邂逅
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ディーヴァの事を初めて見た時は魔女とは思わなかった。
童話の赤ずきんに憧れるただのお菓子好きの一般人だと、その時は思っていた。魔力もフードやら衣服に隠れてロクに感じ取れなかったというのもある。
そしてオレは自由を愛する魔獣だった。
少なくともその時は自由に重きを置いて、他の魔女と魔女の間を寝ぐらに仮契約ばかり繰り返すという自堕落な生活をしていた。
こういうところは、上の兄と少しだけ似ていたかもしれない。その兄は今はパートナーも仮の契約者すらいない根無し草らしいが。
今日はそんなオレがディーヴァと仮契約を結びたいと思うまでの、『邂逅』した時の話をしてやろう。
料金はあとで請求書作って送るから現ナマ用意して待ちやがれ。
え?話を聞いたぐらいで現ナマ要求するのは高い?
DMCの看板背負う主人公、ダンテのありがたーい話を聞けるんだ、ぼったくりバーよりマシだろ。
***
「ぴぴるぴるぴるぴぴるぴー」
魔獣姿のオレが綺麗な川で喉を潤していると、そんな謎の歌声が聞こえてきた。
…人か。
そっと木々の陰から覗いてみると、そこには赤ずきんのナリした1人の少女が何やら手に持ちながら、森の中を歩いているのが目に入った。
よく見たら口がモゴモゴ動いている。
持った物…銀の皿の中央に鎮座した黄色と茶色。
その周りに盛られた、フルーツと生クリーム。
やたらでかい黄色と茶色は、人間が作りたもうた甘く冷たいスイーツ、カスタードプリンだ。
つまり、彼女の持っているのは、プリンアラモードというデザート。
「は?」
なんじゃこりゃと二度見した。
いや、二度見どころか目をこすってもう一回見たほど。
つい、ヒトガタに戻るのも忘れて見入ってしまった。
なんで森の中歩くのに、皿に盛ったプリンアラモードなんていう運び辛そうな物を持っている?
誰かの元に運ぶ途中なら百歩譲って理解できる。
だが、幸せそうな顔で自身の口に運ぶのを見れば、それが誰かのためではなく、自分が食べるためだとすぐわかる。
もっとよく見ようと身を乗り出したダンテは、魔獣の姿なのをついうっかり忘れていた。
そう、ついうっかり。
隠れている木々の前、盛大に揺れる草むら。
「だ、誰かいるの?もしかして、魔獣さん……?」
鈴を転がすような声で、ビクッと体を跳ねさせる少女。
だが、プリンアラモードを抱える手は、1ミリも揺れていない。
命より何よりもスイーツが大事とでもいうかのよう。
その少女のメロン味の飴玉のような瞳と、魔獣姿のダンテの瞳が合わさった。
驚きと恐怖に染まるメロン飴の中に、まぁるく映りこむ焔の獅子。
あ、やばい。人間に見られた。
今更遅いとわかっていたが時すでに遅し。身体は人の形を取り始めていた。
「ひっ!?や、やっぱり魔獣さん……!」
コンバートする身体まで、バッチリ!しっかり!最初から最後までを一通り目撃された。いやん恥ずかしい。
しまった、と思ったがもう後の祭り。
「こ、こんちは~…。
えっと…見た?…………よな」
こくり、恐怖と困惑を浮かべた目で頷く彼女。
魔獣だった姿を見られていなければ、人間と押し通すこともできたろう。
どう見てもダンテの姿は人好きのする人間男性のそれだ。
…いや、衣服が問題か。
町に入る時はきちんとあげるジッパーだが、コンバートしたてでは露出狂と間違えられてもおかしくない状態。
裾に炎属性たるファーをあしらった真っ赤なコート。その前身頃は全開で、胸板やシックスパックを惜しげも無く晒しているのだから。
どっからどう見てもそういうことに免疫のなさそうな少女には、通報案件。
ダンテはいそいそとジッパーを上げて腹や胸を隠した。
そのジッパーを上げている間に、視界の端で動く存在が。
そろりそろりと後退し、回れー右!してその場から立ち去らんとする者こそ、目の前の少女。
そうか、逃げようというわけか。
「おいおい、いきなり逃げることねーじゃねぇか。
なんもしてねぇだろ?」
そうだ。
何もしていないのに逃げられるというのは少々違う気がする。せめて挨拶くらいは返せ。
魔獣、礼儀うるさい、おぅけぃ?
ダンテはいささか言葉にドスを利かせて、少女の肩を掴んで振り向かせた。
思えばこれが不味かったのかもしれない。
「……ッ!?
…うぅ、ぅわぁぁぁぁぁん!!」
えええええー!?泣いたぁ!!?
ダンテの顔を見た少女に、ぴいぴい泣かれてしまった。
あらやだ泣き顔かわいい。…って違う!
「なんもしない!しないっての!!
ちょ、泣きやめよ!!」
「うぇぇ、魔獣……きらい……っ……怖いからきらい……!やっ!」
ジタバタと暴れての激しい拒絶反応。
たしかに魔獣を嫌う人間は多い。
でも、このあたりに住む人間は、比較的魔獣にも好意的だった。
久しぶりに送られる拒絶の言葉に、心傷つくのがわかった。
「お願い、離してください………」
しゃくりあげ、ポロポロと大粒の涙をこぼしてそう懇願する少女。
もう泣き喚くのではなく、ダンテにもわかるよう必死に話す様子から、精神的にはさっきより落ち着いているのが見てとれる。
それでも拒絶は変わらない。つまり、ダンテが怖かったわけではなく、何か大きなトラウマを抱えているのかもしれない。
自身は悪い魔獣ではない方だと自負しているが、世間には人に仇なす魔獣もいるわけで。この娘のように魔獣を嫌う人間もいよう。
ダンテは少女の肩からそっと手を離した。
「…わるかった」
糸の切れたマリオネットのようにその場に座り込む少女は、ぷるぷる震えながら(でもプリンアラモードは死守しながら)じりじりと後退する。
震える様子は子ウサギそのもの。大変可愛らしくて、食べてしまいたくなる。…性的にな!!
だが、やはり気になるのはその手の…。
好奇心猫を殺すというが、この場合は好奇心獅子を負かす、といったところか。
ダンテは好奇心に勝てなかった。
「なあ、ひとつ聞かせてくれるか」
「…!
な、なんです、か?」
「なんで、そんなもん食べながら歩いてるんだ?」
持っているプリンアラモードについて質問が移った途端。
少女の目の色が変わった。
あんなに震えていた体はシャキッとして、背筋ピーン!皿をしっかと掴み、こちらをまっすぐ見つめてくるその瞳は、全くブレていない。
少女の身に一体何が起こったというのか。
「お散歩しながらおやつタイムしてただけですよ。それ以外にあります?
………あっ!食べたくてもこればっかりは差し上げませんからね!スイーツだいじ!いのちと同じくらいだいじ!スイーツのためならあたし魔獣とだって戦うもん!でも埃ついちゃうと困るからどうしよう!?そうだお腹に隠せばいい」
そこまで言い切ると、刺さっていたスプーンを手にプリンアラモードを大きな一口分掬い、口に次々運んでぺろりと平らげた。
おいおい、おやつタイム一気に終わらしてんじゃねーか。
「けぷ。ふわぁ、美味しかったぁ…。
……って、ヒィ!魔獣さんいたんだったぁぁぁぁ!怖い!やめて!来ないでください!」
…うん。
かわいいけど、不思議ちゃんというかなんというべきか……変わった子だと思った。
童話の赤ずきんに憧れるただのお菓子好きの一般人だと、その時は思っていた。魔力もフードやら衣服に隠れてロクに感じ取れなかったというのもある。
そしてオレは自由を愛する魔獣だった。
少なくともその時は自由に重きを置いて、他の魔女と魔女の間を寝ぐらに仮契約ばかり繰り返すという自堕落な生活をしていた。
こういうところは、上の兄と少しだけ似ていたかもしれない。その兄は今はパートナーも仮の契約者すらいない根無し草らしいが。
今日はそんなオレがディーヴァと仮契約を結びたいと思うまでの、『邂逅』した時の話をしてやろう。
料金はあとで請求書作って送るから現ナマ用意して待ちやがれ。
え?話を聞いたぐらいで現ナマ要求するのは高い?
DMCの看板背負う主人公、ダンテのありがたーい話を聞けるんだ、ぼったくりバーよりマシだろ。
***
「ぴぴるぴるぴるぴぴるぴー」
魔獣姿のオレが綺麗な川で喉を潤していると、そんな謎の歌声が聞こえてきた。
…人か。
そっと木々の陰から覗いてみると、そこには赤ずきんのナリした1人の少女が何やら手に持ちながら、森の中を歩いているのが目に入った。
よく見たら口がモゴモゴ動いている。
持った物…銀の皿の中央に鎮座した黄色と茶色。
その周りに盛られた、フルーツと生クリーム。
やたらでかい黄色と茶色は、人間が作りたもうた甘く冷たいスイーツ、カスタードプリンだ。
つまり、彼女の持っているのは、プリンアラモードというデザート。
「は?」
なんじゃこりゃと二度見した。
いや、二度見どころか目をこすってもう一回見たほど。
つい、ヒトガタに戻るのも忘れて見入ってしまった。
なんで森の中歩くのに、皿に盛ったプリンアラモードなんていう運び辛そうな物を持っている?
誰かの元に運ぶ途中なら百歩譲って理解できる。
だが、幸せそうな顔で自身の口に運ぶのを見れば、それが誰かのためではなく、自分が食べるためだとすぐわかる。
もっとよく見ようと身を乗り出したダンテは、魔獣の姿なのをついうっかり忘れていた。
そう、ついうっかり。
隠れている木々の前、盛大に揺れる草むら。
「だ、誰かいるの?もしかして、魔獣さん……?」
鈴を転がすような声で、ビクッと体を跳ねさせる少女。
だが、プリンアラモードを抱える手は、1ミリも揺れていない。
命より何よりもスイーツが大事とでもいうかのよう。
その少女のメロン味の飴玉のような瞳と、魔獣姿のダンテの瞳が合わさった。
驚きと恐怖に染まるメロン飴の中に、まぁるく映りこむ焔の獅子。
あ、やばい。人間に見られた。
今更遅いとわかっていたが時すでに遅し。身体は人の形を取り始めていた。
「ひっ!?や、やっぱり魔獣さん……!」
コンバートする身体まで、バッチリ!しっかり!最初から最後までを一通り目撃された。いやん恥ずかしい。
しまった、と思ったがもう後の祭り。
「こ、こんちは~…。
えっと…見た?…………よな」
こくり、恐怖と困惑を浮かべた目で頷く彼女。
魔獣だった姿を見られていなければ、人間と押し通すこともできたろう。
どう見てもダンテの姿は人好きのする人間男性のそれだ。
…いや、衣服が問題か。
町に入る時はきちんとあげるジッパーだが、コンバートしたてでは露出狂と間違えられてもおかしくない状態。
裾に炎属性たるファーをあしらった真っ赤なコート。その前身頃は全開で、胸板やシックスパックを惜しげも無く晒しているのだから。
どっからどう見てもそういうことに免疫のなさそうな少女には、通報案件。
ダンテはいそいそとジッパーを上げて腹や胸を隠した。
そのジッパーを上げている間に、視界の端で動く存在が。
そろりそろりと後退し、回れー右!してその場から立ち去らんとする者こそ、目の前の少女。
そうか、逃げようというわけか。
「おいおい、いきなり逃げることねーじゃねぇか。
なんもしてねぇだろ?」
そうだ。
何もしていないのに逃げられるというのは少々違う気がする。せめて挨拶くらいは返せ。
魔獣、礼儀うるさい、おぅけぃ?
ダンテはいささか言葉にドスを利かせて、少女の肩を掴んで振り向かせた。
思えばこれが不味かったのかもしれない。
「……ッ!?
…うぅ、ぅわぁぁぁぁぁん!!」
えええええー!?泣いたぁ!!?
ダンテの顔を見た少女に、ぴいぴい泣かれてしまった。
あらやだ泣き顔かわいい。…って違う!
「なんもしない!しないっての!!
ちょ、泣きやめよ!!」
「うぇぇ、魔獣……きらい……っ……怖いからきらい……!やっ!」
ジタバタと暴れての激しい拒絶反応。
たしかに魔獣を嫌う人間は多い。
でも、このあたりに住む人間は、比較的魔獣にも好意的だった。
久しぶりに送られる拒絶の言葉に、心傷つくのがわかった。
「お願い、離してください………」
しゃくりあげ、ポロポロと大粒の涙をこぼしてそう懇願する少女。
もう泣き喚くのではなく、ダンテにもわかるよう必死に話す様子から、精神的にはさっきより落ち着いているのが見てとれる。
それでも拒絶は変わらない。つまり、ダンテが怖かったわけではなく、何か大きなトラウマを抱えているのかもしれない。
自身は悪い魔獣ではない方だと自負しているが、世間には人に仇なす魔獣もいるわけで。この娘のように魔獣を嫌う人間もいよう。
ダンテは少女の肩からそっと手を離した。
「…わるかった」
糸の切れたマリオネットのようにその場に座り込む少女は、ぷるぷる震えながら(でもプリンアラモードは死守しながら)じりじりと後退する。
震える様子は子ウサギそのもの。大変可愛らしくて、食べてしまいたくなる。…性的にな!!
だが、やはり気になるのはその手の…。
好奇心猫を殺すというが、この場合は好奇心獅子を負かす、といったところか。
ダンテは好奇心に勝てなかった。
「なあ、ひとつ聞かせてくれるか」
「…!
な、なんです、か?」
「なんで、そんなもん食べながら歩いてるんだ?」
持っているプリンアラモードについて質問が移った途端。
少女の目の色が変わった。
あんなに震えていた体はシャキッとして、背筋ピーン!皿をしっかと掴み、こちらをまっすぐ見つめてくるその瞳は、全くブレていない。
少女の身に一体何が起こったというのか。
「お散歩しながらおやつタイムしてただけですよ。それ以外にあります?
………あっ!食べたくてもこればっかりは差し上げませんからね!スイーツだいじ!いのちと同じくらいだいじ!スイーツのためならあたし魔獣とだって戦うもん!でも埃ついちゃうと困るからどうしよう!?そうだお腹に隠せばいい」
そこまで言い切ると、刺さっていたスプーンを手にプリンアラモードを大きな一口分掬い、口に次々運んでぺろりと平らげた。
おいおい、おやつタイム一気に終わらしてんじゃねーか。
「けぷ。ふわぁ、美味しかったぁ…。
……って、ヒィ!魔獣さんいたんだったぁぁぁぁ!怖い!やめて!来ないでください!」
…うん。
かわいいけど、不思議ちゃんというかなんというべきか……変わった子だと思った。
