その1、二度目の審神者業
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詳細は省こう。
歴史改変主義者率いる時間遡行軍の数は多く、だのに政府お抱えの審神者が足りなかったのだ。
猫の手も借りたいほどだったのだろう。一度審神者を辞めた自分に白羽の矢が立つのは早かった。
まだ、霊力がある事も発覚してしまったのだ。
もう二度とすることはないと思っていた審神者業。
私は、その審神者として再び本丸を持つこととなった。
審神者名、深見として。
真新しいいぐさの芳香に包まれた畳張りの大広間で、小さな管狐が一匹と審神者である自分が一人。
もったいないほどの広さで居心地が悪い中、座布団に向かい合わせで座る。
鹿威しがカコン、と静寂を破って響く中、管狐が口を開いた。
「深見様が審神者になるのは二度目になりますね」
「はい」
「なので審神者として何をすべきか、やるべきこととやってはならぬこと、すべてわかっていることと思います。詳しく説明しませんがよろしいですか?」
「もちろんです」
「そして深見様の担当する国はこちらの薩摩国となります」
「さつ、ま……」
本丸の場所までは聞かされていなかったが、なるほど。今度は簡単に辞めないようにと、実家の位置からは遠いとされる土地での審神者業となったわけか。
一度本丸に居を構えてしまえば、自分は政府に申請して休みを取らなくてはならず、簡単に現世に帰る事はできない。
半分幽世と化したこの神の領域からは許可なしに出ることができないのだ。
許可を得てここから現世に戻ると、まず最初に辿り着くのは薩摩国なら薩摩国の、備前国なら備前国の政府部署へと行くこととなる。
実家に近ければいいが、その場所が実家から遠ければ、それだけで帰りづらいし、政府も良しとしないはず。
例外を認めないためにも、このような遠い地へよこされたのだろうと思う。
「あ。わたくしの事はこんちゃん、とお呼びいただければ幸いでございます。
それまでの堅苦しい言葉が嘘のように、管狐が尾を揺らしながらいきなりそんな事を申し出て来た。
「こ、こんちゃん……?」
「はい!」
こんのすけ、と呼ばれるこの管狐は、政府からの通達や指示、などを担当しており非常にビジネスライクな性格をしているのがほとんどで、前の時もそうだった。
もしかしたら、こんのすけにもそれぞれ個性や性格があるのかもしれない。
自身は見た事がなかったが、他の本丸のこんのすけは、自分の本丸のこんのすけと見分けがつくよう、白でなく黒の管狐に見えるのだと聞く。
この本丸のこんのすけは、やけに友好的に見えた。
そうでなければ自ら相手に呼ばれたい呼称など伝えてくるはずがない。
何かあったらこのこんのすけに頼る、それもいいかも……と思う。
「早速ですが、この五振りの打刀より、初期刀をお選びください。
どの刀剣男士も、深見様のお力になってくださるでしょう!」
「わかりました」
こんのすけがずずいとこちらに見せつけてくる、五振りの打刀。
右から順に、どれも見た事のある刀ばかり。
まず、加州清光。
深みのある赤い鞘に黒の映える装飾を持つ、一振りだ。
彼の前持ち主は、かの有名な新選組の沖田総司。
自身の出生ゆえか、見た目を気にし、愛されること、かわいがってもらうことが好きな刀剣だったはず。
次に歌仙兼定か。
薄紫にも見える純白の散らし塗りに、印籠刻みという鞘の形をしている美しい一振り。
雅な物や事、風流を愛し、加州清光とは違った意味で見た目を気にする美丈夫であった。
以前の時、彼はまだ本丸に顕現したばかりであり、会話した回数も少ない。
さらに隣に目を向ける。
神々しい。一言で言い現すならそんなところか。
どこを見ても金、金。ゴールドに輝く鞘と柄と鍔。まばゆいばかりの黄金塗りのこの刀は、蜂須賀虎徹。
そう、あの有名な虎徹だ。
虎徹であることに、誇りを持つ彼も初期刀の一振りであった。
その隣に黒塗りの鞘に金色の下げ緒、深緑の巻き柄が力強い、陸奥守吉行。
顕現した付喪神としての姿も、力強く豪快で、前の持ち主を彷彿とさせる性格をしていた。
前の持ち主とは、坂本龍馬である。
そして。
山姥切国広。
彼には目を向けない。いや、向けることができないのだ。
触れることも憚られた。
「深見殿?」
黙り込む私は、そう見えたのだろう。心配したこんのすけが私の顔を覗き込んできて、その大粒の瞳に自分が映っているのがわかった。
「もしかして不安がっておられるのですね?大丈夫ですよ!!
一度審神者になったことのある深見様ならば、今度はきっと間違うわけがありません!
失敗は成功の父というではありませぬか!」
「こんちゃん、それをいうなら失敗は成功の母、なんだけど……」
「わあ、さっそく呼んでくださいましたね!」
きゃいきゃいと嬉しそうに尻尾を振っている。
思わず、その頭を撫でてしまったが、こんのすけはそれすらも喜んでいた。
撫でながら刀達を見て考える。
『今度は』か。
本当は今でも審神者になることに抵抗がなかったわけじゃない。
今も気乗りはしていない。
しかし、やるからには今度こそしっかりやり遂げなくてはならない。
生半可な気持ちでは、刀剣男士達に失礼だ。
でも。
きっと、出陣と鍛刀を繰り返せば、再び『彼』と会うことにもなろう。
私はそれがとても怖い。
その時どうすればいいんだろう。
どんな顔して新たに顕現した彼を迎えればいいんだろう。
今はまだ、彼の顔を、彼の本体である刀を目に映すことは私にはとてもできなかった。
彼を選びたいと思う私がいるのと同時に、彼と会いたくないと思う私がいる。
ごめんね、私は心の中で謝罪の言葉を述べた。
歴史改変主義者率いる時間遡行軍の数は多く、だのに政府お抱えの審神者が足りなかったのだ。
猫の手も借りたいほどだったのだろう。一度審神者を辞めた自分に白羽の矢が立つのは早かった。
まだ、霊力がある事も発覚してしまったのだ。
もう二度とすることはないと思っていた審神者業。
私は、その審神者として再び本丸を持つこととなった。
審神者名、深見として。
真新しいいぐさの芳香に包まれた畳張りの大広間で、小さな管狐が一匹と審神者である自分が一人。
もったいないほどの広さで居心地が悪い中、座布団に向かい合わせで座る。
鹿威しがカコン、と静寂を破って響く中、管狐が口を開いた。
「深見様が審神者になるのは二度目になりますね」
「はい」
「なので審神者として何をすべきか、やるべきこととやってはならぬこと、すべてわかっていることと思います。詳しく説明しませんがよろしいですか?」
「もちろんです」
「そして深見様の担当する国はこちらの薩摩国となります」
「さつ、ま……」
本丸の場所までは聞かされていなかったが、なるほど。今度は簡単に辞めないようにと、実家の位置からは遠いとされる土地での審神者業となったわけか。
一度本丸に居を構えてしまえば、自分は政府に申請して休みを取らなくてはならず、簡単に現世に帰る事はできない。
半分幽世と化したこの神の領域からは許可なしに出ることができないのだ。
許可を得てここから現世に戻ると、まず最初に辿り着くのは薩摩国なら薩摩国の、備前国なら備前国の政府部署へと行くこととなる。
実家に近ければいいが、その場所が実家から遠ければ、それだけで帰りづらいし、政府も良しとしないはず。
例外を認めないためにも、このような遠い地へよこされたのだろうと思う。
「あ。わたくしの事はこんちゃん、とお呼びいただければ幸いでございます。
それまでの堅苦しい言葉が嘘のように、管狐が尾を揺らしながらいきなりそんな事を申し出て来た。
「こ、こんちゃん……?」
「はい!」
こんのすけ、と呼ばれるこの管狐は、政府からの通達や指示、などを担当しており非常にビジネスライクな性格をしているのがほとんどで、前の時もそうだった。
もしかしたら、こんのすけにもそれぞれ個性や性格があるのかもしれない。
自身は見た事がなかったが、他の本丸のこんのすけは、自分の本丸のこんのすけと見分けがつくよう、白でなく黒の管狐に見えるのだと聞く。
この本丸のこんのすけは、やけに友好的に見えた。
そうでなければ自ら相手に呼ばれたい呼称など伝えてくるはずがない。
何かあったらこのこんのすけに頼る、それもいいかも……と思う。
「早速ですが、この五振りの打刀より、初期刀をお選びください。
どの刀剣男士も、深見様のお力になってくださるでしょう!」
「わかりました」
こんのすけがずずいとこちらに見せつけてくる、五振りの打刀。
右から順に、どれも見た事のある刀ばかり。
まず、加州清光。
深みのある赤い鞘に黒の映える装飾を持つ、一振りだ。
彼の前持ち主は、かの有名な新選組の沖田総司。
自身の出生ゆえか、見た目を気にし、愛されること、かわいがってもらうことが好きな刀剣だったはず。
次に歌仙兼定か。
薄紫にも見える純白の散らし塗りに、印籠刻みという鞘の形をしている美しい一振り。
雅な物や事、風流を愛し、加州清光とは違った意味で見た目を気にする美丈夫であった。
以前の時、彼はまだ本丸に顕現したばかりであり、会話した回数も少ない。
さらに隣に目を向ける。
神々しい。一言で言い現すならそんなところか。
どこを見ても金、金。ゴールドに輝く鞘と柄と鍔。まばゆいばかりの黄金塗りのこの刀は、蜂須賀虎徹。
そう、あの有名な虎徹だ。
虎徹であることに、誇りを持つ彼も初期刀の一振りであった。
その隣に黒塗りの鞘に金色の下げ緒、深緑の巻き柄が力強い、陸奥守吉行。
顕現した付喪神としての姿も、力強く豪快で、前の持ち主を彷彿とさせる性格をしていた。
前の持ち主とは、坂本龍馬である。
そして。
山姥切国広。
彼には目を向けない。いや、向けることができないのだ。
触れることも憚られた。
「深見殿?」
黙り込む私は、そう見えたのだろう。心配したこんのすけが私の顔を覗き込んできて、その大粒の瞳に自分が映っているのがわかった。
「もしかして不安がっておられるのですね?大丈夫ですよ!!
一度審神者になったことのある深見様ならば、今度はきっと間違うわけがありません!
失敗は成功の父というではありませぬか!」
「こんちゃん、それをいうなら失敗は成功の母、なんだけど……」
「わあ、さっそく呼んでくださいましたね!」
きゃいきゃいと嬉しそうに尻尾を振っている。
思わず、その頭を撫でてしまったが、こんのすけはそれすらも喜んでいた。
撫でながら刀達を見て考える。
『今度は』か。
本当は今でも審神者になることに抵抗がなかったわけじゃない。
今も気乗りはしていない。
しかし、やるからには今度こそしっかりやり遂げなくてはならない。
生半可な気持ちでは、刀剣男士達に失礼だ。
でも。
きっと、出陣と鍛刀を繰り返せば、再び『彼』と会うことにもなろう。
私はそれがとても怖い。
その時どうすればいいんだろう。
どんな顔して新たに顕現した彼を迎えればいいんだろう。
今はまだ、彼の顔を、彼の本体である刀を目に映すことは私にはとてもできなかった。
彼を選びたいと思う私がいるのと同時に、彼と会いたくないと思う私がいる。
ごめんね、私は心の中で謝罪の言葉を述べた。