元拍手連載『which?』
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……明け方。
今はまだ太陽が昇ってない時間帯で、空も暗い。
遥か向こうの空が少しだけ白んで来たと思わせるくらいである。
まだ鳥も虫も眠っている。
そんな中、オレは起きていた。
いや、起きたというべきか。
自室を離れ階下の事務所、そこに備え付けられた小さな冷蔵庫からミネラルウォーターのボトルを取り出す。
事務所でも簡単に客をもてなせるよう、昔一緒に住んでいた相棒が置いていったものだが、キッチンに引っ込まなくていいというのは意外と便利だ。
一気飲みしていれば、あいつ……レインも起きたらしい。
小さな足音が降りてくるのが感じとれた。
パコッ。
「わあ!?」
ボトルをぐしゃりと潰す音に驚いたのか、その場で飛び上がっている。
背後にキュウリを置いたネコそのまま。
しかし、ネコと違ったのはその後の行動だ。
バッ!!
「おいおい、随分な物騒なご挨拶だな」
レインが武器として持っていたあのナイフが、突きつけられたのだ。
それも、オレに肩車させるような位置へと飛び上がり、後ろから首筋へとである。背後を取られたが、見えなかったわけでもない。わざとだ、わざと。
そもそもこんな細腕で繰り出されるナイフの傷なぞ、痛くもかゆくもない。
あ、治りが早いだけで痛みはあるか。
「ひっ!なんでいるんですかッ!」
聞きながら律儀にもナイフを鞘に戻し、木に登ったは良いものの、怖くてゆっくりしか降りられぬ子猫のように、よじよじと降りて行くレイン。
肩車みたいで楽しかったのに、もう降りるのか。残念だ。
「なんでって……。ここはオレんちだぜ?家主が歩いてるののどこがおかしい」
「た、確かに……!」
「オレは喉が乾いただけだぞ。お前はどうした?」
「……、寝苦しくて」
ここでのイレギュラーはオレじゃなくて自分の方なのだと気がついたレインが、モジモジと恥ずかしげに言う。
「枕が変わると眠れないクチか……。なんか飲むか?」
単に風邪と発熱のせいとも言える。
オレは「眠れるかもしれないぜ。もっとも、あと数刻で夜が明けるけどな」と、空になった潰れボトルをカラカラと振って示した。
動くものを見ると、目が追うのはネコだから仕方ないらしい。
ボトルの行き先を目に映しながら、レインはボソッとつぶやいた。
「ミルクがいい。…………です」
「オーケー。寒いだろうしホットを用意するぜ」
今は毛布がない。
まだ太陽が出ていないここは室温も低くて寒かろう。
抱きしめて暖めてやる、と言う選択肢も捨て難いがオレだって抱き寄せるのはいかつい野郎より可愛い女の子やセクシーなお姉様達の方がいい。
次に最近話題の男の娘、次点でようやく女の子と間違えやすい身長や声の少年か。
ただしオレよりタッパのあるいかつい野郎、貴様は許さん。
ウーン、そう考えるとレインは及第点……か?
オレも守備範囲バリ広ってわけじゃないが、そこそこ広い方だからなー。
そんなこと考えながらミルクを温めていたら、結構熱くなってしまったかもしれない。
少しでも冷めるようにと、違うマグに移し替えてレインに渡してやる。
……砂糖を入れてもいないのに甘い香りが漂って来た。
ちっとばかし腹減ったな。
「ホラよ」
「……いただきます」
「話してラクになんなら、いくらでも聞くぜ。しかも今ならタダでこの広い胸を借りれるぞ」
「胸は借りない」
「解せぬ」
「…………。
ほんとは嫌な夢見たんですよ」
やっぱり熱かったか、かなりの時間フーフー息を吹きかけ冷まして、苦虫を噛み潰すような顔をするレイン。
「ただそれだけです。話すほどのことでもないし」
「ふーん。……ま、風邪は治ってきたようだな」
「おかげさまで」
ある程度冷めたところで、レインはホットミルクをぺろりと平らげてマグを置く。
ジャパニーズ土下座というのだろうか、それに似たポージングで三つ指ついてこちらに向き直った。テーブルの上ってところがレインらしいけど。
「一宿一飯の恩義はしっかり返します」
「おいおい、いきなりなんだよ。オレも一宿一飯の恩義なんて言葉使ったが、本気に取らなくていいんだぞ?」
「いえ、悪魔から二度も助けてもらったわけですし、風邪も……治してもらったし」
「……そうか」
案外キチッとした性格してやがるんだなこいつ。
恩義を返したと判断したら、その瞬間出て行ってしまいそうだ。
「まあ、二度あることは三度あるからな……。今はここにいた方がいいぜ。
今出て行ったところで、お前みたいにヒョロっちい奴、まーた悪魔に襲われるだけだもんなァ」
「…………」
おっと、言い過ぎたか。
猛虎のような鋭い目で睨んできたぞ。
でも、おいちゃんそんなの悪魔で慣れてるから怖くないもんねー。
「ま、そのままずっとここにいるのも一つの道だ。幸い、部屋はあの通り余ってるしな」
「それは恩を返してからの話です」
「ああ。んじゃ、これからよろしくな、 子猫ちゃん」
猛虎だろうとオレにかかれば、ただの子猫ちゃん。
夜のような濃紺を撫でようと軽い気持ちで手を伸ばしたのだが。
「言っておきますが、まだ信用したわけではありませんから!」
ベシッ!
瞬間に払いのけられてしまった。
痛くはない。逆にレインの手の方が痛いやつだ。
本人は顔に出さないようにしてるぽいので、指摘しないでおく。
「手厳しいなァ……」
そう、痛くはないのだが、心がちょっとだけ痛い。
こんなに拒否されてオレ悲しい……。泣いていいかな?
ヨヨヨ、と心で泣いていたら、更なる一言。
「それと子猫ちゃんって言わないでくれます?」
あまりお気に召さない表現のようだ。
猛虎どころじゃない。
笑顔なのに、笑ってないって言えばわかるか?
だってSEがゴゴゴゴゴだぞ。●ョジョか。
よっぽどの時以外使わないでおこう。
……とか言いつつ、揶揄いたい時には使う。これオレの癖。
「じゃあ、なんて呼べばいいんだ。本当の名前は?
「レイン。貴方がつけた、レインでいいです」
拍子抜けだ。
「まさかオレがつけたレインって名前が気に入ったとかか?」
ギンッ!!
ああ、またそんな目をする。
お前のその見た目で睨むなんて、似合わないからやめた方がいい。
「そんな睨むなっての!……オーケー、んじゃレインな」
「……あんたの名前は?」
「あ」
………………。
「そういやぁ……ちゃんと名乗ってなかったよーな……」
「普通は名前があるなら、最初に名乗ると思いますけどね」
ツンツンしながら言うレインだが、『名前があるなら』なんて言葉使うってことは本名がないと言っているのと同じこと。
気にしている様子は今の所ないが……うーむ。
「オレの名はダンテだ。DANTE、ダ、ン、テ」
「はい。覚えられたら覚えますね」
「おいおい、こんな簡単な名前くらい覚えられなくてどうするよ」
「覚える必要性を感じたら、すぐに覚えますのでお気になさらず」
にっこりと営業スマイルにしか見えない笑顔で言われたッ!
う、うぐぐ。
こいつ、ツンデレのツンの多い奴だと思ったが、クーデレの気がある。
というか全体的にしょっぱい!塩対応!!
オレは甘党なんだぞ。
でもめげないしょげない。押せ押せでオレは行く。
窓の外に広がる空の明暗を確認し、レインに誘うように問いかける。
「……まだ夜明けまで時間がある。オレと一緒のベッドで寝るか?」
「結構です!!」
あー、やっぱこれだよな。
ネロ然りレイン然り、若人を揶揄うのは楽しい。
「ベッドに戻ります。太陽が昇ったら、僕はまたネコの姿になります。
意思の疎通はできるかもしれませんが、会話はできませんからね」
「ああ、了解」
「ダンテ」
階段の手摺に手をかけ、そしてこちらに振り返ったレインが、呼吸するようにその名を紡いだので、オレは反応間に合わず、思わずズッコケそうになった。
「……ミルクは熱くしすぎないでください。猫舌なんで」
暗いからわかりづらかったが、柔らかく微笑んでいたように見えた。
今はまだ太陽が昇ってない時間帯で、空も暗い。
遥か向こうの空が少しだけ白んで来たと思わせるくらいである。
まだ鳥も虫も眠っている。
そんな中、オレは起きていた。
いや、起きたというべきか。
自室を離れ階下の事務所、そこに備え付けられた小さな冷蔵庫からミネラルウォーターのボトルを取り出す。
事務所でも簡単に客をもてなせるよう、昔一緒に住んでいた相棒が置いていったものだが、キッチンに引っ込まなくていいというのは意外と便利だ。
一気飲みしていれば、あいつ……レインも起きたらしい。
小さな足音が降りてくるのが感じとれた。
パコッ。
「わあ!?」
ボトルをぐしゃりと潰す音に驚いたのか、その場で飛び上がっている。
背後にキュウリを置いたネコそのまま。
しかし、ネコと違ったのはその後の行動だ。
バッ!!
「おいおい、随分な物騒なご挨拶だな」
レインが武器として持っていたあのナイフが、突きつけられたのだ。
それも、オレに肩車させるような位置へと飛び上がり、後ろから首筋へとである。背後を取られたが、見えなかったわけでもない。わざとだ、わざと。
そもそもこんな細腕で繰り出されるナイフの傷なぞ、痛くもかゆくもない。
あ、治りが早いだけで痛みはあるか。
「ひっ!なんでいるんですかッ!」
聞きながら律儀にもナイフを鞘に戻し、木に登ったは良いものの、怖くてゆっくりしか降りられぬ子猫のように、よじよじと降りて行くレイン。
肩車みたいで楽しかったのに、もう降りるのか。残念だ。
「なんでって……。ここはオレんちだぜ?家主が歩いてるののどこがおかしい」
「た、確かに……!」
「オレは喉が乾いただけだぞ。お前はどうした?」
「……、寝苦しくて」
ここでのイレギュラーはオレじゃなくて自分の方なのだと気がついたレインが、モジモジと恥ずかしげに言う。
「枕が変わると眠れないクチか……。なんか飲むか?」
単に風邪と発熱のせいとも言える。
オレは「眠れるかもしれないぜ。もっとも、あと数刻で夜が明けるけどな」と、空になった潰れボトルをカラカラと振って示した。
動くものを見ると、目が追うのはネコだから仕方ないらしい。
ボトルの行き先を目に映しながら、レインはボソッとつぶやいた。
「ミルクがいい。…………です」
「オーケー。寒いだろうしホットを用意するぜ」
今は毛布がない。
まだ太陽が出ていないここは室温も低くて寒かろう。
抱きしめて暖めてやる、と言う選択肢も捨て難いがオレだって抱き寄せるのはいかつい野郎より可愛い女の子やセクシーなお姉様達の方がいい。
次に最近話題の男の娘、次点でようやく女の子と間違えやすい身長や声の少年か。
ただしオレよりタッパのあるいかつい野郎、貴様は許さん。
ウーン、そう考えるとレインは及第点……か?
オレも守備範囲バリ広ってわけじゃないが、そこそこ広い方だからなー。
そんなこと考えながらミルクを温めていたら、結構熱くなってしまったかもしれない。
少しでも冷めるようにと、違うマグに移し替えてレインに渡してやる。
……砂糖を入れてもいないのに甘い香りが漂って来た。
ちっとばかし腹減ったな。
「ホラよ」
「……いただきます」
「話してラクになんなら、いくらでも聞くぜ。しかも今ならタダでこの広い胸を借りれるぞ」
「胸は借りない」
「解せぬ」
「…………。
ほんとは嫌な夢見たんですよ」
やっぱり熱かったか、かなりの時間フーフー息を吹きかけ冷まして、苦虫を噛み潰すような顔をするレイン。
「ただそれだけです。話すほどのことでもないし」
「ふーん。……ま、風邪は治ってきたようだな」
「おかげさまで」
ある程度冷めたところで、レインはホットミルクをぺろりと平らげてマグを置く。
ジャパニーズ土下座というのだろうか、それに似たポージングで三つ指ついてこちらに向き直った。テーブルの上ってところがレインらしいけど。
「一宿一飯の恩義はしっかり返します」
「おいおい、いきなりなんだよ。オレも一宿一飯の恩義なんて言葉使ったが、本気に取らなくていいんだぞ?」
「いえ、悪魔から二度も助けてもらったわけですし、風邪も……治してもらったし」
「……そうか」
案外キチッとした性格してやがるんだなこいつ。
恩義を返したと判断したら、その瞬間出て行ってしまいそうだ。
「まあ、二度あることは三度あるからな……。今はここにいた方がいいぜ。
今出て行ったところで、お前みたいにヒョロっちい奴、まーた悪魔に襲われるだけだもんなァ」
「…………」
おっと、言い過ぎたか。
猛虎のような鋭い目で睨んできたぞ。
でも、おいちゃんそんなの悪魔で慣れてるから怖くないもんねー。
「ま、そのままずっとここにいるのも一つの道だ。幸い、部屋はあの通り余ってるしな」
「それは恩を返してからの話です」
「ああ。んじゃ、これからよろしくな、 子猫ちゃん」
猛虎だろうとオレにかかれば、ただの子猫ちゃん。
夜のような濃紺を撫でようと軽い気持ちで手を伸ばしたのだが。
「言っておきますが、まだ信用したわけではありませんから!」
ベシッ!
瞬間に払いのけられてしまった。
痛くはない。逆にレインの手の方が痛いやつだ。
本人は顔に出さないようにしてるぽいので、指摘しないでおく。
「手厳しいなァ……」
そう、痛くはないのだが、心がちょっとだけ痛い。
こんなに拒否されてオレ悲しい……。泣いていいかな?
ヨヨヨ、と心で泣いていたら、更なる一言。
「それと子猫ちゃんって言わないでくれます?」
あまりお気に召さない表現のようだ。
猛虎どころじゃない。
笑顔なのに、笑ってないって言えばわかるか?
だってSEがゴゴゴゴゴだぞ。●ョジョか。
よっぽどの時以外使わないでおこう。
……とか言いつつ、揶揄いたい時には使う。これオレの癖。
「じゃあ、なんて呼べばいいんだ。本当の名前は?
「レイン。貴方がつけた、レインでいいです」
拍子抜けだ。
「まさかオレがつけたレインって名前が気に入ったとかか?」
ギンッ!!
ああ、またそんな目をする。
お前のその見た目で睨むなんて、似合わないからやめた方がいい。
「そんな睨むなっての!……オーケー、んじゃレインな」
「……あんたの名前は?」
「あ」
………………。
「そういやぁ……ちゃんと名乗ってなかったよーな……」
「普通は名前があるなら、最初に名乗ると思いますけどね」
ツンツンしながら言うレインだが、『名前があるなら』なんて言葉使うってことは本名がないと言っているのと同じこと。
気にしている様子は今の所ないが……うーむ。
「オレの名はダンテだ。DANTE、ダ、ン、テ」
「はい。覚えられたら覚えますね」
「おいおい、こんな簡単な名前くらい覚えられなくてどうするよ」
「覚える必要性を感じたら、すぐに覚えますのでお気になさらず」
にっこりと営業スマイルにしか見えない笑顔で言われたッ!
う、うぐぐ。
こいつ、ツンデレのツンの多い奴だと思ったが、クーデレの気がある。
というか全体的にしょっぱい!塩対応!!
オレは甘党なんだぞ。
でもめげないしょげない。押せ押せでオレは行く。
窓の外に広がる空の明暗を確認し、レインに誘うように問いかける。
「……まだ夜明けまで時間がある。オレと一緒のベッドで寝るか?」
「結構です!!」
あー、やっぱこれだよな。
ネロ然りレイン然り、若人を揶揄うのは楽しい。
「ベッドに戻ります。太陽が昇ったら、僕はまたネコの姿になります。
意思の疎通はできるかもしれませんが、会話はできませんからね」
「ああ、了解」
「ダンテ」
階段の手摺に手をかけ、そしてこちらに振り返ったレインが、呼吸するようにその名を紡いだので、オレは反応間に合わず、思わずズッコケそうになった。
「……ミルクは熱くしすぎないでください。猫舌なんで」
暗いからわかりづらかったが、柔らかく微笑んでいたように見えた。
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