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とうらぶの短いお話

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審神者としての名前を決めて下さい

博物館は小さい。
あっという間に燭台切光忠が展示されている仄暗い空間に辿り着いてしまった。
透明なガラスケースの中、スポットライトを浴びる黒と金の刀身が鈍く、鋭く輝いている。

ああ、そうだった。
デートでも、なんでもいい。
今日は『燭台切光忠』、彼を見に来たのだ。

深見は決めている。
刀を見に行く際には、必ずその刀の付喪神様を連れて行くと。

その刀にとって、それがトラウマを引き起こす可能性がないわけじゃない。
けれど、刀としての自分の尊さ、素晴らしさ、それに人間達はこんなにも貴方達を愛し、たたえ、想っているのだと、少しでも伝えられたらいいな……と思うのだ。
斬る事が刀の本分だからそれが嬉しいかどうかはわからないし、烏滸がましい思いだとは理解しているが。

ふらふらと、ガラスケースへ歩み寄る深見
そのあとに光忠も続いて、ガラスケースの中に鎮座する自身の刀身を見つめた。

伊達政宗公のところにあったはずの燭台切光忠が、何故『徳川』ミュージアムに。
それは徳川光圀公が所望したからである。
かの織田信長公が磨りあげさせたのち、伊達政宗公の元へ渡った、との話も残っているほど、燭台切光忠は色々とモテモテの刀だったそうだ。

でも、その気持ちはわかる。

「綺麗……ほんと、美しい。それしか言えないよね」

見つめる先にいる光忠は、ただただそこでじっと時を過ごし、佇んでいる。
刀身が黒く焼け焦げてしまい、目釘穴はあっても柄と中子をくっつけるのは至難の技。
刀として振るわれる事はもう望めない。
それでも、その切っ先に触れれば、スッパリと切れてしまうのではないか、そんな気さえする美しさ。
そう。
燭台ごと小姓を切ってしまったという、その話の通りに。

「金のハバキが溶けちゃったあとかな?金色が黒い刀身を包んでて、とても綺麗よ、光忠」

恋する乙女のような顔になっているであろう事は、鏡を見ずともわかる。
審神者になるもっと前から、もともと刀剣は好きなのだから。

「きっと燃える前も綺麗だったんだろうなぁ……」
「うーん。その頃の自分の姿は見たことがないんだ。誰かが鏡に映してくれるわけじゃないしね」

綺麗、綺麗と言われて嬉しくないわけがない。
けれど、山姥切くんが『綺麗とか言うな』なんて言う気持ちも少しわかるような気がした。

「会えて嬉しいわ」

深見は、今度は嬉し涙を一粒、ほろりと零している。
長く会っていなかった恋人に会った、そんな感じ。

複雑。
うん、複雑。

光忠は心の中がモヤモヤするのを感じた。

「なんだか変な感じ」
「どうしたの?」
「褒めてもらうのはすごく嬉しい。
けど、僕を目の前にして本体ばかり褒めるのはちょっと妬けちゃうなーって」
「何よそれ。どっちも光忠でしょ」
「二振り目の僕に対する僕みたいなものだよ」

当本丸では二振り目の刀剣が鍛刀された場合、その際に場にいた刀剣男士と連結させる。
また、戦場で拾って来た場合も然り。
それはやって来た刀剣男士も了解済みで行なっている。

だから基本的には同じ刀剣男士での連結は少ない。
……基本的には。
ごくごくたまーに本人が鍛刀してしまったり拾って来たり、という案件が発生することもあるが。

本人同士、嫉妬する事もあるらしいけれど、我が本丸ではそれについて問題が起きた事はない。
これからあったらどうしようとか、ちょっとだけ思った。
多分、光忠が言っているのはそれに近い。
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