mission 7:overcome a sad memory ~記憶に打ち勝て~
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
その夜、二人は家の屋根に上がって空を見上げた。
明日からは11月。
冬の夜空は寒さで澄み渡り、星屑を散りばめたかのように輝いていた。
スラム街でもここまで綺麗に見えるものなのか。
いや、明かりがないスラム街だからこそ、かもしれない。
「わあ、きれい……」
嬉しそうに夜空を眺めるディーヴァを、ダンテは愛し気に見つめる。
ディーヴァのエメラルドグリーンの瞳にも、星が映りこんでいて不思議な輝きを見せ、瞬いていた。
「……クシュン」
ずっと空を見ていたディーヴァが、寒くなったか小さくくしゃみをした。
少し薄着だったかもしれない。
だが、自分の服を貸そうにもあいにく上着なんてものは着ていない。
この寒空の下ダンテが着ているのはTシャツ一枚のみだった。
「ちょっとここで待ってられるか?」
「ん、大丈夫」
ここはダンテの事務所の屋根。外とはいえこここそ簡易結界の内側で、少しの間離れるくらいは悪魔に襲われる心配はない。
首を縮めるディーヴァを残し、ダンテは身軽に飛んで部屋へ戻った。
数秒の後、ダンテは長い布を手に戻ってくる。
マフラーだ。
一緒に出掛けた時に買った衣類の一つである。
ダンテはそれを丁寧にディーヴァの首に巻いてやった。
黒地に赤い格子の入った男性向けのシックな物だが、意外にもディーヴァの透き通るような白い肌によく似合っている。
あまり使わないかもと思ったが、意外なところで役に立った。
ディーヴァはもこもこした真新しい布地に頬擦りした。
「あったかい……ダンテの匂いがする」
「いやか?」
「ううん。落ち着く……」
ありがとうの言葉の代わりにと、ディーヴァはダンテの手に自分の手を絡める。
ダンテも何も言わずに握り返した。
「なぁディーヴァ」
「うん?」
「魂は無いかもしれない。でもお前の家族、あの星になって会いに来てるかもしれねぇよ?……今日はハロウィンだし」
ダンテはそう言ってキラキラとひときわ大きく輝く星を指差した。
「って、矛盾してるし星になってるとか、セリフがクサイよな。
悪い、忘れてくれ」
顔を赤らめて、照れ臭そうに笑うダンテ。
ディーヴァはふわりと笑ってからダンテの指した星を見上げた。
「ううん、家族は会いに来てるよ。……会いに来てるって言うのはちょっと違うかな。
いつでもあたしの心の中にいるから、いつだって会えるの」
家族を思い出しているのか、胸に手を当てる。
「でも、星になってるなら夜寝てる時も見守ってくれてるみたいで嬉しくなっちゃうね!
気を使ってくれたんだね。ダンテ、ありがとう」
「ディーヴァ……」
悪魔に襲われた時、吹っ切れたと言っていたディーヴァ。
だが、本当に家族について吹っ切れたのだろうか?
無理して笑っているのではないだろうか?
ダンテには上手く判断がつかなかった。
「今日は色々あったけど、大丈夫か?」
「うん、首も痣になってないし、どこもなんともない」
「いや、体もだけど心だよ……無理すんなよ」
「そのことなら大丈夫だよ。前に進めって家族も言ってる気がするもの。
辛いけど……でも、もう大丈夫」
ディーヴァの瞳には強い思いが揺らめいていた。
「お前を守れてよかったよ……しっかし、散々なハロウィンだったな」
「本物のおばけもたくさん見ちゃったしね」
「いや、あれは全部悪魔だからな?」
黒いもやもやから発生した異形の者共のことを言っているようだ。
だが、心得ていたのかディーヴァはくすくすと笑った。
ぐー。
その時、ダンテの腹の虫が盛大に鳴いた。
「はあ、いつもより燃費が激しくてしょーがねーぜ」
「いつものことでしょ。はいどーぞ」
「お、さんきゅ」
ディーヴァは屋根上に持ってきていたのか、今朝の菓子の残りを苦笑して差し出した。
ジャック・オ・ランタンのクッキーである。
サクサクとディーヴァの作った菓子を食べるダンテ。
いつだって美味そうに食べてくれるダンテの姿は、料理人冥利に尽きる。
「ディーヴァは食べないのか?」
「あたしはいいや」
ダンテの食べてる姿を見ているだけで満足だ。
ダンテは全て一人で平らげた。
それを待っていたかのように、ディーヴァが口角を吊り上げた。
「ダンテ」
「何だ」
「トリックオアトリート」
「……は?」
「まだギリギリハロウィンだよ?」
屋根に上がる前はまだ9時前だった。
ということはまだ10時にもなっていないだろう。
「はあー?今の全部食っちまったぜ!?」
ダンテは慌てて回りやポケットを確認した。
でも自分が飴やガムを持ち歩いているはずもなく、持っているものと言えば、いつだってエボニー、アイボリー、リベリオンくらいだった。
でもそれすら今はない。
「あー……何も持ってねェ」
甘いものが欲しいのか?
そう言おうとした時。
唇すれすれの頬へ、やわらかな感触。
小さくチュッとリップ音が響いた。
そののち、ディーヴァのシャンプーの香りが鼻を掠める。
何が起こったのか一瞬わからなかった。
「ダンテ、ありがとね。あたしもダンテのこと好きだよ」
突然の告白に目を白黒させる。
「ごめんね。今はここにするので精一杯だから」
そう付け足したディーヴァに何が起こったのか、何を言われたのかを理解したと共に、ダンテの脳は考えることを停止した。
ただ、体が覚えているのは頬に残るキスの感触。
ぷるぷる柔らかでしっとりとした唇の弾力。
パーソナルスペースに入ったことによるシャンプー、そしてディーヴァ本人が放つ甘い香り。
思い出した瞬間、何も知らないウブな子どもの頃に戻ったかのように、ダンテは赤面してしまった。
だが、もこもことスフレのように膨れていく嬉しい気持ち、愛しい感情は、ダンテの皮膚、表皮さえ突き破ってしまいそうだ。
ダンテは耐えきれず、ディーヴァを両手で抱え上げて叫んだ。
「イヤッホー!」
「きゃぁぁ!?危ないよダンテーーッ!!」
ぐるぐるとディーヴァを抱えて屋根の上を回る。
「その言葉だけで今は十分だぜ!」
●あとがき
夢主兄の名はミシェルさん。
イメージはたれ目がちの人の良さそうな優しいお兄さん、名前は天使のミカエルの呼び方をちょっと変えただけです。
明日からは11月。
冬の夜空は寒さで澄み渡り、星屑を散りばめたかのように輝いていた。
スラム街でもここまで綺麗に見えるものなのか。
いや、明かりがないスラム街だからこそ、かもしれない。
「わあ、きれい……」
嬉しそうに夜空を眺めるディーヴァを、ダンテは愛し気に見つめる。
ディーヴァのエメラルドグリーンの瞳にも、星が映りこんでいて不思議な輝きを見せ、瞬いていた。
「……クシュン」
ずっと空を見ていたディーヴァが、寒くなったか小さくくしゃみをした。
少し薄着だったかもしれない。
だが、自分の服を貸そうにもあいにく上着なんてものは着ていない。
この寒空の下ダンテが着ているのはTシャツ一枚のみだった。
「ちょっとここで待ってられるか?」
「ん、大丈夫」
ここはダンテの事務所の屋根。外とはいえこここそ簡易結界の内側で、少しの間離れるくらいは悪魔に襲われる心配はない。
首を縮めるディーヴァを残し、ダンテは身軽に飛んで部屋へ戻った。
数秒の後、ダンテは長い布を手に戻ってくる。
マフラーだ。
一緒に出掛けた時に買った衣類の一つである。
ダンテはそれを丁寧にディーヴァの首に巻いてやった。
黒地に赤い格子の入った男性向けのシックな物だが、意外にもディーヴァの透き通るような白い肌によく似合っている。
あまり使わないかもと思ったが、意外なところで役に立った。
ディーヴァはもこもこした真新しい布地に頬擦りした。
「あったかい……ダンテの匂いがする」
「いやか?」
「ううん。落ち着く……」
ありがとうの言葉の代わりにと、ディーヴァはダンテの手に自分の手を絡める。
ダンテも何も言わずに握り返した。
「なぁディーヴァ」
「うん?」
「魂は無いかもしれない。でもお前の家族、あの星になって会いに来てるかもしれねぇよ?……今日はハロウィンだし」
ダンテはそう言ってキラキラとひときわ大きく輝く星を指差した。
「って、矛盾してるし星になってるとか、セリフがクサイよな。
悪い、忘れてくれ」
顔を赤らめて、照れ臭そうに笑うダンテ。
ディーヴァはふわりと笑ってからダンテの指した星を見上げた。
「ううん、家族は会いに来てるよ。……会いに来てるって言うのはちょっと違うかな。
いつでもあたしの心の中にいるから、いつだって会えるの」
家族を思い出しているのか、胸に手を当てる。
「でも、星になってるなら夜寝てる時も見守ってくれてるみたいで嬉しくなっちゃうね!
気を使ってくれたんだね。ダンテ、ありがとう」
「ディーヴァ……」
悪魔に襲われた時、吹っ切れたと言っていたディーヴァ。
だが、本当に家族について吹っ切れたのだろうか?
無理して笑っているのではないだろうか?
ダンテには上手く判断がつかなかった。
「今日は色々あったけど、大丈夫か?」
「うん、首も痣になってないし、どこもなんともない」
「いや、体もだけど心だよ……無理すんなよ」
「そのことなら大丈夫だよ。前に進めって家族も言ってる気がするもの。
辛いけど……でも、もう大丈夫」
ディーヴァの瞳には強い思いが揺らめいていた。
「お前を守れてよかったよ……しっかし、散々なハロウィンだったな」
「本物のおばけもたくさん見ちゃったしね」
「いや、あれは全部悪魔だからな?」
黒いもやもやから発生した異形の者共のことを言っているようだ。
だが、心得ていたのかディーヴァはくすくすと笑った。
ぐー。
その時、ダンテの腹の虫が盛大に鳴いた。
「はあ、いつもより燃費が激しくてしょーがねーぜ」
「いつものことでしょ。はいどーぞ」
「お、さんきゅ」
ディーヴァは屋根上に持ってきていたのか、今朝の菓子の残りを苦笑して差し出した。
ジャック・オ・ランタンのクッキーである。
サクサクとディーヴァの作った菓子を食べるダンテ。
いつだって美味そうに食べてくれるダンテの姿は、料理人冥利に尽きる。
「ディーヴァは食べないのか?」
「あたしはいいや」
ダンテの食べてる姿を見ているだけで満足だ。
ダンテは全て一人で平らげた。
それを待っていたかのように、ディーヴァが口角を吊り上げた。
「ダンテ」
「何だ」
「トリックオアトリート」
「……は?」
「まだギリギリハロウィンだよ?」
屋根に上がる前はまだ9時前だった。
ということはまだ10時にもなっていないだろう。
「はあー?今の全部食っちまったぜ!?」
ダンテは慌てて回りやポケットを確認した。
でも自分が飴やガムを持ち歩いているはずもなく、持っているものと言えば、いつだってエボニー、アイボリー、リベリオンくらいだった。
でもそれすら今はない。
「あー……何も持ってねェ」
甘いものが欲しいのか?
そう言おうとした時。
唇すれすれの頬へ、やわらかな感触。
小さくチュッとリップ音が響いた。
そののち、ディーヴァのシャンプーの香りが鼻を掠める。
何が起こったのか一瞬わからなかった。
「ダンテ、ありがとね。あたしもダンテのこと好きだよ」
突然の告白に目を白黒させる。
「ごめんね。今はここにするので精一杯だから」
そう付け足したディーヴァに何が起こったのか、何を言われたのかを理解したと共に、ダンテの脳は考えることを停止した。
ただ、体が覚えているのは頬に残るキスの感触。
ぷるぷる柔らかでしっとりとした唇の弾力。
パーソナルスペースに入ったことによるシャンプー、そしてディーヴァ本人が放つ甘い香り。
思い出した瞬間、何も知らないウブな子どもの頃に戻ったかのように、ダンテは赤面してしまった。
だが、もこもことスフレのように膨れていく嬉しい気持ち、愛しい感情は、ダンテの皮膚、表皮さえ突き破ってしまいそうだ。
ダンテは耐えきれず、ディーヴァを両手で抱え上げて叫んだ。
「イヤッホー!」
「きゃぁぁ!?危ないよダンテーーッ!!」
ぐるぐるとディーヴァを抱えて屋根の上を回る。
「その言葉だけで今は十分だぜ!」
●あとがき
夢主兄の名はミシェルさん。
イメージはたれ目がちの人の良さそうな優しいお兄さん、名前は天使のミカエルの呼び方をちょっと変えただけです。