その2、連続鍛刀と体調不良
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五虎退の涙をきっかけに、やっと我に帰ったらしい薬研、鯰尾も深見を囲む。
「一体何が起きてるんです?なんで主は倒れたんですか!大丈夫なんですかこの本丸ぅぅ~!?」
「……なんでいきなり倒れたのかどうかとかはわからねぇが、初っ端から連続で鍛刀したってのだけは理解できたぜ」
「う、迷惑かけちゃってごめんなさい……」
どこか顔の赤い深見が歌仙の腕の中、しゅんと項垂れて言う。
心配しているから。大切だから。
その気持ちからなおも歌仙がお叱りの言葉を紡ごうと口を開いた時。
「歌仙の旦那、だったか?そこまでにしときな。大将、熱が出てるようだぜ」
止めたのは顕現したばかりの薬研藤四郎だった。
「え、私熱出てたの?」
「熱だって?
……って主も自分のことなのにわからなかったのかい!?」
顔が赤かったのは、照れたわけでも恥からでもなく熱があったからか。
たしかに体が少々熱いようだが。
霊力が切れかかった影響がこんなところにも出るとは。
「大将を俺に渡してくれ。
俺っちは多少だが医術の心得がある」
「あ、ああ、頼むよ。えっとたしか……」
「薬研藤四郎だ」
「僕は歌仙兼定。この本丸の初期刀だ」
「だろうな」
連続鍛刀もそうだが、その距離の近さは初期刀だからこそ。
歌仙からそっと託された深見を横抱きにし、薬研は歌仙や乱の案内で審神者用の部屋へと急いだ。
なに。深見よりも背は小さくとも、刀の付喪神ゆえ、女人ひとり抱えるくらいわけない。
先に行っていた前田の敷いた布団に深見を寝かせ、皆で囲む。
「大将、辛いだろ。……寝てろ」
「~~~ッ、でも、」
「僕はあとで粥を作って持ってくるよ。熱を下げるものもね。それまでくらいはゆっくり寝ていてくれ」
「……わかったわ、少し寝ます」
不甲斐ない思いを味わいながらも、審神者は静かに目を閉じ、そして眠りに落ちる。
やはり疲れていたのだろう、すぐに寝息が聞こえてきた。
「薬研兄さん、あるじさまは大丈夫なんですか?
「心配すんな、五虎退。ただの疲労から来る体調不良だ」
歌仙の手伝いや鍛刀部屋の片付けに行ってしまった乱と前田、鯰尾。
ここには深見を泣くほど(本当に泣くほど)心配した五虎退と虎が、薬研の側近く座していた。
急に出た熱は下がるのも早い。それが風邪ではなく疲労からならなおさら。
しばらくの間深見の肌に噴き出た玉の汗をぬぐっていれば、五虎退が額に置いた手ぬぐいが温くなっているのに気がついた。
「あの、僕……手ぬぐい交換してきますね」
「ああ、頼むぜ」
五虎退が行ってしまってから。
薬研は深見の首すじから胸元にかけて、汗が滲んでいるのに気がついた。
「大将、少し失礼するぜ。…………ッ」
拭くために着物の胸元を少しはだけさせる。
短刀という刀種がら、長い歴史の中で裸もなにもかも見慣れている方だった薬研は、深見の病的にも見えるほど白く透き通るような肌を目にする。
精神的に弱い人間は肉体も弱い場合があるらしい。痛々しいほど白いのはそのせいか。
薬研は深見の命の鼓動を確かめるように、鎖骨付近の血潮流るる肌をなぞった。
触れても、審神者は「ん、」と声を漏らすだけで起きない。
……この霊力が心地良いと思ったから、俺は審神者の呼び声に応えた。
だのに、顕現して初めて目にしたこの審神者は、既に心に闇を抱えていた。
審神者は予想以上に心体が弱かった。
弱いのなら……辛いのなら……、いっそ、自分のものにしてしまえば、この心地良い霊力が尽きることも苦痛を感じることも苦悩することもなくなるだろう。
そう、連れて行ってしまえばいいーーー。
「薬研?」
「!!…………鯰尾の兄貴か」
ひょっこりと顔を出した鯰尾に現実に引き戻された薬研。
危なかった、あのままでいたら。
……あのままでいたら?
「女人の体ってやっぱり柔らかそうですね」
鯰尾の位置から、深見のふっくらした胸の膨らみがチラリと見えたようだ。
気がついた薬研はササっと着物を直してやり、鯰尾の視線から守った。
「あるじさん、早く良くなってくださいよ~。そして揉ませてください」
何をだ、何を。
視姦擬きするだけでは飽き足らず、我が兄ながらなんという発言。
はあ……と薬研がため息を吐き出していれば、薬研の言わんとしている事を背後に来ていた歌仙に言われてしまった。
「君は女人に対して失礼だね」
歌仙だけでなく他の兄弟刀もいるが、各々の手にはホカホカと湯気立てる土鍋や湯のみ、五虎退の手には冷たい手ぬぐいがあった。
「俺に免じて勘弁してやっちゃあくれないか、鯰尾の兄貴はただの助兵衛なんだ」
「薬研、その発言逆に貶めてるようにしか聞こえない!」
「……わかったよ。全く、どっちが兄かわかったものじゃないね」
「あるじさん、おーきーてー!」
薬を飲むためにも食事を摂らせねばなるまい。
甘えるようにすり寄って深見を起こす乱を眺めながら、薬研は自身の手のひらを呆けて見つめた。
顕現したばかりだというに、邪な考えを持ってしまった。刀剣男士にとって守るものは、歴史だけでなく、審神者もそのひとつだというのに。
あと少しで審神者を連れて行ってしまうところだった。
真名も知らぬまま無理やり連れて行くことはしようと思えばできる。すごく無理やりだが。
だが、知らぬままであり、行く事を望まぬ者にとっては、『あちら側』は逆に苦痛にしかならないのだ。
そんな事してはいけない。……思うことすら、禁忌だ。
薬研は思った。
少しの間浮かんでしまったこの想いには、固い蓋をして思考の水底に沈めておこう、と。
「一体何が起きてるんです?なんで主は倒れたんですか!大丈夫なんですかこの本丸ぅぅ~!?」
「……なんでいきなり倒れたのかどうかとかはわからねぇが、初っ端から連続で鍛刀したってのだけは理解できたぜ」
「う、迷惑かけちゃってごめんなさい……」
どこか顔の赤い深見が歌仙の腕の中、しゅんと項垂れて言う。
心配しているから。大切だから。
その気持ちからなおも歌仙がお叱りの言葉を紡ごうと口を開いた時。
「歌仙の旦那、だったか?そこまでにしときな。大将、熱が出てるようだぜ」
止めたのは顕現したばかりの薬研藤四郎だった。
「え、私熱出てたの?」
「熱だって?
……って主も自分のことなのにわからなかったのかい!?」
顔が赤かったのは、照れたわけでも恥からでもなく熱があったからか。
たしかに体が少々熱いようだが。
霊力が切れかかった影響がこんなところにも出るとは。
「大将を俺に渡してくれ。
俺っちは多少だが医術の心得がある」
「あ、ああ、頼むよ。えっとたしか……」
「薬研藤四郎だ」
「僕は歌仙兼定。この本丸の初期刀だ」
「だろうな」
連続鍛刀もそうだが、その距離の近さは初期刀だからこそ。
歌仙からそっと託された深見を横抱きにし、薬研は歌仙や乱の案内で審神者用の部屋へと急いだ。
なに。深見よりも背は小さくとも、刀の付喪神ゆえ、女人ひとり抱えるくらいわけない。
先に行っていた前田の敷いた布団に深見を寝かせ、皆で囲む。
「大将、辛いだろ。……寝てろ」
「~~~ッ、でも、」
「僕はあとで粥を作って持ってくるよ。熱を下げるものもね。それまでくらいはゆっくり寝ていてくれ」
「……わかったわ、少し寝ます」
不甲斐ない思いを味わいながらも、審神者は静かに目を閉じ、そして眠りに落ちる。
やはり疲れていたのだろう、すぐに寝息が聞こえてきた。
「薬研兄さん、あるじさまは大丈夫なんですか?
「心配すんな、五虎退。ただの疲労から来る体調不良だ」
歌仙の手伝いや鍛刀部屋の片付けに行ってしまった乱と前田、鯰尾。
ここには深見を泣くほど(本当に泣くほど)心配した五虎退と虎が、薬研の側近く座していた。
急に出た熱は下がるのも早い。それが風邪ではなく疲労からならなおさら。
しばらくの間深見の肌に噴き出た玉の汗をぬぐっていれば、五虎退が額に置いた手ぬぐいが温くなっているのに気がついた。
「あの、僕……手ぬぐい交換してきますね」
「ああ、頼むぜ」
五虎退が行ってしまってから。
薬研は深見の首すじから胸元にかけて、汗が滲んでいるのに気がついた。
「大将、少し失礼するぜ。…………ッ」
拭くために着物の胸元を少しはだけさせる。
短刀という刀種がら、長い歴史の中で裸もなにもかも見慣れている方だった薬研は、深見の病的にも見えるほど白く透き通るような肌を目にする。
精神的に弱い人間は肉体も弱い場合があるらしい。痛々しいほど白いのはそのせいか。
薬研は深見の命の鼓動を確かめるように、鎖骨付近の血潮流るる肌をなぞった。
触れても、審神者は「ん、」と声を漏らすだけで起きない。
……この霊力が心地良いと思ったから、俺は審神者の呼び声に応えた。
だのに、顕現して初めて目にしたこの審神者は、既に心に闇を抱えていた。
審神者は予想以上に心体が弱かった。
弱いのなら……辛いのなら……、いっそ、自分のものにしてしまえば、この心地良い霊力が尽きることも苦痛を感じることも苦悩することもなくなるだろう。
そう、連れて行ってしまえばいいーーー。
「薬研?」
「!!…………鯰尾の兄貴か」
ひょっこりと顔を出した鯰尾に現実に引き戻された薬研。
危なかった、あのままでいたら。
……あのままでいたら?
「女人の体ってやっぱり柔らかそうですね」
鯰尾の位置から、深見のふっくらした胸の膨らみがチラリと見えたようだ。
気がついた薬研はササっと着物を直してやり、鯰尾の視線から守った。
「あるじさん、早く良くなってくださいよ~。そして揉ませてください」
何をだ、何を。
視姦擬きするだけでは飽き足らず、我が兄ながらなんという発言。
はあ……と薬研がため息を吐き出していれば、薬研の言わんとしている事を背後に来ていた歌仙に言われてしまった。
「君は女人に対して失礼だね」
歌仙だけでなく他の兄弟刀もいるが、各々の手にはホカホカと湯気立てる土鍋や湯のみ、五虎退の手には冷たい手ぬぐいがあった。
「俺に免じて勘弁してやっちゃあくれないか、鯰尾の兄貴はただの助兵衛なんだ」
「薬研、その発言逆に貶めてるようにしか聞こえない!」
「……わかったよ。全く、どっちが兄かわかったものじゃないね」
「あるじさん、おーきーてー!」
薬を飲むためにも食事を摂らせねばなるまい。
甘えるようにすり寄って深見を起こす乱を眺めながら、薬研は自身の手のひらを呆けて見つめた。
顕現したばかりだというに、邪な考えを持ってしまった。刀剣男士にとって守るものは、歴史だけでなく、審神者もそのひとつだというのに。
あと少しで審神者を連れて行ってしまうところだった。
真名も知らぬまま無理やり連れて行くことはしようと思えばできる。すごく無理やりだが。
だが、知らぬままであり、行く事を望まぬ者にとっては、『あちら側』は逆に苦痛にしかならないのだ。
そんな事してはいけない。……思うことすら、禁忌だ。
薬研は思った。
少しの間浮かんでしまったこの想いには、固い蓋をして思考の水底に沈めておこう、と。