mission 8:drinking blood down ~月下の悪魔~
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鳥の囀りすら聞こえぬ森の中、ダンテの周りには悪魔だった残骸とその血液の結晶化した物が無数に広がっていた。
「いてて、なかなか塞がんねーな。やっぱ貫通したからか」
当たり前である。
貫通し血液だけにとどまらず、臓物さえぶちまけるような怪我など、普通の人間だったら即死だ。
まずはその臓物を生成しているようで、ダンテの体はゆっくりと、しかし確実に内側から治っていった。
なくなった分の臓物が体の内側で、ジワジワと新しく作られていく感覚。
痛いようでいて擽ったいようでもいて、一瞬の異物感ののち、ごぼりと水を含む音が体の奥に響き、臓器分の質量が戻ってゆく。
なんとも不思議な感覚だ。
こんな感覚は、普通の人間には味わえぬもので、でも好き好んでは味わいたいものではないもの。
……とはいえ、たまに。極々たまにだが、ダンテはワザと悪魔の攻撃を受けたいと思う時もある。
マゾではないのだが。
体が治っていく感覚を少々楽しんでいるダンテの耳に、念仏のような呟きが届いた。
目で追えば、群れのリーダーだったらしき一番ドでかい狼悪魔が、首だけとなった姿でなにやらブツブツと呟いていた。
首だけでもまだ息があるとは、さすがは悪魔である。
「あ……?」
その時漆黒の魔方陣が浮かび上がり、ダンテを包み込んだ。
……ズゥゥゥン!
ダンテの体に衝撃が走る。
「ッ!?」
力が入らない。
治りはじめていた傷が、焼けるように痛い。
『貴様の魔力、奪い取ったり……』
頭の中に悪魔の物とおぼしき、濁った低い声が響いた。
傷口から再び血が流れ出す。
何をした!?そう問い詰めようとして再度目に入れた時には、悪魔はただの狼の骸と変わっていた。
これは、強力な呪いだ。
この呪いは易々とは解けない。
手負いの獣と同じく、手負いの悪魔は怖い。
命と引き換えになるような呪いを躊躇わずに使うのだ。
ダンテは立っていられず、その場にしゃがみこんだ。
「あー……やべぇかも……」
でも、どうにかして帰らなくてはディーヴァが心配する。いや、これを見せたら余計心配するか。
しかし、本日中に絶対帰ると言ってある。
ダンテ自身も、帰りたい。たとえこんな怪我を見られても、ディーヴァに会いたい気持ちの方が上だ。
喉元まで込み上げた血をぺっと吐き出す。
リベリオンを杖がわりに、ダンテはよろよろと動き出した。
思うように動いてくれぬ体を叱咤することしばらく、牧場の主たる依頼者の待つ家へ。
「悪魔は全部ぶっ潰したぜ」
その言葉を残したダンテの顔色、そして夥しい血がここまで続いてくる大怪我を見ると、ギョッとして電話を手に取った。
911を手配しようという算段のようだ。
心配はありがたい。
だが、ダンテは一刀両断に拒否すると、報告だけを済ませて報酬を手に帰路へ急いだ。
「ぐ……ぅぅ、」
顔色は確かに最悪だったろう。自分でもわかる。
汗が吹き出る。
バイクで来た自分を恨みたい。
どこかに気をやれば、絶対に事故を起こす。
今の自分が事故を起こせば、投げ飛ばされた衝撃で、体を打ち付ける。
もしかしたら後続車に轢かれることだってあるかもしれない。
回復力のほとんど落ちきっている状態でそれはやばい。確実に死を招く。
手には革の手袋をしているが、手袋の隙間からにじむ汗でハンドルが滑る。
ダンテは唇を噛み締め、事務所前へとバイクを走らせた。
その必死な形相とは裏腹に、急ぎたいはずのスピードは、怪我を考慮してかつてないほど安全運転。トロすぎるスピードだった。
バイクを半ば投げ出すかのように適当に停めたダンテ。
鍵なんてものをかける暇はない。
腕っ節の認められたダンテの私物を盗もうなんて輩は、スラムとはいえこの界隈、そうはいない。
リベリオンを杖代わりにしているとはいえ、バイクにまたがっている時とは違い自身の足で歩くしかない。
歩けば目眩が酷くなる。
目が霞み、チカチカと明滅を繰り返し、クラクラする。
非常に見えにくい。
目の悪い者……いや、貧血患者はいつもこういう感覚でいるのだろうか。
おかしいのは目だけじゃない。
酸素が薄いのかと思うくらい、呼吸も上手く出来ていなかった。
ヒュー、ヒュー、と隙間風のような苦しさに満ちた呼吸音が口から漏れ出ている。
それに心臓の音。
心音というのはここまでうるさい物だったか。
ドクドクとやけに脳内へと響いて、やかましいことこの上ない。
ウルサイウルサイウルサイ!
血が全身を巡る音、振動。
全てがダイレクトに感じられる。
極め付けにはこの穴の塞がらぬ傷口だ。内臓こそほぼ治っていようが、その一番外側がそのまま。
だからこそ血も滴っているのだが。
傷口が服と擦れて余計に痛い。
ものすごい熱を発し、持続的な激痛を伝えてくる。
痛みで涙が出そうだ。
貧血に荒い呼吸、この激痛。
一歩一歩が重い。足が鉛のようだ。
だからといって、こんなにも自分の歩みは遅かっただろうか?
周りの景色が歪んで見えるようになってきた。
異次元にでもいるかのようだ。
意識を飛ばしてしまいそうな状態だったが、ダンテのディーヴァに会いたいという気持ちと、気力。それだけで動いていた。
「つ、いたッ……ぜ……」
ディーヴァの待つ我が家へ入った途端、ダンテは安心感からか、ついに倒れ込んだ。
倒れた時の物音で駆け寄ってきた彼女の顔をチラリと見、ダンテはようやくほっとした。
やっぱりここが、ディーヴァの元がオレにとっての帰るべき場所だ。
「いてて、なかなか塞がんねーな。やっぱ貫通したからか」
当たり前である。
貫通し血液だけにとどまらず、臓物さえぶちまけるような怪我など、普通の人間だったら即死だ。
まずはその臓物を生成しているようで、ダンテの体はゆっくりと、しかし確実に内側から治っていった。
なくなった分の臓物が体の内側で、ジワジワと新しく作られていく感覚。
痛いようでいて擽ったいようでもいて、一瞬の異物感ののち、ごぼりと水を含む音が体の奥に響き、臓器分の質量が戻ってゆく。
なんとも不思議な感覚だ。
こんな感覚は、普通の人間には味わえぬもので、でも好き好んでは味わいたいものではないもの。
……とはいえ、たまに。極々たまにだが、ダンテはワザと悪魔の攻撃を受けたいと思う時もある。
マゾではないのだが。
体が治っていく感覚を少々楽しんでいるダンテの耳に、念仏のような呟きが届いた。
目で追えば、群れのリーダーだったらしき一番ドでかい狼悪魔が、首だけとなった姿でなにやらブツブツと呟いていた。
首だけでもまだ息があるとは、さすがは悪魔である。
「あ……?」
その時漆黒の魔方陣が浮かび上がり、ダンテを包み込んだ。
……ズゥゥゥン!
ダンテの体に衝撃が走る。
「ッ!?」
力が入らない。
治りはじめていた傷が、焼けるように痛い。
『貴様の魔力、奪い取ったり……』
頭の中に悪魔の物とおぼしき、濁った低い声が響いた。
傷口から再び血が流れ出す。
何をした!?そう問い詰めようとして再度目に入れた時には、悪魔はただの狼の骸と変わっていた。
これは、強力な呪いだ。
この呪いは易々とは解けない。
手負いの獣と同じく、手負いの悪魔は怖い。
命と引き換えになるような呪いを躊躇わずに使うのだ。
ダンテは立っていられず、その場にしゃがみこんだ。
「あー……やべぇかも……」
でも、どうにかして帰らなくてはディーヴァが心配する。いや、これを見せたら余計心配するか。
しかし、本日中に絶対帰ると言ってある。
ダンテ自身も、帰りたい。たとえこんな怪我を見られても、ディーヴァに会いたい気持ちの方が上だ。
喉元まで込み上げた血をぺっと吐き出す。
リベリオンを杖がわりに、ダンテはよろよろと動き出した。
思うように動いてくれぬ体を叱咤することしばらく、牧場の主たる依頼者の待つ家へ。
「悪魔は全部ぶっ潰したぜ」
その言葉を残したダンテの顔色、そして夥しい血がここまで続いてくる大怪我を見ると、ギョッとして電話を手に取った。
911を手配しようという算段のようだ。
心配はありがたい。
だが、ダンテは一刀両断に拒否すると、報告だけを済ませて報酬を手に帰路へ急いだ。
「ぐ……ぅぅ、」
顔色は確かに最悪だったろう。自分でもわかる。
汗が吹き出る。
バイクで来た自分を恨みたい。
どこかに気をやれば、絶対に事故を起こす。
今の自分が事故を起こせば、投げ飛ばされた衝撃で、体を打ち付ける。
もしかしたら後続車に轢かれることだってあるかもしれない。
回復力のほとんど落ちきっている状態でそれはやばい。確実に死を招く。
手には革の手袋をしているが、手袋の隙間からにじむ汗でハンドルが滑る。
ダンテは唇を噛み締め、事務所前へとバイクを走らせた。
その必死な形相とは裏腹に、急ぎたいはずのスピードは、怪我を考慮してかつてないほど安全運転。トロすぎるスピードだった。
バイクを半ば投げ出すかのように適当に停めたダンテ。
鍵なんてものをかける暇はない。
腕っ節の認められたダンテの私物を盗もうなんて輩は、スラムとはいえこの界隈、そうはいない。
リベリオンを杖代わりにしているとはいえ、バイクにまたがっている時とは違い自身の足で歩くしかない。
歩けば目眩が酷くなる。
目が霞み、チカチカと明滅を繰り返し、クラクラする。
非常に見えにくい。
目の悪い者……いや、貧血患者はいつもこういう感覚でいるのだろうか。
おかしいのは目だけじゃない。
酸素が薄いのかと思うくらい、呼吸も上手く出来ていなかった。
ヒュー、ヒュー、と隙間風のような苦しさに満ちた呼吸音が口から漏れ出ている。
それに心臓の音。
心音というのはここまでうるさい物だったか。
ドクドクとやけに脳内へと響いて、やかましいことこの上ない。
ウルサイウルサイウルサイ!
血が全身を巡る音、振動。
全てがダイレクトに感じられる。
極め付けにはこの穴の塞がらぬ傷口だ。内臓こそほぼ治っていようが、その一番外側がそのまま。
だからこそ血も滴っているのだが。
傷口が服と擦れて余計に痛い。
ものすごい熱を発し、持続的な激痛を伝えてくる。
痛みで涙が出そうだ。
貧血に荒い呼吸、この激痛。
一歩一歩が重い。足が鉛のようだ。
だからといって、こんなにも自分の歩みは遅かっただろうか?
周りの景色が歪んで見えるようになってきた。
異次元にでもいるかのようだ。
意識を飛ばしてしまいそうな状態だったが、ダンテのディーヴァに会いたいという気持ちと、気力。それだけで動いていた。
「つ、いたッ……ぜ……」
ディーヴァの待つ我が家へ入った途端、ダンテは安心感からか、ついに倒れ込んだ。
倒れた時の物音で駆け寄ってきた彼女の顔をチラリと見、ダンテはようやくほっとした。
やっぱりここが、ディーヴァの元がオレにとっての帰るべき場所だ。