とうらぶの短いお話
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そして漸く三日月宗近の本体にありつけた。
平安時代に打たれたという、細身で反り深い三日月形の打除けが美しい刀身に、深見からは感嘆の吐息が漏れる。
「すごい……、すごいとしか言えない。
本当に綺麗…………美しいわね。花が、宝石が霞んで見えるくらいよ」
「そんなにか?」
「ええ。
三条宗近は魂をこめて貴方を打ったのねぇ。でなければここまで美しい三日月型の刃紋がくっきりと出ないもの。
使う人間の方も、三日月をとても大切に扱っていたのね」
うっとりと愛おしむようにそう述べた深見の視線は、目の前の三日月宗近に合ったまま。
そばに侍る近侍の三日月には目を向けず、魅了されている。
嬉しく思いながらも、そろそろ妬ましく感じる三日月。
「まるでたくさんの三日月に見つめられているよう…!こんなに美しい刀身は見たことない」
「む。
そんなに見たくば本丸でいつだって俺の本体を見せるのだぞ」
「手入れで見てるから大丈夫よ。三日月の本体も、浮かぶ三日月模様の打除けはいつも綺麗だと思ってるわ」
目の前の本体と張り合い、三日月は一番大事な自分の本体を深見に差し出そうとする。まあ、審神者相手なのだから、いつも見ていると言われたらおしまいなのだが。
「ぬうう、そういう意味ではない……。
だいたい前にも見たことがあるのだろう?」
「それは、審神者になる前のことよ。数年に一度くらいのスパンで公開していたから。
……こうして審神者になって。絶対こないと思っていた三日月、貴方が私の本丸に来て。
それから見たくてもずっと見に来れなかったのよ。
だから、こんなにも綺麗な刃を見ることができて、とってもうれしいの。
……ほら見て、切っ先の鋭さ、危うい輝き……昔から変わらずこの状態を保てていたって、凄いことよ?
天下五剣の中でも最も美しいというのは、すごくわかる……」
「泣くほどのことか?」
はらりと涙をこぼす深見の目元を、着物の袖でそっと拭う。
褒めちぎられてむず痒い思いと、自分だけれど自分ではないという嫉妬に葛藤する三日月。
……やはり、目の前の自分への妬ましさが優った。
「妬けるな」
「え?」
「その涙を流させているのが俺でない俺だというのが、こんなにも妬ましい。……ずるいのう、『俺』」
嫉心を感じ、ずるいずるいと口を尖らせる。
三日月は、深見を見つめながら、自身の心中を語る。
「この『三日月宗近』も俺だから他の刀剣よりはまだ良い。が、やはり俺は俺で、これは俺ではない。深見には、俺を見てもらいたいものよ」
「三日月、『俺』がゲシュタルト崩壊しそうなんでそろそろやめてもらっていいかしら」
「げしゅたると……?深見の言っている言葉はようわからん…。燭台切のつくるたるとけぇきの一種か?」
「気にしないで」
そろそろ潮時か。
後ろが支えているため、三日月宗近の前からどき、後続者に場を譲る。
多少の名残惜しさを感じながら、深見は移動した。
三日月宗近の展示場所から少し歩いて。
くすっと笑みをこぼし、深見は三日月をじっと見る。
「…………他の刀剣達も大抵そうだけど、本体を見に行くと本体の自分に嫉妬するのね。俺を、僕を、私を見てほしいって」
「はっはっは、そりゃあそうだろうとも。本体に嫉妬もしよう。みなそれだけ深見が大好きなのだ。
……俺もな」
「それは、……ありがとう……」
あまりにもまっすぐ言うので、照れてしまった。
照れて立ち止まってしまったため、今度は三日月が深見を次の場所へ案内する。
「さて、お次は……おや、鍔が展示されているようだぞ」
「ええ。月に、桜……かわいいものもあるのね」
「武人のおされ、というわけだな。
深見が刀を帯刀しているのであらば、ただひとつの鍔を贈ってやったものを……」
「私は刀持ってないし……、お気持ちだけ受け取っておくわ」
少しでも欲しがっているなどと取られてしまえば三日月のことだ、どこかで見繕うか自作するかして贈ってくるに違いない。
いつもは平安刀らしいのんびりやだが、そう言う時の行動はやたら早い。やんわりと断った。
「閃いた!」
他の展示室へ行き三日月が昔の女性の装飾品や打掛を見て突如目を見開いた。
「な、何を閃いたか聞いても……?」
「ならば、笄を受け取っては貰えぬだろうか、と閃いたのだ。ちょうど、万屋近くによい髪結いの装飾品屋がある」
目の前のガラスケースには、大きな耳掻きに形のよく似た鼈甲細工が飾られている。
花鳥の飾りや牡丹の花を細工した意匠の目立つそれは笄。
笄は、髪をまとめあげ、そして留める道具だ。
時代劇の中で花魁役が頭に指しているのを見たことがあるであろう、あれのこと。
三日月が発した「ならば、」というのはどう考えても先ほどまでの鍔を贈る発言だろう。
まだ考えていたのか。
「もちろん、おなごの髪用のだぞ」
「わかってるわ。でも、せっかくだけど今の時代に笄は少し合わないわ……。
だったら、鞘の差表に付ける方を頼みましょう。たまには小狐丸や石切丸達、それか骨喰にでもあげたほうがいいと思うの」
ここに飾られている笄は、女性髪用。
だが、笄にはもうひとつ、武士が刀の鞘につける種類もある。
深見が勧めるのはそれだった。
平安時代に打たれたという、細身で反り深い三日月形の打除けが美しい刀身に、深見からは感嘆の吐息が漏れる。
「すごい……、すごいとしか言えない。
本当に綺麗…………美しいわね。花が、宝石が霞んで見えるくらいよ」
「そんなにか?」
「ええ。
三条宗近は魂をこめて貴方を打ったのねぇ。でなければここまで美しい三日月型の刃紋がくっきりと出ないもの。
使う人間の方も、三日月をとても大切に扱っていたのね」
うっとりと愛おしむようにそう述べた深見の視線は、目の前の三日月宗近に合ったまま。
そばに侍る近侍の三日月には目を向けず、魅了されている。
嬉しく思いながらも、そろそろ妬ましく感じる三日月。
「まるでたくさんの三日月に見つめられているよう…!こんなに美しい刀身は見たことない」
「む。
そんなに見たくば本丸でいつだって俺の本体を見せるのだぞ」
「手入れで見てるから大丈夫よ。三日月の本体も、浮かぶ三日月模様の打除けはいつも綺麗だと思ってるわ」
目の前の本体と張り合い、三日月は一番大事な自分の本体を深見に差し出そうとする。まあ、審神者相手なのだから、いつも見ていると言われたらおしまいなのだが。
「ぬうう、そういう意味ではない……。
だいたい前にも見たことがあるのだろう?」
「それは、審神者になる前のことよ。数年に一度くらいのスパンで公開していたから。
……こうして審神者になって。絶対こないと思っていた三日月、貴方が私の本丸に来て。
それから見たくてもずっと見に来れなかったのよ。
だから、こんなにも綺麗な刃を見ることができて、とってもうれしいの。
……ほら見て、切っ先の鋭さ、危うい輝き……昔から変わらずこの状態を保てていたって、凄いことよ?
天下五剣の中でも最も美しいというのは、すごくわかる……」
「泣くほどのことか?」
はらりと涙をこぼす深見の目元を、着物の袖でそっと拭う。
褒めちぎられてむず痒い思いと、自分だけれど自分ではないという嫉妬に葛藤する三日月。
……やはり、目の前の自分への妬ましさが優った。
「妬けるな」
「え?」
「その涙を流させているのが俺でない俺だというのが、こんなにも妬ましい。……ずるいのう、『俺』」
嫉心を感じ、ずるいずるいと口を尖らせる。
三日月は、深見を見つめながら、自身の心中を語る。
「この『三日月宗近』も俺だから他の刀剣よりはまだ良い。が、やはり俺は俺で、これは俺ではない。深見には、俺を見てもらいたいものよ」
「三日月、『俺』がゲシュタルト崩壊しそうなんでそろそろやめてもらっていいかしら」
「げしゅたると……?深見の言っている言葉はようわからん…。燭台切のつくるたるとけぇきの一種か?」
「気にしないで」
そろそろ潮時か。
後ろが支えているため、三日月宗近の前からどき、後続者に場を譲る。
多少の名残惜しさを感じながら、深見は移動した。
三日月宗近の展示場所から少し歩いて。
くすっと笑みをこぼし、深見は三日月をじっと見る。
「…………他の刀剣達も大抵そうだけど、本体を見に行くと本体の自分に嫉妬するのね。俺を、僕を、私を見てほしいって」
「はっはっは、そりゃあそうだろうとも。本体に嫉妬もしよう。みなそれだけ深見が大好きなのだ。
……俺もな」
「それは、……ありがとう……」
あまりにもまっすぐ言うので、照れてしまった。
照れて立ち止まってしまったため、今度は三日月が深見を次の場所へ案内する。
「さて、お次は……おや、鍔が展示されているようだぞ」
「ええ。月に、桜……かわいいものもあるのね」
「武人のおされ、というわけだな。
深見が刀を帯刀しているのであらば、ただひとつの鍔を贈ってやったものを……」
「私は刀持ってないし……、お気持ちだけ受け取っておくわ」
少しでも欲しがっているなどと取られてしまえば三日月のことだ、どこかで見繕うか自作するかして贈ってくるに違いない。
いつもは平安刀らしいのんびりやだが、そう言う時の行動はやたら早い。やんわりと断った。
「閃いた!」
他の展示室へ行き三日月が昔の女性の装飾品や打掛を見て突如目を見開いた。
「な、何を閃いたか聞いても……?」
「ならば、笄を受け取っては貰えぬだろうか、と閃いたのだ。ちょうど、万屋近くによい髪結いの装飾品屋がある」
目の前のガラスケースには、大きな耳掻きに形のよく似た鼈甲細工が飾られている。
花鳥の飾りや牡丹の花を細工した意匠の目立つそれは笄。
笄は、髪をまとめあげ、そして留める道具だ。
時代劇の中で花魁役が頭に指しているのを見たことがあるであろう、あれのこと。
三日月が発した「ならば、」というのはどう考えても先ほどまでの鍔を贈る発言だろう。
まだ考えていたのか。
「もちろん、おなごの髪用のだぞ」
「わかってるわ。でも、せっかくだけど今の時代に笄は少し合わないわ……。
だったら、鞘の差表に付ける方を頼みましょう。たまには小狐丸や石切丸達、それか骨喰にでもあげたほうがいいと思うの」
ここに飾られている笄は、女性髪用。
だが、笄にはもうひとつ、武士が刀の鞘につける種類もある。
深見が勧めるのはそれだった。