とうらぶの短いお話
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深見が行ってしばらく。
庭の花を眺めて一句考えていた歌仙は、くぅくぅと手の中で眠っていたユキが身じろいだのを感じた。
丸い目をぱちくりと開け、「ぴ、ぴ。」と鳴いたあと、伸びをするように羽を広げてから誰かを探すように飛んだ。
部屋の中を一周飛んで床にちょこんと降り立ったユキは、深見を探していたようだったが、その場の唯一の生き物、歌仙を見ると跳ねて近づいてきた。
飛行速度は速いがそれは一瞬。
すぐ疲れるのか長い距離は飛べなさそうだし、この通り警戒心も薄い。
もしも外に逃げ出してしまったら、野良猫やカラスにすぐ捕まってしまいそうだ。
歌仙がゆっくり差し出したひとさし指。
ユキはその場で、そこまで曲げたら首が折れるのではないかと思うほど、くりん!と首を大きく横に傾けた。
お互い1分以上はそうしていたかもしれない。
一番の飼い主たる深見がいなくて、不安があったのか、じっと見つめあうこと数分。
ゆっくりと乗ったユキは歌仙の指を甘噛みしてみせた。
「ほんと、愛らしい鳥だ。
本丸に連れて帰りたいところだけれど、彼処はどの部屋も庭に面しているから、きみはすぐどこかへ行ってしまうだろうね……」
歌仙は文鳥という鳥の虜だ。
だが、飼い主たる深見の許可なしに連れて帰るなんてことできようはずもない。
何より、ユキは深見だけでなく、この家の大事な家族なのだから。
指の腹で撫でていた歌仙は、両手で優しく包み込み直し、ユキの背中に鼻を近づける。
そこから香るのはふんわり甘い蜜のような匂い。
……少しクセになりそうだ。
「うん、やはりいい匂いがするね。
僕もいい匂いがするだろう?
香を焚いて外套に花の香をつけておいたのさ」
平安出身の刀剣男士に借りた薫衣香用の伏籠。
練り香をくゆらせ、つけた牡丹の香り。
化学香料とは違う自然に近い香りにユキは嫌がらなかったようで、そばに折り畳んだ外套の強い芳香にも臆することはなかった。
外套で思い出した。
「こうすると……うん、『花鳥風月』。風流だねぇ」
外套の胸ポケットに挿した小ぶりの牡丹の花。
戦装束の時のものではなく、今回はよく出来た造花だ。
そのとなりにそっとユキを下ろし、そして眺める。
花と鳥。外には春風も吹いているから、足りないものは月くらいか。
十二分に雅な光景を目に出来たおかげか、なかなかに良い句が浮かんだ。
本丸に帰ったら書に書き記しておかなくては。
だが、生き物が下におろされてそのままじっとしていられるわけがない。
歌仙が句を考え終えた頃、ユキは折り畳まれた歌仙の外套、その暗い隙間に突撃して行った。
「はは、僕の外套に隠れてしまったよ」
鳥目、というくらいだから暗いところで目はそんなによくないだろう。
だが覗き込めば、ここは自分の巣だとでもいうかのように、中からこちらを見て落ち着いていた。
この状態で手を出せば、さすがに加州のようにつつかれるかな。
そう思いつつも、手を差し出して見ると、今まで聞いたことのないような、どこか切ない声できゅうきゅうと鳴き始めてしまった。
体力を使いそうな、悲痛な、それでいて甘えているような声。
「親鳥と間違えてでもいるのかい?」
どんな理由でこの声を出しているのかはわからないが、母性本能をくすぐられるとはこのことか。
しばらく撫でることで声が落ち着いてきたのを見るに、やはり甘え声だったようだ。
「主もきみくらい甘えてくれたらいいんだけどねぇ……」
……彼女と出会ってもう三年か。
三年間、色々あった。
初めて勝てた時のこと。誉をとった喜んだ時のこと。
仲間が増えてにぎやかになった時のこと。敵の大将を討ち取って嬉しかった時のこと。
もちろん、いいことばかりじゃなかった。
敵に負けた時のこと。遠征失敗した時のこと。
いくら鍛刀しても太刀が出なかった時のこと。
はじめて風邪をひいた時のこと。
全部、全部覚えているよ。
全部が大切な思い出だ。
精神的に少し弱い彼女は、それでも強くあろうとする。
もっと甘えていいのに、彼女はそれを良しとしない。
僕にできることは、初期刀として、近侍として彼女を陰日向に支えていくのみ。
これからも、歴史を変えんとする敵を討ち取り、たくさんの仲間をまとめていく。
ただただともに在るのみだ。
だから、これからもよろしく頼むよ、主。
その時歌仙がとろりとした優しい顔で笑ったのは、目の前にいたユキしか知らない。
「あら…」
私が歌仙のところへ戻ると、窓からおひさまの光が差し込む中、ユキを手に乗せたまま歌仙はゴロンと横になり、すやすやと眠りに落ちていた。
ちなみに、清光は手伝いが終わったのか、そのまま女子会のノリで母とおしゃべりを楽しんでいた。
母よ、頼むから『真名』だけは明かさないでいただきたい。
ここまでの移動で歌仙も疲れていたのだろう。
いつもなら人の気配だけで起きてしまうというに、身じろぎひとつしない。
それどころか無防備な寝顔をさらしている。他の刀剣男士もそうだが、寝顔はあどけない。
こんな歌仙、初めて見た。
出会った頃だって、こんな風に眠っていなかった。いつも緊張して張り詰めていた。
こんな風にしたのは、私だ。
……ああ、よく考えたらもう三年になるのね。
三年間も彼に無理させている。
もちろん、悪い思い出や辛い思い出ばかりじゃなかった。
たくさん、楽しい思い出もできた。
そしてこれからもそんな思い出を作っていきたい……。
その為には貴方は必要不可欠な存在。
だから、これからもよろしくお願いしますね、歌仙。
「……そうだ」
パシャ。
私は手始めに目の前の思い出を写真に収めた。
***
審神者就任三周年の記念に書きました。
当本丸の初期刀は歌仙くんです。そしてリアルで文鳥飼ってます。
歌仙くん好きすぎて書いた感じです。
ついでに。これを読んだ貴女が、少しでも文鳥に興味が出たら嬉しいです。
庭の花を眺めて一句考えていた歌仙は、くぅくぅと手の中で眠っていたユキが身じろいだのを感じた。
丸い目をぱちくりと開け、「ぴ、ぴ。」と鳴いたあと、伸びをするように羽を広げてから誰かを探すように飛んだ。
部屋の中を一周飛んで床にちょこんと降り立ったユキは、深見を探していたようだったが、その場の唯一の生き物、歌仙を見ると跳ねて近づいてきた。
飛行速度は速いがそれは一瞬。
すぐ疲れるのか長い距離は飛べなさそうだし、この通り警戒心も薄い。
もしも外に逃げ出してしまったら、野良猫やカラスにすぐ捕まってしまいそうだ。
歌仙がゆっくり差し出したひとさし指。
ユキはその場で、そこまで曲げたら首が折れるのではないかと思うほど、くりん!と首を大きく横に傾けた。
お互い1分以上はそうしていたかもしれない。
一番の飼い主たる深見がいなくて、不安があったのか、じっと見つめあうこと数分。
ゆっくりと乗ったユキは歌仙の指を甘噛みしてみせた。
「ほんと、愛らしい鳥だ。
本丸に連れて帰りたいところだけれど、彼処はどの部屋も庭に面しているから、きみはすぐどこかへ行ってしまうだろうね……」
歌仙は文鳥という鳥の虜だ。
だが、飼い主たる深見の許可なしに連れて帰るなんてことできようはずもない。
何より、ユキは深見だけでなく、この家の大事な家族なのだから。
指の腹で撫でていた歌仙は、両手で優しく包み込み直し、ユキの背中に鼻を近づける。
そこから香るのはふんわり甘い蜜のような匂い。
……少しクセになりそうだ。
「うん、やはりいい匂いがするね。
僕もいい匂いがするだろう?
香を焚いて外套に花の香をつけておいたのさ」
平安出身の刀剣男士に借りた薫衣香用の伏籠。
練り香をくゆらせ、つけた牡丹の香り。
化学香料とは違う自然に近い香りにユキは嫌がらなかったようで、そばに折り畳んだ外套の強い芳香にも臆することはなかった。
外套で思い出した。
「こうすると……うん、『花鳥風月』。風流だねぇ」
外套の胸ポケットに挿した小ぶりの牡丹の花。
戦装束の時のものではなく、今回はよく出来た造花だ。
そのとなりにそっとユキを下ろし、そして眺める。
花と鳥。外には春風も吹いているから、足りないものは月くらいか。
十二分に雅な光景を目に出来たおかげか、なかなかに良い句が浮かんだ。
本丸に帰ったら書に書き記しておかなくては。
だが、生き物が下におろされてそのままじっとしていられるわけがない。
歌仙が句を考え終えた頃、ユキは折り畳まれた歌仙の外套、その暗い隙間に突撃して行った。
「はは、僕の外套に隠れてしまったよ」
鳥目、というくらいだから暗いところで目はそんなによくないだろう。
だが覗き込めば、ここは自分の巣だとでもいうかのように、中からこちらを見て落ち着いていた。
この状態で手を出せば、さすがに加州のようにつつかれるかな。
そう思いつつも、手を差し出して見ると、今まで聞いたことのないような、どこか切ない声できゅうきゅうと鳴き始めてしまった。
体力を使いそうな、悲痛な、それでいて甘えているような声。
「親鳥と間違えてでもいるのかい?」
どんな理由でこの声を出しているのかはわからないが、母性本能をくすぐられるとはこのことか。
しばらく撫でることで声が落ち着いてきたのを見るに、やはり甘え声だったようだ。
「主もきみくらい甘えてくれたらいいんだけどねぇ……」
……彼女と出会ってもう三年か。
三年間、色々あった。
初めて勝てた時のこと。誉をとった喜んだ時のこと。
仲間が増えてにぎやかになった時のこと。敵の大将を討ち取って嬉しかった時のこと。
もちろん、いいことばかりじゃなかった。
敵に負けた時のこと。遠征失敗した時のこと。
いくら鍛刀しても太刀が出なかった時のこと。
はじめて風邪をひいた時のこと。
全部、全部覚えているよ。
全部が大切な思い出だ。
精神的に少し弱い彼女は、それでも強くあろうとする。
もっと甘えていいのに、彼女はそれを良しとしない。
僕にできることは、初期刀として、近侍として彼女を陰日向に支えていくのみ。
これからも、歴史を変えんとする敵を討ち取り、たくさんの仲間をまとめていく。
ただただともに在るのみだ。
だから、これからもよろしく頼むよ、主。
その時歌仙がとろりとした優しい顔で笑ったのは、目の前にいたユキしか知らない。
「あら…」
私が歌仙のところへ戻ると、窓からおひさまの光が差し込む中、ユキを手に乗せたまま歌仙はゴロンと横になり、すやすやと眠りに落ちていた。
ちなみに、清光は手伝いが終わったのか、そのまま女子会のノリで母とおしゃべりを楽しんでいた。
母よ、頼むから『真名』だけは明かさないでいただきたい。
ここまでの移動で歌仙も疲れていたのだろう。
いつもなら人の気配だけで起きてしまうというに、身じろぎひとつしない。
それどころか無防備な寝顔をさらしている。他の刀剣男士もそうだが、寝顔はあどけない。
こんな歌仙、初めて見た。
出会った頃だって、こんな風に眠っていなかった。いつも緊張して張り詰めていた。
こんな風にしたのは、私だ。
……ああ、よく考えたらもう三年になるのね。
三年間も彼に無理させている。
もちろん、悪い思い出や辛い思い出ばかりじゃなかった。
たくさん、楽しい思い出もできた。
そしてこれからもそんな思い出を作っていきたい……。
その為には貴方は必要不可欠な存在。
だから、これからもよろしくお願いしますね、歌仙。
「……そうだ」
パシャ。
私は手始めに目の前の思い出を写真に収めた。
***
審神者就任三周年の記念に書きました。
当本丸の初期刀は歌仙くんです。そしてリアルで文鳥飼ってます。
歌仙くん好きすぎて書いた感じです。
ついでに。これを読んだ貴女が、少しでも文鳥に興味が出たら嬉しいです。