士は引き下がるも、私の体を離してはくれない。でも柱である杏寿郎さんとの会話で緩んだのがわかり、私は無理矢理引き剥がして離れた。
「朝緋……」
眉間に皺を寄せた非難じみた目が射抜いてくる。一体どんな気持ちで見ているの?家族としての心配の気持ち?師範として柱として継子であり部下である私を心配しての気持ち?
それとも……。
でもそのどれも、誤解につながる。私には貴方という好きな殿方がいるのであって、誰か好きな相手が他にいるわけじゃない。
そりゃ、嬉しいことを言われてほんのちょっぴりころっといきそうになったけれども。
「これは違うの。違うんですっ!!」
「違う……違うとは一体何のことだろうか?
…………何が違うものか!いつだ!いつからそんな相手が……いや、それもいい。我々は『ただの柱と継子』の関係だ。俺に関係のない話だったな。
すまんが、俺はしばらく藤の家に世話になるとする。朝緋、継子としての鍛錬は怠らぬようにな」
ただの柱と継子。たった今、明確な線引きをされた。線がぴしりと地割れを起こし、深い亀裂が入ったのを感じた。
杏寿郎さんからの言葉に打ちのめされていると、柱の移動による風が舞うのを感じた。
「あっ、待って!待って、師範ーーっ!」
「待たないっ!!」
ばびゅん!と渦巻く炎の風。瞬く間に杏寿郎さんは去ってしまった……。
「あああ……そんなぁ……」
「あのぉ〜」
しおしおと項垂れる私に声をかけてくる隊士。元はと言えばこの人が私に……!
ううん、この人は想いを告げにきてくれただけ。人のせいにするのはいけない。
でも今の私に人をかまう余裕があると思う?否、ない。
「ごめんなさい。帰ってください」
「でも、」
「お帰り願います」
私は目に見えて落ち込み、この人の気持ちをすっぱりと切り捨て断った。
とぼとぼ帰って行くこの人も、私のことを見てきたとは言っていたが、私の気持ちがどこに向いているのかはわからないらしい。
わかって欲しいような気もするが、絶対言わない。蜜璃にすら緘口令を敷いているんだから。
こうなったら勇気を胸に私も告白しなきゃ。他の隊士が勇気を出して想いを告げてくれたのに、私が二の足を踏んでいてどうする?女は愛嬌?違う、女も度胸よ!
当たって砕けろ!いや、ダイヤのように硬い私の心は砕けない!多分!!
でも、私は貴方の隣に立つほど。あの時ほどはまだ強くなっていない。
せめて後ろを守れるようになってからでないと、私には想いを告げるなんて出来ないのだ。
これは私の決めたこと。まだ、自分の想いを伝えるわけにいかない。
だけど。だけど……だけどさぁ!
「こんなのってなくない!?」
槇寿朗さんじゃないけど、お酒でもかっくらって愚痴の一つこぼしたい気分。
以来ただの一回も、杏寿郎さんと任務でもプライベートでも会うことがなかったのだ。
私継子だよね?炎柱の継子だよね?線引きされたからって、会わないのおかしくないか!?
大体管轄も同じなのに、なぜか同じ任務に当たらない。任務地すら逆方向。時間も日にちも違う。
あの時からはそれほどに時間が経った。話したいと思っても会えてない。どんどん杏寿郎さんが遠くなる……。
会えない時間が愛を育てる、なんてそんなの迷信。私は典型的な杏寿郎さん不足という病いに冒されている!
しかしそこで知ったのは、杏寿郎さん自らお館様に嘆願して私と行き合わないよう手配したという驚愕の真実。私の気持ちはお見通しのはずなのに、お館様は私より杏寿郎さんを優先する!いや柱だから当たり前か。
ああ、杏寿郎さんは私に会いたくないんだ……泣きたい。いや、泣いてるよ!
頑張りが認められたと感じた。とても、とても嬉しかった。
「ありがとう。……でも、本当にごめんなさい」
ただし、努力や頑張りが認められるより、明確な強さというもので表れてくれる方がより嬉しい。何より私には好きな人がいる。
「私なんかよりもっと、貴方にお似合いの素敵なお嬢さんがいると思います。私は貴方と一緒にいられません」
再び断ろうと今度こそ手を離すが、今度は体を引き寄せられ、抱きしめられた。
杏寿郎さんとは違う男性の香りに、申し訳ないけれど背筋に悪寒が走った。気分が悪かった。
私は杏寿郎さんの匂いじゃないと落ち着かない。
「ちょ、離してください……っ」
「お願いです!せめて、一夜だけでいい!情けを頂けないでしょうか!?」
情け……?情けって、よく時代物の書物に出てくる表現の?情交の際にいう言葉を?この人が私に??あれ?それって普通は女性が男性に言う場合のほうが多いような……ってそんなことできるわけない!
「明日は我が身です。鬼殺隊に所属している以上、いつ死ぬともわからぬ身。ならば、一度でいい。好いた相手と床を共にしたいと思うのはいけないことですか?
何もしません!ただ貴女の体温を感じて眠りにつきたいのです!!」
「無理です無理です!私には好いた相手がいるんですッッ!」
言ってることはよくわかるけど、一応私のこと好きって言ってるんだし据え膳でしょ?何もしないとか絶対にありえないよね!?
私でさえ、杏寿郎さんのお布団に入るとくすぐったりほっぺツンツンしたりぎゅーって抱きついたりしてたもの!!
きゃー!思い出したら恥ずかしくなった!!
……幼い頃の話だけどね!
カタン。
その時向こうから何か落ちる音がした。
ここは炎柱邸の近くとはいえ、一応往来だ。誰かがやって来たんだと思い、慌ててそちらに目を向けると。
「朝緋……、君には、誰か好きな相手がいるのか……?」
「し、師範……っ」
佇むは黄金色と朱の髪色、焔色の羽織。
凍りついた表情のその人が、私の目に映り込んだ。
抱きしめられている姿を見られた。
一番見られたくない人に。
好きな人がいる事を聞かれた。
張本人に。
私の表情も凍りついた。
「うちの継子に迫っている君は誰だ?」
「あ、炎柱様。俺は階級・壬の……」
「ああ、やはりいい。答えなくてもいい」
隊士からは見えなかったろうが、君のことなどすぐに忘れるからな、と杏寿郎さんの顔には書いてあるように見えた。
おずおずと隊士は引き下がるも、私の体を離してはくれない。でも柱である杏寿郎さんとの会話で緩んだのがわかり、私は無理矢理引き剥がして離れた。
「朝緋……」
眉間に皺を寄せた非難じみた目が射抜いてくる。一体どんな気持ちで見ているの?家族としての心配の気持ち?師範として柱として継子であり部下である私を心配しての気持ち?
それとも……。
でもそのどれも、誤解につながる。私には貴方という好きな殿方がいるのであって、誰か好きな相手が他にいるわけじゃない。
そりゃ、嬉しいことを言われてほんのちょっぴりころっといきそうになったけれども。
「これは違うの。違うんですっ!!」
「違う……違うとは一体何のことだろうか?
…………何が違うものか!いつだ!いつからそんな相手が……いや、それもいい。我々は『ただの柱と継子』の関係だ。俺に関係のない話だったな。
すまんが、俺はしばらく藤の家に世話になるとする。朝緋、継子としての鍛錬は怠らぬようにな」
ただの柱と継子。たった今、明確な線引きをされた。線がぴしりと地割れを起こし、深い亀裂が入ったのを感じた。
杏寿郎さんからの言葉に打ちのめされていると、柱の移動による風が舞うのを感じた。
「あっ、待って!待って、師範ーーっ!」
「待たないっ!!」
ばびゅん!と渦巻く炎の風。瞬く間に杏寿郎さんは去ってしまった……。
「あああ……そんなぁ……」
「あのぉ〜」
しおしおと項垂れる私に声をかけてくる隊士。元はと言えばこの人が私に……!
ううん、この人は想いを告げにきてくれただけ。人のせいにするのはいけない。
でも今の私に人をかまう余裕があると思う?否、ない。
「ごめんなさい。帰ってください」
「でも、」
「お帰り願います」
私は目に見えて落ち込み、この人の気持ちをすっぱりと切り捨て断った。
とぼとぼ帰って行くこの人も、私のことを見てきたとは言っていたが、私の気持ちがどこに向いているのかはわからないらしい。
わかって欲しいような気もするが、絶対言わない。蜜璃にすら緘口令を敷いているんだから。
こうなったら勇気を胸に私も告白しなきゃ。他の隊士が勇気を出して想いを告げてくれたのに、私が二の足を踏んでいてどうする?女は愛嬌?違う、女も度胸よ!
当たって砕けろ!いや、ダイヤのように硬い私の心は砕けない!多分!!
でも、私は貴方の隣に立つほど。あの時ほどはまだ強くなっていない。
せめて後ろを守れるようになってからでないと、私には想いを告げるなんて出来ないのだ。
これは私の決めたこと。まだ、自分の想いを伝えるわけにいかない。
だけど。だけど……だけどさぁ!
「こんなのってなくない!?」
槇寿朗さんじゃないけど、お酒でもかっくらって愚痴の一つこぼしたい気分。
以来ただの一回も、杏寿郎さんと任務でもプライベートでも会うことがなかったのだ。
私継子だよね?炎柱の継子だよね?線引きされたからって、会わないのおかしくないか!?
大体管轄も同じなのに、なぜか同じ任務に当たらない。任務地すら逆方向。時間も日にちも違う。
あの時からはそれほどに時間が経った。話したいと思っても会えてない。どんどん杏寿郎さんが遠くなる……。
会えない時間が愛を育てる、なんてそんなの迷信。私は典型的な杏寿郎さん不足という病いに冒されている!
しかしそこで知ったのは、杏寿郎さん自らお館様に嘆願して私と行き合わないよう手配したという驚愕の真実。私の気持ちはお見通しのはずなのに、お館様は私より杏寿郎さんを優先する!いや柱だから当たり前か。
ああ、杏寿郎さんは私に会いたくないんだ……泣きたい。いや、泣いてるよ!