とうらぶの短いお話
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
博物館から出ると、陽の眩しさに揃って目を細める三日月と深見。
暗いところから明るいところへ行けば、こうなるのは当たり前だ。
だが、二人の体の変化はこれだけではなかった。
ぎゅる、腹部から音がする。
「はっはっはっ。腹の虫が鳴いているようだ」
「もう午後だもの、お腹が空いてもしかたないわ。
ちょっとゆっくり見学しすぎたかもね」
「いや、とても良い時間を過ごせたぞ。
……して、昼餉は何にするのだ?」
腹が減っては戦はできぬ、と今は戦も何もなくとも、空腹を訴える三日月。
が、深見はすでに昼食については手配しておいた。
「大丈夫。もうお昼ご飯は予約してあるの。
先輩審神者から勧められた場所だから、品質や味は保証できると思う」
「おお、それは楽しみだ」
かくして、その勧められたレストランに来たわけだが…。
「んんん?何だか、雰囲気が特殊だな」
「……そうね」
入り口に入ってすぐ、下へ降りる階段のあるそこは、本格的な中華料理のお店。
階段に敷き詰められている赤い絨毯、金糸で編まれた縁取り、そして龍の装飾と、高級店に見える。
内装きらびやかなそこへ、案内人たるウェイターが出迎えてくれ、席へと通される。
独特の雰囲気だ。
そして極め付け。
ウェイターは普通の格好だったが、注文を取りに来たウェイトレスは、皆スリットの大きく開いたチャイナドレスだったのだ!
「あの着物、如何わしいな。なんとけしからん……」
「三日月、言葉と顔があってないわよ」
注文を取り終えて戻っていくウェイトレスの生足をチラチラとみながら、三日月がそう漏らす。
ちなみに、頼んだフカヒレのラーメンは、とても美味しかった。
「いやしかし、あのちゃいなどれすなる物、どこに売っておるのだろうな。深見も着るといい。いや、ぜひ着てほしい。
本丸で着てみてはどうだ?」
「いやよ」
「吝ん坊だな」
「だったら自分で着なさい」
「ブホッ!俺に斯様な物を着ろと!?」
その瞬間、三日月が吹き出した。
頼んでいた中国茶が、三日月の薄い色の着物にじわりと染みる。
シミになるのは確実だ。
「あーあ、何してるの」
「はあ、俺の大事な一張羅が汚れてしもうた」
「しかたないわねぇ。この辺りはアメ横に近いわ。服なら安く買えるはずだし、お店出たら書いましょ」
食事を終え、向かったアメリカ横丁、略してアメ横。
着物がとても安い店に入り、三日月に選ばせること10分、今着ているものに限りなく近い良い品を見つけた。
「これでいいのね。買ってくるからここで待っていて。いい?絶対ここから動かないでね?」
「ああ、頼んだぞ」
だが、着物の会計を済ませて戻ると、三日月本人の姿は忽然と消えていた。
迷子だ。
巷でよく聞く三日月=徘徊爺という話に、まさか私のところの三日月もなろうとは思ってもみなかった。
ぶわぁ、と冷や汗が噴き出す。
三日月の行きそうな場所を片っ端から探すを繰り返し、彷徨うこと数軒。
かくして、アメ横の入り口まで戻ったそこに三日月はいた。
こんなに特徴的なイケメンでも、人混みの中で探すとなると、こんなにも時間がかかると、初めてわかった。
どこにいたかというと、アメ横の入り口近く、ドライフルーツ屋。
こちらは走ってきて息を切らせているのに対し、その店の主人と呑気にも会話していたではないか!
「ああ、深見か。この種子、美味いぞ」
こちらは朝のパンとは違い、試食らしい。
ボリボリと素焼きアーモンドを頬張る三日月は可愛らしかったが、ここは心を鬼にする。
「食ってる場合かーっ!この……おばかっ!!」
「!!」
深見の怒声に、三日月の手が、そして表情が止まった。
「勝手にいなくならないで!
何かあったらどうするの?心配したじゃない……!!」
「…………悪かった、深見」
しゃがんだ三日月が、深見の手をそっと両手で包み込み、手の甲に口づけを落として見上げてくる。
犬耳があれば垂れている、といった表情か。
ちなみに、三日月の神気が唇から伝い、深見の皮膚に染み込んだのは、三日月しか知らない。
「そ、そんなことして許してもらおうとしても無駄ですからね」
「ありゃ。だめだったか……。
こんなことは、おぬしにしかしないのだぞ、深見」
「意味ないのは当たり前でしょ。探している間中、気が気じゃなかったんだから。
……とりあえず、さっきの店に戻るわよ。そしたらこれに着替えなさい」
「やあ、本当にすまぬな」
申し訳なさそうな顔で買った着物を受け取る三日月に、今度こそ深見は許した。
「しかし、俺がぷれぜんとしようと思っていたのに、逆にぷれぜんとされてしまったなぁ。
深見よ、いつかは受け取ってもらうぞ」
「はいはい、でもお約束はできません」
三日月が着替えている間に、ふと思った事をぼそりと呟く。
「三日月……本当に私を主として認めてるのかしら」
文や短歌こそ贈ってこないが、鍔や笄に櫛、簪を贈りたがったり……。
勝手にいなくなるのだってそうだ。ここから動かないようにと注意しておいたはずなのに、戻ってみればもぬけの殻。
昔のコメディアンみたいにフリでもなんでもないのだから、勝手にいなくなったりしないでほしい。
神格の高い三日月だって契約を結んだ刀剣男士。審神者の言いつけは守るのが普通。
勘違いでなければ審神者としてでなく、ひとりの女として見られている気がしてならない。
その兆候は、とても危険な気がした。
「疲れたら小腹が空いたぞ」
「疲れたのは私の方なんだけど……。まあ、いいか。
もうお八つの時間だし、何か甘いもの食べて帰りましょ」
着替え終えた三日月が腹をさすって空腹をアピールしてきた。
せっかくの上野だ。
ここのお八つで美味しいものといえば。
「これがみはしの餡蜜よ。さあ、いただきましょう」
三日月と深見の目の前に置かれた涼しげな器。
その中にはたっぷりと、蜜豆、賽の目の寒天、小豆餡、求肥に果物、そしてアイス。
とても美味しそうな餡蜜だ。
尚、餡蜜は蜜豆と共に、夏の季語でもある。
「では、いただくとするか」
まずは一口、傍の茶を啜り、口のなかを洗い流してからぱくり、餡とアイス、フルーツに寒天を絡めて食べる。
「ゥンまああ~い!
たくさん入ったばなな、みかん、きういが新鮮で、時期物の巨峰が甘くて瑞々しい!干し杏のあくせんとも利いておる……!
柔らかな求肥に、濃厚なそふとくりぃむ。赤えんどうのあっさりした味と歯ざわり、冷たい寒天とたっぷりの黒蜜、そしてねっとりしたこの漉し餡が、口の中で絡み合い溶けていく……。
ああ、生き返るようだ。美味いなぁ」
「お、美味しいなら何より……」
貴方は●原雄山ですか?
最初の言葉こそ、『●ョジョ:4部』のそれだが、いつからこの話は『美●しんぼ』になったんだろう。
深見はそっとしておくにとどめた。
「やあ、美味しかったなあ」
「それは良かった」
満足そうに腹を撫でる三日月に、『私も美味しくて満足したわ』と笑みをこぼしながら会計をする。
彼はそこに貼ってある、ポスターがいたく気になっているようだ。
「この『宅配承ります』というのはなんだ?」
「ああ、たくさん買った人が持ち帰らずに、届けてもらえるサービスよ。
……あ、これを皆のお土産にしましょう」
ここの餡蜜は有名だし美味しいしで、ちょうどいい。
それに政府に頼んでおけば、本丸にたくさん届けられるはずである。
「なるほど。だが、土産は普通のしか売っておらんぞ。果物がほとんど入っておらんだ。くりぃむもない」
「まあ、しかたないわ。あれは作りたてでしか味わえないもの」
「つまりここに来なくてはいけないのだな」
「そう。だからとっても美味しいの食べたのは、内緒ね」
「そうか、内緒だな。
………また餡蜜を食べに来ようではないか、のう?深見」
「そうね。それくらいなら、約束しても問題ないわ」
帰りの道すがら、三日月が振り返って言う。
差し出す小指に、深見は迷うことなく指をかける。
指切拳万。
指を絡めて昔から続く歌を口ずさみ、深見は三日月と約束した。
……ちなみに、硯箱のクッキーお土産は、歌仙の大切な硯入れとして、彼の部屋に仕舞われている。
ちゃんと使ってくれてとても嬉しい審神者・深見なのであった。
***
色々思い出しながら書いたので、ところどころ捏造チックな部分もありますが、三日月の刀剣を見たときとだいたいの道筋、見たものや考えたことは合っております。
また見たいなぁ。
暗いところから明るいところへ行けば、こうなるのは当たり前だ。
だが、二人の体の変化はこれだけではなかった。
ぎゅる、腹部から音がする。
「はっはっはっ。腹の虫が鳴いているようだ」
「もう午後だもの、お腹が空いてもしかたないわ。
ちょっとゆっくり見学しすぎたかもね」
「いや、とても良い時間を過ごせたぞ。
……して、昼餉は何にするのだ?」
腹が減っては戦はできぬ、と今は戦も何もなくとも、空腹を訴える三日月。
が、深見はすでに昼食については手配しておいた。
「大丈夫。もうお昼ご飯は予約してあるの。
先輩審神者から勧められた場所だから、品質や味は保証できると思う」
「おお、それは楽しみだ」
かくして、その勧められたレストランに来たわけだが…。
「んんん?何だか、雰囲気が特殊だな」
「……そうね」
入り口に入ってすぐ、下へ降りる階段のあるそこは、本格的な中華料理のお店。
階段に敷き詰められている赤い絨毯、金糸で編まれた縁取り、そして龍の装飾と、高級店に見える。
内装きらびやかなそこへ、案内人たるウェイターが出迎えてくれ、席へと通される。
独特の雰囲気だ。
そして極め付け。
ウェイターは普通の格好だったが、注文を取りに来たウェイトレスは、皆スリットの大きく開いたチャイナドレスだったのだ!
「あの着物、如何わしいな。なんとけしからん……」
「三日月、言葉と顔があってないわよ」
注文を取り終えて戻っていくウェイトレスの生足をチラチラとみながら、三日月がそう漏らす。
ちなみに、頼んだフカヒレのラーメンは、とても美味しかった。
「いやしかし、あのちゃいなどれすなる物、どこに売っておるのだろうな。深見も着るといい。いや、ぜひ着てほしい。
本丸で着てみてはどうだ?」
「いやよ」
「吝ん坊だな」
「だったら自分で着なさい」
「ブホッ!俺に斯様な物を着ろと!?」
その瞬間、三日月が吹き出した。
頼んでいた中国茶が、三日月の薄い色の着物にじわりと染みる。
シミになるのは確実だ。
「あーあ、何してるの」
「はあ、俺の大事な一張羅が汚れてしもうた」
「しかたないわねぇ。この辺りはアメ横に近いわ。服なら安く買えるはずだし、お店出たら書いましょ」
食事を終え、向かったアメリカ横丁、略してアメ横。
着物がとても安い店に入り、三日月に選ばせること10分、今着ているものに限りなく近い良い品を見つけた。
「これでいいのね。買ってくるからここで待っていて。いい?絶対ここから動かないでね?」
「ああ、頼んだぞ」
だが、着物の会計を済ませて戻ると、三日月本人の姿は忽然と消えていた。
迷子だ。
巷でよく聞く三日月=徘徊爺という話に、まさか私のところの三日月もなろうとは思ってもみなかった。
ぶわぁ、と冷や汗が噴き出す。
三日月の行きそうな場所を片っ端から探すを繰り返し、彷徨うこと数軒。
かくして、アメ横の入り口まで戻ったそこに三日月はいた。
こんなに特徴的なイケメンでも、人混みの中で探すとなると、こんなにも時間がかかると、初めてわかった。
どこにいたかというと、アメ横の入り口近く、ドライフルーツ屋。
こちらは走ってきて息を切らせているのに対し、その店の主人と呑気にも会話していたではないか!
「ああ、深見か。この種子、美味いぞ」
こちらは朝のパンとは違い、試食らしい。
ボリボリと素焼きアーモンドを頬張る三日月は可愛らしかったが、ここは心を鬼にする。
「食ってる場合かーっ!この……おばかっ!!」
「!!」
深見の怒声に、三日月の手が、そして表情が止まった。
「勝手にいなくならないで!
何かあったらどうするの?心配したじゃない……!!」
「…………悪かった、深見」
しゃがんだ三日月が、深見の手をそっと両手で包み込み、手の甲に口づけを落として見上げてくる。
犬耳があれば垂れている、といった表情か。
ちなみに、三日月の神気が唇から伝い、深見の皮膚に染み込んだのは、三日月しか知らない。
「そ、そんなことして許してもらおうとしても無駄ですからね」
「ありゃ。だめだったか……。
こんなことは、おぬしにしかしないのだぞ、深見」
「意味ないのは当たり前でしょ。探している間中、気が気じゃなかったんだから。
……とりあえず、さっきの店に戻るわよ。そしたらこれに着替えなさい」
「やあ、本当にすまぬな」
申し訳なさそうな顔で買った着物を受け取る三日月に、今度こそ深見は許した。
「しかし、俺がぷれぜんとしようと思っていたのに、逆にぷれぜんとされてしまったなぁ。
深見よ、いつかは受け取ってもらうぞ」
「はいはい、でもお約束はできません」
三日月が着替えている間に、ふと思った事をぼそりと呟く。
「三日月……本当に私を主として認めてるのかしら」
文や短歌こそ贈ってこないが、鍔や笄に櫛、簪を贈りたがったり……。
勝手にいなくなるのだってそうだ。ここから動かないようにと注意しておいたはずなのに、戻ってみればもぬけの殻。
昔のコメディアンみたいにフリでもなんでもないのだから、勝手にいなくなったりしないでほしい。
神格の高い三日月だって契約を結んだ刀剣男士。審神者の言いつけは守るのが普通。
勘違いでなければ審神者としてでなく、ひとりの女として見られている気がしてならない。
その兆候は、とても危険な気がした。
「疲れたら小腹が空いたぞ」
「疲れたのは私の方なんだけど……。まあ、いいか。
もうお八つの時間だし、何か甘いもの食べて帰りましょ」
着替え終えた三日月が腹をさすって空腹をアピールしてきた。
せっかくの上野だ。
ここのお八つで美味しいものといえば。
「これがみはしの餡蜜よ。さあ、いただきましょう」
三日月と深見の目の前に置かれた涼しげな器。
その中にはたっぷりと、蜜豆、賽の目の寒天、小豆餡、求肥に果物、そしてアイス。
とても美味しそうな餡蜜だ。
尚、餡蜜は蜜豆と共に、夏の季語でもある。
「では、いただくとするか」
まずは一口、傍の茶を啜り、口のなかを洗い流してからぱくり、餡とアイス、フルーツに寒天を絡めて食べる。
「ゥンまああ~い!
たくさん入ったばなな、みかん、きういが新鮮で、時期物の巨峰が甘くて瑞々しい!干し杏のあくせんとも利いておる……!
柔らかな求肥に、濃厚なそふとくりぃむ。赤えんどうのあっさりした味と歯ざわり、冷たい寒天とたっぷりの黒蜜、そしてねっとりしたこの漉し餡が、口の中で絡み合い溶けていく……。
ああ、生き返るようだ。美味いなぁ」
「お、美味しいなら何より……」
貴方は●原雄山ですか?
最初の言葉こそ、『●ョジョ:4部』のそれだが、いつからこの話は『美●しんぼ』になったんだろう。
深見はそっとしておくにとどめた。
「やあ、美味しかったなあ」
「それは良かった」
満足そうに腹を撫でる三日月に、『私も美味しくて満足したわ』と笑みをこぼしながら会計をする。
彼はそこに貼ってある、ポスターがいたく気になっているようだ。
「この『宅配承ります』というのはなんだ?」
「ああ、たくさん買った人が持ち帰らずに、届けてもらえるサービスよ。
……あ、これを皆のお土産にしましょう」
ここの餡蜜は有名だし美味しいしで、ちょうどいい。
それに政府に頼んでおけば、本丸にたくさん届けられるはずである。
「なるほど。だが、土産は普通のしか売っておらんぞ。果物がほとんど入っておらんだ。くりぃむもない」
「まあ、しかたないわ。あれは作りたてでしか味わえないもの」
「つまりここに来なくてはいけないのだな」
「そう。だからとっても美味しいの食べたのは、内緒ね」
「そうか、内緒だな。
………また餡蜜を食べに来ようではないか、のう?深見」
「そうね。それくらいなら、約束しても問題ないわ」
帰りの道すがら、三日月が振り返って言う。
差し出す小指に、深見は迷うことなく指をかける。
指切拳万。
指を絡めて昔から続く歌を口ずさみ、深見は三日月と約束した。
……ちなみに、硯箱のクッキーお土産は、歌仙の大切な硯入れとして、彼の部屋に仕舞われている。
ちゃんと使ってくれてとても嬉しい審神者・深見なのであった。
***
色々思い出しながら書いたので、ところどころ捏造チックな部分もありますが、三日月の刀剣を見たときとだいたいの道筋、見たものや考えたことは合っております。
また見たいなぁ。