7月7日のクエスト
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「今年も…今年もまたこの日が来てしまった…」
カントリー調なテーブルの上、並んだスイーツに囲まれ甘い空気と匂いの漂う中、そこだけ異質にも感じるディーヴァがゲンドウポーズで呟く。
「またって何だよ。今日?7月7日?七夕じゃねぇか。笹飾りでも作るのか?」
笹飾りを作るにしたって大した労力は使わないだろうに、なぜそんな死地に向かう兵士みたいな顔を?
ひょいパク、ジャムの乗ったロシアンクッキーを咀嚼し、ダンテは聞いた。
…指についたクッキーのカスすら美味い。さすがは我がパートナー。
「ここは日本じゃアーリマセン。七夕関係ない」
「ないのかよ」
ロシアンクッキーのねっとりしたジャムが指についたのか、ペロペロと舐めとり、最終的に指を口に含んでじゅるりと吸い付いている。
その仕草が色っぽくも見えてしまったダンテは、思わず椅子の下、ズボンを押さえた。
「夕方になってからだけど、薬草採りに出かけるの。今年はダンテにも手伝って欲しいんだけど…いい?」
「用事もないし別にいいぜ」
オレのもそうやって舐めてくれるならな。
そう言いたかったが絶対杖で物理的にぶっ飛ばされるのが目に見えるのでやめておいた。
「そもそもお前のパートナーだぞ。夕方から出かけるなんて、心配だしついてくに決まってるだろ」
「あたしを守ってくれてるパートナー、だものね…。ダンテという心強い味方いるから今回は安心して取り組めそうだわ~」
ゲンドウポーズのしかめ面を崩し、ホッとした様子のディーヴァは、クッキーを次々に頬張る。
「ちょっと待て、薬草採りに行くだけだろ?そんなに危険ないはずだ」
夕方からといえ、薬草採りくらいでは身の危険はないはず。
なのにこの安心の仕方は、おかしい。
話のため中断させるべく、ダンテはクッキーを食べ続けるディーヴァの手を止め、代わりに紅茶を持たせた。水分も取れ、という意味も込めて。
「たしかに普通は危険じゃないよ。でも、今回のはちょっぴり危険な採取なんだよねぇ…」
「それどんな薬草だよ」
ディーヴァは一口飲むと、傍に押しやり、クッキーにまたも手を出す。
これから昼食を食べるというに、これ以上は食べ過ぎだ。
ダンテはクッキーの皿を自分側に引き寄せた。
「7月7日にだけ花を咲かせるシダ植物で、その晩に首尾よく手に入れれば、財宝を得ることができる。…とされる薬草の一種。
クーパラの火の花って呼ばれてる」
ムッとしたディーヴァがふたたびクッキーの皿を自分に引き寄せる。
そしてクッキーを一枚取ろうとしたところで、またもダンテに皿を片された。
「クーパラってなんだよ。クールガールパラダイス?」
「なにそれ」
とうとう立ち上がったディーヴァは、両手で皿を持って引き寄せる。
しかしその反対側ではダンテが死守すべく、皿を掴んでいた。
どちらも譲らない。
「クーデレな女の子たちがサーブしてくれるサ店」
「いかがわしそう…」
「あほ。メイド喫茶の姉妹店だよ」
力比べは呆気なくダンテに軍配が上がり、ディーヴァは恨めしそうにしながら席に着く。
その目は穴があいて粉々に砕けそうなほど、クッキーを見つめている。
「そこに通うダンテはイメージ的におかしい」
「オレにそういうの通うイメージないかもしれんが、結局目の前の人間達はオレの生活の一部しか見てないわけだ。行かないとは限らないだろ?
ほら、そんなに食いたきゃ食えよ」
さすがにかわいそうと思ったか、ダンテはクッキーの皿をディーヴァに返す。
嬉々としてクッキーをサクサク、食べ進めたディーヴァは、真ん中のジャム部分との食感の差を紅茶を飲みつつ楽しんでいる。
水分も交互にとっているならいいか。
ダンテはディーヴァに甘い。
「っていうか目の前の人間達って誰よ」
「……さあな。で、クーパラってのはなんなんだ」
「クーパラはスラヴの神様?かな、よくわかんない」
「よくわかんねーのかよ。
んで、財宝、とな。オレはともかくお前は財宝にキョーミあんの?」
ダンテの借金やツケの増加は、とどまることを知らない。
いつのまにか増えるそれらに悩み募らせながら、ダンテはディーヴァに倣ってクッキーを1枚齧った。
「特にない。あたしが用があるのは財宝を得られるっていうところじゃないもの。
それを使った魔法薬を飲めば、どんな願いも叶う…なーんて言われてて、魔法薬を作る魔女が火の花を欲しがってるらしいの。
街にあるクエスト用掲示板見ると、この時期に毎年書いてあるよ」
「ドラドグか」
なるほど魔女が魔女に納品するクエストか。この業界ではよくある事だ。
ディーヴァも魔法薬を作ることがあるが、本業は農業紛いの農作物作りとそれらの採取。
適材適所ともいうし、ディーヴァがこの仕事を請け負う事にした理由もわかる。
「夜に咲くのはわかったが、どの辺が危険なんだよ」
「……お花は魔獣が厳重に守ってる」
ズズ。
ワザとだろう、紅茶を行儀悪く音を立てて飲み、ため息を吐き出すディーヴァ。
ダンテはその仕草が、ディーヴァの心境を語っているとみた。
「ああ…なるほどね」
「うん。…さてさて、腹ごなしは済んだし、作戦を立てましょー」
「おい待て昼メシまだだろ。ディーヴァはオヤツだけで足りるのか」
よく考えたらクッキーはたらふく食べたが、お昼ご飯は支度すらまだだ。甘いものばかり摂ったので、しょっぱいものが食べたい。
ディーヴァの底なしの胃袋が、オヤツで足りるわけがなかった。
そうだ、今日は変わり種のツユを添えた、七夕風お素麺にしよう!
素麺はもちろん、やっぱり美味しい●保乃糸。
ピンク色の麺は自分に、グリーンの麺はダンテにあげよう。アレが自分の皿に入っていると、地味にテンションが上がる。
天の河に見立てて取り付けた素麺に、星の形の人参、ハム、チーズにきゅうり…そして輪切りのオクラ。
ミニトマトも周りに添えて、メインのお肉にはちょっとスパイシーなタンドリーチキンを用意して…。
ツユにはごま油とコチュジャン、お酢とレモン汁にすりごま。
あとは氷たっぷり浮かべた、白桃の香りの麦茶を用意したら、うん、とっても涼やか!食欲も出てくるというものだ。もともと食欲全開だけど。
「お昼の後にしようか」
もはやディーヴァの頭の中には、カランと涼しげな器が奏でる軽やかな音、食欲をそそる香りを纏う昼食のことしかなかった。
カントリー調なテーブルの上、並んだスイーツに囲まれ甘い空気と匂いの漂う中、そこだけ異質にも感じるディーヴァがゲンドウポーズで呟く。
「またって何だよ。今日?7月7日?七夕じゃねぇか。笹飾りでも作るのか?」
笹飾りを作るにしたって大した労力は使わないだろうに、なぜそんな死地に向かう兵士みたいな顔を?
ひょいパク、ジャムの乗ったロシアンクッキーを咀嚼し、ダンテは聞いた。
…指についたクッキーのカスすら美味い。さすがは我がパートナー。
「ここは日本じゃアーリマセン。七夕関係ない」
「ないのかよ」
ロシアンクッキーのねっとりしたジャムが指についたのか、ペロペロと舐めとり、最終的に指を口に含んでじゅるりと吸い付いている。
その仕草が色っぽくも見えてしまったダンテは、思わず椅子の下、ズボンを押さえた。
「夕方になってからだけど、薬草採りに出かけるの。今年はダンテにも手伝って欲しいんだけど…いい?」
「用事もないし別にいいぜ」
オレのもそうやって舐めてくれるならな。
そう言いたかったが絶対杖で物理的にぶっ飛ばされるのが目に見えるのでやめておいた。
「そもそもお前のパートナーだぞ。夕方から出かけるなんて、心配だしついてくに決まってるだろ」
「あたしを守ってくれてるパートナー、だものね…。ダンテという心強い味方いるから今回は安心して取り組めそうだわ~」
ゲンドウポーズのしかめ面を崩し、ホッとした様子のディーヴァは、クッキーを次々に頬張る。
「ちょっと待て、薬草採りに行くだけだろ?そんなに危険ないはずだ」
夕方からといえ、薬草採りくらいでは身の危険はないはず。
なのにこの安心の仕方は、おかしい。
話のため中断させるべく、ダンテはクッキーを食べ続けるディーヴァの手を止め、代わりに紅茶を持たせた。水分も取れ、という意味も込めて。
「たしかに普通は危険じゃないよ。でも、今回のはちょっぴり危険な採取なんだよねぇ…」
「それどんな薬草だよ」
ディーヴァは一口飲むと、傍に押しやり、クッキーにまたも手を出す。
これから昼食を食べるというに、これ以上は食べ過ぎだ。
ダンテはクッキーの皿を自分側に引き寄せた。
「7月7日にだけ花を咲かせるシダ植物で、その晩に首尾よく手に入れれば、財宝を得ることができる。…とされる薬草の一種。
クーパラの火の花って呼ばれてる」
ムッとしたディーヴァがふたたびクッキーの皿を自分に引き寄せる。
そしてクッキーを一枚取ろうとしたところで、またもダンテに皿を片された。
「クーパラってなんだよ。クールガールパラダイス?」
「なにそれ」
とうとう立ち上がったディーヴァは、両手で皿を持って引き寄せる。
しかしその反対側ではダンテが死守すべく、皿を掴んでいた。
どちらも譲らない。
「クーデレな女の子たちがサーブしてくれるサ店」
「いかがわしそう…」
「あほ。メイド喫茶の姉妹店だよ」
力比べは呆気なくダンテに軍配が上がり、ディーヴァは恨めしそうにしながら席に着く。
その目は穴があいて粉々に砕けそうなほど、クッキーを見つめている。
「そこに通うダンテはイメージ的におかしい」
「オレにそういうの通うイメージないかもしれんが、結局目の前の人間達はオレの生活の一部しか見てないわけだ。行かないとは限らないだろ?
ほら、そんなに食いたきゃ食えよ」
さすがにかわいそうと思ったか、ダンテはクッキーの皿をディーヴァに返す。
嬉々としてクッキーをサクサク、食べ進めたディーヴァは、真ん中のジャム部分との食感の差を紅茶を飲みつつ楽しんでいる。
水分も交互にとっているならいいか。
ダンテはディーヴァに甘い。
「っていうか目の前の人間達って誰よ」
「……さあな。で、クーパラってのはなんなんだ」
「クーパラはスラヴの神様?かな、よくわかんない」
「よくわかんねーのかよ。
んで、財宝、とな。オレはともかくお前は財宝にキョーミあんの?」
ダンテの借金やツケの増加は、とどまることを知らない。
いつのまにか増えるそれらに悩み募らせながら、ダンテはディーヴァに倣ってクッキーを1枚齧った。
「特にない。あたしが用があるのは財宝を得られるっていうところじゃないもの。
それを使った魔法薬を飲めば、どんな願いも叶う…なーんて言われてて、魔法薬を作る魔女が火の花を欲しがってるらしいの。
街にあるクエスト用掲示板見ると、この時期に毎年書いてあるよ」
「ドラドグか」
なるほど魔女が魔女に納品するクエストか。この業界ではよくある事だ。
ディーヴァも魔法薬を作ることがあるが、本業は農業紛いの農作物作りとそれらの採取。
適材適所ともいうし、ディーヴァがこの仕事を請け負う事にした理由もわかる。
「夜に咲くのはわかったが、どの辺が危険なんだよ」
「……お花は魔獣が厳重に守ってる」
ズズ。
ワザとだろう、紅茶を行儀悪く音を立てて飲み、ため息を吐き出すディーヴァ。
ダンテはその仕草が、ディーヴァの心境を語っているとみた。
「ああ…なるほどね」
「うん。…さてさて、腹ごなしは済んだし、作戦を立てましょー」
「おい待て昼メシまだだろ。ディーヴァはオヤツだけで足りるのか」
よく考えたらクッキーはたらふく食べたが、お昼ご飯は支度すらまだだ。甘いものばかり摂ったので、しょっぱいものが食べたい。
ディーヴァの底なしの胃袋が、オヤツで足りるわけがなかった。
そうだ、今日は変わり種のツユを添えた、七夕風お素麺にしよう!
素麺はもちろん、やっぱり美味しい●保乃糸。
ピンク色の麺は自分に、グリーンの麺はダンテにあげよう。アレが自分の皿に入っていると、地味にテンションが上がる。
天の河に見立てて取り付けた素麺に、星の形の人参、ハム、チーズにきゅうり…そして輪切りのオクラ。
ミニトマトも周りに添えて、メインのお肉にはちょっとスパイシーなタンドリーチキンを用意して…。
ツユにはごま油とコチュジャン、お酢とレモン汁にすりごま。
あとは氷たっぷり浮かべた、白桃の香りの麦茶を用意したら、うん、とっても涼やか!食欲も出てくるというものだ。もともと食欲全開だけど。
「お昼の後にしようか」
もはやディーヴァの頭の中には、カランと涼しげな器が奏でる軽やかな音、食欲をそそる香りを纏う昼食のことしかなかった。