mission 9:love, after the envy ~クリスマス・キス~
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ダンテが大怪我を負った日から、一ヶ月あまりが過ぎた。
どこもかしこも、もうすぐやってくる年末に向けて赤と緑の装飾がなされている。
クリスマス一色だ。
ダンテとディーヴァのところにもささやかながらツリーが置いてあり、みんながみんな、来たるクリスマスに浮き足立っていた。
ダンテは年末で金が入り用なのか、小さな依頼もこなしていたし、ディーヴァはディーヴァでいつもより掃除を徹底したり、ご馳走を作る計画をしたり学校で学力検査があったりと、慌ただしくしていた。
だが忙しい中でも二人は目が合う度に笑いあい、手を繋いでぴったりと寄り添っていた。
その様子は新婚と言うよりは、まるでいつまでたっても仲睦まじい熟年夫婦のよう。
何もかもが上手くいっていて、順風満帆と言える。
しかし、そんなディーヴァの笑顔が陰ざるを得ないような出来事が、クリスマスへの短い期間の中、立て続けに起こり始めた……。
始まりは一本の電話。
「残りのツケはまだ支払えないかい?」
ダンテが依頼でいない時に、そんな電話が事務所にかかってきた。
「あ、えーと、あと数日お待ちいただければお金の用意が出来ると思いますので……」
「もうすぐ年末だからなぁ、早く頼むよ?」
「はい、お手数おかけしまして申し訳ございませんでした……。用意出来次第すぐにお持ちいたします」
まだこれはいい。
ツケだって借金だって、すべて払い終えてはいないのだから催促の電話が来て当たり前だろうと思う。ダンテが長い間、ためにためていたツケなのだから。
ディーヴァが代わりに払わなければ、なかなか返せず、家庭が火の車なのは当然。
そんな状態だというのに、ダンテはディーヴァの家の貯金を崩してまでツケや借金を払うことを拒否する。
なんでも、惚れた女に払わせるものではないのだとか。変なところで真面目である。
その真面目さを、借金の返却に当ててほしいところだ。
だからこそ、余計に溜まる一方なのだった。
問題はそのあとだ。
電話口の向こうから、何やらガヤガヤとした女性達の話し声が聞こえてきたのだ。
「えぇー?何々、ダンテなのぉー?」
「マスター、あたしと代わってくれるぅ?」
「やだぁ、ダンテと話すのはアタシなんだからぁ!」
耳障りなほど高い声。
「え?あ……す、少し代わるから、ダンテがいたら出してくれるかい?」
「いえ、ダンテは今、出かけ……あ、ちょっ……!」
勝手に代わられてしまった。
ダンテと話したいと言っている女性が相手だというに、一体どうしたらいいのだろう。何を話せば??
そう思っていたのは一瞬だけだ。
受話器争奪戦を勝ち取ったらしい女性が店長にかわり、ダンテを相手にする時のだろう、甘ったるい声を出して、電話向こうのディーヴァへと話しかけてきた。
「ハァイ、ダンテ~!うふふ、いつも相手してるアタシよぉ~」
アタシとは一体誰のことなのか。
電話なのだから、いくらダンテが相手だったとしても、名前くらい言ってくれないだろうか。
詐欺だと思って切ってしまおうか。
ディーヴァは無言だったが、心の中でそう突っ込みを入れた。
いつもダンテが何を聞き何を話すのか気になったので、ディーヴァは名乗らず声も出さないことで、電話の相手がダンテなのだと思わせておいた。
好都合なことに相手の女性は、昼間から軽くお酒が入っているような状態のようだ。
「ねぇ~何で最近来てくれなくなったのぉ?
前はお金なくても来てくれてたのに、アタシ……来てくれたらまたいっぱいサービスしちゃうわよぉ?
……なんなら全員でサービスしてあげるわ。………ねぇ、ダンテ?」
ディーヴァは、電話口で甘ったるい声を出してダンテを呼ぶ女性に吐き気がした。
確かにあの体躯と美貌だ。
金払いが悪いのを入れても、ダンテはさぞやモテることだろう。
着飾った女性達に群がられ、満更でもなさそうにしているダンテが目に浮かんだ。
ダンテはディーヴァと付き合う前にそういった店に通っていた。
ということは、男女間でのちょっとすけべなお触りだって、少なからずあるはず。
ダンテは思い切り否定しているが、自分は絶対に誤魔化されてやるものか。
「まさか噂通り、連れ込んだ『pussy』なんかにお熱なわけじゃないわよねぇ?」
ダンテの元で暮らすディーヴァは早くも噂になっていたようだ。
だがそれよりも、pussyと呼ばれたことが頭に残る。
pussy。
子猫ちゃん、と訳されたりすることが多いが、この場合はディーヴァですら知っている侮辱の意のスラング。
これにはさすがのディーヴァも、カチン!と
頭にきた。
「すみません。あたしがダンテと一緒に暮らしてるそのpussyですが何か?別にダンテに連れ込まれたわけじゃありませんが何か??
それとダンテは、そちらのような教育上よろしくないような場所には、もう絶対に、絶対に、ぜーーーったいに行かないので。
むしろ行かせませんから」
絶対、を三度も言い、相手の頭に叩き込むように重く、重く伝えるディーヴァ。
「……!?
アンタ……ダンテじゃなくてpussyだったのね!
アンタなんかお呼びじゃないのよ!ダンテを出しなさいよぉ!」
耳鳴りがしそうな金切り声に変わった女の声に頭痛を覚えた。
「こちらが声を発する前にダンテだと勝手に勘違いしたのはそちらでは?
電話なんですから、相手が誰なのか聞いたり自分が何者なのかを相手に伝えるのが常識なのではございませんかねぇ?」
「はあーー?
生意気言ってるんじゃないわよ!
だいたいソウイウ経験すらない生娘のくせにッ……!教育上良くないってどーいうことよ!!
あと、いちいち常識とか言わなくていいから!知ってますぅーーー!!」
金切り声でひどくなる頭痛を、こめかみを押さえてやり過ごす。聞いているだけでイライラしてきた。
それでも相手は止まらない。
ディーヴァの怒りや腹立ちが『静』ならば、相手は『動』といったところか。
「アタシね、これでもこの仕事に誇りを持って勤めてんの!この仕事を馬鹿にする資格は、経験もないアンタにないわよ!」
続く『アンタみたいな子どもにダンテが本気になるわけない』。その言葉がディーヴァの胸に深く刺さった。
「ッッ!」
ディーヴァとて興味がないわけではない。
確かに未経験だし、よく知らない行為。
友達の間でもごくたまに話題に上がるが、何を言っているのかよく理解できないほど。
子供を欲しい男女へコウノトリが贈り物として、キャベツ畑から摘んでくるのが赤子なのではないのか。
そうでなければ、男女のおしべとめしべがくっついて子供ができるのではないのか。
最近まではそう思っていた。
おしべとめしべのくだりは、どことなくその内容にも通ずるところがあるが、それはこの際置いておこう。
ディーヴァはそれを経験したての友達の姉……つまり又聞きだが、知り合いから聞いたことで本当に最近知ったばかりなのだ。
保健体育でさわりだけ知っていたが、やはり本人から聞くものは違う。
友達には散々笑われてしまったのだが、真っ赤になりながら聞いたのが記憶に新しい。
だけれど、知れば知るほどに怖い行為だとは思う。何をどうしたらいいかわからない。
好きという気持ちだけではダメなのだろうか。
だいたい、実際にそんな状況になったらどうしたらいいのだろう??
軽蔑するわけではないが、体を売りにしている彼女達と自分は違う。
いつか来るその時を思うと、ディーヴァには不安の方が大きい。
自分には、まだダンテに体を許すまでの勇気はない。
だが、男性はあまり我慢が利かないとも聞いている。
いつまでも待たせることはできないかもしれない……そうも思うのだ。
待つという行為は、苦手そうなダンテである。
その間に飽きられたら?
ディーヴァが大人になるまで何もかもを待つのが嫌で、本気の相手だったはずのディーヴァが、遊び相手の女の子と同じ扱いになってしまったら?
いや、電話の相手の言うように今も実は遊びの延長だったら……??
待ちきれなくなったダンテが、他の女の人とデート、なんてことになるのはもっといやだ。
ましてや電話向こうの、男性を誘惑するような女性達とだったら……なんて思うと尚更ムカムカする。
何故なら、ディーヴァのこの恋は本気なのだから。
ディーヴァの心の中にドロリとした澱のような感情が生まれた。
嫉妬という名の黒い感情だ。
「ちょっとアンタ聞いてるのッ!?」
「!!
ツケの代金はお振込みいたしますのでこれで失礼します!!」
ガチャンッ!!
逃げるかのように女の金切り声を遮り、ディーヴァは受話器を力強く置いた。
なんだかモヤモヤしてたまらない。
喉に何か詰まっているかのようだ。
これがディーヴァの不機嫌の始まりだった。
どこもかしこも、もうすぐやってくる年末に向けて赤と緑の装飾がなされている。
クリスマス一色だ。
ダンテとディーヴァのところにもささやかながらツリーが置いてあり、みんながみんな、来たるクリスマスに浮き足立っていた。
ダンテは年末で金が入り用なのか、小さな依頼もこなしていたし、ディーヴァはディーヴァでいつもより掃除を徹底したり、ご馳走を作る計画をしたり学校で学力検査があったりと、慌ただしくしていた。
だが忙しい中でも二人は目が合う度に笑いあい、手を繋いでぴったりと寄り添っていた。
その様子は新婚と言うよりは、まるでいつまでたっても仲睦まじい熟年夫婦のよう。
何もかもが上手くいっていて、順風満帆と言える。
しかし、そんなディーヴァの笑顔が陰ざるを得ないような出来事が、クリスマスへの短い期間の中、立て続けに起こり始めた……。
始まりは一本の電話。
「残りのツケはまだ支払えないかい?」
ダンテが依頼でいない時に、そんな電話が事務所にかかってきた。
「あ、えーと、あと数日お待ちいただければお金の用意が出来ると思いますので……」
「もうすぐ年末だからなぁ、早く頼むよ?」
「はい、お手数おかけしまして申し訳ございませんでした……。用意出来次第すぐにお持ちいたします」
まだこれはいい。
ツケだって借金だって、すべて払い終えてはいないのだから催促の電話が来て当たり前だろうと思う。ダンテが長い間、ためにためていたツケなのだから。
ディーヴァが代わりに払わなければ、なかなか返せず、家庭が火の車なのは当然。
そんな状態だというのに、ダンテはディーヴァの家の貯金を崩してまでツケや借金を払うことを拒否する。
なんでも、惚れた女に払わせるものではないのだとか。変なところで真面目である。
その真面目さを、借金の返却に当ててほしいところだ。
だからこそ、余計に溜まる一方なのだった。
問題はそのあとだ。
電話口の向こうから、何やらガヤガヤとした女性達の話し声が聞こえてきたのだ。
「えぇー?何々、ダンテなのぉー?」
「マスター、あたしと代わってくれるぅ?」
「やだぁ、ダンテと話すのはアタシなんだからぁ!」
耳障りなほど高い声。
「え?あ……す、少し代わるから、ダンテがいたら出してくれるかい?」
「いえ、ダンテは今、出かけ……あ、ちょっ……!」
勝手に代わられてしまった。
ダンテと話したいと言っている女性が相手だというに、一体どうしたらいいのだろう。何を話せば??
そう思っていたのは一瞬だけだ。
受話器争奪戦を勝ち取ったらしい女性が店長にかわり、ダンテを相手にする時のだろう、甘ったるい声を出して、電話向こうのディーヴァへと話しかけてきた。
「ハァイ、ダンテ~!うふふ、いつも相手してるアタシよぉ~」
アタシとは一体誰のことなのか。
電話なのだから、いくらダンテが相手だったとしても、名前くらい言ってくれないだろうか。
詐欺だと思って切ってしまおうか。
ディーヴァは無言だったが、心の中でそう突っ込みを入れた。
いつもダンテが何を聞き何を話すのか気になったので、ディーヴァは名乗らず声も出さないことで、電話の相手がダンテなのだと思わせておいた。
好都合なことに相手の女性は、昼間から軽くお酒が入っているような状態のようだ。
「ねぇ~何で最近来てくれなくなったのぉ?
前はお金なくても来てくれてたのに、アタシ……来てくれたらまたいっぱいサービスしちゃうわよぉ?
……なんなら全員でサービスしてあげるわ。………ねぇ、ダンテ?」
ディーヴァは、電話口で甘ったるい声を出してダンテを呼ぶ女性に吐き気がした。
確かにあの体躯と美貌だ。
金払いが悪いのを入れても、ダンテはさぞやモテることだろう。
着飾った女性達に群がられ、満更でもなさそうにしているダンテが目に浮かんだ。
ダンテはディーヴァと付き合う前にそういった店に通っていた。
ということは、男女間でのちょっとすけべなお触りだって、少なからずあるはず。
ダンテは思い切り否定しているが、自分は絶対に誤魔化されてやるものか。
「まさか噂通り、連れ込んだ『pussy』なんかにお熱なわけじゃないわよねぇ?」
ダンテの元で暮らすディーヴァは早くも噂になっていたようだ。
だがそれよりも、pussyと呼ばれたことが頭に残る。
pussy。
子猫ちゃん、と訳されたりすることが多いが、この場合はディーヴァですら知っている侮辱の意のスラング。
これにはさすがのディーヴァも、カチン!と
頭にきた。
「すみません。あたしがダンテと一緒に暮らしてるそのpussyですが何か?別にダンテに連れ込まれたわけじゃありませんが何か??
それとダンテは、そちらのような教育上よろしくないような場所には、もう絶対に、絶対に、ぜーーーったいに行かないので。
むしろ行かせませんから」
絶対、を三度も言い、相手の頭に叩き込むように重く、重く伝えるディーヴァ。
「……!?
アンタ……ダンテじゃなくてpussyだったのね!
アンタなんかお呼びじゃないのよ!ダンテを出しなさいよぉ!」
耳鳴りがしそうな金切り声に変わった女の声に頭痛を覚えた。
「こちらが声を発する前にダンテだと勝手に勘違いしたのはそちらでは?
電話なんですから、相手が誰なのか聞いたり自分が何者なのかを相手に伝えるのが常識なのではございませんかねぇ?」
「はあーー?
生意気言ってるんじゃないわよ!
だいたいソウイウ経験すらない生娘のくせにッ……!教育上良くないってどーいうことよ!!
あと、いちいち常識とか言わなくていいから!知ってますぅーーー!!」
金切り声でひどくなる頭痛を、こめかみを押さえてやり過ごす。聞いているだけでイライラしてきた。
それでも相手は止まらない。
ディーヴァの怒りや腹立ちが『静』ならば、相手は『動』といったところか。
「アタシね、これでもこの仕事に誇りを持って勤めてんの!この仕事を馬鹿にする資格は、経験もないアンタにないわよ!」
続く『アンタみたいな子どもにダンテが本気になるわけない』。その言葉がディーヴァの胸に深く刺さった。
「ッッ!」
ディーヴァとて興味がないわけではない。
確かに未経験だし、よく知らない行為。
友達の間でもごくたまに話題に上がるが、何を言っているのかよく理解できないほど。
子供を欲しい男女へコウノトリが贈り物として、キャベツ畑から摘んでくるのが赤子なのではないのか。
そうでなければ、男女のおしべとめしべがくっついて子供ができるのではないのか。
最近まではそう思っていた。
おしべとめしべのくだりは、どことなくその内容にも通ずるところがあるが、それはこの際置いておこう。
ディーヴァはそれを経験したての友達の姉……つまり又聞きだが、知り合いから聞いたことで本当に最近知ったばかりなのだ。
保健体育でさわりだけ知っていたが、やはり本人から聞くものは違う。
友達には散々笑われてしまったのだが、真っ赤になりながら聞いたのが記憶に新しい。
だけれど、知れば知るほどに怖い行為だとは思う。何をどうしたらいいかわからない。
好きという気持ちだけではダメなのだろうか。
だいたい、実際にそんな状況になったらどうしたらいいのだろう??
軽蔑するわけではないが、体を売りにしている彼女達と自分は違う。
いつか来るその時を思うと、ディーヴァには不安の方が大きい。
自分には、まだダンテに体を許すまでの勇気はない。
だが、男性はあまり我慢が利かないとも聞いている。
いつまでも待たせることはできないかもしれない……そうも思うのだ。
待つという行為は、苦手そうなダンテである。
その間に飽きられたら?
ディーヴァが大人になるまで何もかもを待つのが嫌で、本気の相手だったはずのディーヴァが、遊び相手の女の子と同じ扱いになってしまったら?
いや、電話の相手の言うように今も実は遊びの延長だったら……??
待ちきれなくなったダンテが、他の女の人とデート、なんてことになるのはもっといやだ。
ましてや電話向こうの、男性を誘惑するような女性達とだったら……なんて思うと尚更ムカムカする。
何故なら、ディーヴァのこの恋は本気なのだから。
ディーヴァの心の中にドロリとした澱のような感情が生まれた。
嫉妬という名の黒い感情だ。
「ちょっとアンタ聞いてるのッ!?」
「!!
ツケの代金はお振込みいたしますのでこれで失礼します!!」
ガチャンッ!!
逃げるかのように女の金切り声を遮り、ディーヴァは受話器を力強く置いた。
なんだかモヤモヤしてたまらない。
喉に何か詰まっているかのようだ。
これがディーヴァの不機嫌の始まりだった。