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ユウリとキャンプするキバナさん

キルクスタウンからロトム自転車での帰り道だと言うユウリを、オレ様の街ナックルシティで偶然捕まえた。
が、ユウリの姿を見て、オレ様の笑顔は一瞬で真顔になる。
愛用のニットパーカーのボタンをひとつあけたそこからは、ポケモンの顔が覗いていた。ちょっとそこ代われ。そこは将来的にオレ様のものだ。

害を感じさせぬつぶらな瞳をこちらに向けてくる其奴は、来る途中でゲットしたばかりのユキハミらしい。
ユキハミ……うわ、氷タイプじゃないか。
確か、身体が氷で覆われたいもむしだったよな。
そんなポケモンを胸元に……?

ズルイ以前に見ているだけで凍えそうなんだが、本人は至って平気だと言う。
ポケモンへの愛情で、ユウリの心臓とうとう炎タイプに変わったの?ほのおのからだかマグマのよろいでできてるの?
チャンピオンとなった今は、数々のメディアに引っ張りだこ、ファンやパパラッチに追い回されてたいへんだろうが、ポケモン第一でバトルマニアなところは変わらないようだ。そこは少し安心している。
いや、バトルマニアの部分は限界突破してるから、少しは落ち着いてくれてもいいくらいか。お前は第二の無敗伝説を作るつもりなのかユウリ。

ユウリはユキハミを進化させるべく、これからワイルドエリアにレベル上げに行くようだ。
キャンプコースか……。
そういえば最近まとまった休みを取っていないな。ジムもそんなに忙しくないし、うちには優秀なジムトレーナー達がいる。
よし、ちょうどいい、休みを取ろう。今休みとらなくていつ取る?今だろ!

と、いうわけでオレ様はユウリとともに、ワイルドエリアに行くことにした。
キャンプセット持ち出すの何年ぶりだ?懐かしい。
でもこれでユウリと一緒にいられる。

ユウリは、チャンピオンとしての仕事をするにはまだ幼い。ガラル地方を旅して回る方が大事だ。
(もちろん、チャレンジャーが現れたらチャンピオンを防衛すべくシュートシティのスタジアムに行くのだが、そこにたどり着くチャレンジャーなどいるわけもない。
なぜなら、オレ様という絶対に越えられぬ壁がそこに立ちはだかるからだ。)

そんなユウリと一緒にいられる機会は少ない。しかもキャンプでふたりきり。独り占めできる機会なんて出現率の低いポケモンより少ないかもしれないからな。

ワイルドエリアに入ってすぐ、アイテムときのみを使いながらえげつないレベル上げをされたユキハミ。
見た目こそボロボロだが、スパルタなレベル上げで、もうそこそこのレベルまで上がっている。おいおいまだここに来てそんなに経ってないだろ。

そんなわけで、ユキハミを先頭にユウリの一軍メンバー総出で、今はげきりんの湖奥にキャンプを張っている。
天候は雪。この分だと夜には吹雪にでもなりそうな、ユキハミには嬉しい(そしてオレ様には嬉しくない)天気だ。

空から舞い落ちる雪をバックに、ポケボールで手持ちポケモンと戯れるユウリを眺める。
バトルの時は目の色が変わるが、こうしてみると普通の女の子だ。
このギャップがまたいいんだよな。

サイレントモードにして、スマホロトムにその横顔をこっそり撮らせる。
これはSNSにUPせず、自分専用のフォルダに保存、と。
ああ、ユウリの写真が増えていく。しあわせ。

スタジアムでバトルして、負けた瞬間に恋に落ちたのを思い出す。
オレ様に勝った時に、ふにゃっとポケモン達に向けていたあの笑顔、オレ様にもいつか向けてくれないかな……。

彼女の最初のポケモンでもあるエースバーンは、雪の中でも楽しそうにポケボールを蹴って遊んでいるが、このキャンプの主役は少し疲れているようだ。
もちょもちょと変わった歩行音をさせ、その名の通り雪を食みながらユウリの隣を進むユキハミが視界に入る。
種族的にも性格的にも少しおっとりしたユキハミに、ユウリのスパルタは少しきつかったろう。
ゴマ粒のような目を、細めてため息を吐いているように見えた。

「ユウリはユキハミについてどのくらい知ってるんだ?」
「え?捕まえたばかりですから何も知りませんよ?ユキハミちゃんのことは、一緒に過ごしながら知ればいいんです」

むんっ!と胸を張って言うユウリを見て苦笑し、ユキハミには同情を覚えた。

「へー、そっかー」

ひたすらレベル上げをしているところからもそうではないかと思っていたが、やはりのようだ。
この分だと、ユウリは知らないのだろう。
ユキハミは懐いた状態で夜にレベルが上がるとモスノウに進化するポケモンなのだ。

気がついたならすぐに教えてやれ?
やだね。言ったらすぐ解散になるだろう。
せっかく二人きりなんだ。一晩くらい一緒にキャンプデートしたってバチは当たらないはずだ。

「そういえばキバナさん、そろそろ帰らなくていいんですか?」

と思ったら、ユウリ側から解散を勧められた。ああ、確かにもう夕方だもんな。
だが絶対帰るものか。ありはしないがユウリが帰る気だったなら、オレ様はくろいまなざしか特性をありじごくに変えてでもユウリをここにとどまらせる予定だ。

「なに言ってる。オレ様は数日間の休暇中だぜ?今夜はここで泊まる予定で来てるっての」
「ありゃ、そうだったんですか。
キバナさん、そこまでユキハミちゃんの進化が見たかったんですねぇ……」

お前がオレ様の手で大人になるところだったら見たいけどな。

「だいたいもうすぐ吹雪になるってのに、オレ様に今帰れはヒドいんじゃなーい?
オレ様のポケモン、寒さに弱いの忘れた?」
「キバナさんのポケモンほどの強さなら、吹雪の中でも帰れそうですけどね」

ドラゴンタイプとはいえ、それは確かに楽勝であるが、帰れ帰れと言われている気分で少し腹立たしい。

「あーあ。せっかくオレ様特製のヴルストのせカレー作ろうと思ったのになー。そっかー。ユウリは食べたくないかー」
「食べたいのでここで今夜泊まってもらえませんか?」
「素直でよろしい」

夕方になれば、ポケモンも人間も関係ない。腹の虫がりんしょうする時間帯だ。
ユウリの腹の虫も同じだったようで、カレーの話をしたら素直になった。
素直な子は好きだぜ。
お礼にヴルストのせカレーをご馳走するとしよう。もともとその予定で材料も揃えてあるしな。
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