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ユウリ、キバナさんと鎧島行く、の巻

ブラッシータウンから乗り換える頃には仲直りは済んでおり、ユウリの機嫌も直っていた。
訳:ユウリに餌付けした。

「海底トンネルを通り抜ければ、ようやく鎧島だぁ!」

海底のトンネル内からは、かの地方にあるマリンチューブにも引けをとらぬ海中の様子が窓から見える。
鎧島はもちろん、水族館にも似たその光景が楽しみなのか、ユウリは窓に張り付いてトンネルに入る時を今か今かと待っていた。

「長いトンネルを抜ければそこはキルクスタウン、っていう小説の冒頭だな」

しかし今から行くのはキルクスタウンとは真逆の南国ムード漂う鎧島。
そもそもそれは昔の文学の表現か。

「あっ!キバナさん、暗がりでまた変なことしてこないでくださいよ?」
「海底トンネルの中は明るいし、そんなことしたくたってできねぇっての!」
「んー?『したくたって』?……レントラー」

またレントラー呼ばれた。
解せぬ。

長い長い海底トンネルを潜り抜け、ようやく鎧島の玄関口、ヨロイ島駅へと到着した。
うん、やはりコンパートメントつきの列車にして正解だったな。
長時間の旅でも体が痛くない。

「海だー!鎧島だー!!」
「そんなはしゃがなくても、ユウリは普段から来てるだろ?」
「えへへ。そうなんですけど、列車から降りてすぐ海が広がる光景ってなんかこう、はしゃぎたくなりません?
アーマーガアのタクシーだと、味わえない感動ですよ」
「一理ある」

それにしてもいい天気だ。
南国の潮風が心地よくて、ユウリとふたり、大きく伸びをする。

「懐かしいぜ」
「キバナさんきたことあるんですか?」
「ヨロイパスもらった時にな」

あー、砂の上にユウリを巻き込みながら転がりたい。
2人で特性すながくれになって、誰にもバレないように砂に塗れていちゃいちゃしたら最高だよな。
砂がジャリジャリでいやだろうって?ンなこと、砂パ常用してるオレ様が思うわけない。

「おっ!ヤドンだらけだぜ」

この思いを吹き飛ばし、周りを見やる。
右向いても左向いても砂浜にはヤドン、ヤドン、そしてヤドン。
オレ様達がすながくれの特性だとしても、こんなところでいちゃいちゃしたらヤドンにバレちまいそうだ。
ヤドンだけでなく、他のポケモンもたくさんいるしな。

しかしなるほど、生息するポケモンもあの頃とは少し違うようで、また違った発見がありそうだ。
何より、隣には好きな女の子。それだけで最高。

「べあまっ!」

恋人つなぎして鎧島の旅へと繰り出すか、そう思ってユウリに手を差し出すと、思い切りその手を払い退けられた。
払い退けた主は、ユウリではない。
ユウリとオレ様の間に割り込む小さな影だった。

「おいユウリなんかいる」

灰色の見たことのないポケモンが割って入っていた。
ぱっと見はかわいらしいポケモン。
だがその表情は厳つくて渋く、悪く言えばおっさん顔。顎にシワ寄ってんぞ。
ユウリとの触れ合いを邪魔をしてくる相手を前に、オレ様はそういう感想しか抱けなかった。

「あっ!紹介しますね!マスタード師匠からいただいたダクマです。かわいいでしょー!」

ユウリのポケモンかよ!!

よいしょっと。という掛け声とともにダクマを抱きあげるユウリ。
おい、何だっこされてんだお前。
今、ニヤって笑っただろ。本当に中身おっさんなんじゃねぇか?

「レントラーはオレ様から身を守るためだったしわかるが、なんでそいつ外に出てるんだ?
オレ様が隣にいる間はポケモンしまってくれよ」
「だが断る!
この島ではポケモンを外に出して連れ歩いてもいいって、許可出てるんです。
何より、連れ歩くことでとっても仲良くなるんですよ!ねー?」
「べあべあー!」

連れ歩き機能ーー?
あの伝説の機能がふたたびこの世に降臨??
さいっこうじゃねぇか。蘇るピ●チュウバージョンの記憶!●ウルシルバー●ートゴールドの思い出!!
って今はそこじゃねぇ。

「だが断るっておいおい。
仲良くなるのは否定しない。けど結局はここが危険だから出してるって事だろ?
オレ様という最強の矛にして最強の盾がユウリを危険から守ってるんだぞ?出さなくても大丈夫だって」
「私の方が強いです!」
「………………。あーはいはい、ソーデスネ」

たしかにユウリは強い。
ガラルの現チャンピオン様だし、オレ様も勝ててない。バトルは負けなしで強い。
だがそれはポケモンバトルに関してだ。
ポケモンも出せない状況で、複数の男に囲まれたら?ユウリは自分が女だということをわかってない。
世の中、いい奴だけじゃない。悪い考えを持つ大人だっている。

人間相手には、勝てない。

いつかユウリが危険な目に合う前に、オレ様が直々に教えなくちゃならないだろう。体の奥深くまで。
その時が来るのが恐ろしく不安に感じつつも、同時に楽しみでならない。ゾクゾクする。

「でもこいつよりはオレ様の方が強い。
こんなチビっこいポケモンに頼る必要ないし、仲良くするってんならオレ様ともっと仲良くなろうぜ?」
「ダクマに張り合わないでくださいよ」

ヤドンをつんつんして遊んでいたユウリが、ため息を吐き出す。
そのヤドンにすら嫉妬しちまいそうだぜ。あぶりテールカレーにしちまうぞ。がおー!

傍らのダクマとやらをちらと見ると……。
小さな拳を震わせ親の仇!とでも言わんばかりに、こちらを睨みつけていた。

「え?なにこいつ?オレ様にメンチ切ってるの??」
「べっあ!」

オレ様の頭上まで飛び上がったダクマが、脳天目掛けて手刀を振り下ろす。
ズガァァァン!
瓦割りがオレ様の頭蓋骨にクリティカルヒット!
自分の頭の音ながら、いい音響いたという感想が浮かんだ。

「ぐぉあ!?」
「きゃーーー!キバナさーーーん!!?
ちょ、ダクマ!そういうことはメッ!でしょ!!」
「べあ……」

これにはさすがのユウリも、ダクマに注意していた。
そうでなくては困る。
ユウリには将来的に、ポケモンよりオレ様を優先するようになってほしいもんな。

「だ、大丈夫ですかキバナさん……?」
「うぐ……いてて、目玉飛び出るかと思った。目の前に星どころか、流星群舞ったぜ!?」

こめかみに青筋が浮かんだが、ユウリに怒ってるわけじゃない。
ユウリの後ろに隠れる小さいポケモンに怒っている。
だってオレ様がいくらドラゴン使いだとはいえ、自分に危害が及ぶ流星群なんて見たくないだろ?
あれは味方が白いハーブかこだわりメガネを持って繰り出すことで初めて真価を発揮するもんだ!

「私のポケモンがごめんなさい、キバナさん……。
でも、この子照れ屋さんなんでキバナさんも言動には気をつけてくださいよー」
「照れ屋!?
これを照れ隠しだっていうならジュンサーさんいらないっての!」

ポケモンの過ちはトレーナーの責任。ユウリが謝るのは当然だったが、その謝罪はどこかダクマ優位だ。
ユウリの後ろに隠れたダクマがこっちを見てニヤリと笑った気がした。

「!!」

何が照れ屋だ。
あいつはオレ様とユウリの仲を壊そうとする障害のひとつに違いない。
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