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就任パーティーでキバナさんにマスボぶつけられた

『勝者!チャレンジャー、ユウリ!!』

実況のその言葉が響くと同時、観客の歓声がスタジアムを包み込んだ。

信じられない。
まさか……まさか無敗のダンデに勝ってしまうとは。

ダンデは笑っていた。
目深にかぶった帽子のその奥で、新たなチャンピオンの誕生に笑っていた。
悔しさはあるだろう。その悔しさは帽子の奥深ーくで上手く隠し、自らを王座から引き摺り下ろした彼女を祝福していた。

「ガラルの皆!今ここに新しい伝説が生まれた!」

ダンデの言葉に合わせ、巨大なスクリーンいっぱいに映される、ユウリの笑顔。
その背後で盛大に打ちあがる花火。

「すごい力を持つ者なら、どんな未来でも描けるだろう!
彼女が見せてくれる未来、皆で楽しみにしようぜ!」

瞬間、彼女はガラルのチャンピオンとして世界に受け入れられた。
熱狂の渦は止むことを放棄したかのよう。

興奮がさめないのは、オレ様も同じ。
ユウリの未来が、楽しみでならない。その玉座から落とすその瞬間も。
今度バトルする時は負けない。
第二の無敗伝説なんて、作らせない。
見てろ、次はオレ様がその場所に立ってやる。

ユウリは今、チャンピオンになった興奮で笑顔を浮かべているが、その座をオレ様が奪ったら、さて……どんな顔をするだろうか。
ふと、その顔を観客席から眺める。
バトルの時の表情と違い、頑張ってくれた手持ちのポケモン達に笑いかける笑顔が、ここからでも眩しく輝いて見えた。

ありがとう、みんなだいすきだよ。

見つめすぎたせいか、口元がその言葉の形に小さく動いたのが手に取るようにわかってしまった。
ユウリがポケモンにやわらかく笑いかけるさまを見て、オレ様はへびにらみされて麻痺したねずみポケモンのように硬直してしまった。瞳が動かない。心臓も、大きく跳ねたあと、止まったかのよう。
その時にはもう、ダンデの姿も観客の姿も目に入らなかった。

その夜の我が新しいチャンピオン様は、ホテルに帰る頃には、くたくただったと聞いている。
だがその翌日からリーグに顔を見せたユウリの顔には疲れがほとんど見えなかった。
若いっていいよなあ。
え?オレ様もまだ若いだろうって?
サンキュー。でもユウリよりは相当年上なんだよなぁ。

が、そのユウリの顔も、チャンピオンとしての激務をこなすうち、徐々に疲労の色を滲ませ始めるようになった。
うまく隠してても、オレ様にはわかるぜ。彼女の前ではオレ様の特性はおみとおしだ。無理はすんな。

そしてその疲れの原因になるであろう最たる催しが、今日のコレである。

ホテルロンド・ロゼ。
式典などにも使われる「ギルガルドの間」にて、ネイビーのパーティードレスに身を包んだユウリが、ダンデにひっついて挨拶回りなどをしている姿が見える。
ドレスを着ているというよりドレスに着られている、といった印象を受けるが、その背伸び具合がかわいいことに変わりない。
動くたびにふわふわ揺れ動く裾を、目でいつまでも追ってしまう。

談笑を繰り返すその手には、いつまでも摂取されないしゅわしゅわのグラス。
グラスに浮かぶ結露の具合で、ぬるくなって久しいのか丸わかりだ。
中身はオレ様たちのものとは違い、サイコソーダかそのあたりだろうが……ぬるいサイコソーダなんてオレ様なら絶対許せないな。

ああ、ほらまたちがう奴からの言葉に嫌な顔一つせず答えている。
疲れているだろうに慣れない笑顔を浮かべ、挨拶まわりに一生懸命奔走している姿のなんと健気なことか!
なのにインタビュアーたちは、その健気さなんて見ていないとばかりに新チャンピオンであるユウリに群がっている。まるで獲物に群がるアイアントじゃねぇか。
せめて水分くらい摂る暇与えてやれ、オレ様のサダイジャけしかけてやるぞ。がるるる。

でも、どんな表情のユウリも。

「かわいいよな」

何杯目かよくわからないシャンパングラスを煽り、隣にいた同僚にそう漏らす。

「ルリナもそうおもわねぇか?」
「は?」

同僚であるバウタウンジムリーダー、ルリナにそう問う。
彼女はオレ様の視線の先を辿ることで、ようやく誰の事を言っているかわかったようだった。
なんですぐわからない。この場所に存在するかわいいものはユウリ以外にいないだろうが。

「あー……。
カムカメみたいに小さくてかわいいわよね」

おいこら、ユウリをカムカメと一緒にするな。
たしかにカムカメだってかわいいポケモンだが、どっからどう見たってヌメラかナックラーのほうがユウリに似てるだろかわいいだろ!
……と言おうと思ったがやめておいた。

そもそもジムリーダーに聞いたのが間違いなのだ。ジムリーダーは自分が専門とするタイプのポケモンにかわいさを感じやすい。
ルリナならカジリガメの進化前カムカメに、オレ様ならヌメルゴンの進化前のヌメラやフライゴンの進化前のナックラーに、といった具合にだ。

そして、ジムリーダーが感じるかわいさの種類と、オレ様が感じるかわいさの種類は違う。

「ひとつ言っとくがオレ様、ポケモンや親戚の子供を可愛がるような気持ちでユウリの事かわいいって言ってるわけじゃないぜ」
「え、じゃあなんなのよ」
「俺も気になりますね」

シャンパングラスをゆるく傾けながら、ルリナが聞いてくる。
聞こえていたのか、その隣にずずいと割って入ってきたのはネズだ。ユウリに対するオレ様の感情の名に『きけんよち』でも感じたのかもしれないな。

「食べちゃいたいくらい可愛いってこと」

ユウリに熱い視線を送る。
オレ様の熱視線って技で、こっちに気がついて顔見せてくれないかな。
あ、かわりにダンデがこっち見てきた。お前じゃねぇよ。ユウリの隣にいるからそんないい笑顔なのかチクショウ!
我がライバルにオレ様からもいい笑顔送っといた。きっとこの笑顔に含まれる意味は理解していないだろうけど。

「ちょっと待って、アンタ今なんて?」

ルリナは意味がよくわからなかったのかもう一度言うようにせかし、ネズは隣で頭を抱えている。
食べる、という意味にネズはやはり気が付いたか。

「だから、オレ様はユウリをひとりの女として見てるってことだよ。わかんなかったか?」

察しの悪いルリナにもわかるよう言ったら、絶句されたあと、小さく「ロリコン」って聞こえた。

「好きなやつがたまたま子供だっただけ」
「えー、それって本気……?」
「オレ様本気、超本気」

シラフじゃないからいまいち信憑性に欠けるかもしれないが、オレ様が最大限できる真面目な顔で本気度をアピールする。

「本気なのはいいですけどね、俺の妹に手を出しやがりましたらブッ飛ばしますよ」
「ネズの妹じゃない、オレ様はユウリ一筋だっつの」

シャンパングラス越しに見えるユウリの横顔。そのグラスの端に入ってきたネズが、こちらに怪訝な顔を向けているのが見えた。
今までのオレ様の恋愛傾向を知っているネズからすれば、全く真逆なタイプであるユウリ。
だが、今までは好きで付き合ってたわけじゃないこともまた、ネズは知っている。
今までは相手から言い寄られて付き合っていた……というのがスピードスターと同じパーセンテージをほこっていたからな。

「……何かあっても俺はユウリの味方ですからね」
「私もユウリの味方」

ネズもルリナも、それ以上は何も言わなかった。
お小言は増えるかもしれないが、こいつらに軽く言っておいて正解。
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