とうらぶの短いお話
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『歌仙兼定と文鳥さま』
with望月本丸の加州清光
審神者就任三周年記念として書かせていただきました。
***
久しぶりに実家に帰る。
深見に就任して久しく、実家に帰れた事はほぼないが、この度用事が出来てようやく休暇を政府から強奪……いや、捥ぎ取れた。
「主、ここがきみの生家かい」
「そうよ、なーんにもない田舎だけどね」
春風に揺れる木立の中、タクシーから降りた私と歌仙は目の前の日本家屋を見上げる。
当然、本丸のように大きくはないが昔からある古い家屋は、ところどころ現代風の修復が目立ち、我が生家ながら少し気恥ずかしく感じる。
「やっとついたの?体固くなっちゃったなぁ」
欠伸をしつつタクシーから、降りて来た一人の影。
今回の現世休暇の近侍は歌仙ひとりではない。
「加州、主の御前だ。僕がいるからといって眠るんじゃない。主に何かあったらどうするんだい」
「歌仙がいるし俺も何かあれば飛び起きるから大丈夫でしょ。それにここは現世。そんなにピリピリすることないと思うけど」
「きみって奴は……」
「まあまあ歌仙、そこまでにしましょう」
そう、加州清光。
タクシーの中でずっと眠っていた清光が、うーんと伸びをする。
この地域は電車が通っていないため、最寄りの駅からはバスやタクシーを使用するしかない。
しかも、薩摩国を管轄している政府部署からは実家はとても遠い地。最寄り駅につくまでも新幹線を利用しており時間がかかったため、さすがの清光も疲れてしまったのだろう。
タクシーの中ではすやすやと眠っていた。
歌仙も何も言わずに肩を貸していたではないか。
「ただいまー。
歌仙、清光。この通り小さい家だけど遠慮せず上がってね」
そう言って玄関の戸を開け、来客用のスリッパを二揃い並べる。
久しぶりの我が家だからか、自宅の匂いというのを感じる。
ああ、こんな匂いだったなぁとしみじみ廊下を歩けば、私の声が聞こえていたらしい母親が、笑顔で帰宅を歓迎してくれた。
「主は御母堂様に似ているね」
こじんまりとした和室の中、母親が淹れてくれた緑茶で一服しながら、歌仙が「おかげであまり緊張せずにすんだ」と漏らす。
和室の窓から時折吹き込む春風運ぶ花弁を、薄紫の髪と共に揺らすその横顔はとても美しい。美人は場所を選ばないというが、本当の事だった。
「あまりそう言われたことはないけれど、年を取るとやっぱり似てくるものなのかな……」
「えー。主そこまで年食ってないでしょ」
これは置いてあったチワワによく似た大きな顔型クッションを抱きしめる清光の言葉だ。
「まあ、絶対貴方達よりは若いわね」
「僕らと比べなくてもまだ若いだろう。似ていてよかったと言っただけだよ」
歌仙は人見知りするが、彼は人見知りしない。
挨拶した母に、飼い猫のようにかわいがられていた。
クッションを抱きしめて首をかしげるそのポーズも、小賢しくそしてとてもかわいらしい。似合っている。
「それよりこの大きなクッション、主の匂いがする……。主~、俺これ欲しい」
私はこのポケットに入っちゃうモンスターのゲームが大好きである。特に清光の抱きしめるそのキャラクターは所謂『嫁』レベルで。
だが、もっと大事な清光に欲しがられたなら、それは顔を縦に振る以外ない。
二つ返事で、それは清光に譲渡された。
「やった、大事にするね!」
「はあ……僕の主は加州にどこまでも甘いお人だ……」
呆れる歌仙に苦笑を返し、私はここに来た目的を果たすべく、二振りに部屋で待機するよう命じた。
今回実家に帰った理由は、審神者をやっていくにあたって必要となった資料。これは自分の部屋にあり、以前審神者をしていた時にまとめた資料と書類である。
こういうものは他人に任せるのも怖く、自分の部屋というプライベート空間には人を入れたくない。そういうわけで自分で来たのである。
「というわけで、ここで待っていてもらえる?」
「ああ。主、ここで待つのはいいんだけれどその前に」
「どうしたの?おやつ足りない?」
卓の上に置かれた茶菓子入れにざばりと追加の菓子を投入するも、それは洋菓子。
清光が喜んだだけだった。
きっと緑茶にクッキーは雅とはいえない、邪道だと言いたいのだろう。わかる。
「他の部屋から鳥の声が聞こえる。あの鳥はなんて鳥だい?」
「けっこう鳴き声大きいよね。……なにか飼ってるの?」
耳を澄ませば……澄まさなくとも聞こえてくる鳥の声。
その声は「ピッ」「ピッ」と甲高く、一生懸命に呼びかけているかのようでどこか切ない。
「そう言えばまだただいま言ってなかったわ!すぐ戻るから!」
「主、さっき家族にただいま言ってなかった?」
「せわしないなぁ……」
「あ!」とようやく思いだしたかのようにあわてると、ドタドタと急いで向かう。
主の消えた部屋で、歌仙は苦笑いをこぼしながら口の中のクッキーを茶で流し込んだ。
「このクッキー緑茶にも合うじゃないか」
with望月本丸の加州清光
審神者就任三周年記念として書かせていただきました。
***
久しぶりに実家に帰る。
深見に就任して久しく、実家に帰れた事はほぼないが、この度用事が出来てようやく休暇を政府から強奪……いや、捥ぎ取れた。
「主、ここがきみの生家かい」
「そうよ、なーんにもない田舎だけどね」
春風に揺れる木立の中、タクシーから降りた私と歌仙は目の前の日本家屋を見上げる。
当然、本丸のように大きくはないが昔からある古い家屋は、ところどころ現代風の修復が目立ち、我が生家ながら少し気恥ずかしく感じる。
「やっとついたの?体固くなっちゃったなぁ」
欠伸をしつつタクシーから、降りて来た一人の影。
今回の現世休暇の近侍は歌仙ひとりではない。
「加州、主の御前だ。僕がいるからといって眠るんじゃない。主に何かあったらどうするんだい」
「歌仙がいるし俺も何かあれば飛び起きるから大丈夫でしょ。それにここは現世。そんなにピリピリすることないと思うけど」
「きみって奴は……」
「まあまあ歌仙、そこまでにしましょう」
そう、加州清光。
タクシーの中でずっと眠っていた清光が、うーんと伸びをする。
この地域は電車が通っていないため、最寄りの駅からはバスやタクシーを使用するしかない。
しかも、薩摩国を管轄している政府部署からは実家はとても遠い地。最寄り駅につくまでも新幹線を利用しており時間がかかったため、さすがの清光も疲れてしまったのだろう。
タクシーの中ではすやすやと眠っていた。
歌仙も何も言わずに肩を貸していたではないか。
「ただいまー。
歌仙、清光。この通り小さい家だけど遠慮せず上がってね」
そう言って玄関の戸を開け、来客用のスリッパを二揃い並べる。
久しぶりの我が家だからか、自宅の匂いというのを感じる。
ああ、こんな匂いだったなぁとしみじみ廊下を歩けば、私の声が聞こえていたらしい母親が、笑顔で帰宅を歓迎してくれた。
「主は御母堂様に似ているね」
こじんまりとした和室の中、母親が淹れてくれた緑茶で一服しながら、歌仙が「おかげであまり緊張せずにすんだ」と漏らす。
和室の窓から時折吹き込む春風運ぶ花弁を、薄紫の髪と共に揺らすその横顔はとても美しい。美人は場所を選ばないというが、本当の事だった。
「あまりそう言われたことはないけれど、年を取るとやっぱり似てくるものなのかな……」
「えー。主そこまで年食ってないでしょ」
これは置いてあったチワワによく似た大きな顔型クッションを抱きしめる清光の言葉だ。
「まあ、絶対貴方達よりは若いわね」
「僕らと比べなくてもまだ若いだろう。似ていてよかったと言っただけだよ」
歌仙は人見知りするが、彼は人見知りしない。
挨拶した母に、飼い猫のようにかわいがられていた。
クッションを抱きしめて首をかしげるそのポーズも、小賢しくそしてとてもかわいらしい。似合っている。
「それよりこの大きなクッション、主の匂いがする……。主~、俺これ欲しい」
私はこのポケットに入っちゃうモンスターのゲームが大好きである。特に清光の抱きしめるそのキャラクターは所謂『嫁』レベルで。
だが、もっと大事な清光に欲しがられたなら、それは顔を縦に振る以外ない。
二つ返事で、それは清光に譲渡された。
「やった、大事にするね!」
「はあ……僕の主は加州にどこまでも甘いお人だ……」
呆れる歌仙に苦笑を返し、私はここに来た目的を果たすべく、二振りに部屋で待機するよう命じた。
今回実家に帰った理由は、審神者をやっていくにあたって必要となった資料。これは自分の部屋にあり、以前審神者をしていた時にまとめた資料と書類である。
こういうものは他人に任せるのも怖く、自分の部屋というプライベート空間には人を入れたくない。そういうわけで自分で来たのである。
「というわけで、ここで待っていてもらえる?」
「ああ。主、ここで待つのはいいんだけれどその前に」
「どうしたの?おやつ足りない?」
卓の上に置かれた茶菓子入れにざばりと追加の菓子を投入するも、それは洋菓子。
清光が喜んだだけだった。
きっと緑茶にクッキーは雅とはいえない、邪道だと言いたいのだろう。わかる。
「他の部屋から鳥の声が聞こえる。あの鳥はなんて鳥だい?」
「けっこう鳴き声大きいよね。……なにか飼ってるの?」
耳を澄ませば……澄まさなくとも聞こえてくる鳥の声。
その声は「ピッ」「ピッ」と甲高く、一生懸命に呼びかけているかのようでどこか切ない。
「そう言えばまだただいま言ってなかったわ!すぐ戻るから!」
「主、さっき家族にただいま言ってなかった?」
「せわしないなぁ……」
「あ!」とようやく思いだしたかのようにあわてると、ドタドタと急いで向かう。
主の消えた部屋で、歌仙は苦笑いをこぼしながら口の中のクッキーを茶で流し込んだ。
「このクッキー緑茶にも合うじゃないか」