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ユウリとキャンプするキバナさん

ハッとした。
まだ10代であるユウリの顔に焚火が作り出した影は、幼く小さい。なのにその影は大人が小難しいことを考えている時のそれだった。

焚火が照らすユウリの横顔に浮かぶのは、何かの悩み。
たぶん、チャンピオンになったことから来る、重圧ーーストレスだろう。
ユウリはダンデとは違う。性別も、性格も、そしてチャンピオンになった年齢も。
チャンピオンになるには、ユウリは少し幼すぎるからな。

「愚痴でもあるのか?オレ様でよかったら聞くぞ。ここには他に誰もいない」

ユキハミに顔を埋めながら、ユウリが声をか細く漏らした。

「ありがとうございます。
私、チャンピオンになりたいって、昔からずっと憧れてたんですよ。
チャンピオンになったら、たくさんのチャレンジャー達と大好きなポケモンバトルをたっくさんできる。みんなの憧れとして強く輝くている、かっこいい存在だと思ってました」

チャンピオンって存在はかっこいいもんな。
特にこの数年、ダンデに憧れる者は多かった。そしてそのダンデの持つ称号、チャンピオンに憧れる者はさらに多かったと思う。
それはオレ様もだし、目の前のユウリもまた、そうだったのだろう。

「でもこんなに大変だとは知らなかった。ダンデさんはこれまでこんな大変な中でトップとして、チャンピオンとしてずっと君臨してきた。無敗のダンデとして。すごいと思います。
私はチャンピオンとはいえ、まだ子供だからとある程度自由にさせてもらってる。だけど……」

チャンピオンは多忙。だが、ユウリのチャンピオンとしての仕事はほぼ免除。たまにメディアに出る程度だ。ほとんどは前チャンピオンのダンデや周りの大人が対応している。
だからユウリはワイルドエリアでキャンプしたりバトルしたり、チャンピオンになる前と同じようにポケモン達と旅ができる。
自由だ。別に悪い事じゃない。
少なくともオレ様は、ユウリには自由なところで笑っているほうが似合うと思っている。

「だけど、どこに行っても、チャンピオンと言われる。
みんなから、チャンピオンとしか呼ばれない。名前を呼んでもらえない。
いろんな人に追いかけ回されたり、パパラッチに勝手に写真撮られたり……そういうのなんか違うなって思うんです。ただのトレーナーだった頃の方が、自由だったし自分自身でいられた。
少しずつ、小さな不満が溜まっていくんです。ダンデさんにチャンピオンの座を返したいくらい。
どこか誰もいないとこに行ってしまいたい。……そう思っちゃうんです」

それでも、チャンピオンという称号が。憧れたはずのそれが今はユウリにのしかかっていた。
重い重いそれに、自由なはずのユウリは麻痺して、上手く身動きが取れず、ユキハミの体に更に顔を埋めていた。
オレ様は大人しく聞いていたが、ユウリがあらかた言い終えたところで、ゆっくりその小さな頭に手を乗せた。

「ユウリの言いたい事はだいたいわかった。
けどユウリ、お前どっかの国にいるっていう山籠りチャンピオンと同じことでもする気か?」
「なんですかそれぇ……」

むくり、ユキハミの体から顔を上げるユウリ。
冷たいユキハミの体で霜焼けしていないか心配だったが、自分のトレーナー相手には冷たくないように体温調節しているということなのだろうか?
そんなバカな。まあ、なんともないのならいい。

周りは徐々に雪が強まってきている。
テントに入ろうとする頃には、吹雪に変わるだろう。暖かい格好をしてるとはいえ少し冷えてきた気がする。
テントから2枚の毛布を引っ張り、自分に1枚、彼女にも1枚毛布を渡してやった。

「シロガネ山っていう、生息ポケモンが強敵ばっかりの山奥にな、何年も人と関わらずに引きこもってる無敗のチャンピオンがいるらしいぜ。
野生ポケモンの強敵さ加減で言えばここと変わんねぇだろうけど」
「へー。……私も山にこもりたい……。
ユウリはからにこもったー、防御があがったー」

毛布をすっぽりと被り、ユウリがその中から声を漏らした。器用にもユウリとユキハミの顔だけが隙間から覗いている。

「それだと布に包まってるクルマユだぞ」
「写真撮らないでくださいよ」

覗かせたユウリの顔、その頬をつんつんと突きながらスマホロトムを構える。
安心しろ、気が付かれないようにもう撮った。
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