とうらぶの短いお話
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「ぬうう、ならばこちらはどうだ?」
指紋のつかぬよう、努めて軽くトントンとケースを突く三日月。
そこにあったのは、櫛と簪。どちらも年季こそ入っているが、その意匠は繊細で素晴らしく、美しいと言わざるを得ないものだ。
「ああ、つげ櫛なら持ってるわ。歌仙がくれたのよ」
現世の審神者会議に行く際、なかなかまとまらない深見の長い髪を梳いてくれたのは歌仙だ。
彼はそのまま、私にそのつげ櫛を譲ってくれた。
椿油がたっぷり染み込んだつげ櫛は、香り高く、またその上質の油で髪質がよくなって、ちょっとした自慢だ。
「櫛ではない、簪な。
櫛は苦死に繋がる。忌み言葉になるからか、人に渡す際は櫛は簪と、そう呼んでいるのだ」
「そうなんだ……。でも、簪も要らないからね?」
平打簪、変わり簪、びらびら簪と、煌びやかな簪の飾られる中、三日月は藤の枝のように垂れ下がるびらびら簪をじっと見つめている。
意匠はとても可愛らしいが、それも要らない。
「着物なら、」
「それも結構よ」
「ぬぅ」
隣の展示室の着物を見てまたもひとこと。
言い切らぬうちからぶった切る深見の言葉に三日月は不満そうに唇を尖らせた。
「ねえなんでそんなに贈り物したいの?ねえ?
なんだか怖いわよ」
何度も贈り物をしたがる三日月。
いくら審神者とはいえ、ただで刀剣男士から何かをもらえるとは思えない。
今来ている時代に流行った錬金術の漫画曰く、何かを得るためには同等の対価が必要。等価交換というやつだ。
「ははは、『着物を着た深見を脱がせたい』『髪を乱したい』というのは、江戸の考えだろう?そう身構えずともよい。
なに、俺は日々頑張っておられるおぬしにぷれぜんとをしたくてな」
と言っても、三日月は自分の考えが『そう』でないとは一言も言っていない。
江戸時代の男の考えが、今の三日月に浸透している可能性がある。刀剣界では江戸の男の代名詞、和泉守兼定ともなかなかの仲であることだし。
なんといっても、初日だけとはいえ夜這いを仕掛けてきた三日月相手だ。
その真意が探れぬ以上、特別な理由なしに何かを受け取るのは憚られた。
多少の不穏さを感じつつ展示物を一通り見学し終えた二人は、土産物が並ぶ店へと足を踏み入れる。
「まるで万屋だな」
三日月がそう漏らすほどには、そこはさまざまな土産物で溢れていた。
「この栓抜きは面白いわね。うちには酒豪ばかり揃っていることだし、彼らのウケはよさそう」
日本の神は酒が好きなどとよく言われるようだが、本丸の刀剣男士にはそれが見事に的中する。一部例外もいようが、皆それぞれ美味しそうに酒を楽しんでいる。
こんな栓抜きがあれば酒の話題の1つにもなろう。
鍔の形の栓抜きを物珍しげに見ていた深見は、またも三日月が何かを発見し、感嘆の声をあげているのを視界の端に捉える。
今度は一体何なんだ。
「深見!見よ!あの硯箱が売っておるぞ!」
「え」
三日月の指す先を見れば、三日月が歌仙へと欲しがっていた、あの八橋蒔絵螺鈿硯箱。
「……の、レプリカね」
「うむ、これが歌仙への土産だ。買うて帰ろう!」
レプリカとはいえ、かなり精巧にできている。
……その値段を見てみると。
一、十、百、千、万、あれ…まだ位が有る……。
んん?
三二四〇〇〇〇、エン。
「って、高い!!」
たしかに歌仙は大喜びしそうだ。
だがいくら審神者のお給金がなかなかのものだとしても、このようなところにこれだけの散財はできない!!
「三日月……これは無理よ。だから、かわりにこっちにさせて…?」
なおもそれをプッシュしてくる三日月の袖をぐいと引っ張り、他で見かけた硯箱そっくりの物を勧める。
かなりリーズナブルな、硯箱の形の缶に入った、クッキーの土産物だ。
「なんだこれは。……先の物よりちゃっちいな」
「ちゃっちいとか言わない。
ただ、人数分買うと嵩張るし、それに宅配は無理そう。はい、これを歌仙に一個ね」
「……歌仙は斯様な物で喜ぶのか?」
「うーん。八橋蒔絵螺鈿硯箱の事くらい、雅ハンターの歌仙なら知ってると思うし、その気持ちだけでも嬉しいって思ってくれるはずよ」
「雅はんたぁ……?
まあよい。して、皆の土産物はどうするのだ」
後で考える、そう続けた深見は、クッキー缶を1つ抱えて会計を済ませることにする。
「深見、深見、」
「今度はどうしたの?」
支払いを済ませていれば、ちょいちょいと服の端を摘んで注意を向けさせる三日月。
そちらを内心ため息を吐きつつ、向くと。
「これは何だ?」
「……………………」
はにわの顔出しパネルがそこにはあった。
「空いているところから顔を出して写真を撮るためのものよ」
「ほう……。ならば撮ろうではないか」
「えっ」
2人分の顔穴が空いているのに気がついたらしい三日月が、さっそく道行く女性に声をかけて写真を撮ってくれるようにした。
三日月のイケメン度にびっくりしたその人は、赤い顔でコクコクと頷いていた。
イケメンってほんと罪。
というか、こんなの撮りたいのか……。
ちょっと恥ずかしいのだが、三日月の考えることはよくわからない。
「さあ、はいちぃずでちゃんと笑うのだぞ」
「はぁ……わかったわよ。
……さにわがはにわって……つまらない駄洒落ね」
気がついてしまったしょうもないギャグに、失笑しつつ、深見は三日月とともにカメラに微笑んだ。
指紋のつかぬよう、努めて軽くトントンとケースを突く三日月。
そこにあったのは、櫛と簪。どちらも年季こそ入っているが、その意匠は繊細で素晴らしく、美しいと言わざるを得ないものだ。
「ああ、つげ櫛なら持ってるわ。歌仙がくれたのよ」
現世の審神者会議に行く際、なかなかまとまらない深見の長い髪を梳いてくれたのは歌仙だ。
彼はそのまま、私にそのつげ櫛を譲ってくれた。
椿油がたっぷり染み込んだつげ櫛は、香り高く、またその上質の油で髪質がよくなって、ちょっとした自慢だ。
「櫛ではない、簪な。
櫛は苦死に繋がる。忌み言葉になるからか、人に渡す際は櫛は簪と、そう呼んでいるのだ」
「そうなんだ……。でも、簪も要らないからね?」
平打簪、変わり簪、びらびら簪と、煌びやかな簪の飾られる中、三日月は藤の枝のように垂れ下がるびらびら簪をじっと見つめている。
意匠はとても可愛らしいが、それも要らない。
「着物なら、」
「それも結構よ」
「ぬぅ」
隣の展示室の着物を見てまたもひとこと。
言い切らぬうちからぶった切る深見の言葉に三日月は不満そうに唇を尖らせた。
「ねえなんでそんなに贈り物したいの?ねえ?
なんだか怖いわよ」
何度も贈り物をしたがる三日月。
いくら審神者とはいえ、ただで刀剣男士から何かをもらえるとは思えない。
今来ている時代に流行った錬金術の漫画曰く、何かを得るためには同等の対価が必要。等価交換というやつだ。
「ははは、『着物を着た深見を脱がせたい』『髪を乱したい』というのは、江戸の考えだろう?そう身構えずともよい。
なに、俺は日々頑張っておられるおぬしにぷれぜんとをしたくてな」
と言っても、三日月は自分の考えが『そう』でないとは一言も言っていない。
江戸時代の男の考えが、今の三日月に浸透している可能性がある。刀剣界では江戸の男の代名詞、和泉守兼定ともなかなかの仲であることだし。
なんといっても、初日だけとはいえ夜這いを仕掛けてきた三日月相手だ。
その真意が探れぬ以上、特別な理由なしに何かを受け取るのは憚られた。
多少の不穏さを感じつつ展示物を一通り見学し終えた二人は、土産物が並ぶ店へと足を踏み入れる。
「まるで万屋だな」
三日月がそう漏らすほどには、そこはさまざまな土産物で溢れていた。
「この栓抜きは面白いわね。うちには酒豪ばかり揃っていることだし、彼らのウケはよさそう」
日本の神は酒が好きなどとよく言われるようだが、本丸の刀剣男士にはそれが見事に的中する。一部例外もいようが、皆それぞれ美味しそうに酒を楽しんでいる。
こんな栓抜きがあれば酒の話題の1つにもなろう。
鍔の形の栓抜きを物珍しげに見ていた深見は、またも三日月が何かを発見し、感嘆の声をあげているのを視界の端に捉える。
今度は一体何なんだ。
「深見!見よ!あの硯箱が売っておるぞ!」
「え」
三日月の指す先を見れば、三日月が歌仙へと欲しがっていた、あの八橋蒔絵螺鈿硯箱。
「……の、レプリカね」
「うむ、これが歌仙への土産だ。買うて帰ろう!」
レプリカとはいえ、かなり精巧にできている。
……その値段を見てみると。
一、十、百、千、万、あれ…まだ位が有る……。
んん?
三二四〇〇〇〇、エン。
「って、高い!!」
たしかに歌仙は大喜びしそうだ。
だがいくら審神者のお給金がなかなかのものだとしても、このようなところにこれだけの散財はできない!!
「三日月……これは無理よ。だから、かわりにこっちにさせて…?」
なおもそれをプッシュしてくる三日月の袖をぐいと引っ張り、他で見かけた硯箱そっくりの物を勧める。
かなりリーズナブルな、硯箱の形の缶に入った、クッキーの土産物だ。
「なんだこれは。……先の物よりちゃっちいな」
「ちゃっちいとか言わない。
ただ、人数分買うと嵩張るし、それに宅配は無理そう。はい、これを歌仙に一個ね」
「……歌仙は斯様な物で喜ぶのか?」
「うーん。八橋蒔絵螺鈿硯箱の事くらい、雅ハンターの歌仙なら知ってると思うし、その気持ちだけでも嬉しいって思ってくれるはずよ」
「雅はんたぁ……?
まあよい。して、皆の土産物はどうするのだ」
後で考える、そう続けた深見は、クッキー缶を1つ抱えて会計を済ませることにする。
「深見、深見、」
「今度はどうしたの?」
支払いを済ませていれば、ちょいちょいと服の端を摘んで注意を向けさせる三日月。
そちらを内心ため息を吐きつつ、向くと。
「これは何だ?」
「……………………」
はにわの顔出しパネルがそこにはあった。
「空いているところから顔を出して写真を撮るためのものよ」
「ほう……。ならば撮ろうではないか」
「えっ」
2人分の顔穴が空いているのに気がついたらしい三日月が、さっそく道行く女性に声をかけて写真を撮ってくれるようにした。
三日月のイケメン度にびっくりしたその人は、赤い顔でコクコクと頷いていた。
イケメンってほんと罪。
というか、こんなの撮りたいのか……。
ちょっと恥ずかしいのだが、三日月の考えることはよくわからない。
「さあ、はいちぃずでちゃんと笑うのだぞ」
「はぁ……わかったわよ。
……さにわがはにわって……つまらない駄洒落ね」
気がついてしまったしょうもないギャグに、失笑しつつ、深見は三日月とともにカメラに微笑んだ。