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ユウリ、キバナさんと鎧島行く、の巻

「うわぁ、イケメンはカフェでコーヒー飲んでるだけで絵になるってほんとだあ」

待ち合わせ時間10分前。
ユウリがこちらに手を小さく振りながら現れた。
珍しくデニムのショートパンツにTシャツにラバーソウルスニーカーと、オレ様と同じような動きやすい出で立ちだ。
オレ様のファッションも、ユウリのものから大きく外さなかったようで安心した。
いやむしろ、似たもの同士?似たもの夫婦?
やべぇ今すぐ結婚したい。
まずはオレ様のイケメン具合に惚れてくれないかな。イケメンって言ってくれてるんだし。

「待ちました?」
「ついさっき来たところだ。待ってないぜ」

見えすいた口上。アイスコーヒーのグラスにつく結露の様子でまるわかりかもしれないが、ユウリ相手に一度言ってみたかったんだよな。

「ほら、チケット買っといたから駅弁買ってはやく乗ろうぜ」
「あ!ありがとうございます!チケットいくらですか?」
「チケット代くらいオレ様に奢らせろって」
「でも……。
だいたいこのチケット、普通の列車じゃないですよ?高いやつぅぅぅ!!」

ここから鎧島までは結構な距離がある。
普通列車だと椅子が固くて尻が痛くなるかもしれないと思い、柔らかくふかふかなソファー付きのコンパートメント式観光列車にしたのだ。もちろん一等車両な。
だって、かわいいユウリのお尻がオレ様以外の、例え『物』からだとしても、痛い思いさせられるなんて許せないだろ?

「いいからいいから。ほら、ユウリの好きそうな駅弁いっぱい売ってるぞ〜?」
「ううう、誘った人が買うのが普通なのにぃ……。
あとでたっくさんお礼しますからね!覚えててくださいよ!!」
「ああ、ちゃんと覚えておく」

来たるべき日にしっかりと体で返してもらうからな。

一等車両だし車掌達が軽食やドリンクを勧めてくるだろうが、ユウリはそういうものよりもその土地その土地で買える駅弁にご執心だ。
オレ様は駅弁よりエキベンプレイのほうがいいなー。
あ、やべ。朝っぱらからユウリのセコムにキョダイゴクエンされそうな事考えちまった。
あいつ方向音痴のクセに、ユウリの危機にはまっすぐやって来るからな。
……気をつけよ。

そんな事を思いながら、ユウリと同じ駅弁を買う。
なんだこのダルマッカの弁当箱。白くない。赤い!

「ガラルのダルマッカじゃないなこいつ」
「ほかの地方のダルマッカって、炎タイプで縁起いいんだそうですよ」

へー。雪だるまじゃないんだな。
氷タイプじゃない、こっちのほうが好きになれそうだ。

「って、食い始めるの早っ!」

列車が出発して間もなく。
さっそくユウリが弁当の蓋を開けて食事にしていた。

「駅弁って普通、窓から覗く風景眺めたりゆっくりしながら楽しむものじゃないか?
え、なに。ユウリはポケモンなの?ゴンベなの?」
「こういうのは美味しいうちに食べないと料理に失礼ですから。
ちなみにゴンベはすでに家にいますので、間に合ってまーす。ん〜!おいひぃ!」

まあ、ユウリが美味しそうに食べてるならそれでいいか。
オレ様もユウリに倣い、蓋を開けて食べた。

広大な砂塵の窪地の、荒廃したワイルドエリアのフィールドを左手に臨みながら、列車はバウタウン方面へと進む。
腹もいっぱいだし、列車特有のこの揺れのせいか少し眠い。
先ほど車掌にもらったお茶を口にしながら、傍の愛しいオレ様のユウリを眺める。

「わー、野生のフライゴンが見えるー!遠くから見るワイルドエリアもいいものですよね!」

うん、めちゃ元気いっぱいに車窓からの景色を楽しんでるな。
まだ腹がいっぱいじゃないのかもしれない。
ユウリをゲットすると、元気の証持ってるんだろうなぁ。

「あ、そういえばダルマッカ弁当発祥のイッシュ地方には、バトルサブウェイなる列車があるみたいですよ。それも乗ってみたいなぁ」

バトルマニアなユウリらしい考え。
オレ様もバトルは好きだから、それは行ってみたいところだ。
ユウリと一緒にならこれほど嬉しいことはない。

「なら予定立てて行こうぜ」
「はいっ」

なんなら、新婚旅行にでもな。

バウタウンを抜けて蒸気機関で賑やかなエンジンシティを通り抜ける。
独特のスモッグで昔は空気が汚れていたらしいが、今は青空が澄み渡るほどに回復している。
これはエンジンシティの周りに生息するドガース達のおかげだ。

しばらく走ると田園風景が広がり、野を越え山越え長いトンネルを越えれば、ようやくブラッシータウンが見えてくる。
つまりもうすぐユウリの出身地近くか。

この世界の成人年齢は一応10歳と言うことになっている。一応な。
酒を飲める歳や結婚できる歳はまた違うが、10歳と同時に子供一人で旅に出れるのはそういう理由からだ。
つまり!今ブラッシータウンに降りてその足でユウリの実家に挨拶に行けば『娘さんをください』自体は言える!
だがこの普段着じゃなぁ……。

それにあともう少し恋人同士の時間を楽しんでからでも悪くない。

「ユウリ、まだしばらくはラブラブカップルのトレーナーでいような」
「はい?なんですかそれ、って!
暗闇だからって何してるんですか……!」

しまった、まだ恋人じゃなかったの忘れて思い切り抱きしめちまった。
強く抱きしめすぎて、一瞬オトスパスになるところだ。
ユウリの意識を落とすのはよくない。

ああ、でも。
オレ様の腕にすっぽりおさまる成長期の小さい体。
トンネルという暗闇の中で研ぎ澄まされる嗅覚。ユウリの甘い匂い。

……くらくらする。

あまーいりんごと新鮮クリームを混ぜたような甘い匂いも、ユウリからだと思うとそれだけで好ましく思う。
ユウリも食べたらりんごとホイップのとろけるような甘い味なのだろうか。

「ひゃん!?
や、やめてくださ……」

いつも気になっていたその味。
気がついたら、暗闇の中で探し当てた柔らかなユウリの頬をぺろりと舐めていた。

好きな子とはいえ、子供と侮っていた彼女の口から漏れる甘い声にムラムラする。
ユウリの薄いTシャツの中に指を滑らせたところで。

「レントラぁーーー!!」

叫びに答えたユウリのレントラーが、開閉スイッチを押されずともコンパートメントの中に出てきた。
レントラーの『勝手に10まんボルト』からの『ほえる』。
オレ様は沈められた挙句、コンパートメントからしばらくの間締め出されてしまった。

「おいおいそりゃないだろ」
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