とうらぶの短いお話
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加賀名物の棒ほうじ茶を買うついでに、テイクアウトで冷ほうじ茶を飲みながらホテルに帰って。ホテルで用意される夕食までしっかりいただいて。
備え付けのお風呂を交代でいただいてしばらく……。
「なんかおかしくない!?」
暗くなった部屋に、俺の声が響いた。
「ん、ぅ……、?」
「って、あるじが起きちゃうから静かにしないとだった」
寝不足は大敵だとお互い満場一致で決めたこととはいえ、俺たちは何事もなく寝る体制に入ってしまった。
ハァーーー?まさか、なにもなし!?ほんとに、何もなし!!
いやいやいや、審神者部屋の隣で不寝の番もあるし、なんなら大広間でだけどもあるじと雑魚寝したこともあるよ?
だから、近い部屋や同じ部屋で寝屋をともにした経験がないわけじゃない。
けど、ここは本丸じゃない狭いホテルの一室だよね!?
なにかこう、らっきぃすけべの一つや二つくらいあってもいいんでは!ないかと!!
俺としては思うわけよ!!
ちょっとしたきっかけで押し倒しちゃった先が寝具の上とかさあ!そーいうの!!
なら、気持ちよさそうに眠ってるあるじに手を出せって?寝てる隙に手籠めにしろと?
そんなことあるじは望まない。俺を信用してここまで一緒に連れてきてくれたあるじを裏切ることはできない。
……俺にはできない。
でもこの状況が役得なことには変わりないんだ。
いつもはこうして現世に刀剣を見に来る時も、泊まりがけなんてことない。泊まりなんて経験したのは俺だけ。歌仙だって、こんなところにあるじと泊まったことはないはずだ。
だから他の刀剣より一歩リードしてる。……はず。
「あるじ……ううん。『深見』……、」
ああせめて、その名を呼びたい。
少しだけ、触れたい。
わ
審神者としての名を小さく呼んだ俺は、布団の隙間から出てるその指に、ちょんと軽く触れた。ただそれだけ。
意気地なしだって?
ああ、そうだね。少しやましいこと考えてる俺が触れたらあるじが壊れてしまうかもしれない。それがひどくこわい。
だから俺は意気地なしでいい。
それに、こんな至近距離で寝顔を独り占めできるってだけで、めっけもんなんだよ。
「……おやすみあるじ」
結局、俺は朝方になるまであるじの寝顔を見続けてしまい、なかなか寝付けなかった。
そのあと気絶するように寝落ちたので、寝不足というよりは盛大に寝坊した。
寝起きで乱れたあるじの浴衣姿を見る暇も俺にはなかった……。へこむ。
しかしへこんでも顔には出さない。
いつも通り。いや、安定にでもなったかのように、俺は朝から朝食をもりもり摂った。
ビュッフェ形式で良かった。お腹いっぱい食べられるもんね。
たくさん食べて元気を出して、今日も一日頑張ろう。
そう思ったのはいいものの。
「あっっついね!?」
盆地かな?と思うほどに、その日の金沢はとても暑かった。アスファルトが蜃気楼で揺らめいている。
そんな中、俺達は金沢と言ったらここ!の一つ。兼六園へと足を進めていた。
俺の魂の叫びの通り、やたら暑い。
道路も、園の中も。
こんな黒と赤の格好じゃなくて、あるじに仕立ててもらった軽装でも着たいくらいだ。
もちろん、その場合はあるじも浴衣を着るんだよ?
あるじの装いも俺が選びたい。木瓜の花や赤い薔薇の花模様であるじを着飾りたいって言ったら、困らせちゃうかな?
今現在、あるじが俺の色に包まれている場所なんて、数日前に俺がわがまま言って塗らせてもらったその指先だけだ。
すべてを俺の色、俺を想像できるもので統一したらどれほど幸福なことだろう。
トン。
並んで歩くあるじの腕がこっちに当たった。
ああ、下が土だったり、根が飛び出していたり、石畳があったり。段差があるからよろけたのか。
俺はあるじの手を取り、しっかり繋いだ。
昨日の夜のとは違い、これなら理由なく手を取っても怒られないね。
「えっ」
「転ばないように、だよ」
「あ、りがとう……。でも、こう暑いのに、手を繋ぐの清光は嫌じゃない?
私、手に汗かいてるから恥ずかしい……」
「俺だって手汗くらいかいてる。あるじが嫌じゃなければ、転んだら危ないし手を繋ご?」
無理強いはしないように、でも懇願するように見つめていえば、あるじは大抵許してくれる。
思った通り、二つ返事で許可が出た。
なるべく日陰を選びながら、兼六園の中をゆっくりと歩いて行く。
「園内は広くて見応えあるし、根上松は壮大だし、日本最古の噴水は飛沫高く、曲水のせせらぎはどこを見ても素晴らしくて綺麗……」
暑さも吹き飛ぶような、花も綻ぶ笑顔であるじが園内の一つ一つに感動している。
連れてこられてよかった。
「江戸の昔から180年もの月日をかけて作られた大名園だからね」
「そんなに長く……!来ることが出来てよかったけど、歌仙も来たがってたわ」
「だろうね」
この日本庭園の美醜は俺にもわかる。
兼ね備えることが不可能な六勝。その不可能を可能にしたのがこの兼六園だ。
広さの「宏大」、静寂と奥深さの「幽邃」、人々の協力からなる「人力」、趣の「蒼古」、水の「水泉」に、眺め美しき「眺望」の六つ。
そのどれもが、今尚この園には残っている。
有名な霞ヶ池の徽軫灯籠や唐崎松の写真をカメラにおさめながら、趣ある橋の上などを歩くこと数十分。
暑さに息が上がり始めた頃合いを見計らって、俺はあるじを促した。
「ちょっとそこの茶屋で休憩しよっか」
「ええ、そうね……」
俺はともかく、あるじが熱中症で倒れては大変だ。
涼しい茶屋奥で、林善哉に冷たいお抹茶を頼む。
善哉には、キラキラした金箔がふりかけられていた。
「わ、金箔かかってる」
「さすが金沢だね。俺は金箔ソフトっての探してるんだけど……この店にはなさそうだな」
「清光はそれが食べたいの?」
「そ。まあ、その善哉も美味しいし金箔かかってるからいいんだけどさ」
ゆったりした時間が流れゆく。このままお茶してたら、足に根っこが生えてしまいそうだ。
鳥の鳴き声と、蝉の声。水が流れる音と風鈴の音色。
……夏だなあ。
備え付けのお風呂を交代でいただいてしばらく……。
「なんかおかしくない!?」
暗くなった部屋に、俺の声が響いた。
「ん、ぅ……、?」
「って、あるじが起きちゃうから静かにしないとだった」
寝不足は大敵だとお互い満場一致で決めたこととはいえ、俺たちは何事もなく寝る体制に入ってしまった。
ハァーーー?まさか、なにもなし!?ほんとに、何もなし!!
いやいやいや、審神者部屋の隣で不寝の番もあるし、なんなら大広間でだけどもあるじと雑魚寝したこともあるよ?
だから、近い部屋や同じ部屋で寝屋をともにした経験がないわけじゃない。
けど、ここは本丸じゃない狭いホテルの一室だよね!?
なにかこう、らっきぃすけべの一つや二つくらいあってもいいんでは!ないかと!!
俺としては思うわけよ!!
ちょっとしたきっかけで押し倒しちゃった先が寝具の上とかさあ!そーいうの!!
なら、気持ちよさそうに眠ってるあるじに手を出せって?寝てる隙に手籠めにしろと?
そんなことあるじは望まない。俺を信用してここまで一緒に連れてきてくれたあるじを裏切ることはできない。
……俺にはできない。
でもこの状況が役得なことには変わりないんだ。
いつもはこうして現世に刀剣を見に来る時も、泊まりがけなんてことない。泊まりなんて経験したのは俺だけ。歌仙だって、こんなところにあるじと泊まったことはないはずだ。
だから他の刀剣より一歩リードしてる。……はず。
「あるじ……ううん。『深見』……、」
ああせめて、その名を呼びたい。
少しだけ、触れたい。
わ
審神者としての名を小さく呼んだ俺は、布団の隙間から出てるその指に、ちょんと軽く触れた。ただそれだけ。
意気地なしだって?
ああ、そうだね。少しやましいこと考えてる俺が触れたらあるじが壊れてしまうかもしれない。それがひどくこわい。
だから俺は意気地なしでいい。
それに、こんな至近距離で寝顔を独り占めできるってだけで、めっけもんなんだよ。
「……おやすみあるじ」
結局、俺は朝方になるまであるじの寝顔を見続けてしまい、なかなか寝付けなかった。
そのあと気絶するように寝落ちたので、寝不足というよりは盛大に寝坊した。
寝起きで乱れたあるじの浴衣姿を見る暇も俺にはなかった……。へこむ。
しかしへこんでも顔には出さない。
いつも通り。いや、安定にでもなったかのように、俺は朝から朝食をもりもり摂った。
ビュッフェ形式で良かった。お腹いっぱい食べられるもんね。
たくさん食べて元気を出して、今日も一日頑張ろう。
そう思ったのはいいものの。
「あっっついね!?」
盆地かな?と思うほどに、その日の金沢はとても暑かった。アスファルトが蜃気楼で揺らめいている。
そんな中、俺達は金沢と言ったらここ!の一つ。兼六園へと足を進めていた。
俺の魂の叫びの通り、やたら暑い。
道路も、園の中も。
こんな黒と赤の格好じゃなくて、あるじに仕立ててもらった軽装でも着たいくらいだ。
もちろん、その場合はあるじも浴衣を着るんだよ?
あるじの装いも俺が選びたい。木瓜の花や赤い薔薇の花模様であるじを着飾りたいって言ったら、困らせちゃうかな?
今現在、あるじが俺の色に包まれている場所なんて、数日前に俺がわがまま言って塗らせてもらったその指先だけだ。
すべてを俺の色、俺を想像できるもので統一したらどれほど幸福なことだろう。
トン。
並んで歩くあるじの腕がこっちに当たった。
ああ、下が土だったり、根が飛び出していたり、石畳があったり。段差があるからよろけたのか。
俺はあるじの手を取り、しっかり繋いだ。
昨日の夜のとは違い、これなら理由なく手を取っても怒られないね。
「えっ」
「転ばないように、だよ」
「あ、りがとう……。でも、こう暑いのに、手を繋ぐの清光は嫌じゃない?
私、手に汗かいてるから恥ずかしい……」
「俺だって手汗くらいかいてる。あるじが嫌じゃなければ、転んだら危ないし手を繋ご?」
無理強いはしないように、でも懇願するように見つめていえば、あるじは大抵許してくれる。
思った通り、二つ返事で許可が出た。
なるべく日陰を選びながら、兼六園の中をゆっくりと歩いて行く。
「園内は広くて見応えあるし、根上松は壮大だし、日本最古の噴水は飛沫高く、曲水のせせらぎはどこを見ても素晴らしくて綺麗……」
暑さも吹き飛ぶような、花も綻ぶ笑顔であるじが園内の一つ一つに感動している。
連れてこられてよかった。
「江戸の昔から180年もの月日をかけて作られた大名園だからね」
「そんなに長く……!来ることが出来てよかったけど、歌仙も来たがってたわ」
「だろうね」
この日本庭園の美醜は俺にもわかる。
兼ね備えることが不可能な六勝。その不可能を可能にしたのがこの兼六園だ。
広さの「宏大」、静寂と奥深さの「幽邃」、人々の協力からなる「人力」、趣の「蒼古」、水の「水泉」に、眺め美しき「眺望」の六つ。
そのどれもが、今尚この園には残っている。
有名な霞ヶ池の徽軫灯籠や唐崎松の写真をカメラにおさめながら、趣ある橋の上などを歩くこと数十分。
暑さに息が上がり始めた頃合いを見計らって、俺はあるじを促した。
「ちょっとそこの茶屋で休憩しよっか」
「ええ、そうね……」
俺はともかく、あるじが熱中症で倒れては大変だ。
涼しい茶屋奥で、林善哉に冷たいお抹茶を頼む。
善哉には、キラキラした金箔がふりかけられていた。
「わ、金箔かかってる」
「さすが金沢だね。俺は金箔ソフトっての探してるんだけど……この店にはなさそうだな」
「清光はそれが食べたいの?」
「そ。まあ、その善哉も美味しいし金箔かかってるからいいんだけどさ」
ゆったりした時間が流れゆく。このままお茶してたら、足に根っこが生えてしまいそうだ。
鳥の鳴き声と、蝉の声。水が流れる音と風鈴の音色。
……夏だなあ。