このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

ユウリ、ナックルシティジムトレーナー体験、の巻

もう年の瀬といえどバトルには季節も時間も関係なく、各スタジアムにはチャレンジャーが次から次へとやってくる。
ユウリがチャンピオンになってからというもの、我こそは!自分も!とチャンピオンを目指すトレーナーは格段に増えたと思う。
低年齢のユウリがチャンピオンになった事、それがいい起爆剤になったのだろう。喜ばしいことだ。

が、季節も時間も関係ないとはいえ、バトルを指示するのはトレーナー。人間だ。
年の瀬の頃には、毎年、とある病が流行し、チャレンジャーが減る。トレーナー自体が減る。

もとはポケモンがかかるウイルス。
名を『ポケルス』という。その存在を知っているだろうか?

ポケモンからポケモンへ次々に感染しては、ポケモンの体温だけではなく基礎値までも上げていく、悪いところなどほとんど思いつかないウイルスだが、最近のポケルスは少し厄介だ。
なんの突然変異なのか、ポケモンではなく人間に感染するようになったそれは咳や高熱を伴って寝込むほどのウイルス……ポケルスエンザというものにいつしか名を変えた。
毎年流行するこの病、簡単に言えば感染力の強い風邪である。

そんな中、キバナがリーダーを務めるナックルスタジアムに元気いっぱいでやってきた者がいた。
チャレンジャーでもジムトレーナーでもない。

「こんにちはー!」

バトルには向かないだろう、濃い紫のサテン生地プリーツドレスに黒のライダースを羽織り、黒ハット帽に黒のブーツ…全体的にモノトーンでまとめたいでたちの、現チャンピオン。
そして今オレ様が一番手に入れたいポケモン……ではなく、人間。ユウリだった。

普段の格好も可愛いが、こうして大人びた格好している時のユウリもかわいい。デートしたい。
オレ様のためにお洒落してきたのか?
だとしたらひこうタイプのとびはねるすら到底及ばないほど、嬉しさで飛び上がってしまいそうだ。
ギガイアス、頼むからうちおとさないでくれよ?

しかし、ユウリと約束が何かしていたかな。そんな覚えはないし、約束していたならオレ様が忘れるわけがない。
ヤドランじゃあるまいし、ドわすれして精神的な防御がぐんと上がったりしないぞ。

「ユウリじゃねぇか!久しぶりだな、今日はどうした?」
「トーナメントもバトルタワーもお休みで暇になっちゃってお邪魔させてもら、」

暇だから来たのかー。真っ先にオレ様を思い出して来てくれたってことだろ?そりゃ嬉しいな!

失礼に当たるとでも思ったのか、律儀に帽子を脱いでオレ様に挨拶してくるユウリ。
そのユウリが、オレ様を見て固まってしまった。
ん?どうした??オレ様のカッコよさにかたくなった?防御あがる?

「キ、キバナさんが掃除してる!!」

そう言うとともに、ユウリが自分のスマホロトムでキバナを写真に収める。

確かに今、自分はグラウンドレーキを手にスタジアム内の地面を均している。手持ちポケモンと手分けして、だ。
特にナックルスタジアムは、オレ様のバトルスタイルの影響でいつも砂埃やら、泥やらがこびりついていることだし、こまめに掃除をしておかねば、ダストダスが喜ぶような場所になりやすい。……ダストダスは言い過ぎか。
だが、掃除しているだけで驚かれたことには、ついずっこけそうになった。
しょーもない理由だな。

「明日は槍……ううん、シュバルゴでも降るに違いない!
シールドフォルムのギルガルドか、ネギガナイトをボックスから連れて来ておこうかな……」
「おいおいシュバルゴが降るとか失礼だなァ……そこまでいうか?」
「すみません。でも壊滅的に掃除用具似合わないですね……」
「そんなことないだろ」

オレ様のかっこよさには掃除用具は見合ってないかもしれない。
だが、見た目だけで家事のできない男と、ユウリに思われるのはごめんだ。

料理に洗濯、掃除……家事ができる男はポイントが高いという。
ポイントアップであげられないそのスキルは、来るべき日のために昼夜努力して鍛えてきたものだぞ。掃除くらいできる。
ん?来たるべき日?ユウリを娶る日に決まってるだろうが。

ヌメルゴンやフライゴン、ジュラルドンが箒やグラウンドブラシ、レーキを手にしてオレ様同様に掃除するのを見かねてか、ユウリもスタジアムの端に置いてあった掃除用具を手にした。

「手伝いますね」

にこりと笑って砂を掃き出すユウリ。嬉しいがせっかくの素敵なお召し物が汚れるぞ。
そう言ったが、聞いてくれなかった。
かわりに彼女があまり汚れないうちに猛スピードで掃除は終わらせたので、終わる頃には息切れするほどだった。……ポケモン達が。
理由:つかえないはずのこうそくいどうを駆使したからである。ジュラルドン、こうそくいどうだ!

スタジアムをあとにし、トレーニングルームに設置された自動販売機でおいしいみずを買い、ベンチで飲む。
一仕事の後は美味い。このいっぱいのために生きている。アルコールとともに思いたい言葉だが、ユウリが未成年なので2人で飲むのはまだお預けだ。

「今日はとっても静かですがジムトレーナーさん達はどこ行ったんですか。また宝物庫でチャレンジャーさんとバトルしてるんです?」
「いいや、あいつら全員ポケルスエンザで休み。治るまでは外に出てこれないからなー」

そもそも宝物庫は普通のチャレンジャーを入れる場所ではなく、選ばれたもののみ、あの場所に入る事を許される。
そう考えると、ユウリやホップは初めから規格外のトレーナーだったと言える。なるほど、チャンピオンになるにふさわしい何かをもともと持っていたわけだ。

「え!全員!?じゃあ、今日スタジアムにいるのって……」
「受付ロビーにいるトレーナーやスタッフだけ。内側には誰も居ないぜ」

あっ!
ということはユウリと2人きりじゃねぇか。今気がついた。ポケモンはいるけどな。
はなびらのまい……だと似合わないので、オレ様心の中でりゅうのまい踊っちゃう。

「じゃあ、チャレンジャー来たらどうするんですか。
ガラル最後のジムだし、来る数は少ないでしょうけど来る時は来ますよね?」
「ジムトレーナーが誰もいないんじゃ、今日は休みにするしかないだろうなー」
「なんだー、キバナさんのバトル見れるかと思ったのになぁ……」
「見る側じゃないけど、する側ならできるぜ。バトルするか?」
「それはやめておきます。せっかく綺麗にしたスタジアムをチャレンジャーでもない私が汚すわけにいきませんからね」

ユウリはチャレンジャー優先かよ。チャンピオンの鑑だけど、つまらんな。
最近はトーナメントの時にしか、ユウリとバトルできていない。
いちゃいちゃさせてもらいたい欲求も大きいが、チャンピオンであるユウリとトーナメントでもなく純粋にバトルしたい。
その思いも大きい。2人ともバトルジャンキーなのだから仕方ないといえば仕方ないこと。

ポケモン達もおいしいみずを飲み終えたようだ。
飲み終えた空き缶をユウリが回収し、ゴミ箱に捨ててからポケモン達の喜ぶ場所をひと撫でしてくれた。
そういう小さい優しさが、また好きなんだよな。
1/4ページ
スキ