とうらぶの短いお話
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「……そろそろ食べごろになったかな」
次に歌仙からスッと差し出されたのは、ガラス皿に乗った、白っぽくつるりとした菓子。
こんなの買ったかしら。
共に渡された匙でひと掬い……と思ったら、あら意外に硬い。
「中まではまだ溶けてないし凍ってるから、まだ少し硬いだろうね」
そう言いながらも、匙を突き刺して掬う歌仙はやっぱり文系というより力任せの……いや、やめておこう。
薄く透明になってきた周りを狙い、口に運ぶ。
ぷるぷるとして口当たりがいい。滑らかな喉ごしだけど硬さはこんにゃくゼリーのそれに近かった。
それが半分くらい凍っているから、ねっちりとして。もっちりではない、ねっちりだ。
「わ。これも美味しい〜。お風呂上がりなんかに食べてもよさそうね」
ゼリーなのに飴のよう。つまり、水飴や澱粉を使った水餅だ。だからこんな食感なのか。
どこかで食べたこんにゃくアイスを思い出す。あれも美味しかった。
そう考えるとずいぶんとまあ、御上品なこんにゃくアイスだこと。
「ふふ、あるじったら風呂上がりのアイス感覚なの?」
「うん、そんな感じね」
味も数種類。甘酸っぱい杏に、ジューシーな夏みかん、爽やかな梅……。二振りと皿を交換しあって食べると、全然違う味が口いっぱいに広がって、ふにゃりと目尻が下がる思いだ。
ただ、美味しいけどおじいちゃん刀達には、喉に詰まらせないように言わないとダメかも。おじいちゃん刀って言っても、体は成人男性だけどね。
「思い出した。これって『水てまり』だったかしら」
「あー、あるじが柴舟と一緒に買ったゼリーの一種だね。試食の美味しさに感動して、つい買っちゃったやつ。
あの時のあるじはかわいかったなあ、美味しいから食べてみて!って、俺にあーんしてきてそれで、」
「きっ、清光……!」
とんでもない暴露をされてしまった!!歌仙の形いい眉毛がぴくりと動く。
「……君ねぇ。もっと危機感というか、審神者としての威厳を持たないとダメじゃないか」
「ふぁい……ごめんなさい」
「加州がそのまま接吻でもしてきたらどうするんだ」
「せっ、接吻!?」
接吻ってのはあれでしょうか唇と唇がぶつかるやつでしょうか清光と私の口がぶつかる?あの綺麗な形の唇が?誰の唇と??……口吸いじゃん、ちゅーじゃん!
キスじゃん!!!!
「え、あるじからの許可っぽいものがでたらすぐにでもするよ?だって許可だし」
「ひぇぇ」
「加州。ぽいものじゃなくて、そうしたい時はちゃんと許可を取らないとダメだろう」
「ひぇぇ」
ぽいもの!?ぽいものだけで清光からキスされるの!?ちゃんと許可あればもしかして歌仙もそういうこと考えちゃったりするの??
というかキスって、付喪神と審神者の契約的に大丈夫なのかな絶対ダメなやつだと思うんだよね神隠しとか……なんかそういうものに繋がる道を作り出しそう……。作らなくても、だめ、恥ずかしい。
綺麗な顔の神様達の顔がドアップでしょ?想像したら恥ずかしくてひぇぇ、しか言えない。
あるじの真っ赤な顔で、凍ってる部分が完全に溶けそうだね?だなんて、にやにやしながら追加で言ってくるものだから、私は何も言わずに、清光から拳一つ分の隙間を開けた。
……すぐ詰められたし、なんなら目の前に座っていたはずの歌仙もが、座布団ごと斜め前に移動してきたけど。
近い……ううう、逃げられない……。
せっかく美味しいのに、最後は味を感じなかったじゃない!もう!!
「今日の君は一段と綺麗で愛いね」
「う、愛い!?」
羞恥に破裂しそうな心を抑えていたのに、さらに二振りは追い討ちをかけてきた。
審神者は!すでに!中傷からの重傷です!!
御刀ぽんぽんならぬ、御心ぽんぽんを所望します!!
「俺のあるじは元からかわいいの。けど、着物の効果もあると思うよ〜。……よく似合ってる」
「ウアアアア……もうやめて……」
他の菓子、箱を開けた『あんころ餅』を食しながら清光が誉め言葉を上乗せする。
唇に餡がついたのだろう、口の端をぺろりと舐めながら言う清光の仕草が色っぽくて、目を逸らしたいのに逸せない。
唇……キス……また言葉を思い出してしまう。
キスなんてしてないのに言葉だけでこれじゃ、まるで生娘みたいではないか。審神者という立場上、それが悪いことじゃないのは知ってるけれど。
二振りが仕立てた朝顔の着物。
清光が勧めた木瓜の花紋様と、歌仙が選んだ牡丹の花紋様で言い争いになり、結局朝顔に落ち着いたそれ。
朝顔というには夏には向いていない色合いな気はする。
白地に、濃紅と濃紫の朝顔は、まるで加州の使う赤と歌仙の羽織。
ゆるく結い上げられてしまった髪留めについた薄紫のじゃらじゃらは、さしずめ歌仙の髪色かもしれない。
でも、二振りはなぜ着物の柄ごときで張り合いをしていたのだろう。うーん。
「ああ。牡丹でなかったのは残念だけど、僕の見立ては間違いじゃなかったね。
着物も、髪飾りもよく似合っているよ」
ふんわりと笑みを浮かべた歌仙に髪を梳かれる。髪を触られ、私の胸がどきりと高鳴った。流れる空気がどこか甘くなったと感じた。
無言の中、カラン……氷が溶ける音が響いた。
「ちょっと〜俺もいるんだから二人の世界に入らないでよね。僕の見立てじゃなくて、二振りの見立てだし!」
「いいや、加州には先程の前科がある」
清光から私を遠ざけるように割って入り、さらに自分へと引き寄せる歌仙。
ふわり、歌仙のつけている香に包まれた。
「ああ、良いね。僕の色だ……」
同時に耳に届くささやき。
熱が、集まる。
「お願いだからもう何も言わないでいいし何もしないでください!せっかくのお土産なんだから、私は味わって食べたいの。
はい、『加賀八幡の起上最中』!」
「「はいはい」」
味がわからなくなるのはごめんだ。
私が赤い箱ごと差し出したのは、金沢の伝統工芸品である加賀八幡起上りを象った可愛らしいフォルムの最中。
「何これかわいい〜起き上がり小法師?」
「似たものかなあ。実際、このもなかも起き上がるし」
八幡さまということで子供の健康祈願や出産祝いにも使われてるお菓子だけれど、今の時代はそういうご利益よりも土産物としての知名度、かわいさや美味しさがより目立つようになった。
刀の付喪「神」と縁深き者としては、そういった歴史の成り立ちは重要なことだろうけど、ここではあまり気にしないでおこう。
出産祝いになるなんてことを言ったなら、騒ぎ立てる刀剣男士もいそうだ。
「この和紙包みも、八幡様の赤いおくるみを模しているんだね。なかなかの再現率だな……」
「うん、そして、とっても美味しいのよね〜たくさん箱買いしてよかった」
次に歌仙からスッと差し出されたのは、ガラス皿に乗った、白っぽくつるりとした菓子。
こんなの買ったかしら。
共に渡された匙でひと掬い……と思ったら、あら意外に硬い。
「中まではまだ溶けてないし凍ってるから、まだ少し硬いだろうね」
そう言いながらも、匙を突き刺して掬う歌仙はやっぱり文系というより力任せの……いや、やめておこう。
薄く透明になってきた周りを狙い、口に運ぶ。
ぷるぷるとして口当たりがいい。滑らかな喉ごしだけど硬さはこんにゃくゼリーのそれに近かった。
それが半分くらい凍っているから、ねっちりとして。もっちりではない、ねっちりだ。
「わ。これも美味しい〜。お風呂上がりなんかに食べてもよさそうね」
ゼリーなのに飴のよう。つまり、水飴や澱粉を使った水餅だ。だからこんな食感なのか。
どこかで食べたこんにゃくアイスを思い出す。あれも美味しかった。
そう考えるとずいぶんとまあ、御上品なこんにゃくアイスだこと。
「ふふ、あるじったら風呂上がりのアイス感覚なの?」
「うん、そんな感じね」
味も数種類。甘酸っぱい杏に、ジューシーな夏みかん、爽やかな梅……。二振りと皿を交換しあって食べると、全然違う味が口いっぱいに広がって、ふにゃりと目尻が下がる思いだ。
ただ、美味しいけどおじいちゃん刀達には、喉に詰まらせないように言わないとダメかも。おじいちゃん刀って言っても、体は成人男性だけどね。
「思い出した。これって『水てまり』だったかしら」
「あー、あるじが柴舟と一緒に買ったゼリーの一種だね。試食の美味しさに感動して、つい買っちゃったやつ。
あの時のあるじはかわいかったなあ、美味しいから食べてみて!って、俺にあーんしてきてそれで、」
「きっ、清光……!」
とんでもない暴露をされてしまった!!歌仙の形いい眉毛がぴくりと動く。
「……君ねぇ。もっと危機感というか、審神者としての威厳を持たないとダメじゃないか」
「ふぁい……ごめんなさい」
「加州がそのまま接吻でもしてきたらどうするんだ」
「せっ、接吻!?」
接吻ってのはあれでしょうか唇と唇がぶつかるやつでしょうか清光と私の口がぶつかる?あの綺麗な形の唇が?誰の唇と??……口吸いじゃん、ちゅーじゃん!
キスじゃん!!!!
「え、あるじからの許可っぽいものがでたらすぐにでもするよ?だって許可だし」
「ひぇぇ」
「加州。ぽいものじゃなくて、そうしたい時はちゃんと許可を取らないとダメだろう」
「ひぇぇ」
ぽいもの!?ぽいものだけで清光からキスされるの!?ちゃんと許可あればもしかして歌仙もそういうこと考えちゃったりするの??
というかキスって、付喪神と審神者の契約的に大丈夫なのかな絶対ダメなやつだと思うんだよね神隠しとか……なんかそういうものに繋がる道を作り出しそう……。作らなくても、だめ、恥ずかしい。
綺麗な顔の神様達の顔がドアップでしょ?想像したら恥ずかしくてひぇぇ、しか言えない。
あるじの真っ赤な顔で、凍ってる部分が完全に溶けそうだね?だなんて、にやにやしながら追加で言ってくるものだから、私は何も言わずに、清光から拳一つ分の隙間を開けた。
……すぐ詰められたし、なんなら目の前に座っていたはずの歌仙もが、座布団ごと斜め前に移動してきたけど。
近い……ううう、逃げられない……。
せっかく美味しいのに、最後は味を感じなかったじゃない!もう!!
「今日の君は一段と綺麗で愛いね」
「う、愛い!?」
羞恥に破裂しそうな心を抑えていたのに、さらに二振りは追い討ちをかけてきた。
審神者は!すでに!中傷からの重傷です!!
御刀ぽんぽんならぬ、御心ぽんぽんを所望します!!
「俺のあるじは元からかわいいの。けど、着物の効果もあると思うよ〜。……よく似合ってる」
「ウアアアア……もうやめて……」
他の菓子、箱を開けた『あんころ餅』を食しながら清光が誉め言葉を上乗せする。
唇に餡がついたのだろう、口の端をぺろりと舐めながら言う清光の仕草が色っぽくて、目を逸らしたいのに逸せない。
唇……キス……また言葉を思い出してしまう。
キスなんてしてないのに言葉だけでこれじゃ、まるで生娘みたいではないか。審神者という立場上、それが悪いことじゃないのは知ってるけれど。
二振りが仕立てた朝顔の着物。
清光が勧めた木瓜の花紋様と、歌仙が選んだ牡丹の花紋様で言い争いになり、結局朝顔に落ち着いたそれ。
朝顔というには夏には向いていない色合いな気はする。
白地に、濃紅と濃紫の朝顔は、まるで加州の使う赤と歌仙の羽織。
ゆるく結い上げられてしまった髪留めについた薄紫のじゃらじゃらは、さしずめ歌仙の髪色かもしれない。
でも、二振りはなぜ着物の柄ごときで張り合いをしていたのだろう。うーん。
「ああ。牡丹でなかったのは残念だけど、僕の見立ては間違いじゃなかったね。
着物も、髪飾りもよく似合っているよ」
ふんわりと笑みを浮かべた歌仙に髪を梳かれる。髪を触られ、私の胸がどきりと高鳴った。流れる空気がどこか甘くなったと感じた。
無言の中、カラン……氷が溶ける音が響いた。
「ちょっと〜俺もいるんだから二人の世界に入らないでよね。僕の見立てじゃなくて、二振りの見立てだし!」
「いいや、加州には先程の前科がある」
清光から私を遠ざけるように割って入り、さらに自分へと引き寄せる歌仙。
ふわり、歌仙のつけている香に包まれた。
「ああ、良いね。僕の色だ……」
同時に耳に届くささやき。
熱が、集まる。
「お願いだからもう何も言わないでいいし何もしないでください!せっかくのお土産なんだから、私は味わって食べたいの。
はい、『加賀八幡の起上最中』!」
「「はいはい」」
味がわからなくなるのはごめんだ。
私が赤い箱ごと差し出したのは、金沢の伝統工芸品である加賀八幡起上りを象った可愛らしいフォルムの最中。
「何これかわいい〜起き上がり小法師?」
「似たものかなあ。実際、このもなかも起き上がるし」
八幡さまということで子供の健康祈願や出産祝いにも使われてるお菓子だけれど、今の時代はそういうご利益よりも土産物としての知名度、かわいさや美味しさがより目立つようになった。
刀の付喪「神」と縁深き者としては、そういった歴史の成り立ちは重要なことだろうけど、ここではあまり気にしないでおこう。
出産祝いになるなんてことを言ったなら、騒ぎ立てる刀剣男士もいそうだ。
「この和紙包みも、八幡様の赤いおくるみを模しているんだね。なかなかの再現率だな……」
「うん、そして、とっても美味しいのよね〜たくさん箱買いしてよかった」