とうらぶの短いお話
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『三日月と上野で三日月(本体)見に行った話』
***
以前、光忠と燭台切光忠の本体を見に行ったわけだが。
はてさて、今回は最も有名な天下五剣、国宝・三日月宗近が期間限定で公開されるとの事。
もちろん、私は自分の本丸の三日月宗近を連れて、本刀を見に行くことにした。
「三日月。ここが東京の上野よ」
「ふむ。俺のいた時代とは全く違うなぁ。皆、歩きが忙しない。これが未来か」
「これでも、時の政府がある時代からすれば過去になるんだけれどね……」
周りは普段本丸にいる三日月にとって真新しい物ばかり。
さきほどから楽しそうにキョロキョロと見回しているのを微笑ましく思いながら、私は国立博物館に近い公園口の表示を探した。
「どうしたの三日月」
三日月がちょいちょい、と袖を引っ張るので、微笑みを浮かべた表情そのままに、そちらを向く。
「このくりいむめろんぱんなるもの、なかなか美味いぞ」
「えっ!」
そしたら三日月がクリームパンの美味しい店の、店先にあった商品を食べていた。
ちょっと、ちょっとー!?
両手でしっかり包んではむはむと齧り付く姿はとても愛らしく映るが、それは代金の支払われていない売り物である。
勝手に食べるとは子供か!
店員さんも苦笑して見ているではないか。
「それ試食じゃないから勝手に食べないで!?」
「はっはっはっ、まあいいではないか」
そう言って食べかけを私の口に突っ込む三日月。
ああ、生地がメロンパンで中身がカスタードクリーム、ふんわりとろけてうまし!
って、よくないし。
……いや、ちゃんと説明しなかった私も悪いのだ。
私は財布を取り出し、ため息と代金を出した。
因みに、三日月は私の見ていないところでこのあと、三件ほどハシゴして勝手に食べた。
もう駅ナカの近くは通らないことに決めた。
***
うちの三日月は所謂ブラック本丸に相当する本丸からの引き取りだ。
本丸解体と同時、顕現していた御刀様達は、望むなら刀解か、引き取りかを選べる。
特に三日月はレア刀。希少価値も高く引く手数多だったのだが、何故か演練時に一言会話しただけの私の本丸を本刃自ら望んだ。
「あの者以外の本丸には行かぬ」
天下五剣に名指しでそう言われてしまった以上、政府も断れなかったらしい。
もともと、私の本丸には三日月宗近がいなかったこともあり、政府は三日月の引取先を私の本丸に決定した。
今でこそほけほけした好々爺だが、しばらくはそれはもう大変だった。
何が大変だったかって、荒れていたとかではない。
彼のいた本丸でのブラック化の理由の1つが、夜迦。
審神者の性別は私と同じ女性で、見目麗しく希少価値の高い太刀達に、毎夜毎夜交りの相手をさせていたのだ。特にこの、最も美しいとされる三日月宗近に。
拒否すれば目の前で短刀を折られたそうだ。
短刀達だって、かみさま。見た目は小さくとも私達よりもよっぽど歳は上だというになんて事を。
聞いた時は握った拳から血が出そうなほど憤ったものだ。
そして何が大変だったかというと、私の本丸を望んだはずの三日月宗近が来て初めての夜にそれは起こった。
彼の中では審神者は夜迦を強要する者として記憶されていたのだろう、慣性の法則に従い、覚束ない足取りで私の寝室に夜這いしに来たのだ。
幸い、隣の近侍部屋に待機していたのは夜戦にも強い私の初期刀歌仙だったから事なきを得た。だが、あと少しであの三日月が浮かぶ瞳に魅了されて元主のような間違いをおかすところだった。
夜迦なんて私はしたくないし、神気も取り込みたくない。
本当に危なかった。
……そういえばあの時の歌仙の顔、とても怖かったなあ。自分に向けられたものじゃなくてよかったと思う。
三日月と歌仙はあの一件以来しばらく仲が悪かった。
けれど、今は仲良くなってきているのでホッとしている。いや、仲良しレベルじゃあないくらい、三日月が歌仙に構っているとも言うが。
ただ…ひとつ引っかかるのはあの瞳だ。
あの時から三日月が夜這いに来る事はついぞなかったが、時々熱のこもった視線で見てくるのだけは今も変わらない。
駅から出て上野公園へ入るとそこは、人でたくさん溢れていた。
「平日なのに人がすごいたくさん……。これは都会だからというより、三日月効果ね」
「俺の効果?」
「三日月を見に来た人がたくさんいるのよ」
過去に太刀・三日月宗近が公開される回数はそこまで多くなかった。
刀剣男士として顕現するようになってからは、私のように本霊の宿るであろう、三日月宗近を見に、この時代もしくは公開されている時代へ飛ぶ審神者も珍しくない。
……もしかしたら今日この日も、違う本丸の三日月も審神者と来ているかもしれない。
審神者でなくともこの日ノ本の人間は、刀が好きな者が多い。
私もそのひとりか。
国宝、それも最も美しいと言われる刀なぞが公開されれば人は自然と集まる。
はぐれてはかなわないと、三日月の手に自らの手を重ね、握った。
気持ち的には祖父の手をひく孫。
それでも他人から見たら恋人同士に見られてしまうかもしれない。
なにせ、相手は最も美しいとされる付喪神だ。
光忠とは違う妖しいまでの魅力を持つが、その見た目年齢はおじいちゃんとは呼べぬシロモノ。
誰も中身が年寄りだなんて思わない。
その格好は現世に行くこともあり、着流しにストールを緩く巻いた姿。例えるならイケメン若旦那、といったところか。
若旦那なんて表現、ちょっと古い気がしないでもないけれど。
三日月が握っていた手をサッと離した。
手を繋がれるのが嫌だったのかな、と思った瞬間。
「!!」
「なに、腕を絡ませた方が逸れなくてすむだろう?」
三日月はあろうことか、私の腕を取って自分の腕に絡ませるように誘導してきたのだ。
これは光忠の時以上の距離の近さ!
恥ずかしいが、よく見れば周りには同じように腕を絡ませて歩く男女も多い。
公園だから恋人同士も多いというわけか。
周りに紛れて歩けば、どうということはない。
「もっと近う寄れ。すきんしっぷ、というやつをとろう」
「!!?」
うん、……どうということは……ね。
そう自分に言い聞かせて三日月が口づけが出来そうなほど近くにくるのをそのままに、公園を歩いた。
***
以前、光忠と燭台切光忠の本体を見に行ったわけだが。
はてさて、今回は最も有名な天下五剣、国宝・三日月宗近が期間限定で公開されるとの事。
もちろん、私は自分の本丸の三日月宗近を連れて、本刀を見に行くことにした。
「三日月。ここが東京の上野よ」
「ふむ。俺のいた時代とは全く違うなぁ。皆、歩きが忙しない。これが未来か」
「これでも、時の政府がある時代からすれば過去になるんだけれどね……」
周りは普段本丸にいる三日月にとって真新しい物ばかり。
さきほどから楽しそうにキョロキョロと見回しているのを微笑ましく思いながら、私は国立博物館に近い公園口の表示を探した。
「どうしたの三日月」
三日月がちょいちょい、と袖を引っ張るので、微笑みを浮かべた表情そのままに、そちらを向く。
「このくりいむめろんぱんなるもの、なかなか美味いぞ」
「えっ!」
そしたら三日月がクリームパンの美味しい店の、店先にあった商品を食べていた。
ちょっと、ちょっとー!?
両手でしっかり包んではむはむと齧り付く姿はとても愛らしく映るが、それは代金の支払われていない売り物である。
勝手に食べるとは子供か!
店員さんも苦笑して見ているではないか。
「それ試食じゃないから勝手に食べないで!?」
「はっはっはっ、まあいいではないか」
そう言って食べかけを私の口に突っ込む三日月。
ああ、生地がメロンパンで中身がカスタードクリーム、ふんわりとろけてうまし!
って、よくないし。
……いや、ちゃんと説明しなかった私も悪いのだ。
私は財布を取り出し、ため息と代金を出した。
因みに、三日月は私の見ていないところでこのあと、三件ほどハシゴして勝手に食べた。
もう駅ナカの近くは通らないことに決めた。
***
うちの三日月は所謂ブラック本丸に相当する本丸からの引き取りだ。
本丸解体と同時、顕現していた御刀様達は、望むなら刀解か、引き取りかを選べる。
特に三日月はレア刀。希少価値も高く引く手数多だったのだが、何故か演練時に一言会話しただけの私の本丸を本刃自ら望んだ。
「あの者以外の本丸には行かぬ」
天下五剣に名指しでそう言われてしまった以上、政府も断れなかったらしい。
もともと、私の本丸には三日月宗近がいなかったこともあり、政府は三日月の引取先を私の本丸に決定した。
今でこそほけほけした好々爺だが、しばらくはそれはもう大変だった。
何が大変だったかって、荒れていたとかではない。
彼のいた本丸でのブラック化の理由の1つが、夜迦。
審神者の性別は私と同じ女性で、見目麗しく希少価値の高い太刀達に、毎夜毎夜交りの相手をさせていたのだ。特にこの、最も美しいとされる三日月宗近に。
拒否すれば目の前で短刀を折られたそうだ。
短刀達だって、かみさま。見た目は小さくとも私達よりもよっぽど歳は上だというになんて事を。
聞いた時は握った拳から血が出そうなほど憤ったものだ。
そして何が大変だったかというと、私の本丸を望んだはずの三日月宗近が来て初めての夜にそれは起こった。
彼の中では審神者は夜迦を強要する者として記憶されていたのだろう、慣性の法則に従い、覚束ない足取りで私の寝室に夜這いしに来たのだ。
幸い、隣の近侍部屋に待機していたのは夜戦にも強い私の初期刀歌仙だったから事なきを得た。だが、あと少しであの三日月が浮かぶ瞳に魅了されて元主のような間違いをおかすところだった。
夜迦なんて私はしたくないし、神気も取り込みたくない。
本当に危なかった。
……そういえばあの時の歌仙の顔、とても怖かったなあ。自分に向けられたものじゃなくてよかったと思う。
三日月と歌仙はあの一件以来しばらく仲が悪かった。
けれど、今は仲良くなってきているのでホッとしている。いや、仲良しレベルじゃあないくらい、三日月が歌仙に構っているとも言うが。
ただ…ひとつ引っかかるのはあの瞳だ。
あの時から三日月が夜這いに来る事はついぞなかったが、時々熱のこもった視線で見てくるのだけは今も変わらない。
駅から出て上野公園へ入るとそこは、人でたくさん溢れていた。
「平日なのに人がすごいたくさん……。これは都会だからというより、三日月効果ね」
「俺の効果?」
「三日月を見に来た人がたくさんいるのよ」
過去に太刀・三日月宗近が公開される回数はそこまで多くなかった。
刀剣男士として顕現するようになってからは、私のように本霊の宿るであろう、三日月宗近を見に、この時代もしくは公開されている時代へ飛ぶ審神者も珍しくない。
……もしかしたら今日この日も、違う本丸の三日月も審神者と来ているかもしれない。
審神者でなくともこの日ノ本の人間は、刀が好きな者が多い。
私もそのひとりか。
国宝、それも最も美しいと言われる刀なぞが公開されれば人は自然と集まる。
はぐれてはかなわないと、三日月の手に自らの手を重ね、握った。
気持ち的には祖父の手をひく孫。
それでも他人から見たら恋人同士に見られてしまうかもしれない。
なにせ、相手は最も美しいとされる付喪神だ。
光忠とは違う妖しいまでの魅力を持つが、その見た目年齢はおじいちゃんとは呼べぬシロモノ。
誰も中身が年寄りだなんて思わない。
その格好は現世に行くこともあり、着流しにストールを緩く巻いた姿。例えるならイケメン若旦那、といったところか。
若旦那なんて表現、ちょっと古い気がしないでもないけれど。
三日月が握っていた手をサッと離した。
手を繋がれるのが嫌だったのかな、と思った瞬間。
「!!」
「なに、腕を絡ませた方が逸れなくてすむだろう?」
三日月はあろうことか、私の腕を取って自分の腕に絡ませるように誘導してきたのだ。
これは光忠の時以上の距離の近さ!
恥ずかしいが、よく見れば周りには同じように腕を絡ませて歩く男女も多い。
公園だから恋人同士も多いというわけか。
周りに紛れて歩けば、どうということはない。
「もっと近う寄れ。すきんしっぷ、というやつをとろう」
「!!?」
うん、……どうということは……ね。
そう自分に言い聞かせて三日月が口づけが出来そうなほど近くにくるのをそのままに、公園を歩いた。