その2、連続鍛刀と体調不良
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「はぁ……」
久しぶりの審神者、久しぶりの鍛刀……肩が凝った。
でも敬語を使わないようにする、というのが一番疲れた気がする。
……全くそうは見えなかったかもしれないが。
「……よし!」
気合いを入れ直そうと、頬をパンと叩く。
今はまだ、気をぬくところではない。まだ二人は合戦場に行ったばかりなのだから、これから先もっともっと気をしっかり引き締めていかなければ。
怠れば待つのは私の一番恐れる、刀剣破壊。
刀剣男士の『死』。
練度が低いというのは、そういう事だ。
審神者の執務室へと向かった私は、端末を起動、彼らの出陣の様子を伺う事にした。
「乱、索敵をお願いできるかい?」
「もちろんだよ!」
「見つからないようにな」
ザザ、ザ、数秒のノイズの後、聞こえてくる歌仙と乱の声。
これから乱に索敵をさせるようだ。短刀である彼ならば敵に見つからず、相手方の布陣を知れるだろう。
ただ、会話は聞こえても映像は時代遡行の波に阻まれて見れないらしい。少し残念だ。
「……歌仙、聞こえてる?」
「な、主の声!?どこから……!?」
「渡した根付けよ」
「ああ……これか」
そういえば、と歌仙は思い出したようだ。
ゲートを潜る前に、審神者にちょんとつけられた桜花と水晶の装飾が美しい小さな小さな根付けを託された事を。
「その根付けは、私がある程度貴方達の様子を聞き知ることが出来るもの。戦況の確認や報告を手短にするためにあるわ。と言っても、戦闘中はその激しさからか、ほぼ通信が切れてしまうけれど……」
現代風にいえば無線機といったところか。
「なら無様な戦いは見せられないね」
「ふふ、そうね。
ただ。聞くためのものであって、見るためのものじゃないから、隊長が言ってくれなきゃ詳しくはわからない。帰還後は速やかに報告する事」
「わかっているさ」
スピーカー越しに聞こえる歌仙の声は、相手が審神者だからか、そこが戦場でも穏やかだ。
その時、索敵を終えた乱が戻ってきたようだ。弾むように軽やかな足音が聞こえた。
「歌仙さん、敵の陣形はの中央に向かって前に進む形をとってたよ!」
「中央が前……、魚鱗陣か。
なら主。この場合のこちらの布陣はどうすればいいんだい?細かい事は言わなくていい。攻め口を教えてくれ」
陣法について述べようとすると、1日では済まなくなる。非常に細かく分かれているからだ。
だが、刀剣達も遡行軍も使うのは大抵魚鱗、鶴翼、横隊、方、雁行、逆行。
少なくとも、以前審神者をしていた時はその6種類を敵味方問わず使用していた。
しばし逡巡した私は、歌仙に逆行陣を勧めた。
「時間遡行軍は魚鱗陣なのね。なら、こっちは右翼を前進させ左翼を下げる逆行陣で進軍するといいと思う」
「わかった」
「あれ?あるじさんの声……どこどこ?もしかしてあるじさんどこからか見てるの?」
乱が周りをキョロキョロ見回したであろう事が、声音からもよくわかった。
想像するだけでなぜか心が温かくなる。
「ああ、この根付けで隊長は主と連絡がとれるようだよ。だから雅な戦いを目指すぞ、乱」
「そっか、あるじさん本丸から見てるんだね!ようし、がんばっちゃうぞー!」
「ちょっと歌仙、言っておくけど私、『見て』はいないのよ?」
えいえいおー!と、乱は自身と刀装に布陣を教えに行ってしまったようだ。
これでは勘違いさせてしまうではないか。咎めるような視線…を送っても歌仙には見えないが、ひとこと言っておく。
「まあまあ、いいじゃないか。君が見ていると思っていたほうが彼も頑張るだろう?僕もそうだ。
じゃあ、行ってくるよ」
「戦闘中はあまり上手く聞きとれないから……無理はせずに」
普通のチュートリアルとは違い、単騎出陣ではない。
2振りでの出陣なだけ、安心だろう。
歌仙を。
乱を信じよう。
祈るように胸に手を当て、私は2振りの無事を願った。
「主、終わった……よ、……」
歌仙から再び通信が聞こえたのは、それから半刻ほど。
戦闘後すぐの連絡だから息切れしているのか、歌仙は激しく息を弾ませて途切れ途切れ言葉を発している。
「お疲れ様、無事なの?怪我はしていない?」
「ああ、折れてはいないよ。この場にいた遡行軍は殲滅した。
それと、敵が持っていた刀剣を保護したよ」
「へへっ……ボクの兄弟だよ!」
「そう……よかった、新しい刀剣を助けられたのね」
ほっと胸をなでおろす。
乱の兄弟という事は、粟田口のどなたかだろう。粟田口吉光の打った刀の種類は多いから。
と、そこで歌仙の言った言葉が頭に引っかかった。
「って、ちょっと待って。折れて『は』いないとはどういう事?」
「……ああ、大怪我とまではいかないけど、深手を負ってしまってね」
「まさかあんなに敵がいるなんてね。不覚だったぁ~」
「遡行軍が、多かったの……?」
怪我の言葉に声が震えた。
「怪我しないように言われてたのにすまないね。二振りじゃあ捌くのは大変だったんだ。悪いけど帰ったら手入れを頼みたい」
「ごめんなさい、戦装束が汚れちゃったんだ。治してほしいな」
聞けば、歌仙と乱は共に中傷状態だという。
乱に至っては、重症一歩手前なほどの怪我との事。
「なんで……!?どうして……!!」
ビクッ!
私の大声に通信機の向こうで二振りの体がこわばったのがわかる。
怒ったわけではないが、怒ったと勘違いされても仕方なかったかもしれない。
「この戦闘は、チュートリアルと同じはず、……まさか!」
こちらの戦力数に合わせて遡行軍の戦力がより強くより強大に拡大した……!?
あり得る……。
そんな……私のせいで……。
「主……?」
そこまで考えが至る間、無言だったのが気になるのか、歌仙が静かに呼びかけて来た。
「歌仙ッ!今すぐ帰還して!!」
「何を一体慌てているんだい?心配しなくともすぐに帰還するよ」
「いいから、お願い!すぐよ!!」
ぶつりと切れた通信。
「あるじさん、どうしたの?」
「何か取り乱しているみたいだ。急いで帰るよ、乱」
「はーい」
心穏やかとは言えぬ深見と、怪我をしていようと明るい物言いの乱。正反対の空気を感じながら、歌仙は帰還用のゲートを開いた。
とにかく、今の深見をの取り乱しようは異常だ。
久しぶりの審神者、久しぶりの鍛刀……肩が凝った。
でも敬語を使わないようにする、というのが一番疲れた気がする。
……全くそうは見えなかったかもしれないが。
「……よし!」
気合いを入れ直そうと、頬をパンと叩く。
今はまだ、気をぬくところではない。まだ二人は合戦場に行ったばかりなのだから、これから先もっともっと気をしっかり引き締めていかなければ。
怠れば待つのは私の一番恐れる、刀剣破壊。
刀剣男士の『死』。
練度が低いというのは、そういう事だ。
審神者の執務室へと向かった私は、端末を起動、彼らの出陣の様子を伺う事にした。
「乱、索敵をお願いできるかい?」
「もちろんだよ!」
「見つからないようにな」
ザザ、ザ、数秒のノイズの後、聞こえてくる歌仙と乱の声。
これから乱に索敵をさせるようだ。短刀である彼ならば敵に見つからず、相手方の布陣を知れるだろう。
ただ、会話は聞こえても映像は時代遡行の波に阻まれて見れないらしい。少し残念だ。
「……歌仙、聞こえてる?」
「な、主の声!?どこから……!?」
「渡した根付けよ」
「ああ……これか」
そういえば、と歌仙は思い出したようだ。
ゲートを潜る前に、審神者にちょんとつけられた桜花と水晶の装飾が美しい小さな小さな根付けを託された事を。
「その根付けは、私がある程度貴方達の様子を聞き知ることが出来るもの。戦況の確認や報告を手短にするためにあるわ。と言っても、戦闘中はその激しさからか、ほぼ通信が切れてしまうけれど……」
現代風にいえば無線機といったところか。
「なら無様な戦いは見せられないね」
「ふふ、そうね。
ただ。聞くためのものであって、見るためのものじゃないから、隊長が言ってくれなきゃ詳しくはわからない。帰還後は速やかに報告する事」
「わかっているさ」
スピーカー越しに聞こえる歌仙の声は、相手が審神者だからか、そこが戦場でも穏やかだ。
その時、索敵を終えた乱が戻ってきたようだ。弾むように軽やかな足音が聞こえた。
「歌仙さん、敵の陣形はの中央に向かって前に進む形をとってたよ!」
「中央が前……、魚鱗陣か。
なら主。この場合のこちらの布陣はどうすればいいんだい?細かい事は言わなくていい。攻め口を教えてくれ」
陣法について述べようとすると、1日では済まなくなる。非常に細かく分かれているからだ。
だが、刀剣達も遡行軍も使うのは大抵魚鱗、鶴翼、横隊、方、雁行、逆行。
少なくとも、以前審神者をしていた時はその6種類を敵味方問わず使用していた。
しばし逡巡した私は、歌仙に逆行陣を勧めた。
「時間遡行軍は魚鱗陣なのね。なら、こっちは右翼を前進させ左翼を下げる逆行陣で進軍するといいと思う」
「わかった」
「あれ?あるじさんの声……どこどこ?もしかしてあるじさんどこからか見てるの?」
乱が周りをキョロキョロ見回したであろう事が、声音からもよくわかった。
想像するだけでなぜか心が温かくなる。
「ああ、この根付けで隊長は主と連絡がとれるようだよ。だから雅な戦いを目指すぞ、乱」
「そっか、あるじさん本丸から見てるんだね!ようし、がんばっちゃうぞー!」
「ちょっと歌仙、言っておくけど私、『見て』はいないのよ?」
えいえいおー!と、乱は自身と刀装に布陣を教えに行ってしまったようだ。
これでは勘違いさせてしまうではないか。咎めるような視線…を送っても歌仙には見えないが、ひとこと言っておく。
「まあまあ、いいじゃないか。君が見ていると思っていたほうが彼も頑張るだろう?僕もそうだ。
じゃあ、行ってくるよ」
「戦闘中はあまり上手く聞きとれないから……無理はせずに」
普通のチュートリアルとは違い、単騎出陣ではない。
2振りでの出陣なだけ、安心だろう。
歌仙を。
乱を信じよう。
祈るように胸に手を当て、私は2振りの無事を願った。
「主、終わった……よ、……」
歌仙から再び通信が聞こえたのは、それから半刻ほど。
戦闘後すぐの連絡だから息切れしているのか、歌仙は激しく息を弾ませて途切れ途切れ言葉を発している。
「お疲れ様、無事なの?怪我はしていない?」
「ああ、折れてはいないよ。この場にいた遡行軍は殲滅した。
それと、敵が持っていた刀剣を保護したよ」
「へへっ……ボクの兄弟だよ!」
「そう……よかった、新しい刀剣を助けられたのね」
ほっと胸をなでおろす。
乱の兄弟という事は、粟田口のどなたかだろう。粟田口吉光の打った刀の種類は多いから。
と、そこで歌仙の言った言葉が頭に引っかかった。
「って、ちょっと待って。折れて『は』いないとはどういう事?」
「……ああ、大怪我とまではいかないけど、深手を負ってしまってね」
「まさかあんなに敵がいるなんてね。不覚だったぁ~」
「遡行軍が、多かったの……?」
怪我の言葉に声が震えた。
「怪我しないように言われてたのにすまないね。二振りじゃあ捌くのは大変だったんだ。悪いけど帰ったら手入れを頼みたい」
「ごめんなさい、戦装束が汚れちゃったんだ。治してほしいな」
聞けば、歌仙と乱は共に中傷状態だという。
乱に至っては、重症一歩手前なほどの怪我との事。
「なんで……!?どうして……!!」
ビクッ!
私の大声に通信機の向こうで二振りの体がこわばったのがわかる。
怒ったわけではないが、怒ったと勘違いされても仕方なかったかもしれない。
「この戦闘は、チュートリアルと同じはず、……まさか!」
こちらの戦力数に合わせて遡行軍の戦力がより強くより強大に拡大した……!?
あり得る……。
そんな……私のせいで……。
「主……?」
そこまで考えが至る間、無言だったのが気になるのか、歌仙が静かに呼びかけて来た。
「歌仙ッ!今すぐ帰還して!!」
「何を一体慌てているんだい?心配しなくともすぐに帰還するよ」
「いいから、お願い!すぐよ!!」
ぶつりと切れた通信。
「あるじさん、どうしたの?」
「何か取り乱しているみたいだ。急いで帰るよ、乱」
「はーい」
心穏やかとは言えぬ深見と、怪我をしていようと明るい物言いの乱。正反対の空気を感じながら、歌仙は帰還用のゲートを開いた。
とにかく、今の深見をの取り乱しようは異常だ。