一周目 壱
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次の車両に入った瞬間、ガクン!!列車が大きく傾いだ。
脱線とは違う、これは……。
衝撃をしのいでから周りを見ると、一瞬前とは変わり果て、列車の大きさが変わっていた。
肉壁で包み込まれた車両内は、まるで鬼の胃袋の中。
鬼と同化してるとの話だし、私達はただの餌状態ではないか。
次々に生えてくる触腕も空腹なのか、でろでろとヨダレのようなものを垂らしながら、こちらを狙って向かってきていた。
「うわ気持ち悪い……師範が起きるのを待ってる場合じゃなさそう。
スゥ、ハァーー、」
炎の呼吸法を繰り返す。
この身に熱き炎を生み出す様に、より多くの空気を取り込み、呼吸の精度を高める。
よし!蒼い怪火や火の玉の様な形の美しき鍔をひと撫でした私は、その鯉口を切る。
朱に近い橙の刀身がすらりと現れ、刃文に散るは白い火花模様。鋒長く、刃先の何寸かは鮮やかな蒼が輝いている。
これが私の日輪刀 だ。
「ーー壱ノ型、不知火ーー!」
杏寿郎さんほどの強さはなくとも、私には速さがある。
単純な速さと、振り抜きの速さ。その相乗効果による、善逸をも凌ぐであろう神速の如き刃。
赤ではなく青い炎が混じったその技を放ち、私は鬼の触腕を複数まとめて、素早く斬り落とした。
視線の端では、禰󠄀豆子ちゃんが私の動きに合わせて翻る羽織を、キラキラした目で見つめていた。
この羽織は私の自慢だ。
白地に淡い薄紅の色彩ぼかしは、炎柱の羽織と色違い。
そこに桜の花弁が舞い散り、赤い炎が描かれる代わりに赤から蒼に変わる炎の意匠が描かれているという、まさに炎柱羽織の色違いそのものというわけ。
最終選抜から戻り、刀の色変わりを見て。
杏寿郎さんが私のためにと仕立ててくれた物……らしい。
でも実は槇寿朗さんも一枚噛んでいると私は思っている。槇寿朗さんは素直に話してくれないし、杏寿郎さんも千寿郎も教えてくれないので私からは聞けないけれども。
その羽織の端っこを、禰󠄀豆子ちゃんにくいくいと引っ張られた。
「気になるの?え、羽織じゃない?
ああ、髪の毛だったのね」
なんと、禰󠄀豆子ちゃんが気になるのはこの髪の毛だった。羽織の説明し損!……かな?
元々は真っ黒いだけだった私の髪。
私は小さい頃に煉獄家にやってきて、観篝替わりの炎をそれはもう何百回、何千回と見続けて育った。
そう、まだ炎柱として活躍していた槇寿朗さんの炎の呼吸と、杏寿郎さんの炎の呼吸だ。
その結果、私の髪の毛の一部分は中途半端に煉獄家の色に染まった。ああ、瞳の色もか。
その時からは髪は伸ばしたままで、一度も切ったことがない。
これは煉獄家の一員だと勘違いしないようにしている私が、本当は煉獄家の一員として……家族として共に在りたいという、願いの現れ。
「ずっと伸ばしてるの、馬の尻尾みたいでしょ」
伸びてくる触腕を斬りつけながら、会話を続ける。場にはそぐわないかもしれないが、ただでさえ周りが気持ち悪いのだ。せめて癒しのひとつくらい欲しい。
「……もしかして私と同じ髪型にしてみたいのかな?ふふ、じゃあ今度やってあげるね」
こんな妹が私も欲しい……。
ぴょんぴょんと跳ねて嬉しそうにする禰󠄀豆子ちゃんを撫でる。そんな横から、ヒュッと触腕が飛び出した。
「うわ!癒しを補給してる時に何さ!空気を読め!」
「むっ!」
私と禰󠄀豆子ちゃんの息が一つになった。だが私よりも早く禰󠄀豆子ちゃんの爪が、触腕を燃やす。
ボヒュッ!という軽やかな音を立てて。
「おお……すごい!禰󠄀豆子ちゃんの炎は、こんな大きな鬼の触腕も燃やせるのね!」
「むー!むぅん!」
「ふふ、頼りにしてるよ。さ、行きましょう!」
さらに進めば進むほど、鬼の気配は濃くなる。比例するように肉壁も触腕も、分厚く太く凶悪になっていって、いよいよ乗客の身が心配だ。
斬りつけた側から新しいものが、植物が一気に成長するが如く生えて止まない。
「斬っても斬っても伸びてきてる……際限なくって感じで嫌になるなあ」
ドッ!!
複数本の触腕が、私と禰󠄀豆子ちゃんの間に走った。
しまった、分断された!
「っ!禰󠄀豆子ちゃん……!」
けれど禰󠄀豆子ちゃんは怯える事なく、触腕を通して鬼を睨んでいた。
バキバキ、ミシミシ……禰󠄀豆子ちゃんの体から音がする。その体が幼児から少女へ、本来の年齢であろう姿へと変貌する。
爪も鋭くなり、縦に大きく割れてしまった瞳孔は鬼そのもの。
「ウヴッ!!」
禰󠄀豆子ちゃんは眠っている人間でもなく私でもなく、鬼の触腕目掛けて鋭い爪を振り下ろし、鬼の肉を粉砕するほど強烈な蹴りを披露した。
見事な足捌き!敵を明確に認識している。
「つ、強い……」
私がそう呟くと、一瞬振り返った彼女は幼いなりをしていた時同様、あどけない笑みを向けてみせた。
禰󠄀豆子ちゃんは鬼だけど、顔も動きも鬼だけれど、人を傷つける気配は皆無。……大丈夫だ。
「ここは任せていい?私は先に行く!」
頷いたのを確認し、私は次の車両を開いた。八両編成……まだ、守る場所は多い。
杏寿郎さんはさすがに起きただろうか。柱一人は隊士が束になっても叶わないほどの力も価値もある。
だから起きていることを願う。
「……ほんと、臭いし気持ち悪いし、踏み心地も最悪!
列車が鬼の肉になるとか誰が想像するのさ!夜じゃなくて昼に走って日に焼かれちゃってよ!
ーー炎の呼吸弍ノ型昇り炎天んんん!」
地より噴き上がる炎の如き刃で、迫り来る鬼の触腕を斬り払う。
乗客に伸びていたそれは炎の呼吸をたっぷりと帯びた斬撃のおかげか、再生速度が著しく遅れていた。
「ふう」
伸びてくる触腕を斬るのも大事だけど、一刻も早く大元の鬼を斬らなくては意味がない。
こうして斬りながら鬼の強い気配を探ってみるけれど、炭治郎のような嗅覚があるわけでもないし難しそうだ。
気がつけば再生速度の落ちたそれが、足に絡みついていた。
ゆっくりと背後から忍び寄るとか、鬼側も考えたな!って、感心してる場合じゃない。
「ぎゃー!?やだ、やだやだ!
あ、上がってくるぅ!?」
足に絡んで強く締め付けてきた触腕が、ふくらはぎ、太ももと這い上がってくる。
呼吸を整え直し斬ってやろうと思ったのに、腕にまで巻きついて拘束された!
う、動けない……!
締め付け潰して殺す気だ。
「えっ……!ちょ、離せ助平鬼ッ……!!やっ…………どこに入ってきて……ッ!」
だがそれは、あろうことかスカートの中に侵入してきた!
ええーっ食べるってまさかそっちの食べるとか言わないよね!?
普通、鬼はお口でがぶがぶもぐもぐごっくんでしょう!?
脱線とは違う、これは……。
衝撃をしのいでから周りを見ると、一瞬前とは変わり果て、列車の大きさが変わっていた。
肉壁で包み込まれた車両内は、まるで鬼の胃袋の中。
鬼と同化してるとの話だし、私達はただの餌状態ではないか。
次々に生えてくる触腕も空腹なのか、でろでろとヨダレのようなものを垂らしながら、こちらを狙って向かってきていた。
「うわ気持ち悪い……師範が起きるのを待ってる場合じゃなさそう。
スゥ、ハァーー、」
炎の呼吸法を繰り返す。
この身に熱き炎を生み出す様に、より多くの空気を取り込み、呼吸の精度を高める。
よし!蒼い怪火や火の玉の様な形の美しき鍔をひと撫でした私は、その鯉口を切る。
朱に近い橙の刀身がすらりと現れ、刃文に散るは白い火花模様。鋒長く、刃先の何寸かは鮮やかな蒼が輝いている。
これが私の
「ーー壱ノ型、不知火ーー!」
杏寿郎さんほどの強さはなくとも、私には速さがある。
単純な速さと、振り抜きの速さ。その相乗効果による、善逸をも凌ぐであろう神速の如き刃。
赤ではなく青い炎が混じったその技を放ち、私は鬼の触腕を複数まとめて、素早く斬り落とした。
視線の端では、禰󠄀豆子ちゃんが私の動きに合わせて翻る羽織を、キラキラした目で見つめていた。
この羽織は私の自慢だ。
白地に淡い薄紅の色彩ぼかしは、炎柱の羽織と色違い。
そこに桜の花弁が舞い散り、赤い炎が描かれる代わりに赤から蒼に変わる炎の意匠が描かれているという、まさに炎柱羽織の色違いそのものというわけ。
最終選抜から戻り、刀の色変わりを見て。
杏寿郎さんが私のためにと仕立ててくれた物……らしい。
でも実は槇寿朗さんも一枚噛んでいると私は思っている。槇寿朗さんは素直に話してくれないし、杏寿郎さんも千寿郎も教えてくれないので私からは聞けないけれども。
その羽織の端っこを、禰󠄀豆子ちゃんにくいくいと引っ張られた。
「気になるの?え、羽織じゃない?
ああ、髪の毛だったのね」
なんと、禰󠄀豆子ちゃんが気になるのはこの髪の毛だった。羽織の説明し損!……かな?
元々は真っ黒いだけだった私の髪。
私は小さい頃に煉獄家にやってきて、観篝替わりの炎をそれはもう何百回、何千回と見続けて育った。
そう、まだ炎柱として活躍していた槇寿朗さんの炎の呼吸と、杏寿郎さんの炎の呼吸だ。
その結果、私の髪の毛の一部分は中途半端に煉獄家の色に染まった。ああ、瞳の色もか。
その時からは髪は伸ばしたままで、一度も切ったことがない。
これは煉獄家の一員だと勘違いしないようにしている私が、本当は煉獄家の一員として……家族として共に在りたいという、願いの現れ。
「ずっと伸ばしてるの、馬の尻尾みたいでしょ」
伸びてくる触腕を斬りつけながら、会話を続ける。場にはそぐわないかもしれないが、ただでさえ周りが気持ち悪いのだ。せめて癒しのひとつくらい欲しい。
「……もしかして私と同じ髪型にしてみたいのかな?ふふ、じゃあ今度やってあげるね」
こんな妹が私も欲しい……。
ぴょんぴょんと跳ねて嬉しそうにする禰󠄀豆子ちゃんを撫でる。そんな横から、ヒュッと触腕が飛び出した。
「うわ!癒しを補給してる時に何さ!空気を読め!」
「むっ!」
私と禰󠄀豆子ちゃんの息が一つになった。だが私よりも早く禰󠄀豆子ちゃんの爪が、触腕を燃やす。
ボヒュッ!という軽やかな音を立てて。
「おお……すごい!禰󠄀豆子ちゃんの炎は、こんな大きな鬼の触腕も燃やせるのね!」
「むー!むぅん!」
「ふふ、頼りにしてるよ。さ、行きましょう!」
さらに進めば進むほど、鬼の気配は濃くなる。比例するように肉壁も触腕も、分厚く太く凶悪になっていって、いよいよ乗客の身が心配だ。
斬りつけた側から新しいものが、植物が一気に成長するが如く生えて止まない。
「斬っても斬っても伸びてきてる……際限なくって感じで嫌になるなあ」
ドッ!!
複数本の触腕が、私と禰󠄀豆子ちゃんの間に走った。
しまった、分断された!
「っ!禰󠄀豆子ちゃん……!」
けれど禰󠄀豆子ちゃんは怯える事なく、触腕を通して鬼を睨んでいた。
バキバキ、ミシミシ……禰󠄀豆子ちゃんの体から音がする。その体が幼児から少女へ、本来の年齢であろう姿へと変貌する。
爪も鋭くなり、縦に大きく割れてしまった瞳孔は鬼そのもの。
「ウヴッ!!」
禰󠄀豆子ちゃんは眠っている人間でもなく私でもなく、鬼の触腕目掛けて鋭い爪を振り下ろし、鬼の肉を粉砕するほど強烈な蹴りを披露した。
見事な足捌き!敵を明確に認識している。
「つ、強い……」
私がそう呟くと、一瞬振り返った彼女は幼いなりをしていた時同様、あどけない笑みを向けてみせた。
禰󠄀豆子ちゃんは鬼だけど、顔も動きも鬼だけれど、人を傷つける気配は皆無。……大丈夫だ。
「ここは任せていい?私は先に行く!」
頷いたのを確認し、私は次の車両を開いた。八両編成……まだ、守る場所は多い。
杏寿郎さんはさすがに起きただろうか。柱一人は隊士が束になっても叶わないほどの力も価値もある。
だから起きていることを願う。
「……ほんと、臭いし気持ち悪いし、踏み心地も最悪!
列車が鬼の肉になるとか誰が想像するのさ!夜じゃなくて昼に走って日に焼かれちゃってよ!
ーー炎の呼吸弍ノ型昇り炎天んんん!」
地より噴き上がる炎の如き刃で、迫り来る鬼の触腕を斬り払う。
乗客に伸びていたそれは炎の呼吸をたっぷりと帯びた斬撃のおかげか、再生速度が著しく遅れていた。
「ふう」
伸びてくる触腕を斬るのも大事だけど、一刻も早く大元の鬼を斬らなくては意味がない。
こうして斬りながら鬼の強い気配を探ってみるけれど、炭治郎のような嗅覚があるわけでもないし難しそうだ。
気がつけば再生速度の落ちたそれが、足に絡みついていた。
ゆっくりと背後から忍び寄るとか、鬼側も考えたな!って、感心してる場合じゃない。
「ぎゃー!?やだ、やだやだ!
あ、上がってくるぅ!?」
足に絡んで強く締め付けてきた触腕が、ふくらはぎ、太ももと這い上がってくる。
呼吸を整え直し斬ってやろうと思ったのに、腕にまで巻きついて拘束された!
う、動けない……!
締め付け潰して殺す気だ。
「えっ……!ちょ、離せ助平鬼ッ……!!やっ…………どこに入ってきて……ッ!」
だがそれは、あろうことかスカートの中に侵入してきた!
ええーっ食べるってまさかそっちの食べるとか言わないよね!?
普通、鬼はお口でがぶがぶもぐもぐごっくんでしょう!?