その1、二度目の審神者業
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「どうかお力をお貸しください」
悩んだ末、私が手に取ったのは紫の鞘に、花の紋が刻まれた歌仙兼定。
選んだ理由は特にない。
刀の付喪神達には失礼な回答だが、『彼』以外ならば誰であろうと受け入れることが出来たのだ。
今回はただ単に、以前の本丸でそこまで関わらなかった刀剣男士を、とそう思った。
私が審神者の神力を刀に注ぎ込むべくして鞘に触れると、桜の花びらを舞い散らせながら、薄紫の髪を揺らした美丈夫が目の前に立っていた。
「僕は歌仙兼定。風流を愛する文系名刀さ。どうぞよろしく。……君が主か。雅を理解できる主ならそれでいいのだが」
少しだけ見下すようにそう言ってから、その滑らかな口が一句紡ぐ。
君がため 惜しからざりし 命さへ 長くもがなと 思ひけるかな
確かこの句は藤原義孝の句だったか。
歌仙兼定が私の目を真っ直ぐ見つめ、この句を言うものだから、なんだか照れてしまう。
「あの……私にそこまで会いたかったと思ってくれたのはとても嬉しいのですが、今まで命が惜しくなかった、というのは少し言い過ぎだと思いますよ?」
「なるほど、句の意味はわかるんだね」
彼は満足そうにふっと笑う。
及第点は貰えたようで一先ずホッとした。
「はい。歌仙兼定様に少しでも認められる事が出来たのなら、良かったです。……あの、歌仙兼定様?」
今の言葉にどこか気に触るところがあったようで、今度は形良い眉を寄せてしまった。
「どう、されたのですか…?」
「その……、歌仙兼定様っていうのはやめにしようか。
君は刀に動くことのできる肉体と個々の精神を与えてくれた『主』なんだ。様は要らない」
「ならば何と?」
「歌仙、でいいよ。その敬語も要らないね」
「これは癖で……」
「癖、……ね。それにしてはどこかに引っ掛かりを覚えるのだけれどね?」
確かに元々は敬語ではない。
親しくなれば、それ相応に敬語は外れるのだが、相手は神様と言うこともあって、どうしても気負ってしまう。
「……敬語を外せるように努力します……。じゃなかった、努力する、ね」
「その方がいい。好感が持てる。それに、敬語は使うべき時に使えばいいんだ。
主たる者、それ相応にいつでも昂然としているんだよ?」
「う、ん……」
「それで、君の名前は?……ああ、真名ではない方の」
「審神者としての名は深見、と申します」
「深見だね。まあ、普段は主と呼ばせてもらうよ、深見」
その時、おずおずとこんのすけが言葉を発した。
「あの……そろそろ本丸の案内をさせていただいてもよろしいでしょうか?」
そう言えばそうだ。
ただ付喪神を顕現させただけではいけない。
日常を送る本丸の構造を覚えるのはもちろん、日々の仕事や一番大事な出陣について、それら全てを頭に叩き込まねばなるまい。
「え、あ、はい」
「そうだね。この中は広そうだし、迷っては困るからね」
こんのすけの小さな体に着いて行く一人と一振り。
深見が歌仙同様キョロキョロと興味深げに見て歩くので、歌仙は審神者が自分と同じでまだここにどんな部屋があるのかわからないと悟ったらしい。
「おや、主はまだ屋敷の中がどうなっているのか知らないのかい?」
「うん。私もまだここに到着したばかりだったから……」
といっても、本丸の大きさや広さは審神者の霊力の強さによるらしい。
霊力が強いほど、望むまま部屋数を増やしたりと好きに増築できる。
前に聞いた時はなんと便利なんだろう、と思ったものだ。
これから増えるであろう大勢の刀剣男士達の部屋、厨、厠、浴場、稽古場、審神者の部屋など、案内をするこんのすけに連れられてやってきたのは刀装の部屋である。
その向こうの方には、庭があり、その向こうに出陣のための装置とゲートが設置されていた。
「このままあちらで刀装作成、そして出陣になりま……」
刀装部屋を指して、刀装を作るよう指示される。
が、歌仙の分の刀装を今作ってしまうと彼はその流れで確実に一振りだけで出陣し、絶対に傷を負って帰ってくる事となる。
それだけは嫌だ。
「こんちゃん、私は装備品を作るより、出陣するより、まずは鍛刀したいです」
「なぜだい?僕一振では、何か問題があるのかい?」
こんのすけではなく、その問いに不服そうに問いを返すのは歌仙だ。
「一振りでは確実に怪我することになる。私は歌仙に怪我してほしくない……それが例えほんのかすり傷だったとしても」
どこか遠くを見て言う主に、歌仙は何も言えなかった。
「わかりました。深見殿のお気持ち、しかと受け取りました。鍛刀部屋へ向かいましょう!」
「やれやれ。鍛刀が終わるまでは、僕は戦えないというわけだ」
「ごめんね、ありがとう」
刀装部屋の更に奥、入り口に注連縄の垂れ下がる鍛刀部屋があった。
中に入るとすぐ出迎えるのは小さな式神達であり、この者たちに依頼札を渡して鍛刀は始まる。
ここの家主である深見の霊力で実体を保っているに過ぎないらしい彼らは、かわいらしくちょこんとお辞儀して迎えてくれた。
「深見殿、どのくらいの量の資材を使いますか?」
ここはまず短刀を呼びたいと思う。
いきなり大量の資材を投入しても、太刀や大太刀が出来上がるとは思えないし、そもそも資材が足りない。
「歌仙……どのくらいにしようか?」
「そんな事は聞かないでくれ。僕は計算ごとは苦手なんだ」
「私も計算は苦手よ」
「「…………」」
暫し無言の攻防。
「じゃ、最初に並べられてる五十ずつで……」
「ああ、下手に弄らずいた方が良いと僕も思ったんだ」
どのくらいにしたら良いかわからない新米審神者のためだろう、やはり五十ずつで設えてあった資材。
私達はそのままの量で、式神に鍛刀を頼む事にした。
木炭、玉鋼、冷却材、砥石五十に、依頼札。それらを渡せば後は時間を見て鍛刀は完了する。
短刀ならば、そこまで時間もかからないであろう。
本当はここで手伝い札を使うと、早くて助かるのだが、今はここにいるかわいらしい式神達に任せて、その間に内番の説明をすませてしまおうと思った。
悩んだ末、私が手に取ったのは紫の鞘に、花の紋が刻まれた歌仙兼定。
選んだ理由は特にない。
刀の付喪神達には失礼な回答だが、『彼』以外ならば誰であろうと受け入れることが出来たのだ。
今回はただ単に、以前の本丸でそこまで関わらなかった刀剣男士を、とそう思った。
私が審神者の神力を刀に注ぎ込むべくして鞘に触れると、桜の花びらを舞い散らせながら、薄紫の髪を揺らした美丈夫が目の前に立っていた。
「僕は歌仙兼定。風流を愛する文系名刀さ。どうぞよろしく。……君が主か。雅を理解できる主ならそれでいいのだが」
少しだけ見下すようにそう言ってから、その滑らかな口が一句紡ぐ。
君がため 惜しからざりし 命さへ 長くもがなと 思ひけるかな
確かこの句は藤原義孝の句だったか。
歌仙兼定が私の目を真っ直ぐ見つめ、この句を言うものだから、なんだか照れてしまう。
「あの……私にそこまで会いたかったと思ってくれたのはとても嬉しいのですが、今まで命が惜しくなかった、というのは少し言い過ぎだと思いますよ?」
「なるほど、句の意味はわかるんだね」
彼は満足そうにふっと笑う。
及第点は貰えたようで一先ずホッとした。
「はい。歌仙兼定様に少しでも認められる事が出来たのなら、良かったです。……あの、歌仙兼定様?」
今の言葉にどこか気に触るところがあったようで、今度は形良い眉を寄せてしまった。
「どう、されたのですか…?」
「その……、歌仙兼定様っていうのはやめにしようか。
君は刀に動くことのできる肉体と個々の精神を与えてくれた『主』なんだ。様は要らない」
「ならば何と?」
「歌仙、でいいよ。その敬語も要らないね」
「これは癖で……」
「癖、……ね。それにしてはどこかに引っ掛かりを覚えるのだけれどね?」
確かに元々は敬語ではない。
親しくなれば、それ相応に敬語は外れるのだが、相手は神様と言うこともあって、どうしても気負ってしまう。
「……敬語を外せるように努力します……。じゃなかった、努力する、ね」
「その方がいい。好感が持てる。それに、敬語は使うべき時に使えばいいんだ。
主たる者、それ相応にいつでも昂然としているんだよ?」
「う、ん……」
「それで、君の名前は?……ああ、真名ではない方の」
「審神者としての名は深見、と申します」
「深見だね。まあ、普段は主と呼ばせてもらうよ、深見」
その時、おずおずとこんのすけが言葉を発した。
「あの……そろそろ本丸の案内をさせていただいてもよろしいでしょうか?」
そう言えばそうだ。
ただ付喪神を顕現させただけではいけない。
日常を送る本丸の構造を覚えるのはもちろん、日々の仕事や一番大事な出陣について、それら全てを頭に叩き込まねばなるまい。
「え、あ、はい」
「そうだね。この中は広そうだし、迷っては困るからね」
こんのすけの小さな体に着いて行く一人と一振り。
深見が歌仙同様キョロキョロと興味深げに見て歩くので、歌仙は審神者が自分と同じでまだここにどんな部屋があるのかわからないと悟ったらしい。
「おや、主はまだ屋敷の中がどうなっているのか知らないのかい?」
「うん。私もまだここに到着したばかりだったから……」
といっても、本丸の大きさや広さは審神者の霊力の強さによるらしい。
霊力が強いほど、望むまま部屋数を増やしたりと好きに増築できる。
前に聞いた時はなんと便利なんだろう、と思ったものだ。
これから増えるであろう大勢の刀剣男士達の部屋、厨、厠、浴場、稽古場、審神者の部屋など、案内をするこんのすけに連れられてやってきたのは刀装の部屋である。
その向こうの方には、庭があり、その向こうに出陣のための装置とゲートが設置されていた。
「このままあちらで刀装作成、そして出陣になりま……」
刀装部屋を指して、刀装を作るよう指示される。
が、歌仙の分の刀装を今作ってしまうと彼はその流れで確実に一振りだけで出陣し、絶対に傷を負って帰ってくる事となる。
それだけは嫌だ。
「こんちゃん、私は装備品を作るより、出陣するより、まずは鍛刀したいです」
「なぜだい?僕一振では、何か問題があるのかい?」
こんのすけではなく、その問いに不服そうに問いを返すのは歌仙だ。
「一振りでは確実に怪我することになる。私は歌仙に怪我してほしくない……それが例えほんのかすり傷だったとしても」
どこか遠くを見て言う主に、歌仙は何も言えなかった。
「わかりました。深見殿のお気持ち、しかと受け取りました。鍛刀部屋へ向かいましょう!」
「やれやれ。鍛刀が終わるまでは、僕は戦えないというわけだ」
「ごめんね、ありがとう」
刀装部屋の更に奥、入り口に注連縄の垂れ下がる鍛刀部屋があった。
中に入るとすぐ出迎えるのは小さな式神達であり、この者たちに依頼札を渡して鍛刀は始まる。
ここの家主である深見の霊力で実体を保っているに過ぎないらしい彼らは、かわいらしくちょこんとお辞儀して迎えてくれた。
「深見殿、どのくらいの量の資材を使いますか?」
ここはまず短刀を呼びたいと思う。
いきなり大量の資材を投入しても、太刀や大太刀が出来上がるとは思えないし、そもそも資材が足りない。
「歌仙……どのくらいにしようか?」
「そんな事は聞かないでくれ。僕は計算ごとは苦手なんだ」
「私も計算は苦手よ」
「「…………」」
暫し無言の攻防。
「じゃ、最初に並べられてる五十ずつで……」
「ああ、下手に弄らずいた方が良いと僕も思ったんだ」
どのくらいにしたら良いかわからない新米審神者のためだろう、やはり五十ずつで設えてあった資材。
私達はそのままの量で、式神に鍛刀を頼む事にした。
木炭、玉鋼、冷却材、砥石五十に、依頼札。それらを渡せば後は時間を見て鍛刀は完了する。
短刀ならば、そこまで時間もかからないであろう。
本当はここで手伝い札を使うと、早くて助かるのだが、今はここにいるかわいらしい式神達に任せて、その間に内番の説明をすませてしまおうと思った。