その2、連続鍛刀と体調不良
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この本丸の事を前田に教えるのは、前述した通りふた振り目の乱の仕事だ。
乱が色々教えたり案内したりしている間、深見は歌仙と夕餉の支度をするため、厨に来ていた。
襷掛けをして頭を結った、内番姿の歌仙は、本刃が聞いたら怒られそうだが戦装束とは違ってとても可愛らしく見える。
髪を結んでいる姿とか。
「……どうだい?」
歌仙が初めて振るう包丁。初めて作る料理。
それは見た目こそ完璧で、飾り切りも為された美しい物だったが、味は……。
「うーん。味がない……ね」
「……そうか。雅に出来たと思ったが、なかなか上手くいかないものだね」
「雅ならいいわけではないのよ。
見た目も大事だけど、味付けも伴ってこそ。
料理の基本、さしすせそも交えてひとつひとつ覚えよっか」
「お手柔らかに頼むよ」
二度、三度の試行錯誤。
干天の慈雨の如く、覚えが早かった歌仙の純和食。
「今度はどうだろうか。かなり近づけたと思うんだ」
作り終わって手拭きで手を拭った歌仙がどこか不安そうに聞く。
一口、ぱくりと食べただし巻き卵は、ふんわりと出汁香る一品となっていた。
昼前に深見が作ったあの味とほとんど変わらず美味い。いや、深見が作った物以上で、料亭で出してもおかしくない味だ。
「美味しい……、とても美味しい」
「よかった。では夕餉はこれでいこう」
初めてにしては難易度の高い物に挑戦してしまったが筑前煮、それにほうれん草の胡麻よごしに、だし巻き卵、そして簡単な汁物と白いご飯だ。これが本日の夕飯。
深見が作る物より味はもちろん、見た目も雅な盛り付け。
その他、和食の定番と言われる料理も歌仙に教えてあるから今後は安心だ。
ついでに大人数に増えた時用に、カレーや丼ぶり物、それに揚げ物のレシピをまとめておくと便利かもしれない。
「刀とはいえ、こうして肉体を得て、自分の足で動ける、考えられる……。和歌や茶道、風雅を愛でる事が出来るようにならと思うととても嬉しい……」
ありがとう、そう言った歌仙からふわりと桜の花弁が舞った。
心から喜んでいる証ともとれる誉桜だが、歌仙の美しい笑顔ととても合っていた。
「明日の朝餉も楽しみにしていてくれよ」
「あら、いきなり一人で大丈夫なの?」
「どうしても困ったら君を呼ぶよ。作れる料理の種類もまだまだ少ないからね」
「……朝の弱い私が起きているといいけど」
「君は朝が苦手か。だが、早起きは三文の徳、違うかい?」
「うっ、……そうね」
つい本音が漏れてしまって後悔した。
歌仙の有無を言わさぬにっこり笑顔がそこには待っていた。
明日の朝は叩き起こされそうだ。
調理の後片付けをしながら、深見はそういえば、と聞いてみる。
「私が作る料理には神気が宿ってしまうと言っていたけれど、私がたまに作るのもだめなの?
趣味とまでいかないけれど、料理するのは嫌いじゃないのよ」
前の本丸では、始めの頃はレトルトで、あとは完全に刀剣男士にお願いしてしまっていた厨の管理と日々の食事。
歌仙の言う事が本当ならば、あの頃深見の料理も振舞っていたら、結末は変わっていたのかな。と、まあ今更なことを考えてしまった。
「そうだね。……それまでに他にも料理のできる刀剣男士が来る事を祈るけど、1人で回らなくなったら頼もうかな」
「なら誉を取った時のご褒美にしてほしいな。
南蛮渡来のお菓子とか食べたーい!」
「ちょっと乱兄さん……!」
その時、背後から短刀の声がした。
見れば乱と前田が、厨の暖簾の向こうからひょいと顔を覗かせていた。
「誉の褒美に主の菓子……?一体キミは何を考えているんだ」
「それくらいいいじゃない歌仙。
乱、ご褒美がお菓子なんかでいいの?」
「もっちろん!でも、お菓子以外のご褒美もらうのもいいなぁ~」
「用意出来る物ならなんでもいいわよ?
前田は何がいい?」
「でしたら……あの、撫でてもらいたいです」
「撫でる事くらいいつだってするわ」
「わぁ……!」
前田の目線の高さまでしゃがむと、その頭に手を置き、そっと撫でる。
驚きつつもすごく喜んでいるのは、その桜吹雪の量で丸わかりだ。
ただ、相手は見た目は小さくとも深見の数百倍は長い年月を生きた神様だ。
神様相手に失礼ではないかと、抵抗はあった。
ふと、その前田の手に、刀装があるのが目に入る。
銀色にまばゆいそれは、刀装・上だ。
「いかがでしょうか」
嬉しそうに見せてくる前田に、深見はもう一度ぽんぽんと撫でる。
「へへっ。前田の刀装作りと本丸の案内は終わったところだよ」
「乱、苦労様でした。前田もお疲れ様。
お茶を淹れるから、大広間で休憩してて。歌仙も料理ばっかり疲れたでしょ」
「いや、僕は別に……」
お抹茶ではないが、濃いめのお茶を淹れて茶菓子を添え、深見は乱、前田、そして歌仙を大広間へ促す。
これは、桜の花弁を模したらしい薄紅色の上生菓子を、端末で現世より取り寄せておいたもの。
今は昔流通していた配送会社よりも速く、頼んですぐに届く。審神者の端末はとても便利だ。
「歌仙さんは誉取ったご褒美いらないの?」
「望みなんてすぐに出来る物ではないよ。……まずは誉を取ることだ」
茶を置いて風呂を沸かしに行き、大広間に戻ると、それぞれが優雅に、そして美味しそうに茶を飲んでそんな会話をしていた。
特に、庭の桜から舞い散る花弁を眺めながら一服する歌仙の姿と言ったら!
言っている事も伴い、かっこよくて風流で……少しの間惚けてしまった。
気を取り直して、声をかける。
「お風呂にお湯を張っておいたわ。あとでみんなで湯浴みをどうぞ。
入り方は歌仙に聞いてちょうだい」
「あるじさん一緒に入ろうよ」
「ごめんね、私はあとで入るわ。まだ仕事が残ってるから執務室へ戻るね」
共に入りたがる乱のお誘いをやんわりと断り、その場を後にする。
「乱兄さん、主君は女人ですよ。我々と共に入るのはできないでしょう」
「知ってるー!」
「知ってて言ってたのか君」
乱が色々教えたり案内したりしている間、深見は歌仙と夕餉の支度をするため、厨に来ていた。
襷掛けをして頭を結った、内番姿の歌仙は、本刃が聞いたら怒られそうだが戦装束とは違ってとても可愛らしく見える。
髪を結んでいる姿とか。
「……どうだい?」
歌仙が初めて振るう包丁。初めて作る料理。
それは見た目こそ完璧で、飾り切りも為された美しい物だったが、味は……。
「うーん。味がない……ね」
「……そうか。雅に出来たと思ったが、なかなか上手くいかないものだね」
「雅ならいいわけではないのよ。
見た目も大事だけど、味付けも伴ってこそ。
料理の基本、さしすせそも交えてひとつひとつ覚えよっか」
「お手柔らかに頼むよ」
二度、三度の試行錯誤。
干天の慈雨の如く、覚えが早かった歌仙の純和食。
「今度はどうだろうか。かなり近づけたと思うんだ」
作り終わって手拭きで手を拭った歌仙がどこか不安そうに聞く。
一口、ぱくりと食べただし巻き卵は、ふんわりと出汁香る一品となっていた。
昼前に深見が作ったあの味とほとんど変わらず美味い。いや、深見が作った物以上で、料亭で出してもおかしくない味だ。
「美味しい……、とても美味しい」
「よかった。では夕餉はこれでいこう」
初めてにしては難易度の高い物に挑戦してしまったが筑前煮、それにほうれん草の胡麻よごしに、だし巻き卵、そして簡単な汁物と白いご飯だ。これが本日の夕飯。
深見が作る物より味はもちろん、見た目も雅な盛り付け。
その他、和食の定番と言われる料理も歌仙に教えてあるから今後は安心だ。
ついでに大人数に増えた時用に、カレーや丼ぶり物、それに揚げ物のレシピをまとめておくと便利かもしれない。
「刀とはいえ、こうして肉体を得て、自分の足で動ける、考えられる……。和歌や茶道、風雅を愛でる事が出来るようにならと思うととても嬉しい……」
ありがとう、そう言った歌仙からふわりと桜の花弁が舞った。
心から喜んでいる証ともとれる誉桜だが、歌仙の美しい笑顔ととても合っていた。
「明日の朝餉も楽しみにしていてくれよ」
「あら、いきなり一人で大丈夫なの?」
「どうしても困ったら君を呼ぶよ。作れる料理の種類もまだまだ少ないからね」
「……朝の弱い私が起きているといいけど」
「君は朝が苦手か。だが、早起きは三文の徳、違うかい?」
「うっ、……そうね」
つい本音が漏れてしまって後悔した。
歌仙の有無を言わさぬにっこり笑顔がそこには待っていた。
明日の朝は叩き起こされそうだ。
調理の後片付けをしながら、深見はそういえば、と聞いてみる。
「私が作る料理には神気が宿ってしまうと言っていたけれど、私がたまに作るのもだめなの?
趣味とまでいかないけれど、料理するのは嫌いじゃないのよ」
前の本丸では、始めの頃はレトルトで、あとは完全に刀剣男士にお願いしてしまっていた厨の管理と日々の食事。
歌仙の言う事が本当ならば、あの頃深見の料理も振舞っていたら、結末は変わっていたのかな。と、まあ今更なことを考えてしまった。
「そうだね。……それまでに他にも料理のできる刀剣男士が来る事を祈るけど、1人で回らなくなったら頼もうかな」
「なら誉を取った時のご褒美にしてほしいな。
南蛮渡来のお菓子とか食べたーい!」
「ちょっと乱兄さん……!」
その時、背後から短刀の声がした。
見れば乱と前田が、厨の暖簾の向こうからひょいと顔を覗かせていた。
「誉の褒美に主の菓子……?一体キミは何を考えているんだ」
「それくらいいいじゃない歌仙。
乱、ご褒美がお菓子なんかでいいの?」
「もっちろん!でも、お菓子以外のご褒美もらうのもいいなぁ~」
「用意出来る物ならなんでもいいわよ?
前田は何がいい?」
「でしたら……あの、撫でてもらいたいです」
「撫でる事くらいいつだってするわ」
「わぁ……!」
前田の目線の高さまでしゃがむと、その頭に手を置き、そっと撫でる。
驚きつつもすごく喜んでいるのは、その桜吹雪の量で丸わかりだ。
ただ、相手は見た目は小さくとも深見の数百倍は長い年月を生きた神様だ。
神様相手に失礼ではないかと、抵抗はあった。
ふと、その前田の手に、刀装があるのが目に入る。
銀色にまばゆいそれは、刀装・上だ。
「いかがでしょうか」
嬉しそうに見せてくる前田に、深見はもう一度ぽんぽんと撫でる。
「へへっ。前田の刀装作りと本丸の案内は終わったところだよ」
「乱、苦労様でした。前田もお疲れ様。
お茶を淹れるから、大広間で休憩してて。歌仙も料理ばっかり疲れたでしょ」
「いや、僕は別に……」
お抹茶ではないが、濃いめのお茶を淹れて茶菓子を添え、深見は乱、前田、そして歌仙を大広間へ促す。
これは、桜の花弁を模したらしい薄紅色の上生菓子を、端末で現世より取り寄せておいたもの。
今は昔流通していた配送会社よりも速く、頼んですぐに届く。審神者の端末はとても便利だ。
「歌仙さんは誉取ったご褒美いらないの?」
「望みなんてすぐに出来る物ではないよ。……まずは誉を取ることだ」
茶を置いて風呂を沸かしに行き、大広間に戻ると、それぞれが優雅に、そして美味しそうに茶を飲んでそんな会話をしていた。
特に、庭の桜から舞い散る花弁を眺めながら一服する歌仙の姿と言ったら!
言っている事も伴い、かっこよくて風流で……少しの間惚けてしまった。
気を取り直して、声をかける。
「お風呂にお湯を張っておいたわ。あとでみんなで湯浴みをどうぞ。
入り方は歌仙に聞いてちょうだい」
「あるじさん一緒に入ろうよ」
「ごめんね、私はあとで入るわ。まだ仕事が残ってるから執務室へ戻るね」
共に入りたがる乱のお誘いをやんわりと断り、その場を後にする。
「乱兄さん、主君は女人ですよ。我々と共に入るのはできないでしょう」
「知ってるー!」
「知ってて言ってたのか君」