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就任パーティーでキバナさんにマスボぶつけられた

「どうした、まだインタビュー受けてんのかー?」

インタビューを受けていたら、背後から声を掛けられた。
私を知っている風な言葉に振り向くと、そこにいたのはダークグレーのスーツに身を包む見目麗しい男性。
どこかで見たことある気がするんだけども、こんな知り合いはいないはず。

「えっ」

もしかして他人の空似か何かで、また違うインタビュアーさんなのかと思い、うんざりした気持ちを隠しつつ顔を向ける。
すると、その男性はおもむろに掌を額に当て、目の上を覆い隠して人好きのする笑顔を浮かべた。
あれ?この顔知ってる。
オレンジ色のバンダナがないけど、キバナさんだ。

サザンドラの羽根みたいにぴょんぴょん跳ねている結んだ後ろ髪も、ツーブロックな髪型もぴっちりとワックスで撫でつけられていたから全然わからなかった。
どれだけイメージがバンダナに固執していたんだろう。

キバナさんはいつもかっこいいけど、今は正装姿も相まって更にかっこよさが増している。
顔面600族だとか言われ、様々な媒体に広告塔として引っ張りだこなだけはある。
私はバトルジャンキーだから、同じ600族なら顔面よりも普通に基礎値600族のほうがいいな、なんて思っちゃうけどね。

それからすぐにインタビューは終わって、インタビュアーは慌てたようにそそくさと離れていった。けむりだま使って逃げるみたいに。
当初の予定だともう少しまだ続きそうだったのに、なんでだろう?
キバナさんが私に用事あるような感じで来たから、早めに終わらせてくれたのかな。
だとしたらありがたい。

……けれど。

この人とても近い。やたらと物理的距離が近い。
すごく嬉しそうに、そして愉快そうにキバナさんが笑ってやたらと絡んでくる。

うーん、こんな愉快?な人だったのかな。
それとも、お酒の匂いしてくるしそのせいかな……。

「はいユウリ笑ってー」

キバナさんに言われるまま、レンズに向かって笑顔を向ける。
このちょっとの時間で、キバナさんのスマホロトムに何枚の写真を撮られただろうか。多分、受賞式やインタビューを受けた時よりも多いと思う。
多すぎです。
知らない人じゃないからいいけど、キバナさん、ツーショット写真撮る時にほぼゼロ距離です。密ですよ。

きっとキバナさんは絡み酒の笑い上戸なんだと思う。
パパはどうだったっけ…。ママはキバナさんと同じでお酒飲むと笑って楽しそうにしてたけど、パパも笑い上戸なのかな。
だめだ、パパってガラルにはほとんど来ないからまったく思い出せない。
そもそもお酒飲んだところ見た事ないし、基本的に無口だった。

「なあユウリ、オレ様聞きたいんだけど、好きな食べ物ってなに?どんな色が好き?旅行するならどの地方がいい?」
「ええと……キバナさん??」

ほっぺどうしがぶつかりそうな距離の中、写真を撮りながら、キバナさんが次々に聞いてきた。
まるでお見合いの場やプロフィール交換でされる質問みたい。

「そういうのってマスコミやスポンサーとの仕事で必要だから聞いてる……んですよね?」

まさかまさかの、キバナさんがマスコミの差し金?
そうでなくちゃ、キバナさんがこんなこと聞いてくる理由がないもの。
別にそれが嫌とかじゃないけど、キバナさんがそんなことするのかな……?うーん。

「んー?」

意味がわからないというように、へらへらと笑うキバナさん。
だめだ、キバナさんやっぱり酔ってるんだ。

「オレ様が知りたいから聞いてるだけだぜ。
だってオレ様ユウリのこと……」

その時、インタビューが終わったダンデさんが戻ってきた。
キバナさん、一体何を言いかけたんだろう。

「ユウリ君、ひとりにしてすまない。……と思ったが、キバナが一緒だったか。
ん?キバナはどうしたんだ?」
「ダンデさん……」

ちょっぴり困ったように、キバナさんに組まれた肩に目をやると、ダンデさんが即座に間に入ってキバナさんを私から引っ剥がした。
え、キバナさんの腕痛そうだったよ?大丈夫かな。
そんなには困っていたわけじゃないので、もうちょい優しくやってあげてもいいのでは……と思ったけど言わなかった。
だってダンデさんの顔ちょっと怖かったもん。

「ちょ、いきなり何すんだダンデ」
「ユウリ君、キバナに何かされたのか?」
「話聞けよ」
「写真たくさん撮っただけなんで、特に何もなかったですよ」
「おいこらダンデ。ユウリまで無視すんなって」
「そうか。
キバナ、何かしでかす前にその酔いをどうにかしてきたほうがいいぞ。
これはユウリ君のためのパーティーだし、ここにはマスコミだって来てるんだからな」

ありゃ、キバナさんが叱られてる。

「オレ様を誰だと思ってんだ。シャンパン数杯だぞ、お前が思うほど酔ってない」

いつもはダンデさんと同じように大人な人だと思うけど、少なくとも私からは、今のキバナさんは酔っ払いにしか見えない。

「だろうな。そこまで酔っていないのはわかってる。
だがキバナ、今は一度外で酔いをしっかりさましてこい。おいしいみずと夜風ですぐ正気に戻れる。
それが嫌なら俺のポケモンの技で酔いをさましてやるが」
「オレ様ゴリランダー(紫色の色違い)からダイナックル受けるの嫌だわー」
「はっはっはっはっは」

紫色のゴリランダー?ゴリランダーの色違いって髪の色が薄緑だったよね?どういうことだろう……と、考えていたら空気がいきなり重たく、そして冷たくなった。
んん?じゅうりょく?それともアイスフィールドかな?

あ、ダンデさんが笑いながら、ベキベキポキ、指を鳴らしてる。
キバナさんが、何かダンデさんを怒られる発言をしてしまったみたい。

「誰が紫のゴリランダーだって?」

ダンデさんがキバナさんの胸倉をつかんで持ち上げている。
それは良く見ればいつものふざけ合いの延長のようで、本気で怒っているようには見えないものの、そのスーツとネクタイでやったら確実に首が絞まると思うの。

あ、急激に絞まってたみたいで、キバナさん何にも言えずされるがままだ。

「ダンデさん!キバナさんの首絞まってるから!白目むいちゃうから!」

黙って見てたけど、さすがにキバナさんひんしになっちゃう。
ポケモンセンターに運ぶ羽目になったら困る。だってあそこ、人間は管轄外だもの。

「そういうのするなら、ぜひポケモンバトルでお願します……!」
「む。そうだなそうするか。キバナ、あとでバトルの続きをしよう!」

ダンデさんは何事もなかったように涼しい顔でキバナさんから手を放す。
バトル欲が激しいというか、バトルバカというか……。私も人の事言えないか。
一方のキバナさんは何度か咳き込んでから乱れた衣服を整え、ダンデさんを睨みつけた。

「ダンデお前……オレ様に先に言うことあるだろ……。まあいいけど」

オレ様酔い醒ましてくるわ~。
キバナさんはそう言って、私の頭に手をぽんと置いた。

「頑張れよ」

一言そう残して会場から抜けていく後ろ姿。
キバナさんは私が疲れてきているのを知っていたのかも。
だから、インタビューの合間にこうして休憩を入れるために、自ら来てくれたのかもしれない。
緊張もほぐしにきてくれたのかもしれない。うん、きっとそう。

キバナさんは、ダンデさんとはまた違ったタイプの、優しくて頼りになるかっこいいお兄さんだなあって思う。
あんなお兄ちゃんがいたらいいのにとさえ、思う。

キバナさんにもらった頑張れって言葉を胸に、まだ残っているインタビューや挨拶まわり頑張ろうっと。
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