とうらぶの短いお話
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長い時間並んだが小一時間もすれば列は進むもので、ようやく入場券売り場にたどり着いた。
スタンプを押された入場券を大事そうに仕舞い込むあるじを横目に、案内にしたがって館内へと入る。
大正ロマンな感じすら漂う造りの階段を上がり、展示室へと足を踏み入れる俺達。
明るく灯されているのは、展示品だけ。
薄暗く、涼しい空間の中、刀と刀にまつわる展示物がずらりと並んでいた。
「うわ!圧巻だね」
「しっ。清光、ここでは会話は静かにしましょう」
「ああ、そうだった。ごめん」
足元もヒールの音が響かない。リノリウムの床でも木目の床でもなく、展示品の部屋はすべてが音を吸収するようにか、カーペットが敷かれていた。
待っている間少し賑やかだったのが嘘なくらい静かだ。どこか厳かな空気が流れているように感じる。
そんな中で言葉を発すると、予想以上に声が響く。
俺はあわてて、極力声を落として会話した。
周りを見れば、刀や歴史が好きな人間しかここにはいない。
俺達を含め、刀剣男士を愛する審神者、その審神者を愛しいと寄り添う刀剣男士の姿しかなかった。
……いや、違う。付喪神こそついていなくとも、それに近い歴史を持つ俺の仲間たちが。兄弟や親戚がそこには待っていた。
どの順番で並んでいるのか書いてある紙を手に、ゆっくりと一振り目に歩み寄る。
小声で「素敵……」とつぶやく声がする。
見ればあるじが、愛しい人でも見つけたかのようにうっとりと熱い視線で刀剣を見つめていた。
普通の人間なら少しひいてたかもしれない。ガチの刀剣マニアだ、なんて思ってさ。
でも俺は違う、刀剣男士だ。思うのはそんなことじゃない。
他の刀剣ばかりそんな目で見ないで。羨ましい。ずるい。俺を見てよ。そんな悋気ばかりをいだいてしまう。
けど始めからこれでは、精神がもたない。あるじの『コレ』はもはや病気のようなもの。推しを前にしたオタクだ!
俺はなるべく……そう、なるべく気にせずにあるじの後を追いながら一振り一振りの解説役に努めた。あるじに頼まれて、刀剣達の写真をカメラに収めながら。
欲を言わせてもらうと、俺はあるじのその横顔をこそとりたかったけどねー。
「はー……とっても綺麗……」
ガラスという別たれた邪魔な壁さえなければ、その刃に触れてみたい。
切られるのも辞さない。
そう呟くあるじ。
……うん。
ほんとにこれは推しを前にしたオタクの典型だね。まるで恋する乙女だよ。
仕方ないことだけど、ため息が出ちゃうのは許してね。
俺はあるじの耳にそっと囁いて注意することにした。
「あるじ、そういうのは嘘でも言葉にしちゃだめだよ。
勘違いさせる気?」
責めるかのように強く、でもとても静かに。
「勘違いなんて……。この刀達には付喪神は憑いてないわよ。
だったら、どんな切れ味か確認してみたいってちょっぴり思ってしまうのは、刀を専門に呼び起こす審神者ならば当然だと思うの」
「憑いてないのはかろうじて。
そりゃ刀剣男士として顕現するには政府の力添えも必要だ。けど自我は眠っているだけで、長い時を経た刀はいつ付喪神化するかはわからないんだよ?一振り一振りに、それ相応の歴史があるのくらいわかってるでしょ。
なのに『切られるのも辞さない』なんて……」
審神者の血というものは特別なものだ。霊力が宿る。
刀剣男士の刀によって傷がつき、もたらされた血なんてそれの最たるものだろう。あるじと刀剣男士の均衡すら、保たれなくなる。傷をつけた刀剣男士の位が、あるじよりも高くなってしまうためだ。
それが、たとえ兄弟刀だろうと、一介の無銘刀剣なぞに先を越されるとあらば……。
「本丸に顕現している俺達が嫉妬するようなこと、しないでね」
俺達、を強調しながらも、俺は視線であるじを拘束するように神気でほの赤く光らせた瞳を使い、強く見つめた。
「……気をつける」
あるじがごくりと唾を飲み込み、目の前の刀へと視線を戻す。俺から目を逸らしたかったのが、よくわかった。
あるじが言うことを聞いてくれるなら、それで満足だ。
言葉にこそ気をつけて見ていけば、ここにあるのはどれも見応えある展示物達だ。
改めて観覧していくと、直刃に小乱れ、小互の目。大きな波がうねるように走る逆丁子に、公私をかっちり分ける性格のようなものが出ていそうな箱刃文。さまざまな刃文に溢れている。
地刃に金筋が美しく咲くものもある。
あるじじゃなくても惚れ惚れしてしまう。
おまけに居合の指南書やら何やら、多岐にわたる当時の書物も現存して残っている。
さすがは加賀の名刀達。さすがは俺の刀匠達。
後世にその技術や誇り高き系譜を伝えていこうとしたんだろう。
すごいことだ。
スタンプを押された入場券を大事そうに仕舞い込むあるじを横目に、案内にしたがって館内へと入る。
大正ロマンな感じすら漂う造りの階段を上がり、展示室へと足を踏み入れる俺達。
明るく灯されているのは、展示品だけ。
薄暗く、涼しい空間の中、刀と刀にまつわる展示物がずらりと並んでいた。
「うわ!圧巻だね」
「しっ。清光、ここでは会話は静かにしましょう」
「ああ、そうだった。ごめん」
足元もヒールの音が響かない。リノリウムの床でも木目の床でもなく、展示品の部屋はすべてが音を吸収するようにか、カーペットが敷かれていた。
待っている間少し賑やかだったのが嘘なくらい静かだ。どこか厳かな空気が流れているように感じる。
そんな中で言葉を発すると、予想以上に声が響く。
俺はあわてて、極力声を落として会話した。
周りを見れば、刀や歴史が好きな人間しかここにはいない。
俺達を含め、刀剣男士を愛する審神者、その審神者を愛しいと寄り添う刀剣男士の姿しかなかった。
……いや、違う。付喪神こそついていなくとも、それに近い歴史を持つ俺の仲間たちが。兄弟や親戚がそこには待っていた。
どの順番で並んでいるのか書いてある紙を手に、ゆっくりと一振り目に歩み寄る。
小声で「素敵……」とつぶやく声がする。
見ればあるじが、愛しい人でも見つけたかのようにうっとりと熱い視線で刀剣を見つめていた。
普通の人間なら少しひいてたかもしれない。ガチの刀剣マニアだ、なんて思ってさ。
でも俺は違う、刀剣男士だ。思うのはそんなことじゃない。
他の刀剣ばかりそんな目で見ないで。羨ましい。ずるい。俺を見てよ。そんな悋気ばかりをいだいてしまう。
けど始めからこれでは、精神がもたない。あるじの『コレ』はもはや病気のようなもの。推しを前にしたオタクだ!
俺はなるべく……そう、なるべく気にせずにあるじの後を追いながら一振り一振りの解説役に努めた。あるじに頼まれて、刀剣達の写真をカメラに収めながら。
欲を言わせてもらうと、俺はあるじのその横顔をこそとりたかったけどねー。
「はー……とっても綺麗……」
ガラスという別たれた邪魔な壁さえなければ、その刃に触れてみたい。
切られるのも辞さない。
そう呟くあるじ。
……うん。
ほんとにこれは推しを前にしたオタクの典型だね。まるで恋する乙女だよ。
仕方ないことだけど、ため息が出ちゃうのは許してね。
俺はあるじの耳にそっと囁いて注意することにした。
「あるじ、そういうのは嘘でも言葉にしちゃだめだよ。
勘違いさせる気?」
責めるかのように強く、でもとても静かに。
「勘違いなんて……。この刀達には付喪神は憑いてないわよ。
だったら、どんな切れ味か確認してみたいってちょっぴり思ってしまうのは、刀を専門に呼び起こす審神者ならば当然だと思うの」
「憑いてないのはかろうじて。
そりゃ刀剣男士として顕現するには政府の力添えも必要だ。けど自我は眠っているだけで、長い時を経た刀はいつ付喪神化するかはわからないんだよ?一振り一振りに、それ相応の歴史があるのくらいわかってるでしょ。
なのに『切られるのも辞さない』なんて……」
審神者の血というものは特別なものだ。霊力が宿る。
刀剣男士の刀によって傷がつき、もたらされた血なんてそれの最たるものだろう。あるじと刀剣男士の均衡すら、保たれなくなる。傷をつけた刀剣男士の位が、あるじよりも高くなってしまうためだ。
それが、たとえ兄弟刀だろうと、一介の無銘刀剣なぞに先を越されるとあらば……。
「本丸に顕現している俺達が嫉妬するようなこと、しないでね」
俺達、を強調しながらも、俺は視線であるじを拘束するように神気でほの赤く光らせた瞳を使い、強く見つめた。
「……気をつける」
あるじがごくりと唾を飲み込み、目の前の刀へと視線を戻す。俺から目を逸らしたかったのが、よくわかった。
あるじが言うことを聞いてくれるなら、それで満足だ。
言葉にこそ気をつけて見ていけば、ここにあるのはどれも見応えある展示物達だ。
改めて観覧していくと、直刃に小乱れ、小互の目。大きな波がうねるように走る逆丁子に、公私をかっちり分ける性格のようなものが出ていそうな箱刃文。さまざまな刃文に溢れている。
地刃に金筋が美しく咲くものもある。
あるじじゃなくても惚れ惚れしてしまう。
おまけに居合の指南書やら何やら、多岐にわたる当時の書物も現存して残っている。
さすがは加賀の名刀達。さすがは俺の刀匠達。
後世にその技術や誇り高き系譜を伝えていこうとしたんだろう。
すごいことだ。