とうらぶの短いお話
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三日月は、渋々私のあとについてきた……かと思うと、突然深見を引き寄せて来た。
まわりは展示品のためか、照明を抑えめにしてあり、薄暗い。ほのかな明かりの中、三日月が薄く笑う。
「ちょ、三日月はなして……!?」
「なあ深見よ。かの時代には香の名をあてる遊戯があったのだが知っておるか……?」
「……そんなのもあったみたいね。それがどうしたの?」
幸い周りの人間は展示品に夢中で気が付いていないが、こんなところを見られては恥だ。
なんとか抜け出そうとしながら、焦っているのを悟られぬように普通に聞いてみる。
にしてもさすが刀剣を振るうだけあって意外と力強いぞ、このッ!
「俺のつけている香の名は何だと思う?」
当てぬと離さぬぞぉ~、と笑うのをみるに、少しからかっているようだ。
だが、簡単に遊ばれてなるものか。
「残念ね、三日月。私は鼻がいいのよ。
うーん、と……これはアガーウッド……沈香?いえ、もっと上質な……伽羅の香り。それにほんの少し金木犀を混ぜた……?で、合ってる?」
「当たってしまったか。さすが歌仙に鍛えられただけはある」
沈香の中でも最上級という伽羅の、線香に近い香り。そこにかすかな甘い金木犀。
伽羅ときくと、大倶利伽羅を思いだすが、彼にはもっとワイルドな香りの方をお勧めしたい。
三日月は観念したかのように、深見を離して肩をすくめた。
「香箪笥欲しいなぁ。あっちの八橋蒔絵螺鈿硯箱でもいいぞ。あれはこれまた雅だ」
だから展示品とあれほど。そう思い、はあ、とため息。
三日月が香箪笥に続いて見ているのは、伊勢物語から出て来たような金と黒漆が美しい硯箱。
側面の燕子花を見ていると、本丸で非番を謳歌しているであろう、歌仙の姿が何故か浮かんだ。
「そうだ、歌仙に土産として買うてかえればよい」
「もうお土産のこと考えてるの?まだ自身を見てもいないのに気が早いわね……」
だから展示品とあれほど・二回目。
「当たり前だろう?深見の大事な最初の一振りではないか」
三日月は歌仙には一目置いている。
ただ単に歌仙の練度が高いから恐れているだけかもしれないが、深見の言うことを聞かない時でさえ、歌仙の言うことを聞くという体たらく。
歌仙もまんざらではない様子で、たまに一緒に休憩しているのを見かける。
主と思われていないのかと、はじめの内は落ち込んだのも今となってはいい思い出だ。
さて、刀剣が展示されている部屋についた。
ついた……はいいが、一か所、人が列をなしている場所があるのが見える。
そこは後回しにして、周りから見ることにする二人。
ふと、目に留まった刀達を見やる。
「……あれ?これは古備前、こっちは長船、あっちは来、そして青江派まで…!
それにこの水龍剣……拵がとても美しかったのね……。刀身もとても綺麗」
太刀や短刀が並ぶ姿は圧巻で、すらりとした刀身が光に照らされて美しく輝く。
側面から見れば、まっこと美しい刃先がこちらを向き、切れ味鋭く映る。
この刀にだったら命を差し出して試し斬りされてもいい、と思うほどには。
そこへ末青江が目に入って来た。
他とは一味違う刀身の反り具合、匂い口の締まった直刃は一切の無駄がない。
「ん゛っ!この刀……イイ!」
「これ、どこの誰とも知らぬ刀に浮気か深見?」
変な声出た。
この時代に流行った漫画ほどのぶっ飛び具合ではないものの、好きなものを前にするとなかなかの奇行種っぷりを発揮してしまう。気をつけねば。
「ごめんて。でも、ここにはホラ……みんなの刀派がけっこう揃ってるのよ。どうしても刀好きの血が騒ぐというか……」
「一妻多夫制など許さぬぞ。ましてや本丸の仲間以外などと、何を考えておるのだ」
「三日月達から見れば知らぬ刀に……って、そう思うのよね、そういうのじゃないから安心して。
でもね、歴史が、刀が好きだから、こればっかりはやめられない。愛しい気持ちは抑えられない」
そう言ってまた刀を見始める深見。
その様子はうっとりと恋する乙女のように、そして幼子のように落ち着きない。
「やれやれ、深見の方がはしゃいでいるではないか。騒ぐのは禁止ではなかったか?」
しぃ、だぞ。しぃ。
そんなことばかりしていれば注意してきたのは、博物館のスタッフではなく三日月。
「え、あ……。
うふふ、ごめんなさいね。つい……」
自らの行動に少し恥じ、照れながらも深見は屈託ない笑顔を見せる。
その笑顔には、刀が好きな気持ちが、愛が溢れていて、そこまで刀剣を想ってくれているのだろうと三日月は大目に見ることにした。
まわりは展示品のためか、照明を抑えめにしてあり、薄暗い。ほのかな明かりの中、三日月が薄く笑う。
「ちょ、三日月はなして……!?」
「なあ深見よ。かの時代には香の名をあてる遊戯があったのだが知っておるか……?」
「……そんなのもあったみたいね。それがどうしたの?」
幸い周りの人間は展示品に夢中で気が付いていないが、こんなところを見られては恥だ。
なんとか抜け出そうとしながら、焦っているのを悟られぬように普通に聞いてみる。
にしてもさすが刀剣を振るうだけあって意外と力強いぞ、このッ!
「俺のつけている香の名は何だと思う?」
当てぬと離さぬぞぉ~、と笑うのをみるに、少しからかっているようだ。
だが、簡単に遊ばれてなるものか。
「残念ね、三日月。私は鼻がいいのよ。
うーん、と……これはアガーウッド……沈香?いえ、もっと上質な……伽羅の香り。それにほんの少し金木犀を混ぜた……?で、合ってる?」
「当たってしまったか。さすが歌仙に鍛えられただけはある」
沈香の中でも最上級という伽羅の、線香に近い香り。そこにかすかな甘い金木犀。
伽羅ときくと、大倶利伽羅を思いだすが、彼にはもっとワイルドな香りの方をお勧めしたい。
三日月は観念したかのように、深見を離して肩をすくめた。
「香箪笥欲しいなぁ。あっちの八橋蒔絵螺鈿硯箱でもいいぞ。あれはこれまた雅だ」
だから展示品とあれほど。そう思い、はあ、とため息。
三日月が香箪笥に続いて見ているのは、伊勢物語から出て来たような金と黒漆が美しい硯箱。
側面の燕子花を見ていると、本丸で非番を謳歌しているであろう、歌仙の姿が何故か浮かんだ。
「そうだ、歌仙に土産として買うてかえればよい」
「もうお土産のこと考えてるの?まだ自身を見てもいないのに気が早いわね……」
だから展示品とあれほど・二回目。
「当たり前だろう?深見の大事な最初の一振りではないか」
三日月は歌仙には一目置いている。
ただ単に歌仙の練度が高いから恐れているだけかもしれないが、深見の言うことを聞かない時でさえ、歌仙の言うことを聞くという体たらく。
歌仙もまんざらではない様子で、たまに一緒に休憩しているのを見かける。
主と思われていないのかと、はじめの内は落ち込んだのも今となってはいい思い出だ。
さて、刀剣が展示されている部屋についた。
ついた……はいいが、一か所、人が列をなしている場所があるのが見える。
そこは後回しにして、周りから見ることにする二人。
ふと、目に留まった刀達を見やる。
「……あれ?これは古備前、こっちは長船、あっちは来、そして青江派まで…!
それにこの水龍剣……拵がとても美しかったのね……。刀身もとても綺麗」
太刀や短刀が並ぶ姿は圧巻で、すらりとした刀身が光に照らされて美しく輝く。
側面から見れば、まっこと美しい刃先がこちらを向き、切れ味鋭く映る。
この刀にだったら命を差し出して試し斬りされてもいい、と思うほどには。
そこへ末青江が目に入って来た。
他とは一味違う刀身の反り具合、匂い口の締まった直刃は一切の無駄がない。
「ん゛っ!この刀……イイ!」
「これ、どこの誰とも知らぬ刀に浮気か深見?」
変な声出た。
この時代に流行った漫画ほどのぶっ飛び具合ではないものの、好きなものを前にするとなかなかの奇行種っぷりを発揮してしまう。気をつけねば。
「ごめんて。でも、ここにはホラ……みんなの刀派がけっこう揃ってるのよ。どうしても刀好きの血が騒ぐというか……」
「一妻多夫制など許さぬぞ。ましてや本丸の仲間以外などと、何を考えておるのだ」
「三日月達から見れば知らぬ刀に……って、そう思うのよね、そういうのじゃないから安心して。
でもね、歴史が、刀が好きだから、こればっかりはやめられない。愛しい気持ちは抑えられない」
そう言ってまた刀を見始める深見。
その様子はうっとりと恋する乙女のように、そして幼子のように落ち着きない。
「やれやれ、深見の方がはしゃいでいるではないか。騒ぐのは禁止ではなかったか?」
しぃ、だぞ。しぃ。
そんなことばかりしていれば注意してきたのは、博物館のスタッフではなく三日月。
「え、あ……。
うふふ、ごめんなさいね。つい……」
自らの行動に少し恥じ、照れながらも深見は屈託ない笑顔を見せる。
その笑顔には、刀が好きな気持ちが、愛が溢れていて、そこまで刀剣を想ってくれているのだろうと三日月は大目に見ることにした。