スラム街を駆け抜けて、随分と遠くまで来てしまったようだ。
そろそろ戻らねば、髭にいらぬ心配をかけてしまうかもしれない。


「さ、そろそろ帰るから、もう一度魔狼になるわ。乗って」

「うん。…あまり飛ばさないでね？」

「わかってるよ」


もう一度魔狼に変わり、くるりと体を見渡す。
よく見てみたら、背中の一部分の毛皮がなくなり、その下の皮膚が少しだけ見えていた。


(なるほど、むしられたのはここなのね)

「あー、ここかぁ。痛くはない？大丈夫？」


心配するディーヴァにコクリと頷くと、ディーヴァがよしよしと背中を撫でてきた。
あまりの気持ちよさに、出たことのないような鳴き声が口から漏れる。


「きゅーん！きゅーん！」


そのほほえましい光景に気をよくした若がリアラの頭をわしわしと撫で、豪快に笑った。


「ははは！魔狼になると、けっこう毛のなくなったところが目立つな！…ま、それくらいなすぐ伸びるからいいよな！！」


むか。

ディーヴァはやっと許したところだったが、今度はリアラが怒りをつのらせ、黒い空気をまとう番だった。


「ダンテ。あたし、知らないからね」

「へ？」


ガブッ！！
若の頭に思いっきり噛みついた。
たらーり、血が顔を伝い落ちていく。
と、思った次の瞬間、牙が抜かれた頭からぶしゃあああ！と血が噴き出した。


「ぎゃあああああ！いでええええ！！」

(私本人が言うならともかく、ダンテには言われたくないよ)


ダンテが乗る前に、リアラは事務所に向けて出発した。


(…ふん！ダンテは置いていくからね！)

「あはは！自力で帰ってきてねー、だってさ！ダンテばいばーい」

「ええええ！？まじかよー！！」